表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
56/63

熱さに怯えて

 ターナは一人、ルイス達が宿へと向かった後、天井を見上げて想いに耽る。


 今までは、ブラッドとジェイルこそが誇り高き守護者(ガーディアン)であり、自分は村人の一人に過ぎないと認識していた。


 ブラッドと一緒に修行していた時も、ブラッドとジェイルが修行をしているのを見守っていた時も、そしてジェイルを失ってブラッドが変わってしまった後も、ターナは一人の村人でしかないと諦めていた。

 自分に出来るのは、ブラッドが立ち上がるのを信じて待つ事だけだと思っていた。


 違った。

 そうじゃないんだ。

 ターナは今まで守護者(ガーディアン)として貫いてきたものがあった。

 それは誰にも負けないと自負出来るブラッドへの愛情だ。

 これだけは譲れない。

 これだけは守り通してみせる。

 もうブラッドを一人になんてさせない。

 そんな想いをターナは巡らせていて。


 ターナは大きく息を吸う。

 少しの間、体内に入れた空気を吟味するように感じ、ゆっくりと吐く。

 何も変わらない。

 空気が重く、鈍く、濁っているように感じていたのは、気のせいなんだ。

 久しぶりに透き通った心地良い空気を吸った気がした。


 ターナは椅子から立ち上がり、外へと出る。

 そのターナの眼差しは、最早何の淀みもない力強いものへと変わっていた。


 ブラッドを探すのに、そんなに時間は掛からなかった。

 ずっと見守っていたターナにとって、ブラッドの行動範囲は把握出来ている。


 相変わらず、塞ぎ込むように不貞寝するブラッド。

 何年経とうと癒えない傷を抱えたままブラッドはそこに居る。


 「ブラッド……」


 「ターナか……もういい加減にしてくれ。俺がどうしようと俺の勝手だろ? 他の奴だって、何も考えずに呑気に暮らしてるだろ! 俺がそれをして何が悪いんだよ!」


 誇りを失った種族……誇りを取り戻そうとしたブラッドが、諦めて誰がそれを(とが)められるというのか。


 「悪いわよ……」


 「あぁ?」


 「ブラッド、貴方しか守護者(ガーディアン)の誇りを守れる人は居ないわ! なのに何してるの? 貴方はそんな弱い人間じゃないって、私は知ってる! 貴方はもう一度前を見てくれるって信じてる!」


 いや、それを出来る資格をターナは所有していた。

 今までに無いターナの強い意思、言葉にブラッドは違和感を覚え、ターナを見る。


 「……ちっ、あいつらに何か言われたのか?」


 「えぇ、私は気付かされたの。私も守護者(ガーディアン)であることに……だから、私は貴方の理想を、夢を守ってみせるわ!」


 「そんなもの、俺にはもう……」


 「棄てたなんて言わせない! そんなの勝手よ! 私に夢を見せておいて! 私に未来を見せておいて! 私に希望を見せておいて! 私に貴方を見せておいて……もう、私にはブラッドしか居ないの! だから、貴方だけは私が守るの! だから……私にもう一度貴方の全てを見せてよ!」


 「俺は……」


 ブラッドはこれ程、熱く、強く、激しく主張してくるターナを初めてみる。

 強い意思を感じる。

 懐かしい感覚だ。

 それは守護者(ガーディアン)にとって、必要不可欠な精神の強さ。

 それをターナから感じ取る。

 ブラッドの胸の中が熱くなる。

 懐かしい熱さを……棄てたはずの熱さが胸の中に宿ろうとしている。


 「俺はもう全てを棄てたんだよ! 弟一人守れない情けない守護者(ガーディアン)が誇りなんて、守れる訳ないんだ!」


 振り払う。

 恐い……あの熱く激しい感覚を、輝き眩しいまでに疑う事のない自信を取り戻すのが恐い。

 傷付く事が……恐い。

 そんな男が守護者(ガーディアン)の資格なんて無い。


 「なら、私が全部守ってあげるから……私が貴方の代わりに誇りを守るから……ブラッドの全てをちょうだい!」


 「俺の……全て…………?」


 「私は貴方を失う事が一番恐いの! 私は貴方なら守りきれる自信がある!」


 「お前なんかに出来る訳ないだろ! お前にそんな力が無いのは、俺が一番よく知っている! 守護者(ガーディアン)を嘗めるなよ!」


 「今の貴方なんかより、私の方がよっぽど守護者(ガーディアン)よ! そんなに偉そうに言えるなら、さっさと立ち上がれば良いでしょ! 何してるのよ! なにを……してるのよ」


 ターナは堪えきれず泣きだして、ブラッドの所まで行って、ブラッドの胸を殴る。

 何度も何度も非力な拳で殴る。


 「ターナ……」


 あの遠くから見守る事しか出来なかったターナが、今ブラッドを強く糾弾し、ブラッドの心を揺さぶる。

 ブラッドの心は過去とも未来とも向き合えず、薄暗い闇の中で彷徨(さまよい)続けている中に、ターナは手を差し伸べてくる。

 その手を取る勇気がブラッドにはない。

 昔は傷付く事も、過酷な修行も恐くなかったというのに、あれほど強かったというのに、今ブラッドはどれほど弱く、脆くなっているのだろうか。


 「お願いだから……私の事を見て…………」


 涙を含んだ瞳がブラッドを見る。

 ジェイルは死んでしまった。

 だけど、目の前にはターナが居る。

 幼い頃から、夢を語って、一緒に修行をし、見守ってきてくれたターナが居る。

 胸が熱くなる。

 燃えるように熱い。

 熱い……恐い……熱い…………それでも、恐い。


 そっとターナの肩を持って、距離を置く。


 「悪い……まだ…………今の俺じゃあ駄目なんだ」


 ブラッドは、逃げた。

 ターナの声を聞く前に、顔を見る前に、意思を感じる前に、その場から離れた。

 最後のチャンスだったのかもしれない。

 もう二度と立ち直るチャンスはこないかもしれない。

 掴めなかった。

 出された手を掴みに行く勇気がなかった。

 最低だと思われても仕方ない。

 胸の熱さが消えずに残る。

 ブラッドは再び闇の中へと消えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