3.掃除
翌日の昼過ぎ、私は鞄に必要な物をつめて九条の家の前に立っていた。
昨日帰り際に九条が私の家まで迎えに来ると言ってきたが丁重にお断りさせてもらった。もちろん九条は中々納得してくれなかったが、私がしつこい人は嫌いというと大人しくなったのだ。
私に嫌われてしまって協力してくれなくなると困ると思ったのだろう。
インターホンを押そうと手をのばすと、ガチャリとドアノブが回り九条が出てきた。彼の体にはところどころ黒い染みがまとわりついており、きっと紗良ちゃんの穢れを少し吸ってあげたのかもしれない。
「今日もお邪魔します」
「ああ、こちらこそよろしく」
私が入りやすいように扉を大きく開いた九条は私の大量の荷物をみて顔をしかめると、私の手からそっと鞄を取った。
「…やっぱり迎えに行ったほうがよかった」
「大丈夫だよ、これくらい」
「…帰りは送るから」
そういうと部屋の中へと案内してくれる。飲み物を聞かれたが、すぐに作業に入りたかった私はお礼だけ言って、持ってきた荷物を取り出した。
「これは…掃除道具?」
「そう。私にはこれしかないからね」
お茶をテーブルに運んだ九条が広げた荷物をのぞきこんできた。
前世の聖女達は皆、聖歌を歌うことで穢れをはらっていた。しかし私は皆より少しだけ、そうほんの少しだけ音痴だったため聖歌の効果が弱かったのだ。その代わりとしてといっては何だが、聖歌以外で穢れをはらう私の唯一の方法が掃除だったのだ。
現世でも掃除をしたところは穢れをはらうことができるし、しばらくの間は寄せ付けない。だから今回もとりあえず徹底的に掃除をしようと思う。
穢れがあふれてくるのならば元を絶たないと駄目なのかもしれないが方法が分からないし、まず症状を緩和させてみて様子をみてみようと思うのだ。
私は市販で売っている洗剤と掃除道具を持つと傍で見ていた九条にも持たせる。
「俺が掃除して効果はあるのか…?」
「大丈夫!市販の掃除用洗剤って効果あるんだよ?私も家で使ってるから保証する!」
穢れをみることができない弟、妹達も洗剤を使ったら穢れを払うことができていたから大丈夫だろう。
家もピカピカになって穢れもはらえて一石二鳥!
九条は私の説明に不思議そうにしながらも頷くと掃除をはじめた。
私も掃除道具を持ち直し掃除をはじめるのだった。