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木曜日の天使  作者: しゃかもともかさ
1.透明な言葉
8/18

6/◆

「薫子、撃て」


 瞬間、少女の右手が花を咲かせるように異形へと変わり、弾ける。

 空気が割れるような音が響き、村田和彦の頭が破裂した。


 少年はしばらく頭を探すようにしてふらついていた。

 しかし、残りの部分も砂糖菓子が崩れるようにして消えていく。


 薫子は肩で呼吸をしていた。

 額に汗がにじんでいる。

 それに自分で気づいている様子はなく、ぼんやりとしばらく立ち尽くしていた。

 村田の身体が塵となり、完全に霧散したところでようやく我に返り、大きな瞳を一樹に向ける。


「ブレイク、確認しました」


 薫子は〈銃〉を元の状態、少女の細い腕に戻す。

 一樹が「お疲れ様」と返すと、彼女はばつの悪そうな顔をした。


「もう少し躊躇った方が良かったでしょうか?」

「どうだろう。頼もしいよ」


 教室にかけられた丸い時計を見て時間を確認する。

 これから〈塔〉に行き、本部で報告をしてちょうどお昼頃だろうか。

 そばは却下されてしまったから何か代案を考えなければならない。


 頭をかいて、自嘲気味に笑う。

 自分は〈神父〉に向いている。

 心の底からそう思う。こんなときに昼食のことをのんびり考えられるのだから。


 〈天使〉が放つ銃弾は鉛弾でもなければ銀弾でもない。

 一樹の「撃て」という一言で薫子は一年(いのち)を消費する。


     ***


 神林一樹にとって、宮尾薫子は三人目だ。

 つまり、一樹は〈神父〉として、二人の〈天使〉を消費してきた。


 命を消費することへの負い目を感じたことはない。

 負い目を感じないことを申し訳なく思うことはあっても。


 「仕方なかった」と思いたくないが、どうにも上手くいかない。

 自分は人よりも打算や妥協が得意なのかもしれない。

 もしくは、非道(ざんこく)なのだろう。


 ――私がいなくなったら、できるだけたくさん悲しんで、できれば泣いてくださいね。


 ある〈天使〉との約束はまだ果たせていない。

 いつか果たせるときは来るのだろうか。

 そのことを思うと、重たいため息が出る。

 意味もなく、彼女が好きだった音楽を聞きたくなるが、聞いたところでやはり意味は生まれない。


 ――悲しまなくてもいい。なんなら、なかったことにしてくれても構わない。


 また別の〈天使〉はそう言った。

 一樹はそれをまっとうしているかもしれない。

 しかし、そのときからずっと、少しも晴れ晴れしい気持ちにはなったことはない。


 「仕方なかった」という諦観。

 そんな冷めた感情が連続してばかりだ。


 薫子が消費され尽くした瞬間のことを考える。

 彼女が冷たく固い地面にぶつかる姿を想像する。

 そのとき、自分は「仕方なかった」とまた思うのだろうか。

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