第1話 勇者集結
集められた五人は玉座に座っている冒険の国の王の前にひざまずいていた。王は立ち上がり
「今回は急な頼みを聞いていただき感謝する」
王は頭を下げた。すると、ひざまずいていた五人の中の一人である青髪の青年が手を上げた。
「発言をお許しください。今回私達はなぜ呼ばれたのでしょうか」
王は一瞬発言を躊躇ったがすぐに話しだした。
「君たち、千年前魔人を封印した六人の勇者を知っているかな?」
「あの昔話の?」
ひざまずいていた五人の中の黄髪の青年がいきなりつぶやいた。王は少し笑った。
「今回君たちを呼んだのは紛れもない、その伝説の勇者になってもらう」
王の飛び抜けた内容の発言に五人は驚きを隠せなかった。それと同時に、周りにいた王族や会議に出ていなかった他の大臣たちがざわめき出した。
冒険の国の王であるフリダムは自身の国の民に伝えていないのは勿論、一部の人間を除いて国内の政治を行っている大臣や身内である王族にもこの内容を一切話していなかった。
「驚くのも無理はない。今はまだほとんど知られていないが魔人の封印が何者かによって解かれた。君たちにはその魔人を倒す勇者になってもらう」
「一ついいですかな。推測ですが我々五人は力量的にも通常の国民と同じかそれ未満、圧倒的にそちらの兵士さん達の方が戦力になると思いますがね」
突然、白髪の老人が話した。
「今の君たちならそうかもしれん…だが、君たちにはある物を託す」
すると、五人の近くにいた数人の兵士がそれぞれペンダントとローブを持って並ぶと、同時に兵士たちは五人にペンダントとローブを身に着けさせた。。
「そのペンダントとローブは千年前勇者が使っていたとされる魔道具だ。十二王神のご加護を受けた貴重な魔道具の一つだ。我が国が要請した一級鑑定士に観てもらったが、完璧に能力はわからなかった。詳しい内容は一級鑑定士である、エモート・シェアルズから説明してもらう」
すると、王の横に立っていた漆黒と青の色を基調としたローブに身を包み、片眼鏡を身に着けた男性が前に出た。
「私が調べた結果、判明したペンダントの能力が三つ、ローブには二つの能力があることが分かりました。
まずペンダントには《賢神の加護》亜空間収納》《潜在能力解放》の3つの能力が付与されています。
《賢神の加護》は情報整理、スキル自動使用、無詠唱魔法発動、多重魔法陣展開が可能になります。
《亜空間収納》は空間魔法での多量のアイテムボックスを使用することができます。
《潜在能力解放》は自分の中にある潜在能力が七十パーセント程解放されるということが分かりました。
続いて、ローブの能力は二つ。《ダメージ軽減》《鑑定阻害》でございます。
《ダメージ減少》は三十五パーセント分のダメージを軽減し、《鑑定阻害》は一定レベルの鑑定魔法や探知魔法に無許可で認知されるのを防ぐ能力がございます。他にもそれぞれの魔道具に能力があると思われますが
、詳しい能力までは鑑定が不可能でございました。鑑定結果は以上でございます」
エモートは五人に一礼をした後、振り返って玉座に座っていた王にも一礼をすると、再び元の位置に下がった。
王はエモートの説明が終わると、玉座から立ち上がると、ひざまずく五人に向けて言葉を放った。
「説明通り、この二つの魔道具は多くの能力を有している。そしてもう一つ、君たちにはこれから旅をしてもらう中で、探してほしい武具がある」
「武器を探す?」
「そうだ。そして、探してほしい武具とは、十二神器のことだ」
そう言うと、王は続けて話しだした。
「十二神器とは、この世界を創り出した十二人の神々がそれぞれ所有している特別な武具のことだ。神器には神々の力が込められていて、この世界の各地に封印されているらしい。それを使いこなせれば、魔人たちにも善戦することができるだろう。しかし…最終的には道具があっても勇者がいなければ魔人を倒すことができない。そして、その勇者たちとはまさにここに呼ばれた君たち五人だ!」
その時、緑髪の青年が手を上げた後、混乱しながらも話しだした。
「ちょっと待ってください。だとしても、我々が選ばれた理由にはならないと思うのですが…」
「そうだったな、君たちが選ばれた理由はただ一つ、君たちは今君たちが持っているそのペンダントに選ばれたんだ」
五人の顔が無表情になり、場が静まり返った。
「ピントきていないようだな、我々も何故ペンダントが君たち五人を選んだのか分からない。だが、事実だ。無理なことかもしれないが我々を信じてくれ、実際に我々の騎士が魔道具を装備しようと試みたが、すぐに拒絶反応が出てしまったが、君たちには全くと言っていいほど拒絶反応は出ていない。君たちがペンダントに選ばれた何よりの証拠だ」
五人は王の発言に納得しながらも、動揺を隠せずにいた。五人の発言が止み、その空間が無音に包まれた次の瞬間、王は自身の指を鳴らした。すると、部屋の扉の前で構えていた兵士が扉を開けた。五人は一瞬開かれた扉を見たあと、すぐに王の顔を覗いた。
「悩むのも無理はない。自分たちがこの国を、そして人類を救うことになるかもしれぬのだからな。今日は用意したこの城の部屋で休んでもらってかまわない、明日の朝、君たちの考えを聞きたい」
