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眠っている間、幸せでも不幸せでもない夢を見ていた気がする。
夢の中身はアラームの音で霧散してしまったが、おそらく意味のない、脈絡のないものだっただろう。
神林一樹は布団の上で伸びをする。
背中がぱきぽきと鳴った。
カーテンを通して、五月の暖かさが伝わってくる。
おそらくは良い天気なのだろう。
いつもは休日の天気なんて関心はないが、今日は少し事情が異なった。
といっても、嵐以外だったら構わないという程度の関心ではあるのだが。
頭がぼうっとして軽い頭痛がする。
昨日の夜は遅くまで書類の整理をしていた。
そのせいで寝不足なのだろう。
十代のころは、一日くらい徹夜してもなんともなかったはずなのだが、と長く息を吐く。
一樹は今年で二十五になる。
三十路を前にして「年は取りたくないものだな」などとため息をつくようになるとはかつての自分は思わなかっただろう。
いや、「そんなものだ」と肩をすくめて笑うかもしれない。
朝食の準備をしよう、と身体を起こす。
インスタントのコーヒーにお湯を注ぎ、砂糖をたっぷりと入れる。
小食というわけでもないが、朝は固形物を食べることはあまりしない。
スプーンについた砂糖をなめながらスマートフォンでニュースを眺める。
誰かと誰かの不倫、嘘つきと糾弾される政治家、野球の試合結果。
世界平和を確認しているとやかましく着信を告げる電子音が響く。
画面に表示された「遠塚真歩」を見て、顔をしかめる。
『休日の朝に見たくない四文字、ナンバーワン』だ。
けれど、同時に『見なかったことにしてはいけない四文字』でもあるわけで、電話を取らざるを得ず、小さくため息をつく。
「仕事」
朝の挨拶もなく、第一声がそれだからたまらない。
遠塚真歩という女性は一樹の上司に当たるのだが、無駄や余分を嫌う。
確かに「おはようございます」とか「今日はいい天気ですね」とか「良い一日を」という挨拶は、考えようによってはそういうものに含まれるかもしれない。
けれど、一樹はそういった無駄や余分を愛している。
だから、遠塚真歩との相性はあまり良くない……こともない。
相性の良くない人との関係も「無駄」や「余分」だからだろう。
「〈お使い〉ですか?」
「その呼称は好きじゃない」
「僕は結構好きですけどね」
電話の向こうで鼻を鳴らされる。馬鹿にされたか、もしくは鬱陶しく思われたのだろう。
「一応抵抗を試みますが、今日の僕は非番で、予定もあります」
「予定? お前に?」
遠塚真歩の怪訝な声も分からなくはないのだ。出不精である一樹は、たいていの休日を部屋の中だけで過ごす。
「今日は薫子と出かけます」
「へえ」
遠塚真歩の不機嫌な声がわずかに楽しげなものになる。
「デート?」
「いえ、そういう甘酸っぱいものではないと思います。ノープランですから」
「じゃあ、私がプランを決めてあげる。感謝するんだな」
早口で用件を伝えられる。眠気覚ましにしては物騒で砂糖がもっと欲しくなる内容だった。