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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
53/63

誇りを棄てた日

 ━━四年前のアダインの村。

 才能溢れる天才守護者(ガーディアン)の兄弟が居た。

 元々、兄ブラッドには、才能も素質もあった。

 幼い頃から、立派な守護者(ガーディアン)を目指し、廃れてしまった誇りを取り戻そうとしていた。


 ブラッドは、別に弟のジェイルにまで、その想いを強要させるつもりはなかったのだが、ジェイルはブラッドの背中を見て育ち、ブラッドへの憧れを抱き、自らその道を目指した。


 毎日、ブラッドとの修行に励んむ。

 当時、ブラッドは十九歳、十一歳の事だった。


 「ジェイル! そんな事で()を上げるなら、俺みたいにはなれないぞ!」


 「は、はい……!」


 膝をついて、息切れをするジェイルに容赦なくブラッドは言う。

 最初は、ブラッドが一人で頑張っているのを見た周囲は、応援し、期待していたのだが、ジェイルが兄を目指すように一緒に修行をするようになってからは、周りは一斉に引いてしまった。

 ブラッドのやり方は厳しすぎる……特に近年の守護者(ガーディアン)の一族は温厚にして、穏やかになっていた為、激しいやり取りに慣れていない。


 ブラッドは、棍棒を持っており、ジェイルの作りだす防御壁を(ことごと)く破壊し、その勢いのまま、ジェイルも攻撃する。


 「良いか? 俺達一族は死んじゃならないんだ! 例え防御壁が破られても、自分が盾となっても、死なないタフさも必要だ! 防御壁に頼っていると、一度壊されてしまえば、守護者(ガーディアン)として脆くなってしまう。それじゃあ、守護者(ガーディアン)の名に相応しく無い。俺達の強さは、何があっても攻撃を受けきる心の強さだ! その為にも防御壁ばかりに頼るな!」


 もう既にジェイルの身体はボロボロで立ち上がるのが、やっとだった。

 ブラッドが鍛えているのは、ジェイルの内面である。

 肉体的なタフさも確かに必要であるが、どれ程絶望的な状況でも、折れない心、守りきる意志を失わない事が、守護者(ガーディアン)として何より大事なのだ。

 防御壁にばかり頼りきりにならない心が、肉体でも受け止められるという自信が、最終的に防御壁の強固さへと繋がっていく。


 だから、こんな修行を毎日やっているのだが、周りはそれを良くは思えなかった。

 唯一、ターナだけは、ブラッドとジェイルを応援していた。

 ボロボロになったジェイルを、いつも手当てしてあげて、ブラッドへも寄り添ってあげている。


 ブラッドは、勿論、弟が憎くてやっている訳ではなく、弟の、ジェイルの望む想いを受け止めて、やっている。

 だから、辛かった……殴る事が、ボロボロになる弟の姿が、立ち上がる弟に優しい言葉を掛けられない厳しさが、辛いのだ。

 甘さが、精神の緩さが守護者(ガーディアン)にとって致命傷である以上、厳しさでしか、弟に接する事が出来ない。


 そんなブラッドの想いもターナは理解していた。

 ずっと傍でブラッドの夢を応援していたから、ずっと傍でブラッドと言う男を見ていたから、ずっと傍でブラッドの心を感じていたから、ずっと傍でブラッドの愛を受け取っていたから、どんな事があってもブラッドを見放したりしないと、強く心に決めていた。

 ジェイルが守護者(ガーディアン)として、修行をする前は、ブラッドと一緒に修行をターナもしていたが、ターナはブラッドを近くで応援したくて、修行をしていたので、それほど厳しく当たられる事もなく、ブラッド自身は、ターナが居ない時には厳しく自分を戒めて修行に取り組んでいた事も知っている。


