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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
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せめぎ合い

 「俺達に何の恨みがあるのか知らねぇが、掛かってくるなら手加減は出来ねぇぞ?」


 緑風(ジン)の遣いの頭の男が、二人に睨みを利かせながら腰を落とし、投げナイフを両手に構える。

 そこに油断や慢心等一切ない。相手を侮るのは二流、三流の奴等のする事だ。

 特に目の前に居る二人は、強さがひしひしと伝わってきている。


 「そこまでシラを切るとは救えないな。ここでお前達の悪事も終わりにしてやるよ」


 「ふんふん、十七人か、余裕ね。あのリーダーっぽいの以外は、普通っぽいしね」


 決して盗賊団の下っ端の方でも弱い訳ではなかった。団員一人でも十分指名手配されるくらいの力量はあったが、イリアと比べてしまうと形無しだった。

 言葉では完全に相手を見くびっている発言をしているが、油断ではなく余裕である。

 戦いが始まるとなると相手の勝機を確実に潰して、一撃の如く沈めてしまうだろう。


 「ふぅ……こいつは不味いな。おい、おめぇら、手を出すなよ」


 お頭の男は、ルイスとイリアが構えるのを見て確信してしまった。

 自分達には勝てる相手では無いと言う事を。一旦構えを解いて、団員に被害が及ばないように手出しさせないように指示を出す。

 団員達は、不服そうにざわつきながらもお頭の指示に従って、構えていた武器を下ろした。


 「何のつもりよ?」


 「いや、なぁに。無闇に犠牲を出したくないんだ。俺と一対一での決闘でケリを着けるってのはどうよ?」


 「……良いだろう」


 この言葉にルイスは疑問を抱く。

 無闇にジェイルや今日アダインへとたどり着いた男のように、傷つけておきながら、団員は守ろうと言う気持ちはあるのか。

 その気持ちを何故他の人達には向けられないというんだ。

 それとも、これすらも罠かも知れない。

 ジェイルの時のような、二人を逃がしておきながら、ジェイルだけを殺すという、理解出来ない殺し方をするつもりなのかも知れない。

 油断や気の許しは一切しない。

 同じ手に嵌まる程愚かではない。


 「イリア、俺にやらせてくれないか?」


 「えぇー……分かったわよ。譲ってあげる」


 イリアは一瞬めちゃくちゃ嫌そうな顔をしたが、ルイスの目を見て何かあるんだろうと察し、仕方なく譲った。

 ルイス本人としては、何らかの策がある場合直情的なイリアより自分の方が対応出来き、もし窮地に陥った時にイリアの方が切り抜ける力を所有していると考えたからだ。


 「物分かりが良くて助かるぜ。俺が負けたら、俺を連行するなり何なりと好きにすると良い。ただし、コイツらだけは見逃してやってくれないか? (かしら)である俺が居なけりゃあ、コイツらは何にもしねぇからよ」


 「それは俺が判断する」


 「そりゃそうか」


 決闘でやる以上は、それ以上手出し無用だ。

 しかも、こういう事で約束を交わすとなると男の誇りや義理にも関わってくる。

 悪い奴なのかどうかも判断出来ないのに、安易に見逃すような発言は出来ない。


 「俺はソルだ」


 「俺はルイス」


 「ルイスね。オーケー。それじゃあ、尋常に……」


 「勝負!」


 合図と共にルイスは剣を抜いてソルへと速攻を掛ける。

 ソルは両手のナイフをルイスへ投擲し、牽制を掛ける。

 これをルイスは剣では弾かずにサイドステップで避ける。

 この手のタイプは、手数で押してくるはずだ。剣で弾けば隙が出来る。二段、三段と攻撃が飛んでくるだろう。

 ルイスの想定通りに、ソルは袖から既に新しいナイフが取り出されていた。

 どうやら、寒さ対策としてのみではなく、あの衣装は武器を隠す為のものらしい。


 近付こうとしても、絶妙な位置にナイフを投擲しており、ルイスは確信を持って踏み込む事が出来ない。

 恐らくは遠距離のみならず、近距離の対応手段もしっかりと持っており、無理矢理踏み込んでいけば、それこそ相手の思うツボとなるだろう。


 そんなやり取りも長くは続かない。ルイスは意を決して特攻を掛ける。

 ソルも今までとは違った空気を感じて身構えつつもナイフを投擲する。

 ルイスは前進したまま、身体を捻らせるだけで回避し、二段目の投擲の前にロズネスで磨きあげた炎の魔法をソルへと放つ。

 

