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「薫子、撃て」
瞬間、少女の右手が花を咲かせるように異形へと変わり、弾ける。
空気が割れるような音が響き、村田和彦の頭が破裂した。
少年はしばらく頭を探すようにしてふらついていた。
しかし、残りの部分も砂糖菓子が崩れるようにして消えていく。
薫子は肩で呼吸をしていた。
額に汗がにじんでいる。
それに自分で気づいている様子はなく、ぼんやりとしばらく立ち尽くしていた。
村田の身体が塵となり、完全に霧散したところでようやく我に返り、大きな瞳を一樹に向ける。
「ブレイク、確認しました」
薫子は〈銃〉を元の状態、少女の細い腕に戻す。
一樹が「お疲れ様」と返すと、彼女はばつの悪そうな顔をした。
「もう少し躊躇った方が良かったでしょうか?」
「どうだろう。頼もしいよ」
教室にかけられた丸い時計を見て時間を確認する。
これから〈塔〉に行き、本部で報告をしてちょうどお昼頃だろうか。
そばは却下されてしまったから何か代案を考えなければならない。
頭をかいて、自嘲気味に笑う。
自分は〈神父〉に向いている。
心の底からそう思う。こんなときに昼食のことをのんびり考えられるのだから。
〈天使〉が放つ銃弾は鉛弾でもなければ銀弾でもない。
一樹の「撃て」という一言で薫子は一年を消費する。
***
神林一樹にとって、宮尾薫子は三人目だ。
つまり、一樹は〈神父〉として、二人の〈天使〉を消費してきた。
命を消費することへの負い目を感じたことはない。
負い目を感じないことを申し訳なく思うことはあっても。
「仕方なかった」と思いたくないが、どうにも上手くいかない。
自分は人よりも打算や妥協が得意なのかもしれない。
もしくは、非道なのだろう。
――私がいなくなったら、できるだけたくさん悲しんで、できれば泣いてくださいね。
ある〈天使〉との約束はまだ果たせていない。
いつか果たせるときは来るのだろうか。
そのことを思うと、重たいため息が出る。
意味もなく、彼女が好きだった音楽を聞きたくなるが、聞いたところでやはり意味は生まれない。
――悲しまなくてもいい。なんなら、なかったことにしてくれても構わない。
また別の〈天使〉はそう言った。
一樹はそれをまっとうしているかもしれない。
しかし、そのときからずっと、少しも晴れ晴れしい気持ちにはなったことはない。
「仕方なかった」という諦観。
そんな冷めた感情が連続してばかりだ。
薫子が消費され尽くした瞬間のことを考える。
彼女が冷たく固い地面にぶつかる姿を想像する。
そのとき、自分は「仕方なかった」とまた思うのだろうか。




