5 魔剣士と元・魔法が使えない剣士
「わしが審判を務める。危険になればわしが止めるので全力で戦いたまえ」
先生が言う。先生に止めてもらえるなら安心だ。そして、向き合う。
「まさか、魔法剣まであるとはな…ほんと、すごいなお前」
「魔法を持たずに剣しかないお前にこれを使うのは少し申し訳なく思う…いや、そんなのはなしだ。
俺がこれを使ったのは、それくらいお前が強いってことだ。魔法なしでそこまでの技量を手に入れたお前のことを俺は尊敬している。だからこそ本気で戦わせてもらうぞ」
「そう言われると照れるな。言っとくがそんなこと気にしてないぞ?俺は今回も勝つ。それだけだ」
アレンは笑う
「そうこなくっちゃな!!行くぞ!ジーク!!!」
そして、アレンの姿が消える。また縮地だろう、しかし、無詠唱だ。やはり無詠唱相手だと反応も遅くなるし何より、何をしようとしているのかがすぐにわからないため、混乱させられる。戦いにおける魔法の知識がまったく使い物にならなくなる分、無詠唱は大きなアドバンテージとなる。
しかし、気配は消えていない。今度は背後だ。
とっさに背後を向く。今度は受けるつもりで足を踏ん張らせる。
そして剣が交わる。
「ふっ、お前ならそうすると思ったぞ」
アレンはニヤリと笑い一旦俺と距離をとる。
アレンの笑みから何かに嵌ったのは大体察したが何が起きているのかわからない。
そして、急に俺の周囲は日陰になる。そしてやっと気が付く。背後には巨大な大木が生えていたのだ。
そんな光景にはさすがに驚いた。そんな呆気にとられた俺を不意打ち…というのはさすがになくて、アレンは驚く俺に
「どうだ。これが俺の魔法剣の効果だ。この大木は木が空気を作るように魔素を作るんだよ。そして大地からも魔素を集めることができる。そうやって作り出された魔素はすべて俺のものだ。」
つまり無限に魔法が使えるということだ。なんてこった。
そして続ける
「弱点は、まぁ成長前の時だな、そこを潰されたら終わる。だからこっちに気を引いたんだ。」
「なるほどな。それがまだまだな点。と?」
「ああ、そうだな。見た通り成長すれば魔法核による結界くらいの強度の結界が展開されるんだよ」
そう、大木の周りには薄く光るバリアのようなものが。結界だ。さすがに魔法核クラスだとは思わなかったがこの大木の魔素生成量が魔法核クラスならば納得である。
ていうか普通にやばいんだよな。
こんなの今の魔法剣士の中なら最強なのでは?と思えるほどの恐ろしいものであった。さすが勇者の世代と言うべきなのか。
ちなみに、最初からこの大木を作り出す魔法を展開すれば魔剣なんて使わなくていいんじゃないか?と考えた魔法士がいたらしいが結果は失敗だった。
まず、魔素を吸収して体の中で変換して放出する。という過程で魔素を作り出すものを生成する…ということが、不可能とは言えないが相当高度なことは間違いない。
そして、大地からも魔素を吸収するという点。これは大地に直接干渉しなければならないので魔法では不可能だ。
それに、召喚系の魔法は常に魔素をコントロールし続けないといけないので、何かを召喚しながら別の魔法を使う。なんてことも無理である。それは他も同じで、体内で同時に2以上の魔法に変換するなんてことも無理だ。
つまり、所謂二重詠唱というのは不可能なのだ。魔法剣士という例外を除いて。
剣に付与するオーラは召喚のように召喚が何か意図したことを起こす、行動する。ということをしないため剣という媒体にまとわせてるだけの状態なのだ。だからこそオーラには召喚のようなリソースを消費しない。これが召喚とオーラの決定的違いだろう。
ちなみに媒体はなんでもいいので魔法〇士というのはいろんな種類がいる。
このまとわせて維持させるという行為が言うまでもなく高難易度だ。そしてオーラが魔素に干渉し、原理は違うが魔法のような現象を発生させる。そして魔法ではできない大地への干渉もオーラ次第では可能になる。つまり体内の処理能力を使わないのでそこで魔法を使うことができるというわけだ。実質的な二重詠唱。しかし、当然オーラを維持しながらの魔法生成はまた高難易度である。それを成し遂げたアレンは天才と言って間違いないだろう。
恐らくアレンのオーラはそこら辺の木類や種などに干渉しあの大木を形成するようなものに作り変えているのだろう。オーラの自然に対する干渉で想像できるのはこれくらいだ。
そう思考を巡らせていると