 ソルは受けるでもなく、左右後ろでもなく、上へと跳び上がった。

 ルイスの魔法を煙幕代わりと見たソルは、ルイスが想定しているであろう回避後の行動を上に跳ぶ事によって潰す。

 上空への回避というのは、戦闘において定石ではない。

 空中では次の攻撃を回避で出来ないからである。故にルイスはその想定から外れた上空でも対応は出来るはずだったが、ルイスは上を向いて悔しそうに舌打ちをする。

 それはここが洞窟であり、天井があるからだ。天井まで跳べばそれは地面と同じで、方向転換も次への攻撃の回避も可能になる。

 ソルは天井からルイスの背中を取る位置に身体を翻しながら着地する。


 「今のは良かった。ただ、相手が悪いな」


 「……勉強になるよ」


 「俺も久しぶりだ。やり甲斐のある相手と戦うのはよ」


 二人とも笑っていた。

 純粋な力比べではなく、相手のスタイルをどう切り崩して戦うか、そんなやり取りが出来る相手は、お互いにそう出会えるもんじゃなかった。

 状況は振り出しに戻り、さっきと同じ手は通用しない。いや、通用してなかったのだ。同じ方法は使えない。


 「行くぞ!」


 「来い!」


 ルイスは一直線に突っ込んでいき、投擲されるナイフを片腕でいなすように捌き落とす。

 それを見たソルは円形の外側に刃の付いた剣を二本取り出して投げる。

 ルイスから大きく外れて何処かへと向かう。

 一瞬不審に思ったが、ルイスは振り返る事なく、そのまま直進する。


 「リオ・エンス・フルランーー」


 ソルが呪文を唱えながら、足止めの為のナイフを投擲する。

 リックの時のように地面を抉りその衝撃波をぶつけようとしたが、そのナイフにより阻まれる。

 そして、前に投げた円形の剣が斜め後ろから自分へと向かってくる事に気付き、それを屈んで避ける。


 「ーーフィンス!」


 ソルの詠唱が終わり掌から強力な風がルイスへと襲い、ルイスを切り裂きながら洞窟の壁まで吹き飛ばす。


 「かはっ!」


 「ルイスッ!」


 「くっ……大丈夫だ。これくらい」


 ロズネスでの鍛練により、魔法に対する防御も上がっているルイスには致命的やダメージとはならなかったが、それでも効いていない訳ではない。


 「ほぉ、やるな」


 「緑風(ジン)の遣いの名前は伊達じゃない訳だ。まさか呪文を使えるとはな」


 飛び道具に魔法、そして機動力、どれを取っても一流の使い手だ。

 未だに一太刀も浴びせる事が出来ずにいるルイス。


 「今なら大人しく帰ってくれたら、見逃してやるぜ?」


 「いやいや、むしろやる気になった所だ」


 強がりではなかった。

 先程のやり取りでルイスには攻略の糸口すら見えたのだ。

 ルイスは懲りる事なくソルへと向かっていく。

 ソルもやれやれと言わんばかりに首を振って、ナイフを構える。

 その瞬間、ルイスは剣で地面を抉って、土砂と共に衝撃波を飛ばす。

 ソルは投擲を止めて右へ避けてから、ナイフを再度投擲する。

 今度は、剣で弾くともう片方の手で炎の魔法を放ち、煙幕を張る。

 天井へと跳び上がり、ルイスの背後を取ろうとする。

 天井から離れた瞬間に、ルイスはもう一度振り向き様に剣で地面を抉り、衝撃波を飛ばした。


 着地直後で、天井への回避が出来ないのでサイドステップで避ける。

 今度はソルが舌打ちをした。


 既にソルの横まで移動していたルイスは剣を振り抜いた。

 ギリギリ横腹を掠めて、致命傷は逃れたが出血は免れない。


 「今、投降するって言うなら、これ以上は止めてやるけど?」


 「ははっ。 一本取られたな……だが、まだ負けてねぇ」


 ダメージだけならルイスの方が大きいはずだが、一度攻撃を許してしまった事はソルにとっては致命的な事だった。

 油断はしてなかった。警戒もしていた。攻撃を避ける事を優先していたのに、それでも一撃を受けたのだ。

 範囲の広く、視界を妨げてくる連続攻撃を避けて、なおルイスへの注意を払うのは骨の折れる事だった。


 「じゃあ、こっちからも攻めるとしようか……」


 それなら、守りではなく攻撃へと転換した方が良いと考えるのは必然。

 先の先を取れば守る必要はない。攻撃こそ最大の防御だ。


 「こっからが本番……ってか」


 互いが腰を落とし、前屈みになり、その姿勢から共に駆け出した。

 両者がぶつかり合うその手前で、二人は何かを感じ取ったかのように足を止め、二人の間に雷が落ちる。

 勿論、洞窟の中でそんな自然現象が起こる事はない。


 「その戦いは終わり」


 雷の発信源、いつの間にかレイチェルがそこに立っていた。

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