 だから、ターナはジェイルにブラッドが取られてしまった事が、少しだけ寂しくさえあった。

 自分もあれくらい守護者(ガーディアン)としてがむしゃらに目指せれば、とも思ったけど、踏み出す勇気がなかった。

 せめて二人の傍で、二人の夢を応援する事がターナに出来る精一杯の愛情だった。


 ジェイルは、もう一度魔力を練って防御壁を作り出す。

 疲労もあって、もはや壁とは言い難いレベルの物しか作れない。

 それを容赦なく壁を壊して、ジェイルを打つ。


 「なんだ今のは? もう終わりか?」


 「まだ……まだやれる!」


 背中を地に着けた状態で、振り絞った声で返す。

 言葉とは裏腹になかなか身体は起き上がる事をしない。

 ブラッドは黙って起き上がるのを待つ。

 何度も、何度も、何度も繰り返される。

 そして、ジェイルの限界を迎えた時だった……


 「うわぁぁぁぁあああ!」


 ジェイルが魔力を振り絞るように唸る。

 ブラッドは、いつも通りに防御壁を割る。

 防御壁は、ガラスの様にバラバラの破片となり、消えていく……はずが、破片は浮かんだまま消えなかった。

 不審に思い、咄嗟に下がるブラッド。


 「はぁぁぁぁああ!!!!!」


 ジェイルの咆哮と共に破片はあちこちに飛び散る。

 ターナの方へと向かう破片に気付き、ブラッドは左手を伸ばして、ターナへと防御壁を張り、自分に飛んできた破片は右腕で防いだ。

 しかし、ブラッドに飛んできた破片は腕だけでは防ぎきれずに、左目の辺りを(かす)める。


 ジェイルは、そのまま気絶して倒れた。

 ブラッドも、左目を押さえて膝を着く。

 手の隙間から、血が漏れ落ちてくるのを見て、ターナはブラッドへと走り寄る。


 「ブラッド、大丈夫?! ごめんなさい! 突然だっから、驚いちゃって、防御壁張れなかった……」


 「良いんだ……それより、ターナ! 今の見たか!? ジェイルは、俺どころか、守護者(ガーディアン)そのものを越える存在かも知れないぞ!!」


 普通は防御壁の破片は壊れた瞬間に消えて無くなる。

 守護者(ガーディアン)は、特性上、攻撃手段は肉弾戦のみだが、守る力を最大限に活かす為に、戦闘で攻撃をする事等皆無だ。

 それなのに、ジェイルは無意識とはいえ、割れた破片を維持し、更に飛ばしてきた。


 ブラッドは衝撃を受けた。

 防御壁は壊されたら消える訳じゃなく、壊れた事によって、壊された=もう使えない、という精神が破片を消しているのである。

 それなら、守護者(ガーディアン)は、精神を保てば、色んな可能性が広がるのではないかと、ブラッドほ考えた。


 「ジェイルには、この事を言わないでくれ」


 「え? 良いの? 凄い事じゃない」


 攻撃出来る守護者(ガーディアン)なんて、歴史的にも初めての事だ。

 守護者(ガーディアン)の誇りを取り戻す以上の快挙である。

 それをジェイルに教えてやれば、もっとジェイルも高みを目指せるに違いないはずなのに、ターナには分からなかった。


 「ジェイルは、まずは守りを徹底させたいんだ。幾ら攻撃が出来ても、自分を守れないなら、それは守護者(ガーディアン)じゃない。こんな凄い事が出来る奴なんだ。俺なんかじゃ到底及ばない男になるぞ! はは! ターナ、ジェイルは大した男だ。いつまでも俺なんかに憧れてちゃ駄目になる」


 「そんな事ないと思うわ。ブラッドが目標だからこそ、ジェイル君だって、こんなに頑張ってこれたのよ? 貴方は間違いなく守護者(ガーディアン)の誇りそのものよ。貴方にだって、ジェイル君に無いくらいの情熱があるもの」


