二人の問題
━━ターナは話終えると、何かを考えるように瞼を伏せる。
誰も何も発しようとはしなかった。
一同はただ、ターナの告げた過去を受け止めていた。
イリアは自分は間違った事を言ったとは、思ってはいないが、それでも二人の……いや、三人の過去を聞いて、自分の無神経さを後悔する。
素直故に、直情的故に、シンプル故に、いつも見た事を、思った事をそのままに言ってしまう。
裏表がないと言う意味では、決して悪い事でもない。
しかし、それで傷を抉られる人間は居るのだ。
長い沈黙が続く中、壁に凭れていたバレックが、身体を起こして、組んでいた腕を解いて、神妙な面持ちでターナへと近付く。
「お主…………ブラッドの事を好いておるな?」
「はい?」
ターナは突然の事で裏声になり、顔を真っ赤にする。
「そこかよ!!」
ルイスは普通にツッコミを入れてしまった。
レイチェルもイリアも口をポカンと開けて呆れている。
「なんじゃ? 違うのか? ワシは少なくとも、そう感じていたぞ?」
「いや、アンタねぇ! そんな事言わなくても、見てたら分かる事じゃない!?」
イリアは、自責の念等ぶっ飛んでしまい、バレックへ言う。
「そ、そうだったんですか?」
ターナは周りに知られている事を知り、更に恥ずかしそうに顔を手で覆う。
「そうじゃたのか?! なら、話を聞く事等なかったではないか!?」
「馬鹿なの? のろけ話を聞いてた訳じゃなかったわよ。本題はブラッドと言う男が、なんであぁなったのかで、その原因となる弟のジェイル君の事じゃない」
レイチェルも我慢出来ずにツッコミを入れてしまう。
ひょっとしたら、レイチェル初めてのツッコミかも知れない。
「の、のろけ話のつもりは……」
ターナはこれ以上ないくらいに恥ずかしそうにする。
頭から湯気が見えそうなくらい真っ赤になっている。
「いや、お主達は分かっておらんな! 肝心なのは、今を生きておる二人の問題じゃろうが! 先程の話では、弟が産まれる前でも、そのブラッドは、十分に守護者として、逸材の男であったのじゃろ? なら、二人の愛の問題じゃろ?」
「そんな問題なのか? 守護者として、大切な人間を守れなかったんだぞ? そりゃ、自信も希望も無くなるだろ!」
その言葉にバレックはターナを指をさす。
「じゃから、ここにあやつの大切な人間が、まだおるじゃろうが? そして、ターナよ。お主は何故ブラッドを守ってやらん?」
「おい、何を言ってるんだよ?」
もうむちゃくちゃだった。
大切な弟を無くしたのだから、自信を失い、もう同じ想いをしたくないから、ターナを遠ざけたのだろう。
それにターナがブラッドを守るとはどういう事なのか、さっぱり理解出来ない。
「私……がですか?」
「そうじゃ! 最初に言ったであろう。ブラッドとお主は他の一族の者と気質が違うと。お主が今守っておるのはお主自身の想いじゃ! あやつの傷ついた心は誰が守っているというのだ? 今、守護者の誇りを守れるのは、お主だけじゃという事が、何故分からん」
ブラッドとジェイルだけでなく、それをずっと見守ってきたターナも、守護者であるとバレックは言う。
ブラッドは、倒れそうなのだ。
己の人生を懸けて培った力も、育んできた愛情も、目の前にまであった夢も、全てを失ってしまったブラッドには、もう何の世界も見えていないのだ。
それを守れるとしたら、守る資格があるとすれば、それは間違いなく、ずっと傍でブラッドを愛し、夢を応援し、見守ってきたターナだけなのである。
「私なんかに……そんな、ブラッドを守るなんて事が……」
「守りきる想いの強さが、お主らの誇りじゃろうが? 一人守れんかっただけじゃろう?」
「それは、違うだろ! 実の弟だぞ? 大事に育ててきた、一緒に夢へと向かった弟なんだぞ?!」
さすがにルイスもバレックの言葉には我慢が出来なくなった。
「ワシは、ブラッドという男がそれだけで、折れてしまう弱い男じゃとは思わん。まだあの男は、立ち上がれる。お主はそう思わんか?」
ターナは、だからこそ、ずっとブラッドの傍に居たのだ。
きっと、昔みたいに、また強く逞しく、全てを守る男として立ち上がれると、心の底では信じていた。
自分に厳しく、どれだけ周りが反対しても、ジェイルと共に修行に明け暮れ、自分が傷ついても弟の成長を喜ぶ、直向きなまでのその想いが折れてなんてない。
ターナが信じるブラッドは、誰よりも強く、誰よりも格好良く、誰よりも愛に溢れた男だ。
全てを棄てさせたくない。
「私は……」
ターナの頬に涙が伝う。
声は震えているが、その言葉に力がこもる。
「私はブラッドに……棄てて欲しくないです。私の想いも……ジェイル君の想いも……棄てさせない。私の知るあの人は……そんなに弱くないです……!」
「分かっておるよ……そして、お主も強い心の持ち主じゃ。もっとあやつと向き合ってやれ」
イリアの言っていたように、ブラッドだけが向き合っていなかった訳ではない。
ターナも、今の変わってしまったブラッドを見て、ブラッドを信じきれず、現実を受け止めきれず、向き合う事が出来なかったのだ。
これは、確かにブラッドが変わってしまっただけの問題ではなかった。
バレックの言うように、二人の問題だった。
「ありがとうございます……私…………彼を守ってあげます」
儚く消えてなくなりそうな顔は、今明るく希望の光を見せて輝きを取り戻した。
「うむ、それで良い! お主なら守れるぞ!」
ターナはいつもブラッドの背中を見守っていた。
そして、これからはブラッドの横で守っていくと決意した。
もう四年前とは違う、もう二年前とも違う、もうさっきまでとは違う。
ルイス達は、ターナの表情を見て、自然と顔が綻んだ。
レイチェルだけは、何故か泣いていた。
今まで、我慢してきた反動のせいか、涙脆くなってしまったようだ。
きっと、二人なら乗り越えられる。
昔以上に誇り高い守護者になれる。
見守ってきただけのターナが、守護者の誇りを守る。




