盗賊の真意
ターナとの話を終えて、宿へと戻ったルイス達。
ルイスの部屋……というより、それ程大きな宿でもないので、男部屋と女部屋で分かれており、ルイスとバレックが休む部屋に四人が集まっていた。
話題となったのが、ターナの話に出てきた『緑風の遣い』という義賊だった。
「ジェイルを殺した義賊の緑風の遣いは、元はシャンデルの義賊だったはずだ。それがなんでこのクロックベルンの地に居て、なんで他の村人を見逃して、ジェイルを殺したかだ」
ルイスは、シャンデルで緑風の遣いの噂を聞いているだけあって、俄に信じられずにいた。
それほどまでに、この義賊のやっていた事は村や街の人から支持されていたからだ。
「でも、強ち間違ってないかも知れない。私がロズネスで聞いた噂では、それくらいの時期に緑風の遣いの噂を聞き始めたから……良い噂も、悪い噂も、どっちも入ってきてたわ。ま、噂なんて勝手に主観が入って変わるから、鵜呑みに出来ないけどね」
つまり、緑風の遣いの拠点は、今はこの周辺にあり、その行為は昔とは随分と変わってしまっているようだ。
どんな事情かは知らないが、義賊だった緑風の遣いは、今やただの盗賊に成り下がっているという事だ。
「盗賊か……盗賊のぉ……」
「そういえば、バレックを殺……じゃない、バレックの知り合いの自警団を殺したのも、盗賊だったのよね?」
イリアは、バレックが殺された事を言いかけたが、レイチェルが居るので、踏みとどまった。
そして、確かにバレックの故郷であるマーセルの街の自警団でバレックの親友であるノークが、何者かに殺されたのだ。
それが、バレックを殺した盗賊と同じ可能性がある。
「そうじゃ。じゃが、場所が全然違うからのぉ。全てを繋げるのも、どうかとも思っておる」
「そうだな。可能性で言えば高くはないな。近くに居るのなら、叩いても良いけど……」
「何故、ジェイルを殺しておいて、他は手を出さんのじゃ? 気紛れなのか? 意味が分からん」
ジェイルのみを殺して、他の誰も手を出さない。
何かそれに意味があったのか?
本当に気紛れで殺したというのだろうか?
何か目的があったとすれば、それは一体なんだというのだろうか?
「何か裏はありそう……」
ぼそりとレイチェルは考えながら呟く。
殺された理由がある。
それがジェイルじゃなけれぱならなかったのだとしたら……?
「考えられるなら、ブラッドが狙いって事かしら?」
イリアは、レイチェルの言葉に反応して言った。
確かに、ジェイルを殺す理由があるとするなら、ブラッドだろう。
では、そのブラッドをどうしようと言うのだろうか?
その後、ブラッドは塞ぎ込んだ訳だが、それが狙いなのか?
何の為に?
結局は、意味が分からない。
「ブラッドを狙って、そいつに何の得があるんだ? 守護者を嫌っていたのか? それとも、その復活を恐れたのか?」
「どちらにしても、それならば、ブラッドをも殺しておくべきじゃろ。その後、ここへの攻撃や被害はないのじゃろ?」
「だよな……それとも、もうブラッドが守護者としての自信を無くしたから、狙うのを止めたのかも知れない」
それならば、何とか理由が通る気もする。
「うーん、なんか納得いかない。大体数百年前に誇りを失った守護者に何の恨みがあると言うの?」
「そうじゃのぉ……うーむ、分からんのぉ!」
真相に近付けそうで近付けない状況で、バレックも少し苛立ってきていた。
他のメンバーも唸るばかりで、何も思い浮かぶ事が無くなってしまったみたいだ。
「じゃあ、もう相手の本拠地見付けて、乗り込みましょ!」
シンプルが好きなイリアの結論は、当然シンプルなものだった。
分からないなら、直接問い詰めれば良い。
だが、その本拠地の場所までは分からない。
レイチェルの噂が正しければ、この辺りに住処があるのかも知れないが、心当たりはない。
「そうじゃな。まだ奴らの居場所を突き止める方が早いやも知れんの」
「あぁ、あんな話を聞かされたら、せめて仇討ちくらいしてやりたいな」
「うん、許せない。見付けたらボコボコ……」
多分、レイチェルならボコボコではなく、丸焦げである。
こうして、またルイス達はここに滞在する事を決めた。
どうやって殺したかは知らないが、ジェイルも相当な守護者であるのだから、盗賊の腕もかなりのものであると推測出来る。
それでも、こちらのパーティーは、それに劣るとは到底思えない。
むしろ、このパーティーに目をつけられたのだから、可愛そうと言う他ないだろう。
「では、決まりじゃのぉ! その盗賊を見つけだして、成敗するのじゃ!」
「腕が鳴るわぁ! やっと暴れられるのかしら?」
イリアは、この旅が始まってから、まだ全力を出せていない。
出会う相手が弱かったからだ。
ロズネスで出会った、レイチェルもカノンも異常な使い手ではあるか、対戦相手としての登場人物でなかったからだ。
「確かに旅が始まって、それほどのピンチってなかったからな」
出会う敵と呼ぶ敵は強くなかった。
ロズネスの村での魔獣の大群も、極論で言えば、ロズネスの街の被害を考えなければ、三人だけでも時間を掛ければ殲滅させる事は可能だったのだ。
純粋な強い相手は、今までに現れていない。
バレックを丸焦げにしたレイチェルくらいだろう。
「何? そんなにピンチになりたいの? 無理よ。私が居るもの」
規格外にして、史上最強と言っても過言ではないとも言える魔術師がパーティーに居るのだ。
どう足掻いても苦戦を強いられる事はないだろう。
それほどまでに強すぎるのだ。
「良い自信じゃない? レイチェルとも一回お手合わせ願いたいわね」
「いや。そういうの好きじゃないの」
「ぶー。残念。」
普通に断るレイチェル。
イリアも別段気にする様子はなかった。
闘う気がないなら、別に無理にまで土俵に引き摺り込むつもりはないようだ。
「それじゃあ、明日から行動開始ね!」
「あぁ。気合い入れて行こうぜ!」
ルイス達の盗賊退治がこうして決行した。