 「そうかな……。まぁ、でも、ジェイルにはこの事は、暫く黙っていてくれ。俺が認められるくらい、自分を守る事が出来れば教えるから」


 「分かったわ」


 攻撃の出来る守護者(ガーディアン)は確かに凄い事だろうが、守る力が弱ければ本末転倒になる。

 攻撃は、魔術師にも出来るのであるなら、それほど固執してしまうと、本来の守護者(ガーディアン)の姿が無くなってしまうという、ブラッドなりの危惧だった。


 「ふふ、だけど、貴方のそんなイキイキした顔久しぶりに見たかも」 


 「そうか?」


 ブラッドには、ターナの言う事が好く分からないみたいで、嬉しそうに言ってくるターナを見て、少し恥ずかしそうに照れる。


 「そうよ。だって、ジェイル君を一人前にさせるのに必死で、辛そうだったもん」


 「……そうかもな。アイツは俺に遠慮して、自分を抑えてるみたいだから、あんまり優しくし過ぎると、余計アイツを潰してしまいそうで、怖いんだ」


 ブラッドはジェイルに才能があるからこそ、その才能の足を引っ張るような事をしたくなかった。

 ただ精神を鍛える為だけでなく、その想いからもジェイルへと厳しく当たっているのだった。


 「分かってる……でも、ジェイル君もそんなブラッドの気持ち分かってると思うわよ?」


 「え?」


 「だって、ジェイル君、一度も貴方の悪口とか言わないし、逆にいっつもブラッドは凄いって、目をキラキラと輝かせて言ってくるもの」


 ジェイルは、ブラッドの気持ちを受け止めていた。

 だからこそ、毎日のキツく厳しい修行でさえ、弱音を吐く事なく頑張り続けている。


 「……そうだったか。アイツの事をちゃんと分かってないのは、俺の方かもな」


 「ううん。それでも、貴方が誰よりもジェイル君の事想ってるじゃない。……ちょっと嫉妬」


 ターナは最後小さな声で、吐露する。


 「? なんて言った?」


 「ふふ、何でもないですよぉ。それより、早くジェイル君運んであげて、ブラッドの目も治療しないと。幸い目の下の方で良かったけど……」


 「あぁ、そうだな」


 怪我をしても、傷付いても、辛くても、夢の為に、守護者(ガーディアン)の誇りを取り戻す為に頑張れた。

 それは一人ではなく、ターナと一緒だったからこそ、誰の目も構う事なく、ブラッドを突き進ませたのだろう。

 ブラッドとジェイルとターナの三人なら、新たな守護者(ガーディアン)としての一族の生き方を導き出せる、そんな可能性を秘めていた。

 着実にブラッドも、ジェイルも腕を上げて、立派な守護者(ガーディアン)として育っていった。


 ━━その二年後の事だった。


 ジェイルも十三歳と育ち盛りで、大きくなっており、顔立ちもブラッドに似てきたのか、垢抜けてきて勇敢なものになっていた。

 今日は、ブラッドとターナはノーウェンの街に薬や包帯等の買い出しに行っていた。

 守護者(ガーディアン)とはいえ、私生活で傷を負う事もあるし、一族の人間の(ほとん)どが防御壁なんかを使っていないので、狩り等でも傷を負う事がある。

 その為の塗り薬と包帯が少なくなっていたのだ。


 普段は、ブラッドと一緒に街へと行っていたのだが、今日はブラッドから留守番を任された。

 それが妙にジェイルには嬉しかった。

 ブラッドは厳しく、全然一人前と認めてくれない。

 そんなブラッドが「今日は留守は任せた。お前が村を守れよ」と言ってくれたのだから、少しくらいは自分が認められるくらいにはなったのだと、何でもないような事だが、(くすぐ)ったい感じになった。


