The Radio Girl 1
【The Radio Girl】
この世には目に見えざる物が確かに存在する。幽霊や妖怪、妖精のようなファンタジーな精霊に至るまでその全てが次元の違う同じ空間に存在し、そして現世に顕現する。光り輝くその美しい光景に魅了され、その世界の有様を皆に伝えたが、揃って首を横に45度傾げられ、怪訝な顔をされながら理解されずにいつしか
『電波少女』
と呼ばれるようになっていた。まるで周波数の合わない耳障りなラジオの電波音。そんな風に認識されてしまっていた。軽快なノリで大笑いするのは友人の二宮洵。一年にして陸上部の期待の星である。少女が跳ねっ気のある赤毛で破天荒な性格だと言われているのに対して、短髪で明るい性格の彼女は周囲に人気がある。登校の最中にオカルト話を30分程していたらこれである。幾度か不思議な体験を一緒に体験をした事もあるので突拍子もない話も一応信じてくれている数少ない友人の一人。電柱に人影が見えると思ったら、小さい子供の幽霊がこちらを恥ずかしそうに見ていたので手を振った。多分何かしらの事故で亡くなったのだろう。天寿を全うする事無く生を終えた魂はその場に留まり続ける。水先案内人か、生ある誰かにお参りして貰う事で彼等の自縛は解かれるのだが彼の場合はまだのようだ。ちなみにテレビのように頭から血を流す幽霊は存在しない。服と一緒に皆生前を知る自分の姿で存在している。
「何、何かいんの?」
「ううん、何でもない」
オカルトの話は好きだが、実際の幽霊の話をしだすとかなり怖がられるので洵には言わない。
「あれ、あの家葬式やってるよ」
「ほんとだ、豪勢だねー」
「豪勢!?どのへんが?」
「どのへんって言われたら・・・」
家の屋根の上から後光の光が差し込み、その光の中で お経と木魚が木霊する中、少女がゆっくりと昇天していく。多分かなり老齢なのだろうが幽霊は自分の年代の姿であれば姿を変えられる。ちなみに、葬式の費用と生前の功績そして思ってくれる人の数や強さで豪勢さは変わる。さる豪邸ではハレルヤの音楽をバックに鐘が鳴り響く中光に包まれながら昇天してくのを目撃した赤毛の少女にしてみればこのくらいでは驚かない。これから高齢化社会に向かっていく中一日に何度も見る光景になるだろう。
「んで、また悪人が死んだケースがえぐいんだよね」
地中から髑髏の化け物が出て食われてから地獄へと連れていかれる。
「あんたの話聞いてるとこの世の構造がかなり変なのはわかるわ」
決して赤毛の少女の頭がおかしいと言わない。
「今日は放課後来れるの?」
「んにゃ、残念だけど部活の練習で手伝えそうもないわ」
「そっか・・・でも、見込みはあるから大丈夫」
「何かあったら言ってよ。何かしら手伝えると思うけど あんま飛ばさないようにね」
周囲の目をただでさえ中学の頃から引いていた。白い目で見られるなんて良くある事だった。だから高校に入ってある事をしようと決めていた。それがオカルト研究部の創設で、目的は同じ見える人を探し出す事。世界で唯一人自分だけがこの世界の不思議な光景を見ているなんてそんな事はないはずだから。校舎へと続く桜並木を赤毛の少女は胸躍らせながら歩いていた。
教室に入ると、元気良く挨拶を交わす。
「おはよう!皆」
「おはよう、上野綾乃さん。今日も元気ね」
席の隣で欠伸をかく少年 橘 葵に挨拶をすると眠そうに返事が返ってくる。
「橘君おはよう!」
「ああ、おはよう上野さん」
彼はクラスメイトの中でも結構容姿が良く女子の間で話題に上る。噂によれば、すでに中学の後輩で彼女が居るとかいないとか。そこそこな目撃情報が寄せられているので信憑性は高いとのこと。今日こそはと、彼に私は日頃の疑問を彼にぶつけた。
