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2.錆びついた階段

九条の案内のもとたどり着いたのは結構年季のはいった2階建てのアパートだった。

どうやら部屋は2階にあるらしく、錆びて劣化してしまっている鉄骨階段を登っていく。

気をつけていてもカンカンと音が鳴り響いてしまい、これ夜とか結構うるさいのではと考えていると、先に登りきった九条が鍵を開けて待ってくれていた。

引っ越したばかりで散らかっていて申し訳ないと言いながら扉を開けて中へと入れてくれる。



「お、お邪魔します」



確かにまだ荷ほどきが終わっていないのか未開封の段ボールはあったが散らかっているという程ではなかった。そもそも荷物はそんなにないようだ。

部屋の中は静まりかえっており、普通の人なら誰もいないかのように思えるのだろうが、廊下の先にある扉の方から嫌な気配が漂ってきている。



「リビングの奥の寝室に妹が寝てるんだ」



緊張して固まってしまっている私を促すように彼がリビングの扉を開けてその奥の寝室へと進んでいく。

その背中を追って私も足を進めるが、寝室に近付くごとにどんどん空気が重くなっていく。寝室の方からは黒い染みが滲み出てきており、今すぐ回れ右をして帰りたい気持ちにかられてしまった。



「紗良、帰ってきたよ。…入ってもいいか?」

「……お兄ちゃん?…お帰りなさい」

「ただいま。実は今日紗良に会わせたい人がいるんだ。突然で悪いけど無理を言って来てくれたんだ。少しだけいいか?」

「うん、大丈夫だよ」



妹さんから了承を得られて、彼は少しほっとした様だった。そして私のほうを振り返り、準備はいいかと目で確認をしてくる。


私はそれに頷くと彼は寝室の襖を開けた。



「……っ!」



覚悟はしていたものの、予想以上の現状に私は息を呑んだ。


開け放たれた寝室は、部屋全体に霧のように穢れが充満しており、おそらく中央にある黒い固まりが彼の妹さんなのだろう。踏んだ感触で畳が敷いてあるのかと判断がついた程穢れがあふれていた。

彼は定期的に妹さんの穢れを吸っているようなことを言っていたのに改善している様子は全くみられない。


一体なぜ?


彼女自身が穢れを生んでいるというのだろうか。そのようなことを考えながら私は妹さんの近くに腰を下ろした。



「突然お邪魔してごめんね。私はあなたのお兄さんのクラスメイトの宮永杏樹といいます。お兄さんに頼まれて様子を見に来たんだ」


「わ、私は九条紗良です。…お姉ちゃんもこれがみえるの?」


「ということは紗良ちゃんもみえるんだね…」



みえるのならば尚更しんどいことだろう。

できることならば何とかしてあげたいが…。



「…いつからこの状態に?」


「半年程前だ。黒猫に手を噛まれてその傷口から穢れが溢れてくるようになったんだ」


「黒猫…?」



私の質問に九条が代わりに答えてくれる。

黒猫に噛まれただけで穢れがまとわりつくなんて聞いたことないが、私が知らないだけでそういうこともあるのだろうか。


分からない。


分からないけれど何か行動にうつさなければ現状は悪化するだけだ。



「お姉ちゃん…」

「どうしたの?紗良ちゃん。体が痛む?」

「ううん。…私は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。お兄ちゃんもありがとう…」



か細い声で彼女は大丈夫だと言う。

穢れのせいで判別はできないけれど、きっと私達を安心させるために笑っている様な気がした。


…ああ、駄目だな。

無理そうならきっぱり断ろうと思っていたのに…。


私はギュっと手を握りしめておそらく紗良ちゃんの顔があるだろうところを見つめた。



「紗良ちゃん。私に紗良ちゃんが元気になるためのお手伝いさせてくれないかな」

「吉永…」

「とりあえず今日は一旦帰ります!準備して出直すよ。ちょうど明日は休みだしお昼過ぎにまた来てもいいかな?」



私はすくっと立ち上がり九条の方に振り向くと、また明日来る約束をした。そして帰る前にお水を借りて聖女を作り紗良ちゃんに飲むように指示を出しておく。雀の涙程度かもしれないけれど何もしないよりはましかと思ったのだ。

ランドセルを背負い家に帰ろうとすると九条が家まで送ると言ってきた。1人で大丈夫なので断ったのだが納得してくれず、結局家の近くまで送ってもらうことになってしまった。

結構頑固な面があるんだなと思いつつ私は九条と並んで自分の家へと帰ったのだった。

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