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想定外

汗が止まらない。そして、心なしかさっき強打した脇腹も痛い気がする。


時刻は午後5時27分だった。父の会社には5時少し過ぎに着いた。

外で待つように言われ、すでに20分以上が経過している。


自転車のハンドルを人差し指でトントンと叩きながら、なかなか出てこない父に焦燥感が募る。


「風花、すまない待たせたな!」


「遅い!」



そう言いながら、父の手のひらにUSBメモリを叩きつける。



「イテっ!なんで怒ってるんだよ……」


「出てくるのが遅いからに決まってるでしょ!もう、行くからね!」


少しやりすぎたかも……と、思ったが今更引けない。


少し切なそうな顔の父を見て、罪悪感を覚えたが、振り返らず自転車で目的地に向かう。


目的の歩道橋までは自転車で5分くらいの距離だ。産業道路の交差点を左に曲がるときに、右目の端に夕焼けが映った。


雲の下部が夕焼けの色に染まっている。その儚げな色は、燃え尽きる直前の炎を思わせる。


私は夕焼けを見て、不安になった。


──いや、きっと大丈夫。


何とかなる。


不安を振り払うために必死で自転車を漕ぐ。息の絶え絶えの中、目的の歩道橋が見えた。


見えた、目的の歩道橋だ。


すでに現場にはりえちゃんの姿があった。


手を振っているのが見えた。


もう少し!


自転車から飛び降りて、歩道の脇に自転車を停める。


「はあ、はあ、はあ、ごめん、りえちゃん

遅くなった」


自転車を降りると両膝に手をついて息を整える。



「私は大丈夫、それよりもう時間がない。トマトジュースを脇腹にかけて、道路にうつ伏せになって」


「はあ、はあ、分か……た」



準備してきたトートバッグを漁る。


ない、ない。なんで!?


血の気が引く。



「トマトジュースがない。なんで!? 」


「えっ!?」



りえちゃんの顔から余裕が消える。


さっき、転んだときに落としたのかもしれない。


スマホの時計を見ると午後5時35分になっていた。慌てて周りを確認するが自販機すらない。


その時、走ってくる人影が見えた。



「風花……ちゃん、さん!受け取れ!」



声がした方を向くと安井くんがいた。そして、彼はトマトジュースの缶を投げてきた。


体が自然と動いて綺麗にキャッチできた。



「や、安井くん〜!!」


「いいから早く、脇腹に!」



指が震えて、なかなかプルトップを開けられない。


カッ、カッ、カッ……カシュと音がして開いた。


落ち着け、私。予告編だと血溜まりは出来ていなかったから、かけ過ぎたらダメだ。


缶に服を押しあてて、一瞬缶をひっくり返して戻す。


……よし、上手くいった。


これを2、3回繰り返した。


ほどほどの染みが出来上がった。


「りえちゃん、今から倒れる!」


「待って、眼鏡かけるから……」


りえちゃんが眼鏡をかけたのを確認して、ガードレールを左手を飛び越える。


……多分、このくらいの位置でいいはずだ。うつ伏せに寝転ぶ。


あとは、待つだけ。


「りえちゃん、どのくらいこのままでいればいいと思う? 」


…………?


答えがない。


「安井くん?」


やはり、返事はない。


何が起きているの?


すごくまずい気がする。


下手に動けば予告編の強制力が働くかもしれないので確認もできない。


日が暮れるまでこの状態で待つしかない。腹をくくったら気持ちが落ち着いてきた。


徐々に周りが暗くなる。


自動車が通り過ぎる音が聞こえる。


不思議と道路に人が倒れているのに誰も声をかけてこない。



深く深呼吸をする。



落ち着け、私。


自分の未来を人任せにしてはダメだ。自分で考えないと。


りえちゃんは日の入りの時刻は午後5時45分と言っていた。


なら、あと数分であたりがかなり暗くなる。そこまで待てば予告編は成立したと考えても問題ないはずだ。


それにしても少し暑い。


昔は秋という季節は涼しかったらしい。


最近はいつまでが夏で、いつからが秋なのかわからない。


だからだろうか。


夕暮れのアスファルトはまだ熱を帯びて、ほのかに暖かかった。


後、少し。


このまま何も起きないで下さい──



「風花ちゃん!!」



その声に絶望的な気分になる。


なんで、ここにいるの──





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