ブラッドの弱さ
アダインの危機的状況の中にあるにも関わらず、ブラッドはアダインから少し離れた所にある木陰で居眠りをしている。
ターナに言われてから、顔を合わせるのが気まずくなり、村の外で休むようになっていた。
「こんな所で何をしておる!」
バレックの叫びにも近い呼び掛けにビクリと身体を起こして、ブラッドはバレックを睨むようにみる。
それは休憩を起こされたからではなく、触れられたくない過去の一件に土足で踏み込んでくる輩に対する睨みだ。
「いきなり、なんだよ? 俺が何をしていようがお前の知った事じゃないだろ?」
煙たがるようにバレックを拒絶する。
ターナならともかく、他所の者に首を突っ込まれるのは我慢ならない。
「今、アダインに盗賊が来ておる」
「なに……?!」
盗賊……名前を聞くだけで、ブラッドにはジェイルを殺した盗賊を連想させられる。
例え違っていたとしても、それはアダインに対して利益を与えようなんて事にはならない。
盗賊か村に来る以上は略奪や破壊行為以外の何物でもないはずだ。
「お主の力が居る」
「……勇者が居るだろう? お前らで何とかしろよ」
「今、勇者は不在じゃ。奴等が罠を仕掛けよった」
「ちっ、こんな時に何やってんだよ」
「それはお主であろう?」
アダインに盗賊が来たというのに、動こうともせずに勇者任せにする。
挙げ句には文句まで吐くのだから、人の事をとやかく言えるもんじゃない。
「俺に……守る資格なんてないんだよ!」
「ふむ。資格のぉ。必要か?」
バレックは首を傾げながら顎に指を据えて、ブラッドの抱えている事が何でも無い事のように考えている。
「お前には分からないんだよ! 俺の気持ちなんて……」
「知らんな。お主の気持ちなんぞ。今の状況を分かっておるのか?」
「それなら、お前が行けば良いだろうが。勇者の仲間なんだろ?」
「嫌じゃ」
「はぁ?」
「ワシこそ関係無いじゃろ? この村の事なんぞ」
「…………」
とても勇者の仲間とは思えない発言ではあるが、それを責める資格をブラッドは持ち合わせていない。
守護神である自分が村を守ろうとしない事の方がどうかしている発言だ。
「ターナが必死に止めておるぞ?」
「ターナが……?」
あのターナが盗賊を止めている。
それなのにブラッドは過去の呪縛から逃れられない。
「いい加減にせんか! いつまでそうしておるつもりじゃ!」
「俺はもう全てを失ったんだ! 放っておいてくれ!」
二年前に弟を、自信を、夢を、未来を、そして積み重ねてきた物全てを失ってしまった。
そんなブラッドには、もう何も残ってない……、
「馬鹿なのかお主は!?」
ずかずかとブラッドの所まで行き、バレックはブラッドの胸ぐらを掴んで無理矢理起こすと顔面をおもいっきり殴った。
「っつ! 何しやがる!」
「お主が全て失った? いつまで寝惚けておるんじゃ! ならばターナを失って良いのか? お主には守れる力があるのじゃろ?」
「それは……」
「まだお主は力を失っておらん! ジェイルは二度と守護者を目指す事が出来んのだぞ? お主はどうなんじゃ? 出来んのか?」
「…………」
「ジェイルは死んだが、ジェイルが憧れた兄は生きておるんじゃろうが! それを殺そうとしてるのはお主じゃ! 立ち上がる時は今しかないぞ! 前を見ろ! 己を見ろ! ジェイルが憧れた男は、こんなみっともない男じゃったのか? ならば、ジェイルとはその程度の男を信仰する愚か者であったのだな!?」
ブラッドは立ち上がり、勢いよくバレックの胸ぐらを掴みながら何かを発しようとしたが、一瞬だけ言葉を詰まらせる。
自分の憤りを吐き出す相手ではない、その事は分かってはいるが我慢をしけれない。
「ジェイルは……あいつは俺を越える男だったんだ! それを……愚かな男なんかじゃねぇ! だから、俺は……俺があいつの理想を成し遂げてやらなきゃ……」
ブラッドから涙が溢れた。それは哀しみや悔しさではなく、自身への怒りである。分かっていた事なんだ。
心の中ではそれを理解していた。それと向き合う事が恐かった。
「……すまない。俺はジェイルの全てを失った訳じゃなかった。俺はあいつに期待してたけど……あいつは俺に憧れていてくれたんだ。そして……俺にはずっと支えてくれたターナが居る」
「かはは! そんな事最初から分かりきっておる事じゃろ。さっさと行け!」
「あぁ……ありがとう。助かった」
ブラッドは吹っ切れた。
本当はとっくに分かっていた事で、何度も前を見ようとしたが、ジェイルの姿を……己の無力さを思い出し、闇を抜け出す勇気をもてなかった。
自分の強さを認め、自分の弱さを受け入れる。
自信も怯懦も混濁させ、今ブラッドは走り出す。
もう失わせない為に……ターナの気持ちに応える為に。




