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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
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誇りを懸ける一族

 ルイス達は、村長の家を出て、アダインの村を見て回る。

 宿は近いが、そんなに旅人も訪れないので、宿として機能していないらしく、準備が必要との事だ。


 その宿はどうやって生計を立てているのかとも思ったが、それも自給自足をしているのだろう。

 宿は、その希に訪れる客人用にたまに掃除する程度の管理らしい。


 「本当にここ守護者(ガーディアン)の村なの? 一人もそんなトレーニングらしい事してないじゃん」


 イリアはご機嫌斜めだ。

 もう守護者(ガーディアン)の一族の生きざまのようなものは理解はしているが、その技術そのものは磨いておかないと、それすらも廃れてしまい、何の力も持たない、ただの田舎になってしまう。

 力がありながら、才能がありながら、それを無駄にしているのが、どうしても許されないのだろう。

 イリアと守護者(ガーディアン)は相性が悪いみたいだ。


 「平和とはそう言うもんじゃろ? 力を持ちたがるから、争いは起こるもんじゃ」


 「それは違うわ。純粋な闘争は必要よ。拳を交えて出来る絆もあるし、喧嘩しないと分からない痛みもあるもん。力を持つ事が悪くない。力をどう使うかが問題なの」


 結局は本当の痛みを知らない上の人間が、欲望と名誉の為に争いを起こすという、イリアなりの持論のようだ。

 互いの痛みを知ってこそ、互いを思い遣る事が出来る。


 「ふむ、なるほどのぉ。確かにその通りじゃな。ならば、差し詰ここの連中は、思考の停止をしておるんじゃろうな」


 思考の停止。

 別に何も考えていない、という単純な事ではない。

 一族の存続の為に平和を守り、争う世の中と切り離し、無関係を装って、自分達の安全を確保する為なら、生まれ持った一族の力すら、不必要と切り捨てる。

 争いを考えない、相手の痛みを考えない、進化や成長を考えない、壁に立ち向かう苦しみを考えない、生き延びる事しか考えない。

 悪い事だとは思わない。

 誰かの為に命を懸ける美学もあるだろうが、そんなお涙頂戴より、皆で仲良く生きていこうと、命を大事にしてるんだから、何も悪くない。

 むしろ、全員がそうやって生きれば、世界平和でめでたしめでたしだ。


 だけど、それが出来ないのが人間なのである。

 もし、この守護者(ガーディアン)の一族が、ここの村に引きこもらずに、争いから誰かを守る仕事をしていれば……盗賊等外敵から守る職業に就いていれば、それで救えた命も多くあったはず。