「今日は喋る犬連れて来てないんだね」
「はぁ?・・・あー・・・その・・・・・・あれか」
だんだん、彼の顔から大量に汗が流れ始める。見ていたのか、と小声で呟いたのを私は見逃さない。最近になって聞いてみようと思っていたのだが彼はたまに子犬を連れて登校している。しかし会話が成立していたのは明らかにおかしいので普通の犬ではないのだろう。たまにそこに居たのに瞬時に消えたりするのも目撃している。
「私何度も目にしてんだからね、犬と会話してんの。妖怪?幽霊?精霊?何なの」
ざわざわと皆が綾乃に注目が集まる。中学の綾乃を知る人はあいつの悪い癖が始まったと囁き始めるが知った事ではない。異様な雰囲気になりつつある最中、彼は視線を左に動かして次いで右に泳ぎそして観念したのか視線を綾乃に戻した。
「とうとう、見つかってしまったか」
「そうだよ!やっぱり何かの―――」
「いやーダンボールの中で震える子犬見つけちゃってさ拾ってきたのはいいんだけど家じゃ飼えなくってね。学校でコッソリ育ててるんだ」
そうなんだーという皆の納得を得た所で、周囲の雰囲気も日常へと戻った。彼はこの程度の状況証拠では尻尾を掴ませてはくれいないらしい。事実この一件があって以降喋る犬を連れて登校する事はなくなった。彼は飄々と鞄からパックジュースを取り出して、飲みながら綾乃にこういう。
「そういう事だから」
仕方がなく、大人しく席に着いて授業の冊子を取り出す。次見かけたらちゃんと写メでも撮っておこうと心に決めながら。実は以前にも会った事があるのだが、知らぬ存ぜぬで通されている。少し意地になってしまうのも無理はない事なのだ。
午前の授業もつつがなく終わり昼食時になって隣のクラスの佐倉摩子という女の子に会いに行った。実は彼女はオカルト部の部員一人目なのだ。黒い髪の長髪で、容姿端麗でスタイルも良く少し釣り目で性格は少しきつい。アイドル事務所にスカウトされた事もあるとか彼女自身も噂は絶えない。しかしなんと、ある日に彼女を問い詰めた所なんと彼女が魔女だった事が発覚。気も合いそうだし、このまま二人目に葵を誘ってみようかと考えていると、目線があって彼女は相当驚いている様だ。しかも顔も何故か真っ青の様に見える。
「摩子さん!部活の件で話があるんふぁ!?」
何か喋る間もなく、瞬時に綾乃の前まで来て口を手で塞いだ。
「話すなら、屋上に行きましょう。その方がいいでしょ?」
首を縦に振ると、周囲の目を引きつつ二人で屋上へと向かった。まだ肌寒い時期だからか、屋上には誰もおらず二人でゆっくり話が出来そうだ。購入していたパンの袋を破って、摩子が口にパンを頬張る。
「で、話って何よ」
「部員を増やさないと部が創設出来ないからどうやって人数増やすか一緒に考えよ!」
「ああ、そういう事、じゃあチラシでも作ろうか?」
「それいいね!パソコンとか使えるの?」
「この御時世だから使えないと不便だし。ただ、絵は得意じゃないからそっちが用意する事。プリンターで取り込んで文字を打つわ」
「ありがとう!さっすが魔女!」
「魔女全然関係無いけどね」
話をすると、彼女は興味深そうに聞いてくれた。楽しい昼食の時間が終わって次の授業の時間になってそれぞれの教室に戻った。午後の授業は体育と数学。体を運動した後で睡眠が取れる綾乃にしてみれば嬉しい授業の割り振りだった。最後の授業が終わってホームルームになり先生が教壇に立って最後の挨拶を交わす。珍しいなと思いながら、話に耳を傾けているとあるニュースの話から始まった。
