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狼の牙と退魔師 2

今の学校に人狼が大体8名程在籍している。

同学年で3人、2年に2人、3年が3人。同じ学年のクラスに入るなり彼の名前を叫んだ。


「智也、ちょっといいか」


クラスの仲の良いメンバーと談笑の最中を割ってしまった形になったが、申し訳なさそうにして、こちらに来てくれる。茶髪で眼鏡をかけた少年。


「何か深刻な問題があるっぽいなぁ。何だよ」


「今日、ちょっと手伝って欲しい事がある。心菜ここなにも連絡頼んでいいか」


「急な話だなおい。暇だからいいけどさ、何があった?」


「その話も、放課後に話すよ。いつもの場所で落ち合おう」


そういって放課後、晃の靴屋の近くにあるお好み焼き屋に3人で集まった。晃と大野智也おおの ともやそしてこの店の娘である篠崎心菜しのざきここなという少女。金髪碧眼の外人のハーフ。心菜がテーブルの鉄板の上でお好み焼きを作り上げていく。ジュージューと焼く音と匂いを楽しみながら智也はコップの水を一口飲む。


「で、俺等を呼んだ理由って?」


「この前の一件知ってるか、子供が殺されたやつ」


「そりゃ、地元で有名だからな」


「その、犯人がこのままだと捕まらない。妖怪の類だと思う」


「ほう、それで?」


「俺たちでそいつを捕まえないか」


「あたしは良いけど、ゆう太君たまに食べにきてたし」


「恩に着る。智也はどうする?」


「俺は辞めた方がいいんじゃないかと。この国にゃ陰陽庁あるし、こういった問題のスペシャリストに任せるべきなんじゃないか?」


「陰陽庁が動いている保障はないだろ」


「動いてないとも限らんじゃん。俺たちが動かなくても、やばい奴なら放っておかないだろ」


心菜がお好み焼きをひっくり返して、更に焼き上げる。


「俺たちに出来るのは、精々次に問題が起きない為の見回りくらいじゃないか?」


「そう言われると、そうかもね。もうちょいで出来上がるよ」


「けど、俺は⋯⋯⋯」


女性が泣き崩れた姿が脳裏でフラッシュバックする。ゆう太と最後に別れた時の姿と、死体で見た幼い命の無残な姿に彼の怒りの感情が沸々と湧き上がる。


「出来たよ、二人共。あ、いらっしゃいませー」


「心菜ちゃん、とりあえずビール一本よろ~」


常連客が集まりだして、お店が騒がしくなっていく。


お好み焼きを食べながら、智也は呆れて言った。


「相変わらず正義感の塊だなお前は。もうちょい銀次さんみたいに楽に生きろよ。そりゃ、俺たちは普通の人間じゃないけど、英雄でもないんだぜ。バットマンみたいに生きたいなんて俺は思わんね。お前は銀次さんに憧れあるかもだけど、俺は寧ろこんな力なくたって構わんと思ってるくらいだ」


「お前、昔っからそうだもんな」


「まぁでも親友が危ない橋を渡るって言ってんだ、俺も力になるよ」


「智也」


「但し、陰陽庁が動いているか確認した後で、だ。どうせまだ通報してねーんだろ?」


「情報がそんな匂いしたってだけだからな。動いてくれるかどうか」


「人狼の鼻のお墨付きってんだ、信用してくれるさ」


忙しそうに接客する心菜に礼を言って、二人はお好み焼きを完食してその場を後にした。翌日の放課後電車に揺られる事30分。京都駅前にある二階建ての建物の看板には、小さく呪い屋と書かれてある。


「呪いのろいや?怖っわ」


心菜がぽつりと漏らすと、怒号と共に少女の声が響き渡った。


「だから呪いのろいやじゃなくってうちは呪いまじないやって何度言えば分かるんですか!!」


若い女の子の声が聞こえたと同時に、妙齢の女性が慌てて店を逃げる様に去った。店番の30代くらいのおじさんが、愛想良く接客してくれる。


「いらっしゃい!!京子みやこちゃん、次のお客さんだよ!」


「はーい。まったく、今日は変なお客さん多いなぁ」


程なくして、自分達よりも年下の少女がその場に現れる。


「あの、ここ陰陽庁の支部って聞いたんですけど」


「そうですが、何の目的でここへ?」


「こないだの、子供が殺された事件で」


「うーん、じゃあ話を聞こうかな。こちらへどうぞ」


通された奥の部屋のソファーに3人で座り、向かいの席に先程の少女が目の前に居る。他にいるのは机で気持ち良さそうに寝ている黒い猫だけだ。それも、長い年月を経て妖怪へと成った二又の黒い猫。


「社長、ちょっと話があるんで降りて貰えますか」


「ニャー」


二又の尻尾を楽しそうに揺らして、部屋を出ていく。


それから、少女は名刺を取り出して3人に手渡した。


「陰陽庁支部局長をやらせて貰ってます。 朝倉京子あさくらみやこと申します」


3人が唖然とする中、少女は微笑んで挨拶を交わした。


「以後、お見知りおきを」




中年の男性が3人と少女にお茶とお菓子を用意してお茶を飲んだ後、晃が口を開いた。


「その、こないだの事件なんですが、陰陽庁は動いているんですか?」


「一応、先月起きた事件と関係があると見て警察と、陰陽庁の双方で動いてます。ただ、余りに情報が少なくて手こずっているのは事実ですが⋯⋯何か情報が?」


「いえ、動いているならそれで。匂いがしたんです。人ではない妖怪の匂いが」


「あ、僕等人狼でして」


智也がフォローに入る。そうでもなければ嗅覚程度の情報で動いてはくれない。人狼の卓越した嗅覚あってのものでなければ、門前払いを食らうだろう。ただどんな匂いなのかと問われれば表現が難しい。しかし、妖怪独特の間違うはずない臭いもこびりついていた。それらを説明すると、彼女は下水に興味を引いたらしい。


「地上に居ない可能性もありますね。陰陽庁も人員を割いて動いてはいますが、まだ犯人を見つけられずにいます。情報の提供を感謝しますが、くれぐれも首を突っ込まないように釘を刺しておきますね。情報は不足してはいますが、必ず糸口を見つけますので」


情報云々よりも、この事件に書き込まない様に京子は3人を諭した。


「だってさ、晃。話を聞いて貰って、ありがとう御座いました」


3人でお礼を告げ、店を後にした。帰り道で、結局あの少女は年が幾つだったのか変なアクセサリーを販売しているのは何故なのか、結局謎だらけの陰陽庁京都支部の存在に話が盛り上がったのだった。


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