プロローグ
神と精霊が創り上げた世界「世界樹」
この世界は万物にレベルという概念が存在し、経験を重ねることで、天恵を得ることができる。
異常な種族である人類には、レベルの概念の他に職業という概念が存在し、その職業によってステータスの差が生じてしまっている。
もちろん、最強の職業とは勇者であり、最弱な役職とは平民のことである。平民が最高の才能を持って生まれたとしても、どれだけ努力して天恵を得たとしても、一つの方法を除いて、この頂点と底辺の差は絶対に埋まらない。圧倒的な差なのである。
そして、その一つの方法とは、神器を操るということである。「世界樹」を作り上げた十二人の神々はそれぞれ神力が込められた特別な武具を所持している。人類または、生物たちが、神器を操れた時、その生物は莫大な力を得るのである。
遠い昔、人類と魔物は共に魔術の発展を目指し続けながら、魔文明を造り上げ共存していた。2つの種族は互いに手を取り合いながら数千年もの間、魔術を発展させつつ文明を維持し続けた。
しかし平穏な日々も長くは続かなかった。
ある日、共存を良く思わない魔族たちの洗脳によって魔物たちは自我を失い、人類を襲撃した。人類側も必死の抵抗を見せたが、圧倒的戦力差の前には全くと言っていいほど刃が立たなかった。
その後、自我を失った魔物たちの襲撃により、人類と魔物が造り上げた魔文明は著しく衰退した。
人類は人類と魔物の両方を守るための最後の希望として、魔物と共に作り上げていた最後の魔道具を完成させ、火炎の勇者、氷海の勇者、暴風の勇者、雷鳴の勇者、岩石の勇者、友撃の勇者の六人の勇者に託した。
しかし、魔人側の圧倒的な力に押され、魔道具を持ってしても討伐することは出来ず、結果的に勇者たちは魔人たちを封印するという選択に至った。勇者たちはそれぞれの力を使い、見事魔人たちの封印に成功した。
だが、全てが理想通りに行ったわけではなかった。
人類は魔人の呪いによって勇者に関する記憶を失われ、正体の分からない六人の勇者が、魔人を封印したという事実と一つの伝説が人類の記憶に残った。
こうして、魔人と勇者との戦いは終幕を迎えた。そして、伝説が広められた。
『幾千の未来、厄災が戻りし時、災害と怪物が訪れる。それにより、最弱な光が生まれる。新たな希望が生まれる。未来は終着し、新たな未来に巻き戻る』
勇者が魔人を封印した後、魔物が人類を襲撃したことにより、双方の間には亀裂が生じ、今後を危険視した互いの種族の長が話し合った結果、双方は別々の道を歩むことを選んだ。
その後、魔物と人類はかつての文明を捨てた。魔物はほとんどの種族が知能を失い、獣と化し、人類は魔術の面においては衰退しつつも、三大国家〈冒険の国〉〈革命の国〉〈兵士の国〉に分かれ新たな文明を造り上げていた。
勇者たちが魔人を封印してから千年後、三大国家では不穏な空気が流れていた。
「今君が話したことは事実で間違いないのかね?」
綺羅びやかな装飾を付けた服を着て、見事な白ひげを顎に生やしたガルガシスの王は、三人の王の前に立つ兵士を睨みつけながら、話した。兵士を一瞬の緊張を見せながらも質問に答え始めた。
「指定魔法個体№1〜10までが保管されておりましたアルマク火山が管理下にあるガルガシス南西部から連
絡があり、私自身アルマク火山にて現地調査を行って来ましたが、間違いなく№1〜10の封印が解放され
ていたことを改めてご報告致します」
それを聞いた、革命の国と兵士の国の二人の王と会合に参加していた各国の大臣たちは一同にざわつきを見せた。しかし、唯一戸惑いを見せず、|冒険の国〈トランシス》の王であるフリダム・ストレンスは深い溜め息をついた。
「現状の魔人の被害は?」
フリダムは机を見続けたまま、兵士に尋ねた。
「現状は目立った被害は連絡されていませんが、各地で魔物が凶暴化しているとの情報が多く入っております。これはおそらく、魔人の復活によって空気中の魔素の流れが急激に変化したのが、原因だと思われます。そして、今後、これによる大規模な被害が想定されるかと」
その時、革命の国の王であるスラスト・クライクルはある異変に気付く。
「ちょっと待て、魔人は11人のはずであろう。一人はまだ、封印が解放されていないのか?」
「その逆だ。実際には封印されている魔人は9人であって、残りの二人は勇者との戦いの末、行方不明になっている。もう一つの指定魔法個体は正体が不明だったものだ」
一同の戸惑いが静まると、フリダムは一つの提案をし始めた。
「そこで我々人類は、千年前に封印され、解放された魔人を封印ではなく、討伐するために。我々は勇者の魔道具を使う」
トランシスの王が発言すると、周りの大臣たちは騒ぎ始めた。そして、ガルガシスの王が冷静に反論し始めた。
「しかしその方法では、犠牲が生まれてしまうぞ」
「だが他に魔人を打ち倒す打開策があるのか!」
トランシスの王は焦りを含みながら、ガルガシスの王に怒鳴った。
三人の王と大勢の大臣たちは頭を悩ませていたが、冒険の国の王は兵士に宝物庫から五つのペンダントを持ってくるように言った。数人の兵士は小走りでペンダントを宝物庫から取り出し、三人の王の前に置いた。
「これが伝説の魔道具なのか」
ガルガシスとゲノムシスの王は魔道具に圧倒されつつも、革命の国の王は席から立ってペンダントを観察した。すると、冒険の国の王はペンダントを机の中心に描かれている魔法陣の上に置いた。
「始めるぞ」
そう言うと、二人の王も続けて、それぞれが腕に着けていたブレスレット状の魔道具を魔法陣の周りに置くと、魔法陣が回転し、それと同時にペンダントが光り輝いた。
「「封印解除」」
ペンダントが放った光は王たちのいた部屋の壁にそれぞれ違う五人の男を映し出した。王達は、直ちにペンダントが映し出した五人を集めるように兵士に命令し、兵士達は三日かけて五人を探し出し、冒険の国の城に集めた。