 勿論、平和な村だから、何を守る訳でもない。

 ただの留守番である。

 だからこそ、任された以上は完璧にこなしてやる、と意気込んで、普段誰もやらない見廻りなんかをしてしまっている。


 集落程の大きさの村なので、何周も何周もぐるぐると檻の中の動物のように廻っている。


 「ジェイルは、気合い入ってるなぁ。そんなに見張りが楽しいのか?」


 村の男がジェイルの見張りっぷりに面白がって、声を掛けた。


 「そりゃあ、兄さんに頼まれたんだから、ヘマだけは出来ませんからね!」


 退屈とも言える仕事をしながら、楽しそうに答えた。

 きっとブラッドが任せたら、どんな仕事でも嬉しそうにこなすのだろう。

 そう思える程に目を輝かせている。


 昼を過ぎた頃、村人が一人、狩りから戻ってきたきたみたいだが、様子がおかしかった。

 何やら酷く慌てており、珍しく走ってジェイルの所へと向かっていた。


 「ルドンさん、どうしたんですか? そんなに慌てて……」


 「と、盗賊だ!! シナイ山に盗賊が出たんだ! バルトラとフェンドがまだ山の中に居るんだよ! 知らせてやりたかったんだが、見付かりそうで怖くて……」


 「分かりました! 俺が行きます!! ルドンさんは、兄さんに知らせてください!」


 「あ、あぁ、分かった。けど、大丈夫なのか?」


 「伊達に兄さんに鍛えられてませんよ。だけど、実践はやった事ないんで、無理はしないつもりです。もし、二人を先に見つけられたら、すぐに帰ってきます!」


 「おぉ、それなら、任せたよ」


 「はい!」


 そして、ジェイルはシナイ山へと走っていった。

 ジェイルは、留守を任され浮かれてる訳でも、ブラッドに認められる為に手柄を挙げようとか、そういう感情ではなかった。

 ブラッドが叩き込んでくれた、守護者(ガーディアン)としての誇りで動いている。

 守りたい。

 村人を害悪から守りたい。

 それだけだ。

 ブラッドは、とっくに自分の力を認めてくれている事を知っている。

 ブラッドの厳しさは、優しさだ。

 ブラッドの優しさは、愛だ。

 その想いを受け止めているからこそ、あれほどキツい修行にも耐えてこれたんだ。

 だから、誤った感情で動いたりしない。

 守護者(ガーディアン)として、最善を尽くすのみ。


 シナイ山へと到着すると、警戒しながら、まずは道なりに進む。

 山は広いが、狩りで行くルートや範囲は把握しているので、そこからしらみ潰しに探していこうと考える。

 流石に今日に限って別ルートで狩りをしているとなると、時間が掛かるかも知れないが、それは心配のし過ぎだろう。


 盗賊とどこで遭遇するかも分からない、しかも視界も悪く、音を立てずに移動も難しい。

 こっちが知らずに近付いてしまい、先に気付かれる可能性も十分にある。

 全体を警戒しつつ、身を屈めながら、木から木へと迅速に移動していく。

 居ない。

 居ない。

 出来ればすぐに見付けたかったが、そう上手くはいかないものだ。


 「たすけてくれぇぇぇー!!!」


 「くそっ! 最悪だっ!?」


 こうなってしまっては、コソコソ移動する必要は無くなった。

 声は遠くなかった。

 近くにいるはずだ。

 木々を避けながら、全速力で向かう。

 ブラッドが教えた通り、防御壁だけが守護者(ガーディアン)ではない。

 タフさ、走るスピード、身のこなし、どれを取っても同年代の見習い騎士に匹敵する身体能力をジェイルは備えていた。


 そして、バルトラとフェンドを見付けた。

 二人は尻餅をついて、倒れている。

 その目の前には、数人の盗賊が居た。

 一人は大柄の男で手斧を二本所持している。

 他の連中は、ナイフや棍棒等、様々だ。


 「大丈夫ですか?」


 ジェイルは、そう言って、盗賊達の前に立ちはだかる。


 「おいおい、ガキよぉ。そう睨むなよ。俺ぁまだ何もしてないぜ?」


 盗賊頭の男はおどけたようなポーズを取る。


 「バルトラさん、フェンドさん、逃げてください」


 「だ、だけど……」


 「大丈夫です。僕一人なら守れます」


 「わ、分かった」


 バルトラとフェンドは、腰を抜かしていたのか、立ち上がるのにまごつく。

 それを盗賊達は、何もせずにただ見ているだけだった。

 ようやく立ち上がって、逃げようとする二人に、


 「おい! 会ったのが、俺達緑風(ジン)の遣いで良かったな? 普通の盗賊なら、命なかったぞ?」


 二人は、その言葉を聞いて、怯えるような悲鳴を上げて逃げていった。

 緑風(ジン)の遣いは、ここら辺を拠点としている義賊で腕も立つと有名で、ジェイルも知っていた。

 ただの盗賊にしか見えないが、義賊も盗賊であることに変わりない。

 盗賊だろうと、義賊だろうと、警戒は緩めない。


 「悪いな。小僧! 別に俺は、お前達を取って食おうとか思ってねぇんだ。この見た目だから、誤解されるんだよなぁ」


 確かに見た目だけで判断するなら、信用は出来ないが、本当に危害を加えるつもりなら、あの二人が居た方が、緑風(ジン)の遣いからしても、殺りやすいとも言える。

 本当に殺すつもりはないようだ。

 敵意も感じられない。


 「あ、そうだ、そうだ」


 そう言って盗賊頭の男は、手斧二本を地面へ置いて、何やら腰につけている袋をゴソゴソとしている。

 そして、ペンダントを取り出した。


 「これ、さっきの奴のじゃねぇか? 近くで落ちてたんだよ。良いモンだから、貰おうかとも思ってたんだが、ひょっとしてって思ってな。アイツら俺見ただけで、腰抜かしやがったから、聞きそびれてな」


