3 サンザード学園
いつものようにドアを開ける。そこには、いつもの二人が立っている。
「おはよう、ジーク。」
「おはようじーくん!!!」
落ち着いている青年の方はアレン・フォード。もう片方の元気な女の子はソフィ・フォード。兄妹だ。
二人とは幼馴染のような関係だ。アレンと俺は同級生で17歳、ソフィは一つ下で16歳だ。
寮が同じなのでこうして一緒に学園へ通っている。
…災害を生き残った人間は、禍気によって狂暴化した魔物たちから逃れるために、被害を受けなかったそれなりに広大な土地を、魔法核によって作りだした魔素エネルギーを使い巨大な結界を生成し、フローレンス王国を作り上げ、魔物からの襲撃を退けて生活している。
しかし、いつまでもこうしている訳には行かないので、魔物と戦い土地、平穏を取り戻すために子供たちを育てるために、俺たちも通っているサンザード学園は存在する。ちなみにこの他にも学園は存在する。
「おはよう。アレン、ソフィ。」
「じゃあ、行こっか!」
「ああ」
「そういえば、昨日勇者様が泣き止まない森を制圧したんだって!」
「そうなのか、あいつは強いからな…すごいな」
なんて雑談をしているうちに学園へ到着する。何度見ても圧倒される建築物だと思う。
この大きな建物の中には訓練場などはもちろん、食堂やなにやらと多分生活していくためのすべての要素が揃っている。
「じゃあっ!お兄ちゃん、じーくん!またね!」
「じゃあな」
「またな」
ソフィは一つ下で教室の場所がまったく違うのでここで別れる。アレンと俺は同じクラスなので一緒に向かう。
「なあ」
「なんだ?」
「なんかお前、良いことあったん?」
「え?」
「なんかさ、妙に明るく感じるんだが」
「そうかな。まぁ……良いことはあったかな」
「その割にはなんか微妙な受け答えだな。まぁ聞かないでおくわ」
「ああ、頼むよ」
「でもやっぱ気になるわ。なんだ?まさか彼女でもできたんか!?」
「ちげえよ」
「まぁ女の子なんかと全く縁がないお前に限ってそんな訳がないか」
「うるせえ。俺は生涯独身で生きるって決めたんだ」
「そんな意地張っちゃってぇ…やっぱりあの時に心のハートも焦がされちゃったんですか?お兄さん?」
「バカ…思い出させんなよ…。てか、心のハートってなんだよ。心の心じゃねえかそれ」
そんな話をしているうちに教室に到着する。
あの時とは、俺が昔とある少女に巨大なハートの風船を持って告白した時のことだ。
今も。と言われれば別に否定はしないが昔はもっと俺はバカだった。
巨大なハートの風船なんて持ってればそりゃ目立つわけで。その少女も相当恥ずかしかったんだろう。火の魔法の才能があったその少女は動揺のあまりか、まだ制御に慣れていない魔法を暴発させてしまい、目の前にいた俺は巨大ハート風船と共に丸焦げであった。
バカは怪我をしないとはこのことなのか、少女が魔法を最低限、コントロールできていたおかげで、幸い俺は服が焦げただけで無傷だった。ただ、それはもう多くの人に見られていたわけで、巷ではこのことが”焦がしハート事件”として語り継がれているらしい。一生の恥である。
ちなみに後日その少女に謝られると同時にフラれた。今思うと当然だし、なんなら俺が謝らないといけないことだと思っている。
そして教室のドアを開けると、件の俺を焦がした赤髪の少女がクラスの中心にいる。
彼女を囲むクラスメイト達は
「あの泣き止まない森を取り返したんだってね!すごいよ!」
「本当にすごいよ。リーンちゃんは人類の希望だね!!!」
などなど、次々に称賛の声を上げる。
称えられている当の本人は
「いや…そんなことないよ。私はできることをしただけだよ。それに、ほとんどサンザード先生が制圧していったから私はなにも…」
と、謙遜する。だけど本人からすれば本心なのだろう。それが彼女の素晴らしいところだ。
そして、教室に入ったこちらに気が付くと
「あっ!おはよう!ジーク、アレン!」
と、手を振ってくる。
「「おはよう」」
そう。勇者を影から支える使命を得た俺だが、実は勇者と面識があるのだ。
彼女こそが焦がしハート事件の時の少女。いや、勇者と呼ばれる人間 リーン・シトラスである。
まぁ例の件はあったものの今ではこうして気軽に話せる仲である。
「聞いたぞ。おめでとう」
「うん!ありがとう!
あのね、あの森を取り返したら伝えようと思ってたことがあって…」
「え?」
「放課後さ、テラスに来てくれない?」
俺は少し考える。伝えたいこと?まったく心あたりがない。でも特に予定とかもないし
「わかった。放課後行くよ」
「うん。こっちは都外訓練だから、先に終わるし先に行って待ってるね!」
都外訓練とはその名の通り都の外。この場合は結界外で実際に魔物を相手にする訓練だ。
「わかった。じゃあ」
「うん!」
笑顔がめっちゃ可愛い。
そうして彼女がこちらを離れると、周りからの鋭い視線に気付く。
どうやらさっきの話が聞こえていたらしい。
クラスの人気者でかつめっちゃ可愛い彼女は当然男子からの支持もすごい。なんなら女子からも大人気である。
そんな彼女からの誘い。まぁ気持ちはわかるっちゃわかる。
そんな視線を向けなくたって俺はもうフラれた身だからなぁ。安心していただきたいものだ。
そんな感じでクラスメイトからの注目を受けていると、チャイムが鳴る。そして同時に先生が入ってくる。
彼の名前はルーク・サンザード。そう、このサンザード学園の創始者であり校長だ。そして俺たちの教師でもある。リアクターによる結界の生成に大きく貢献した人物だ。当然魔法の力もすごい。
「皆、おはよう。今日も一日頑張ってくれたまえ。」
そうして学園での一日が始まる。
こっから面白くなっていくと…思います