一族の生き方
守護者の一族が住むアダインの村へと着いたルイス達。
村の住民達は、色とりどりのローブ姿で、導きの一族や、魔術師のような袖や裾の長くゆったりしたローブではなく、ぴっちりとした動きやすいローブを着用している。
前に立ち寄ったドミアの村とまではいかないが、村の人達は畑や鶏なんかを育てており、自給自足の生活をしているようだ。
「あの、すみません。ここってアダインの村であってますよね?」
ルイスは、近くを歩いていた村人の男性に声を掛ける。
「そうですよぉ。貴殿方は旅人ですか?」
少しだけおっとりとした口調で、気の良さそうな声のトーンで返してくる。
イメージだけで言えば、バリバリのゴツい男達の重騎士の集まりなのかと思っていたけど、レイチェルの説明の通りに、武装ではなく、魔力による防御らしいので、見た目からでは全然分からない。
「あ、僕はルイスと言って、勇者をしてます。こっちは、仲間のイリアとレイチェルとバレックです」
ルイスは、一人一人、順に手で指して紹介していく。
「そぉでしたか。勇者様がこの村に来られるとは……あ、お待ちくださいね。村長に伝えてきますんで」
男は、別段急ぐ様子もなく、普段の歩行速度を守らなければいけないみたいに、歩いていった。
「なんか……イメージしてたのと全然違うんだけど」
イリアはつまらなさそうに言う。
単純に守護者という名前の響きだけでなく、昔は魔王の攻撃をも防ぐ盾として活躍していた一族なら、もう少し誇りがあったり、現状の扱いに不満を抱いていたりしそうなものだが、まるでそう言ったプライドを感じさせない。
それはあの男が特別マイペースというより、周りの村人の動きを見てもゆったりとしていて、見ていて和やかな気持ちになり、毒気を抜かれる気分だ。
「良いではないか。ワシの聞いたモノとも全然違っておるが、守護者の性質上、守る事のみじゃからな。慌てる事も無い、ただ守るだけ、故に平和ならその平和を満喫するだけじゃろ。活躍等求めず、自分達を守れればそれで良いのじゃ」
「他の国も守るだけの力しかない。穏やかな一族にそれほど興味は無いし、ここクロックベルンに至っては、武力国家。こんなマイペースでゆったりとした守護者なんて、必要無いみたいだしね。まだガランドロックくらいの魔術師中心の国なら、前衛防御で後衛魔法のコンビネーションとして使えるでしょうけど」
レイチェルは、ロットが気に入っているようで、待っている間ロットの身体や頭を撫でて、その毛並みの感触を楽しんでいる。
ドミアの村程田舎っぽさは無いが、規模的に言えばドミアより格段に小さく、村と言うよりかは、集落と表現しても間違いではない。
活気に溢れている訳でもなく、その日その日を楽しんで暮らしているようだ。
時間にして十五分近くだろうか、それくらい待った頃にようやく男が戻ってきた。
先にも言った通り、集落程の広さなので、村長の家が遠いとか、そんな問題ではなかった。
なんなら、ルイス達の居る場所から、男が村長の家らしき場所に入っていくのも見えたくらいなので、家の中で村長とゆっくり話してたんだろう。
「いやぁ、お待たせしました。そちらの馬は預かりますので、どうぞ、村長の家までお越しください」
男はそう言って、ロットの手綱を取り、慣れた手つきでロットを連れながら、村長の家へと案内してくれた。
勿論、見ていたので場所は分かってるので、勝手に行けるのだが、ゆったりとした男の歩行スピードに合わせて一緒に向かう。
少しイリアは苦手のようで、イライラを隠しきれてない。
イリアはイリアで、せっかちではないが、人のペースに合わせるのが、特に緩やかなペースに合わせるのが苦手なんだろう。
全てが木造の家で、村長の家と言っても他の家と変わらない。
どうも、一族的に立場や名誉等に興味はないらしい。
「ここが村長の家です」
勿論ルイス達は知っている。
それでも、ルイスはお礼を言って、村長の家へと入っていく。
男はそのままロットを何処か小屋へと連れていった。
家の中も狭くはないが、広くもない。
ロズネスの村長の家と比べるのは、さすがに問題ではあるが、それでも村長の家と言うには普通過ぎた。
そんな家で村長は出迎えてくれた。
結構フサフサな白い髭を蓄えており、お年寄りにしては、恰幅の良い健康的な体格をしていた。
この人が神話や物語に登場するようなドワーフだと言われれば信じてしまいそうな、大きな鼻が印象的で長く伸ばした白髪は仙人のようにも見える、家とは違った幻想的な見た目をしている。
「ようこそ、おいでくださいました。勇者殿。ささ、中へ入ってくだされ」
村長の勧められるままに中へと入った。
一応、客人を迎える部屋はあるみたいで、大きな丸テーブルに、ソファーというよりベンチのような、木造の長椅子が一つと、普通の椅子が三つくらいあった。
ベンチには、三人くらいが限度だったせいか、バレックは勝手に一人掛けの椅子に先行して座った。
それを見たレイチェルは、テーブルを挟んで向かいの一人掛けの椅子へ、イリアとルイスはベンチに座り、向かいに村長が座る形となった。