 よく見るとそれはバルトラの着けているペンダントだった。

 それでも、一応警戒しながら、受けとる。


 「ありがとうございます。 ……なんか、疑ってしまって、すみません」


 「いや、良いって事よ! まぁ、見た目が見た目だからな。やってる事だって、義賊と言われた所で、盗賊よ。警戒されて当然だ。気にすんな」


 そう言って肩を強くバンバンと叩いてくる。

 ジェイルは、少し痛そうな顔をしながらも、この盗賊が何もする気が無いのだと安心した。

 

 「それでは、失礼します。ありがとうございました」


 それでも、まだ見た目の怖さはあるので、気を許すまではいかなかったので、よそよそしかった。


 「あ、もう一つ忘れてたぜ!」


 去ろうとするジェイルの背中に声を掛け、ジェイルは振り返った。

 その瞬間、風を切るような音と共にジェイルの腹は捌かれた。

 武器は置いていたはずだ。

 なのに、盗賊頭の手にはダガーが握られていた。

 後ろに忍ばせていたのだろうか。


 「てめぇの命は奪っておかねぇとな!」


 完全に油断させられた。

 だが、ジェイルには疑う要素がなかった。

 二人の村人を見逃がしておいて、何故ジェイルだけを狙ったのか。

 なんで、そんな回りくどい事をしてまで、殺す必要があったのか。

 ジェイルには、検討もつかなかった。

 いや、それより、ジェイルが頭に過る事は……


 (ごめん……兄さん。兄さんの期待に応えられなかった。やっぱり兄さんみたいな素質はなかった。兄さん……俺、兄さんみたいな男になりたかった…………)


 「がはは! てめぇもツイてなかったな? 俺はアイツを許せねぇんだ。その為なら、何年掛けても蹴落としてやるんだよ」


 盗賊頭の男は、ジェイルに吐き捨てるように言って、何もなかったかのように、ダガーを納めて、置いていた手斧を持って、その場を立ち去った。


 ━━そして、ノーウェンの街から戻ってきたブラッドは、村人の話を聞いて、すぐさまにジェイルの元へと言った。

 バルトラ、フェンドの話を聞いて大体の場所は把握しているので、辺りは少し暗くなっていたが、構うことなく走っていった。


 ジェイルは……血を流して倒れていた。

 ブラッドはジェイルの傍へ行く。

 身体は既に冷えきっている。


 「おい……ジェイル…………ジェイル!! ジェイル!!! なに寝てんだ! 起きろ! 起きろよ!!!!! おき………ろよ……」


 腕中には、ジェイルが力なく、ぐったりと眠っていた。


 息がない。

 腹から血を流している。

 鼓動もない。

 もう開く事のない瞳。

 もう……ブラッドに憧れて輝いていた目は開かない。


 「俺は……なんのために…………何が天才だよ! ……弟一人護れねぇ…………。何が……うぅ…………」


 ノーウェンの街へ行っている間に、留守を任せている間に、いつもの日常を過ごしていた間に、ジェイルの命が、才能が、未来が、愛が、全てが失われてしまった。


 『今日は留守は任せた。お前が村を守れよ』


 「俺があんな事を言ったから……いや、俺がジェイルを守護者(ガーディアン)として鍛えてなかったら……」


 ブラッドは、ジェイルに自分の全てを注いできた。

 それがこの結果を招いた。

 全てが悪かった。

 ブラッドが守護者(ガーディアン)として、誇りを取り戻そうなんて夢を見たことさえも。

 何も守れない守護者(ガーディアン)

 弟を守れない守護者(ガーディアン)

 誇りを守れない守護者(ガーディアン)

 夢を守れない守護者(ガーディアン)

 憧れを守れない守護者(ガーディアン)

 天才と言われて、この始末。


 「俺のせいだ……全部、全部、全部、全部! 俺が悪いんだ!!!!! オレハイママデナニヲヤッテタンダヨォォォォォォォォ!!!!!!」


 森の中をブラッドの声がこだまする。


 この日から、ブラッドは守護者(ガーディアン)の誇りを棄てた。

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