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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
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二人の問題

 ━━ターナは話終えると、何かを考えるように(まぶた)を伏せる。

 誰も何も発しようとはしなかった。

 一同はただ、ターナの告げた過去を受け止めていた。


 イリアは自分は間違った事を言ったとは、思ってはいないが、それでも二人の……いや、三人の過去を聞いて、自分の無神経さを後悔する。

 素直故に、直情的故に、シンプル故に、いつも見た事を、思った事をそのままに言ってしまう。

 裏表がないと言う意味では、決して悪い事でもない。

 しかし、それで傷を(えぐ)られる人間は居るのだ。


 長い沈黙が続く中、壁に(もた)れていたバレックが、身体を起こして、組んでいた腕を解いて、神妙な面持ちでターナへと近付く。


 「お主…………ブラッドの事を好いておるな?」


 「はい?」


 ターナは突然の事で裏声になり、顔を真っ赤にする。


 「そこかよ!!」


 ルイスは普通にツッコミを入れてしまった。

 レイチェルもイリアも口をポカンと開けて呆れている。


 「なんじゃ? 違うのか? ワシは少なくとも、そう感じていたぞ?」


 「いや、アンタねぇ! そんな事言わなくても、見てたら分かる事じゃない!?」


 イリアは、自責の念等ぶっ飛んでしまい、バレックへ言う。


 「そ、そうだったんですか?」


 ターナは周りに知られている事を知り、更に恥ずかしそうに顔を手で覆う。


 「そうじゃたのか?! なら、話を聞く事等なかったではないか!?」


 「馬鹿なの? のろけ話を聞いてた訳じゃなかったわよ。本題はブラッドと言う男が、なんであぁなったのかで、その原因となる弟のジェイル君の事じゃない」


 レイチェルも我慢出来ずにツッコミを入れてしまう。

 ひょっとしたら、レイチェル初めてのツッコミかも知れない。


 「の、のろけ話のつもりは……」


 ターナはこれ以上ないくらいに恥ずかしそうにする。

 頭から湯気が見えそうなくらい真っ赤になっている。


 「いや、お主達は分かっておらんな! 肝心なのは、今を生きておる二人の問題じゃろうが! 先程の話では、弟が産まれる前でも、そのブラッドは、十分に守護者(ガーディアン)として、逸材の男であったのじゃろ? なら、二人の愛の問題じゃろ?」


 「そんな問題なのか? 守護者(ガーディアン)として、大切な人間を守れなかったんだぞ? そりゃ、自信も希望も無くなるだろ!」


 その言葉にバレックはターナを指をさす。


 「じゃから、ここにあやつの大切な人間が、まだおるじゃろうが? そして、ターナよ。お主は何故ブラッドを守ってやらん?」


 「おい、何を言ってるんだよ?」


 もうむちゃくちゃだった。

 大切な弟を無くしたのだから、自信を失い、もう同じ想いをしたくないから、ターナを遠ざけたのだろう。

 それにターナがブラッドを守るとはどういう事なのか、さっぱり理解出来ない。


 「私……がですか?」


 「そうじゃ! 最初に言ったであろう。ブラッドとお主は他の一族の者と気質が違うと。お主が今守っておるのはお主自身の想いじゃ! あやつの傷ついた心は誰が守っているというのだ? 今、守護者(ガーディアン)の誇りを守れるのは、お主だけじゃという事が、何故分からん」


 ブラッドとジェイルだけでなく、それをずっと見守ってきたターナも、守護者(ガーディアン)であるとバレックは言う。

 ブラッドは、倒れそうなのだ。

 己の人生を懸けて培った力も、育んできた愛情も、目の前にまであった夢も、全てを失ってしまったブラッドには、もう何の世界も見えていないのだ。

 それを守れるとしたら、守る資格があるとすれば、それは間違いなく、ずっと傍でブラッドを愛し、夢を応援し、見守ってきたターナだけなのである。


 「私なんかに……そんな、ブラッドを守るなんて事が……」


 「守りきる想いの強さが、お主らの誇りじゃろうが? 一人守れんかっただけじゃろう?」


 「それは、違うだろ! 実の弟だぞ? 大事に育ててきた、一緒に夢へと向かった弟なんだぞ?!」


 さすがにルイスもバレックの言葉には我慢が出来なくなった。


 「ワシは、ブラッドという男がそれだけで、折れてしまう弱い男じゃとは思わん。まだあの男は、立ち上がれる。お主はそう思わんか?」


 ターナは、だからこそ、ずっとブラッドの傍に居たのだ。

 きっと、昔みたいに、また強く(たくま)しく、全てを守る男として立ち上がれると、心の底では信じていた。

 自分に厳しく、どれだけ周りが反対しても、ジェイルと共に修行に明け暮れ、自分が傷ついても弟の成長を喜ぶ、直向(ひたむ)きなまでのその想いが折れてなんてない。

 ターナが信じるブラッドは、誰よりも強く、誰よりも格好良く、誰よりも愛に溢れた男だ。

 全てを棄てさせたくない。


 「私は……」


 ターナの頬に涙が伝う。

 声は震えているが、その言葉に力がこもる。


 「私はブラッドに……棄てて欲しくないです。私の想いも……ジェイル君の想いも……棄てさせない。私の知るあの人は……そんなに弱くないです……!」


 「分かっておるよ……そして、お主も強い心の持ち主じゃ。もっとあやつと向き合ってやれ」


 イリアの言っていたように、ブラッドだけが向き合っていなかった訳ではない。

 ターナも、今の変わってしまったブラッドを見て、ブラッドを信じきれず、現実を受け止めきれず、向き合う事が出来なかったのだ。

 これは、確かにブラッドが変わってしまっただけの問題ではなかった。

 バレックの言うように、二人の問題だった。


 「ありがとうございます……私…………彼を守ってあげます」


 儚く消えてなくなりそうな顔は、今明るく希望の光を見せて輝きを取り戻した。


 「うむ、それで()い! お主なら守れるぞ!」


 ターナはいつもブラッドの背中を見守っていた。

 そして、これからはブラッドの横で守っていくと決意した。


 もう四年前(むかし)とは違う、もう二年前(むかし)とも違う、もうさっき(むかし)までとは違う。


 ルイス達は、ターナの表情を見て、自然と顔が(ほころ)んだ。

 レイチェルだけは、何故か泣いていた。

 今まで、我慢してきた反動のせいか、涙(もろ)くなってしまったようだ。

 きっと、二人なら乗り越えられる。

 昔以上に誇り高い守護者(ガーディアン)になれる。

 見守ってきただけのターナが、守護者(ガーディアン)の誇りを守る。

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