「勇者殿が、わざわざこんな村にお越しくださるとは、思いもよらず、何のお出迎えも出来ませんで、申し訳ありません」
村長もゆったりとした口調で、何も準備をしていないことを気に病むような表情をしながら、髭に触れる。
「いえ、こちらも道中でたまたま寄っただけですから、どうかお構い無く。守護者の一族が暮らす村と聞いて、どんな村かと思ったのですが、とても落ち着きのある良い村ですね」
「なになに、守護者と言うような大それた名を受けておりますが、今は普通の村と変わりませんわ」
自虐的に言って、村長は笑う。
「村長よ。そうは言っても守護者としての力は健在なのてあろう? 例え防御のみと言っても、大昔は魔王の攻撃すら凌いだと伝え聞いておる。そんな力を持った一族が、容易く廃れるとは思えんのだが、もっと一族を世に出そうとは思わんのか?」
「ふぉっふぉっふぉ。そうですな。確かにそう言う意見も良く聞くのですが、我々の目的は攻撃から守る事ではなく、争いそのものから守る事……つまりは、戦わない事ですな。戦争の為に我々の一族が駆り立てられるのなら、それは儂ら一族の本望では無いのです」
戦いから身を守る、攻撃から身を守る……それは飛んできた火の粉を払う事であって、自らが炎の中へ飛び込む事をする訳でもなく、自分達の力が争いの火種となる事を嫌っていると言う事。
最強の鉄壁は、究極の平和主義からきているということだ。
「かはは! なるほどのぉ! 得心したわ! 良い考えじゃと思うぞ! まぁ、ワシはその考え方に限度はあると思うがのぉ」
「おい、バレック! すみません。コイツ失礼な奴で……」
「なぁに、良いんですよ。確かに彼の言うように、限度はあります。ですが、今更、一族の生き方を変える、というのも難しいもんですじゃ。儂らはそうやって生き続けてきたのじゃから」
主を守る盾ではなく、徹底して一族を守る一族。
魔王の攻撃を防いだのも、一族の危険を感じて動いたからであって、一族以外の何者かを守る為に動いた訳じゃない、村長の口振りから守護者とは、そんな一族であると読み取れた。
「失礼致します。どうぞ、お茶です」
長いウェイブのブロンドヘアーの、落ち着つきのある女性がお茶を運んできてくれた。
綺麗ではあるが、苦労が多いのか、どこか幸薄そうな、儚そうな、そんな印象を受けてしまう顔立ちをしている。
「ありがとうございます」
「いえいえ、何のお構いも出来ず、申し訳ありません」
お茶を配り終えると女性は、お辞儀をしてそのまま部屋を出ていった。
「さっきの女性は、娘さんとか、お孫さんですか?」
「いやいや、儂は独り身なもんで、娘は愚か、息子も妻もおりません。あれはターナと言いまして、気立てが良く、儂の面倒を見に来てくれるんですじゃ」
村長の世話役だけあって、おっとりしている雰囲気ではあったが、お茶を配る手つきは慣れたものがあった。
全ての動作がゆっくりと言う訳でもないらしい。
「儂の世話ばっかりせず、ターナもそろそろ結婚しろというのに、見た目と違って頑固で、なかなか嫁ごうとせんで困っておる限りですじゃ」
村長は溜め息をついて、諦め口調に言う。
見た目からは余り想像は出来ないが、村長は相当気に掛けているのに、ターナは頑なに縁談を断っているのだろう。
一族を守る為にも、子孫繁栄は絶対条件でもある。
特にこれほど小さな村なら、人口はそうそう増えないどころか、減る一方だろう。
そうなれば、死活問題である。
同じ一族の信念を所有しているなら、そう頑なに拒絶する事も無いとは思うが、良い相手が居ないという事なのだろうか。
村のそんな個人的な事情には口を出す気はないが、幸薄そうな印象を受けただけに、心配にはなる。
「まだ若そうですし、これからじゃないですか?」
ルイスは、とりあえず当たり障りのない事を言っておく。
そんな恋愛なんかに、気安く無責任な発言を、余所者が軽はずみにするものではない。
「そうじゃと良いんじゃが……おっと、失礼しました。勇者殿にこのような話をしてしまい。それで、勇者殿はこれからどうされるおつもりですか?」
「もし、泊まれる場所があるなら、そこに泊まらせて頂こうかと思ってます。なければ、食糧と水の補給だけさせて頂ければ十分です」
「それなら、ちゃんと宿はございますので、そちらにお泊まりくだされ。儂から連絡はしておきますじゃ」
「助かります。ありがとうございます」
「ねぇ」
レイチェルがお茶を啜りながら、村長の方へと声を掛けた。
「はい、何でしょうか?」
「馬肉とか食べれるの?」
「はぁ、馬肉ですか? 食べられますが、用意しておきましょうかのぉ?」
「お願いします」
「………………」
「………………」
「………………」
レイチェルはとても嬉しそうにしている。
どうしても食べたかったんだろう。
あれだけロットを可愛がっているのに、よく馬肉を食べたがれるな、と三人は心の中で思った。
今日の晩御飯は、こうして馬肉に決定した。