こうして、五人はひとまず用意された城の部屋で休むことになった。黃髪の青年が勢いよく部屋にあったベッドに飛び込んだ。
「このベットふかふかすぎる。雲みたいだぜ!」
黃髪の青年は部屋のベットの上で何度も跳ねていると、青髪の青年は呆れながらつぶやいた。
「呑気だな…」
黃髪の青年は落ち着き、青髪の青年の前にたち、にらんだ。
「今、余裕を持たないと魔人と戦うとき緊張しちゃうと思うけどな!!」
「関係ないと思いますけど」
青髪の青年はにらみかえす。その時、二人の間に入るようにして緑髪の青年が話した。
「二人とも落ち着いて!もしかしたら、今後、冒険する仲間になるかもしれないんだから」
二人がにらみ合うのをやめると、青髪の青年が他の三人に対して頭を下げた。
「お騒がせしました」
「オッケーじゃあ、最初だし自己紹介でもしよう」
緑髪の青年は満足そうに笑いながら、言った。
「僕の名前はフロイ・サルビオ、レベルは6だよ」
と付け足すように言った。フロイの突然の自己紹介に白髪の老人以外の他の三人は一瞬驚きを見せたが、すぐに白髪の老人が軽く音をたてるようにして咳をした。
「ワシも自己紹介をしよう。ワシの名はスロク・グラジオ、レベルは23で一応昔冒険者をしておった、これからよろしく頼む」
スロクが落ち着いた口調で話すと、黄髪の青年が続けて自己紹介を始めた。
「次は俺だ!俺はライヤ・ナスタ、レベルは4だ。よろしく!」
続いて、青髪の青年が話しだした。
「先程は騒がしくしてしまい申し訳ない、改めて僕の名前はレイト・エメリカ、レベルは7、共に頑張ろう」
レイトの自己紹介が終わると、椅子に座っていた赤髪の青年がため息をつきながら立ち上がった。
「僕の名前はアシス・グロリオ…レベルは5…よろしく…」
明らかにテンションの低いアシスを見た、ライヤはアシスの目の前に立ち、アシスの肩を掴んで全力で動かした。
「これから魔人討伐なんだから、テンション上げていこうぜ!」
ライヤの言葉に反応して、アシスはとっさにライヤの腕を掴んだ。
「正直に言うと僕も、魔人討伐には賛成だ。だが!現状の僕達ではまともに魔物を討伐することも難しい。魔道具を使っても、魔人を討伐するためには尋常なないほどの努力が必要だ。それができる覚悟がないならすぐに辞めたほうがいいよ」
ライヤはアシスの急なテンションの変わりように驚きながらも、他の四人は静まり返ってしまった。。
「急に話したり、元気だな!後、爺さんレベル高えな!」
ライヤの急な反応にスロクは一瞬、戸惑いの表情をみせた。その時、スロクが両手を叩き、音をたてた。
「アシスくんの言うことは正しい。これから我々が行うことはそれほど、努力と苦痛が伴う。生半可な覚悟では、命を落とす。それを踏まえてみんなの意見を聞きたい」
スロクが話すと、他の四人はすぐにスロクの周りに集まった。
「俺の意見は変わらず、魔人を討伐す…」
アシスがあらたまった口調で話すと、ライヤはアシスの語尾に重なるようにして言葉を放った。
「俺も行くぜ!どの道、冒険者にはなろうと思ってたし」
「ワシも行こうと思っている。特に理由はないが、助けられるなら誰であろうと助けていくべきじゃ」
スロクもライヤに続いて、意見を放った。すると、レイトは自分の髪の毛を両手でグシャグシャにすると、半分諦めながら言った。
「この状態だとやめようにもやめられないな…わかったよ。僕も行く」
「僕も行きます」
レイトとフロイも賛成の意見を示した。その後、スロクは再び手を叩いた。
「それでは、明日の朝、王には討伐の依頼を受けるという意見を伝えよう。今日は明日からのために早めに寝よう」
スロクがそう言うと、五人はそれぞれのベットに入り眠りについた。そして、この時五人は同時に思った。
(俺たち明日から勇者になるのかよ)
翌朝、五人は王から預かったペンダントやローブを身に着け、王座の前にひざまずいていた。
「我々五人は魔人討伐の依頼を受けさせていただきます」
レイトは王に対して、五人の意思を示した。それを聞いた王は、笑みを浮かべた。
「そうか、ありがとう!君たちには、期待をしている。早速だが、旅に出てもらう。皆、新たな勇者を讃えよう、新たな希望に!!」
五人は、大臣や王族たちからの拍手に包まれた。
その後、周りの護衛たちは五人を王都の出口まで、案内した。
「お見送りが少なすぎないか」
王都の出入り口には、城の使いと護衛が数名ずついるだけだった。
「申し訳ございません。現段階ではまだ国民には広まっていない情報のため最少人数のお見送りしかできません出した」
城の使いがライヤに頭を下げた。すると、隣にいた別の城の使いの一人がレイトに王から頼まれていた一冊の本を渡した。
「この本には、勇者様方にやっていただきたい依頼と私どもが初代勇者様に関する情報、地方ごとの細かな地図が書かれています。ぜひお役立てください」
「ありがとうございます。」
ライヤは少し不満そうにしたが他の四人を後を追いかけるようにして、走っていった。こうして、五人は城の使い数名に見送られ、王都を出た。