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籠絡

話が急ピッチで進んだので、少し疲れてきた。二人に提案する。


「ちょっと休憩しようか?」


「そういえば、そろそろお昼だね」


「確かに腹が減ってきたな……」


腹が減っては戦はできぬ……ということだ。


「家の近くのコンビニでお昼ごはん調達しようか?手伝って貰っているし、御馳走させてよ」


とりあえず、無難な提案にりえちゃんが反応する。


「風花ちゃん、いいの? 安井くんはどうする? 」


「俺は役目が終わっただろうから帰る。あまり邪魔しちゃ悪いしな」


なかなか、釣れないことを言う。思わず、安井くんの服を掴んで、グイグイ引っ張る。


「折角だからお昼ごはんだけでも、食べていきなよ」


「いや、まあ、なら……少しだけ」


どうも彼は押しに弱いらしい。


まあ、素直でよろしい。


コンビニに出かけて各々好きなものを物色すると、家に帰ってきた。


すると、母親が慌てて家から飛び出してきた。


「あれ、母さん出かけるの?」


「今日、自治会の集まりがあることをすっかり忘れてて……。出かけるときは戸締まりよろしくね」


そういうと、嵐のように去っていった。


「誰もいないし、リビングでお昼にしようか」


普段集まることのない三人が我が家のリビングでお昼ごはんを食べている。


なかなか奇妙だ。


危機感がないと言われそうだが、実はちょっと楽しい。


「風花ちゃん、なんか楽しそうだね」


「えっ、ああ、やっぱりそんな顔してた? 」


「しているな。少し、心配だ」


安井くんは言葉短めだが、気を遣ってくれているようだ。


……普通にいい人じゃん。


「ところで、七瀬さん……」


「風花でいいよ。折角、友達になったんだし」


「えっ!? そ、そうなのか? 」


「そうだよ」


そんな私達のやりとりを不思議そうな顔でりえちゃんが見ていた。



「安井くんが籠絡しかかっている……」


「……なんの話だ、山下」


安井くんは面白くなさそうな顔をしていた。


「そんなことより、予告編の発生時刻と場所が分かっているなら、遠くに避難したほうがいいんじゃないか?」


りえちゃんと顔を見合わせる。


彼の言いたいことは分かる。予告編の発生場所にいなければ、不幸な未来は実現しない……と思うだろう。


だが、そんなにあまくないのだ、"予告編"は。


「実はそれ前に実験済みなんだ」


「えっ、どうなったんだ」


「気がついたら予告編の場所にいて、予告通り石に躓いて転んだよ」


安井くんは険しい顔をしていた。なんか、真剣に悩んでくれているようだ。


「風花……ちゃん、さん。すまないが手を触らせてくれないか? 」


名前を呼ぶのにしどろもどろな安井くんが面白かった。


「また、占ってくれるのかな?どうぞ」


右手を安井くんの前に差し出す。彼はそれを見てたじろいだ。


「お前、ちょっと無防備すぎるぞ……」


遠慮がちに、私の手のひらに指三本だけ触れた。


また、意識が飛んだようだ。


数秒するとこちら側に戻ってきたのか、りえちゃんの方を向く。


「山下、お前も予告編に巻き込まれたのか?」


「うん、予告編が発生する時刻に絶対に間に合わない場所に二人で待機していたの。でも、気がついたら私は家にいて、彼女は予定通り、転んでた」


「こんな強力な能力が実在するなんて……」


彼は目を見開いて薄っすら汗を浮かべていた。


本人的には『ショボイ上に役に立たない能力だな』くらいにしか思っていないのだが。


急に安井くんは席を立ち上がった。


あまりに真剣な表情だったので、思わず立ち上がった彼を見上げてしまった。


「すまん、山下、風花……ちゃん。急用を思い出したから帰る」


「ちょ、急にどうしたの?玄関まで送るよ」


慌てて立ち上がると足がもつれて転んでしまった。


「大丈夫!?風花ちゃん?」


りえちゃんが駆け寄る。安井くんも慌てて傍にきた。


「いてて……大丈夫。いつものことだから」


「そういうのは予告編で見えたりしないのか?」


そういうと、彼が手を差し出してくれたのでつかまる。


「わたし……オッチョコチョイだから1日に1回は転ぶんだ。だから、予告編と関係なく軽い怪我はよくするんだよね」


自分で言ってて悲しくなる。


玄関まで安井くんを送る。



「今日はありがとう。また、遊ぼうね」


「……遊びじゃないだろ? 今日を絶対に切り抜けろよ」



そういうと静かに帰っていった。


りえちゃんが隣であんぐりと口を開けていた。その口が綺麗な台形の形をしていて、思わず見入ってしまった。



「風花ちゃん……これは雨が降るよ」


「なんで? 予告編だと見事なマジックアワーだったけどなぁ」




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