 何しろ、守るだけで攻撃力が皆無なら、相手も何も出来ずに退散するしかないのだから、相手すらも殺さないんだ。

 力がありながら、その力を使う使命を放棄している一族に対してイリアは怒っているのだ。


 「力の使い方か……」


 レイチェルは呟く。

 強くなりすぎた自分を考えて。

 力を持ちすぎた自分を考えて。

 力を暴走させた自分を考えて。

 過ちを犯した自分を考えて。

 あの時、自分はどうして抑えられなかったのか、自分の力なら、振り払って逃げる事くらい出来たはずである。

 村を壊滅させる必要はなかったはずである。


 バレックは、レイチェルの頭にポンと手を置く。


 「過去があるから、こうしてワシらは出会えたんじゃ。余り過去の事を深く考えんでも()い」


 「そうそう! アタシはこれでも、レイチェルの事、尊敬してるのよ? あれだけ周りから疎外されたら、アタシなら全員殺してるわよ!」


 物騒な話だ。

 先程まで、力の使い方がどうだのこうだの言っていた人物の言う事とは思えない。


 「うん。ありがとう」


 レイチェルは温もりを感じる。

 求めていた温もりを……今度はこの温もりを消さない為に、その力を使おう、そう心に決める。


 「もう俺に構うなって言ってるだろう!! 邪魔なんだよ! どっか行ってくれ!」


 近くから、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。

 これ程温厚そうに見える一族も声を荒げる事があるのか、と驚きつつも声のする方向を見てみる。

 そこには先程村長の家でお茶を持ってきてくれたターナと、藍色の髪の青年が居た。

 藍色の髪は、短めでツーブロックに刈り上げられており、バレックと同じくらいの身体の大きさで頼もしさを感じる。

 左目の少し下の部分にナイフで深く切ったような跡をつけている

 そんな男が木に(もた)れて寝ている状態で、ターナを怒鳴っていたのだ。


 「なんだ? さっきのターナさんじゃないか?」


 「痴話喧嘩ってヤツじゃない?」


 藍色の髪の男は、ターナからそっぽを向いて寝る。

 もう話をするつもりはないって事だろう。

 それでも、ターナは何も言わずにその場に立ち尽くしていた。

 幸薄そうに見えたのは、こういう所からきているのだろうか。


 本来なら、痴話喧嘩に関係の無い人間が割って入らないのだろうが、イリアのイライラはピークにきていたせいか、ずかずかと腕を振りながら近付いていった。


 「おい! イリア!」


 「一言、言ってくる!」


 「かはは! 面白そうじゃのぉ!」


 笑い事ではない。

 事情も知らないのに、わざわざ問題を起こしに行く事はないだろう。

 まして、男女の問題かも知れないのに、身内でもない通りすがりが介入出来るもんじゃない。


 「ちょっとアンタ! 彼女が心配してるのに、その態度はないんじゃない? 男なら、ちゃんと向き合いなさいよ!」


 その言葉に藍色の髪の男だけでなく、ターナも目を大きくして驚いた。


 「なんなんだよ、お前は? 関係無い奴が口出すな!」


 「なんですってぇ? そんな偉そうな事言うなら、彼女の話くらいちゃんと聞いてあげなさいよ!」


 「あ、あの、良いんです。私の事は……」


 「良くありません! ターナさんも、そんな気弱な態度だから、こんな奴に()められるのよ? もっと強く気持ちを持たないと!」


 端から見ていると、藍色の髪の男とイリアの喧嘩をターナが止めているような構図に見えてしまい、その止めに入ったターナもイリアに怒られてしまっている。

 イリアはこの一族の気性がどうにも受け入れられないんだろう。

 思った事を素直に言う(たち)のイリアは、今日溜めた分を全て吐き出す。


 「ちっ。やるなら、相手になってやろうか?」


 「へぇ、面白いじゃない」


 藍色の髪の男は、面倒くさそうに立ち上がり、それを見たターナは、慌てて間に入る。

 さすがに傍観していたルイスもイリアに暴れられたら、あの男が立ち直れなくなると思ったのか、ターナと一緒に止める。


 「ブラッド止めて! この人だって、別に悪気は無いのよ」


 「イリアも止めろよ! これは二人の問題なんだから、余り首突っ込み過ぎるなよ!」


 まさか、これほど穏やかな人々ばかりの所で騒動が起きるとは、予想もしてなかっ。

 このブラッドと呼ばれた男も、守護者(ガーディアン)の一族としては、かなり変わり者らしい。

 イリアもセリナの村のような普通の村の中では、やたら好戦的で異色と言えば異色であり、そんな変わり者同士だからこそ、波長が合うからなのか、合わないからなのか、すぐに喧嘩へと発展してしまう。


