天使と翔
「岡島翔あなたは死にました」
いかにも天使らしいかわいい声が告げてきた。
だけど声の主を見る気にはなれなかった。
「翔さんはどのような死にかたをしたのか自覚はありますか?たまに自覚していない人がいるんですよ」
「ああ、自覚はあるよ。僕はナイフを振りかざす人に何も持たずに立ち向かって死んだ」
「どうしてそのような無謀なことを?」
「死にたかったから」
天使は声を荒げた
「何故?」
「僕は恋人に現世において行かれてしまったから」
「そんなに恋人を愛していたのですか?」
「もちろん、でも病気には抗うことは出来なかった」
「恋人さんはどのような病気で?」
「膵臓の病気だって、詳しくは聞く気にはなれなかった」
死んでいる今でも思い出す、彼女が病気と言われて、凹んでいるときに余命宣告という追撃を受けて、
涙がこぼれ出した彼女の姿が
「僕の彼女は本当にいい奴で余命5ヶ月を切ったときでも病気のことを忘れているかのように振るまってたんだ、でも本当はとても辛いといつも寝る前に泣いていたことも知っていた。でも声をかけてやることは出来なかったんだ。それは今でも後悔している」言っている途中で涙がこぼれてきた。
「ゴメン、まだ話しの途中だよね」
「辛いのなら言わなくていいのですよ」
「いや、言いたいから言わせてくれ」
「それで余命が短くなるのが分かるぐらい彼女はどんどん衰弱していったんだ」
「そして彼女はついに寝たきりになったんだ、僕は手を握って《ずっと側にいるから大丈夫だよ》としかいえなかった、最初は握り返してくれたけど、だんだん握り返してくれることが少なくなっていって、死ぬ数日前は、手を握っても起きてくれなかったんだ。」
「そして彼女は死んだんだ」
「それからはとても生活が味気なくなった。いつも一緒だったから彼女が居たはずの何もない空間に話しかけることが多くてそのたびに彼女ののことを思い出すんだ、思い出すたびに《ずっと側にいるから大丈夫だよ》って言ったことを後悔しているんだ。」
天使が久しぶりに口を開いた
「どうして後悔しているのですか?」
「だって結局その約束守れてないじゃないか、思い出すたび自己嫌悪が激しくなって」
「死にたくなったんだ」
「そうですか…」
「翔さんは今その彼女さんに言いたいことはありますか?私は天使なのでもしかしたら伝えることができるかもしれません」
「そうだな、死んだ今でも好きだ。と伝えてくれ」
「本当に好きなのですか?」
「ああ本当だ」
「最後に彼女さんの名前を教えてください」
「奧山 あいら」
「ありがとうございます、では最後に顔を上げてください」
「え?」
僕はその光景に息を呑んだ。
あいらに真っ白な翼が生えて立っているのだ。
「あいら?」
「はい」
「最後まで好きなのはとてもうれしいですが、あなただけには死んで欲しくなかった」
「死んだことはゴメンでも自殺はしてないから許して欲しい」
「じゃあ許す。それとここは天国と現世の狭間だからあまり長い時間はいられない。だから急いで決めてほしい」
「何を?」
「私と一緒に天国に行くか、一人で行くか」
「僕は現世であいらがいなくなってから一人で後悔していたからあいらの側にずっといるよ」
本当に天国で会えたらいいな