「この近所の子供がここ数日行方不明になって捜索願が出ている。皆も事件に巻き込まれないように注意をするように」
そういうと、隣でひそひそ話が聞こえてきた。
「そういえば、この近所の子供が行方不明ってネットでもニュースやってた」
「マジ?ド近所じゃん。うちらも気をつけなきゃ」
(ふーん、この近辺でそんな事件あったっけ)
携帯を取り出して、検索をかけたらすぐに出た。顔や名前を見て思わず吃驚して立ち上がる。周囲の視線を集めながら、声を出した。
「あのっ・・・その、すみません。ちょっと早く早退します!!」
「はぁ?おい上野!!」
先生の声を無視して綾乃は慌てて鞄を詰め込んで教室を後にした。勢い良く走って、今朝幼い幽霊が居た場所を目指した。校舎から続く長い坂を下りる。走って25分くらいの所までくると電柱の傍に彼が居た。息を切らして、汗をかいたがまずは一呼吸置いた。それから幼い幽霊に尋ねる。
「そこから動けないんじゃない?自分でも良く分かってないと思うけど」
そういうと、幼子はこくりと頷いた。
「理解するのは、ゆっくりでいいから。落ち着いてね」
そういって、綾乃は溝にあるブロックをどかし始める。重かったが、そんな事は気にしていられない。中を覗くと、痛々しい幼子の遺体が遺棄されていた。
周辺が騒がしくなって、警察が通りを囲んでいる。現場保存と検証の為に黄色いテープが張り巡らされて一時騒然となった。遺体の第一発見者の綾乃は警察に事情を説明していたのでかなり時間を取られてしまった。いつの間にか雨も降っている。くたびれた面持ちの顔見知りの警部に声をかけられた。
「また君か。本当に君がやったんじゃないだろうな?」
「毎回そう言いますけど、私じゃないです。いつも犯人捕まってるじゃないですか」
「こう多いと疑ってかかりたくもなるんだよ」
綾乃はこうやって事件に首を突っ込む事が多い。幽霊と会話出来るのだから、この能力を活かす方が良いと思っている。海外でも霊能者が事件を解決するケースはままにある。日本は余り馴染みがないが、そういった能力者が警察に協力しているのは割りと有名な話ではある。
「じゃあ後はこっちの仕事だ。嬢ちゃんは帰りなさい」
そういって、厄介払いされるのが常だ。何せ肝心の犯人の正体が不明なのだから。聞いても覚えていないというし協力したくてもこれでは何も出来ない。ふと幼子の幽霊が綾乃の袖を引っ張り、指差す方向を見ると少年の母親が泣きながら彼の遺体をを見つめていた。辛い再会になったがそれでも少年は心からのお礼を言った。
「見つけてくれてありがとうお姉ちゃん」
そういうと、彼は母親の傍に寄り添った。暫くしてから、船の櫂に乗った和服の少女が空から現れる。あの世の水先案内人。主に天寿を全う出来なかった者を連れていく。少年に事情を説明して、彼を納得させた後こちらを見て一礼し、彼女は少年を後ろに乗せて飛び立った。会話は無い。何度か話しかけているものの喋ってはくれないのだ。ある者は幽霊は電磁情報の塊であるという。それは正しい。生前の体に流れた微粒な電子が情報を構築し電磁情報としてそのままこの世に現存しているからだ。死んだ時の強い思いがあればあるほど、その場に残り続ける。時にその思いが憎しみや悲しみや怒りであったなら、生きる者に危害を及ぼす事もままにある。時に姿形を変えて異形の形をしている事も。だからそうならない様に、水先案内人が来て彼等を連れて行く。迷わないように、輪廻転生の輪へと還る様に。
(まぁ実際の所良く分からないんだけど)
そうであって欲しいとあの幼子を思い出して
彼が来世で幸せであるように願いその場を後にした。