 「アンタが不貞腐れてる理由なんて知らないけど、ターナさんの気持ちくらい考えてあげなさいよ! アンタは守護者(ガーディアン)の一族であるまえに男でしょ!」


 「イリアさん……」


 「何も知らない奴がつべこべと割って入ってくんじゃねぇって、言ってんだよ! んじゃ、お前は俺の気持ちなんてっ……ちっ、さっさと村から出ていけよ!」


 ブラッドは何かを言い掛けたが、寸前の所で止めてしまい、最後の言葉を吐き捨てると、どこかへ行ってしまう。


 「なによ! 文句あるなら、いつだって、相手になってやるわよ!」


 去っていく背中に更に浴びせるように言う。

 イリアの怒りは、まだ収まってない。


 「かはは! (いか)っておるのぉ。お主は喧嘩したいだけじゃないのか?」


 「違うわよ! ここの連中、全員ムカつくのよ! 力があるのに、救える力があるのに、自分達の事ばっかりで、他の世界なんて、全然無関係決め込んじゃってさ」


 「ごめんなさい……」


 「あ、いや、その……ターナさんに言ったんじゃ……ごめんなさい」


 ターナに言ったので無くても、一族と言ってしまえば、自然とターナも含まれる事を考えて、言い訳は止めて素直に謝るイリア。

 イリアの怒りの根本的な原因は、力があるとか、使わないとか、そういう所ではない。

 力があっても、才能があっても、女だから認められないという事に絶望と葛藤をしていたイリアにとって、力があり、才能があり、世間から必要とされない状態で、へらへらと気にせずに笑っていられる精神が許せないのだ。


 「気持ちは分からんではないが、イリアよ。先程の男は、お主が思う程悪い男には思えんぞ?」


 「なんでよ?」


 「このターナという娘が気に掛けておる。それが全てじゃ」


 ターナは、嫁入り前だ。

 村長も心配しているくらいに頑なに縁談を断る意思を持っている女性が、ブラッドという男を心配している。

 何かある。

 事情がある。

 突き放されても、罵倒されても、傍に居ようとする。

 理解出来ないのは、理由を知らないから、経緯(けいい)を知らないから、過去を知らないから、想いを知らないから……。


 「のぉ、娘よ。お主とあのブラッドと言う男は、何やら他の一族の連中と気質が違うように見受ける。あの男は……そうさのぉ、昔の守護者(ガーディアン)に似ておる」


 ターナはバレックの言葉に目を丸めて固まる。

 バレックは確か守護者(ガーディアン)に会うのは初めてと言っていた気がするが、それは魔王だと隠す為に言っただけなのだろうか?

 それでも、今こうして、その昔の守護者(ガーディアン)の事を喋るのは、どうかと思う。


 「まぁ、ワシも聞いた話なのじゃがな。守護者(ガーディアン)と言う一族は、その身を盾として全てを守る事を使命とし、そして皆を守る為に己自身が死なぬ事を宿命とした一族で、もっとも情に厚い一族であったと聞き及んでおる。じゃから、あの男、何があったか知らんが、元は芯の熱い男のように思えるんじゃ」


 人の命を守る為の盾となり、人の命を守る為に自分すら守る鉄壁の完全防御……命を懸けるのではなく、誇りを懸けて命を守る一族。

 今の村の人達からは想像出来ない程、重く困難な宿命を背負っている一族。

 生かす事を、生き抜く事を美学とする一族。

 ターナは儚そうな顔を、より儚く切なそうにして、ゆっくりと口を開く。


 「今の言葉……昔のブラッドが聞いたら、喜ぶと思います」


 「昔は今みたいじゃなかったんですか?」


 ルイスもここまで立ち入ってしまったら、気になってしまい、つい聞いてしまう。

 ターナは静かに頷く。


 「良ければ話を聞くぞ? イリアの怒りも収めてやりたいしのぉ」


 「な、なによぉ……」


 バレックが茶化すようにイリアへ言うと、大分冷静さを取り戻してきたイリアは恥ずかしそうに顔を背ける。


 「昔の一族を知ってくださる方に会えるなんて、何かの縁かも知れませんね……ここでは、なんですので、私の家へどうぞ」


 ターナは少し躊躇(ためら)いはしたが、バレックを見て、決意したように、全員をターナの家へと案内する。

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