「それじゃあ、行くぞ風槍」
「くっ」
圧倒的劣勢だ。
幸い縮地のような簡単な魔法ではなかったのか詠唱があったので回避できた。
トルネードのようなものがこちらを襲う。まぁなんとか回避はできた。射線上にはあの木が…
無傷だ。まぁ期待はしてなかった。やはり結界を壊すのも現実的ではないらしい。それならばあの剣を破壊するか術者を戦闘不能にするかの二択しかない。剣を壊すほうが楽そうなのでそっちを狙う。
「ふぅ。これは、早めに決着をつけたほうがよさそうだな」
そう言って俺は目を閉じ息を吐き精神を落ち着かせる。
何度も俺と戦っているアレンは何かを察したのだろう
「させるかよっ!!」
縮地で距離を詰めてくる。そして
「風槍!!!」
目を閉じ気配を感じることに集中している俺にはわかった
あの木がため込んでいる魔素すべてをあの風槍に込めているようだ。どうやら無限に魔素を得れるとは言っても溜めれる量には限度があるようだ。一撃必殺には弱いと言ったところか。しかし、それでも今前線で勇者とともに戦っている兵士の本気の一撃などは軽く超えるだろう。
何度でも言うが、少し前の俺ならここで負けていただろう。ただ、今は違う。体が軽い、感覚が研ぎ澄まされる。そして集中力を最大に高めて…今ならできる
「……新星の一刀」
魔法を使うことができなかった俺が、漫画の主人公のような星のような存在になりたいと願い続け。そして、努力し続け。その結晶がこの一撃だ。最大まで集中して放つ一刀。そこに、俺の努力と苦悩、そして、想いを乗せる。
これが、新星の誕生の瞬間だった。
全てが最大まで研ぎ澄まされた一刀に誰もが目を奪われる。それは一瞬だった。しかし、見ている物の目を奪うにはあまりにも十分すぎた。
そして、静寂が訪れる。
緑のオーラに包まれたアレンの剣が音を立てずに崩れる。断面には少しの凹凸もなかった。
それとともに、背後の木が枯れる。
そして、アレンは…
「マジ…かよ…お前も、そんなものを持ってたのか」
「ああ、悪いな」
「ははっ、おまえ……は…」
バリッ そんな音とともに彼の纏っていた薄い結界が崩壊する。さすがの一撃には耐えきれなかったらしい。そして彼も結界の崩壊とともに意識を失う。
この結果にはさすがに先生も驚いたのか呆気にとられていた。
「先生、彼を医務室に運んであげないと。あと、彼の妹を」
「あっ、ああ。ジークよ、素晴らしい成長だな。あの一撃。誰もが目を奪われるものだったぞ」
「ええ、努力の結晶です」
サンザードは先ほどの戦いを見て改めて勇者世代の強さを認識する。そして人類の未来もそう暗くないと感じた。
そんな会話で場の緊張が多少揺るいだのか
「アレンもすごかったがジークのあの一撃、すごかったな」
「さすがうちの最強の剣士だ!!」
なんて歓声が湧き上がる。そうして怒涛の戦闘訓練は終わった。
そして、俺も休憩してから医務室に向かうと、そこには元気そうなアレンとソフィが。
「よお、アレン」
「ああ」
「もう大丈夫なようだな」
「当然だろ?ソフィが治療してくれてるんだ」
「はは、さすが聖女様だ」
そう、アレンの妹、ソフィは聖女と呼ばれるほどの回復魔法の術者である。
回復魔法は単純に体内で魔素を変換して放つだけでは回復する要素が完成しないので個人の才能が重要だ。そしてソフィはそれに長けている。
全く、兄妹そろって化け物じみた才能を持っている。
「もう、お兄ちゃんもじーくんも、無茶しすぎです!」
そうしてしばらく説教されました
「それにしても、すごかったよ。宿木?だっけ?」
「ああ、ずっとこれを目指してきて、やっと完成したんだ」
「すごかったよ魔素が無限に使えるなんて、無敵じゃないか?」
「無敵ならお前に負けないと思うんだがな……まぁ見ての通り一度に溜めれる量に制限があるのがな」
「量なら成長とともに増えるだろ、どちらにしろすごかったよ」
「お前もな、なんだあれ、オーラごとぶった切られたぞ」
「ああ、全身全霊を乗せたからな」
なんて話をしていると放課後のチャイムが鳴る
「じゃあ、リーンに合ってくるよ」
「ああ、また焦がされないようにな!」
「もう一度斬ろうか?」
「いや、それは勘弁してくれ…」
「じゃあ、ありがとうねソフィ。先に帰ってて」
「わかった!じゃあね!」
そうして俺は医務室を後にする。
ついに初めての戦闘シーンです。解説が長かったような気もしますが個人的に気が済まないので許してください。