アジトへ
夕方になりシナイ山の入り口で合流して互いの成果を報告し合う。
結果的に収穫はなかった。
さすがに一日で見付かるようなアジトであれば苦労はしないだろう。
数日くらい掛かるかも知れない。
そんな事を覚悟しながら、暗くなる前にアダインへとルイス達は帰っていった。
ーー翌日の朝、昨日と同じように朝食を済ませて山へと向かおうとした時、ブラッドと出会う。
「アンタら、何しようとしてんだ?」
「何って……ここら辺自然が多いから、山で気晴らし、みたいな?」
ルイスは自分で言っておいて無理がある事を痛感しながらも、ブラッドの表情を窺う。
「余計な真似するなよ。アンタら勇者だったら、さっさと魔王を封印しに行けよ」
ブラッドの言う事はごもっともである。
別に盗賊退治なんて他に任せて自分達の目的にして、世界の命運を背負った任務をこなす事に専念すべきなのだ。
例え、盗賊を退治出来ても魔王に世界を滅ぼされれば、それは無意味……というより、全くの時間を無駄にする行為に他ならない。
「自分の夢から目を背けてるアンタにそんな事言われたくないわね」
「やっぱり、ターナが余計な事を言ったんだな?」
「へ? あ、ま、まぁ、成り行きで聞いちゃっただけよ」
イリアに隠し事は向いていなかった。
すぐにボロを出して、隠しきれず本当の事をべらべらと喋ってしまい、ルイスは静かにため息をつく。
「アンタらに関係ない! さっさと出ていけよ!」
「そうはいかんな。 その盗賊が、ひょっとするとワシらに因縁がある奴等やも知れんのでなぁ」
「アンタらに?」
「元はシャンデルの方におった盗賊らしいぞ? 同じかどうか分からんが、同じなら見過ごせん奴等なんでのぉ」
「もう二年も前だ。そんな奴等がまだ居るとは思わない」
盗賊も一定の場所に留まる集団も少なくないが、基本的には騎士達にバレないように定期的に居場所を変えたり、アジトを持たない盗賊も多い。
二年も経っていれば、場所の一回、二回くらいは移動しているだろう。
「居ないって確かめられたら、すぐに俺達はここを出るよ。一応はこの村の安全を守っておきたくてね。なにせここには守護者は居ないんだろう?」
ルイスにしては、珍しくブラッドへと皮肉を混じらせて言い放つ。
ブラッドは一瞬ムッとした表情になるも、すぐに冷静に戻って目を閉じる。
「勝手にしろ。勇者様は相当暇を持て余してらっしゃるようだからな」
ブラッドも悔し紛れか、皮肉で返してルイス達の前から去っていった。
「ホントなんなのよ!」
「お主も口が軽すぎるぞ?」
「うっ、良いのよ! アイツにはあれくらい言ってやらないといけないの!」
どうやら、イリアの中では今回の自分の発言は失態だとは思っていないらしい。
それでもブラッドには、今の皆の声は届きそうもない。
アダインの村を出ようとした時、入り口に一人の傷を負った男が今にも倒れそうになりながら歩いてくる。
「大丈夫ですか?」
ルイスが走って駆け寄って、倒れそうだった男を支えてあげる。
「はい……と、盗賊にやられました」
「盗賊に?!」
「盗賊は……カコン湖にある洞窟にアジトを構えていて、休憩の為にたまたま湖の近くまで行ったら、盗賊と遭遇してしまい……」
カコン湖はシナイ山からそれ程遠くない。
むしろ、アダインからならカコン湖の方が距離的には近い。
そんな所にアジトを構えていたのか。
「その盗賊はどんな盗賊か分かるか?」
「緑風の遣いって言ってました……」
「よし! 行きましょう!」
まさかこんな形で情報を掴めるとは思わず、イリアはやる気満々で指を鳴らしていた。
「イリア、待ってくれ。まずはこの人の治療が先だ」
「ふむ、ならワシが運んでやろう。三人で先にカコン湖へ行くが良い」
「バレックにしては控え目な発言だな」
いつもなら、面白そうじゃ、とか言ってすぐにでも行きそうなのに、何か考えでもあるというのだろうか。
「なに、この中で一番弱いのは間違いなくワシじゃからな。それに話が上手すぎると思わんか? 何故都合良くアジトの場所が分かると言うのじゃ」
「それは確かにそうだが……」
話が出来すぎている。
このタイミングでアジトが分かると言うのは確かに可笑しい気もする。
だが、アジトを知られて困るのは向こうの方では無いだろうか?
それとも罠……勇者達がアダインに居る事を知り、誘い込んで殺すつもりなのかもしれない。
いや、ひょっとすると勇者達をアジトへと誘っておいて、アダインを襲撃する?
それだと勇者達がアダインから旅立つのを待った方が確実になる。
「わざわざ俺達を誘い出す意味は無さそうにも思うけどな。勇者を殺して何の得がある? 名声か?」
勇者を殺す=大陸を魔王の危険に晒す事になる。
過去どの勇者の歴史からも、勇者が盗賊を退治しても、勇者が盗賊に狙われた事はない。
勇者を狙っても大金が手に入る訳でもないから、普通盗賊ならわざわざ勇者に自分から手を出す事をしない。
そういう面を考えると偶然が重なっただけとも考えられる。
「なに、ワシもそこまで深く考えておらん。何か罠があり、お主らがそれに掛かったとしても、時間差でワシが行けば助けられるじゃろ?」
どれほど罠に注意していても、相手の思考を読みきらない限り防ぎきれない部分も出てくる。
バレックの言うように時間差があれば、一陣が罠に掛かって油断している所を奇襲出来る。
勿論、このパーティーで盗賊ごときが罠を張ったくらいで勝てるパーティーだとも思わない。
「それなら、私も後から行く」
「レイチェルもか?」
「どうせ盗賊くらいなら、一人でも何とかなるでしょ? 罠なら私は後から行った方が助けてあげやすい」
魔法を使えるレイチェルなら、確かに罠に掛かった仲間も遠距離から助け出す事も可能な訳だ。
それに万が一、二人を盾にされても二人ごと魔法を食らわせれば、魔力の低い者のみが倒れる。
二人以上に魔力の高い盗賊なんていないだろう。
「分かった。それじゃあ、俺とイリアで先に突入しよう」
「ふふん。アタシ達で先に終わらせておくわ」
イリアなら罠ごと拳で打ち砕いてしまいそうな程に頼もしい。
緑風の遣いとようやくの対面が実現する。




