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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
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空も飛べる

 勇者一行は行き先をアダインの村へと定めて、ノーウェンの街を後にする。

 ノーウェンから歩いて南へ一日もあれば、アダインへと着くだろう。


 今回は、掏られても良いようにそれぞれが金銭を満遍(まんべん)なく行き渡らせる。

 ルイスの信頼が少し下がったのである。


 馬のロットをまじまじと見ているレイチェル。

 動物が好きなのだろうか。

 ロットの歩調に合わせながら、前を見る事なく、じぃっと観察するように見ている表情はというと、それほど興味深そうでもなく、無表情で見ているので怖い。


 レイチェルが増えた事によって、近距離攻撃に(かたよ)っていたパーティーの欠点を見事に克服してくれた。

 さっきのジャネスとかいう魔術師でも、弱くないどころか、かなりの使い手であるにも関わらず、レイチェルを前に雑魚同然の瞬殺を喫したのである。

 レイチェル一人が遠距離に入るだけで、このパーティーは無敵に等しくなった。


 ルイスは、そんなレイチェルを見ながら、いずれはバレックが魔王だという事を言わなくてはならないだろうと思っていた。

 最強の魔術師というのは、魔王にどういう想いを抱いているのだろうか。

 案外、仲間意識なんて持っててくれると助かる。


 「のぉ、レイチェルよ。お主、馬がそんなに珍しいのか?」


 ロットをずっと見ているレイチェルに、誰かが言うであろう台詞をバレックが言う。


 「違う。単純に美味しいのかなって、思って」


 「………………」

 「………………」

 「………………」


 三人は黙った。

 何故、今その疑問を抱いてるんだ?

 お腹が空いてらっしゃるのですか?

 食糧は他にもあるのに、何故ロットを狙っているのか……。


 「あ、勘違いしないで。別に食べるつもりないわよ。ただ、単純に馬肉を食べた事ないから、馬って美味しいのかなって思っただけだから」


 三人の沈黙に察したのか、何でもない事のようにいつものトーンで返してきた。

 それでも、そんな事を考えながらロットを凝視し続けているのだから、余計にその無表情が怖く思えてくる。


 「かはは! アダインに馬肉があれば食ってみれば()いではないか!」


 バレックはもう適応したのか、馬肉を食べる事を勧める……ロットを撫でながら。

 やめてくれ! 気のせいかも知れないが、ロットが心無しか怯えているようにも見えてきた。


 「なんか、そんな事言われたらお腹空いてきたわね。休憩にしない?」


 「イリア?!」


 ルイスはびっくりして、声が裏返った。


 「なによ? 別にロットを食べるなんて言ってないでしょ?」


 「そ、そうだけど……」


 その通りだが、このタイミングでご飯にしようというのは、悪意しか感じない。

 なんで、それを平気で口にすることが出来るのか、ルイスには理解出来なかった。

 この旅が終わる頃、ロットが生きていないかも知れない……。


 「では、飯にしようではないか!」


 ルイス達は適当な木陰まで行って、そこで休憩を取る。

 勿論、ノーウェンで購入しておいた食糧を食べる。

 ロットも近くの草を食べて、一休みしている。


 「ねぇ? 魔力って、他にどんな事が出来たりするの?」


 全員が食事をする中、イリアが急に前触れもなく質問する。

 宿で話していた、アダインの守護者(ガーディアン)が魔力で防御壁を作れるという事で、他に魔力……生命エネルギーの力で出来る事が無いのか、気になっていたのだろ。


 「空が飛べる」


 イリアの質問に、レイチェルは一言で済ませた。

 てか、空も飛べるのか?

 そんな事が出来るのなら、何でもありな気もする。


 「うそ?!」


 「嘘ではないぞ。ロズネスを襲ってきた魔獣達は飛んでおったじゃろう」


 「いや、あれは翼が生えてただろ?」


 そうアイツらは翼で空を飛んでいたんだ。

 まさか、魔力によって翼が生えて飛べるとでも言うのか?

 どちらにしても、魔族でしか出来ない芸当だろう。


 「阿呆。翼はあくまでも補助じゃ。空を飛ぶには大量の魔力を消耗する。その消耗を魔族は翼で抑えておる。それによって長時間の飛行も可能じゃ」


 「あんな翼で、あの図体を浮かして飛ぶのは無理。私も空は飛べるけど、バレックの言う通り、消耗が激しいから、無駄に飛んだりしない」


 レイチェルには翼は生えていない。

 だから、その魔力の消耗も百パーセントの消耗量なのだろう。


 「それと同じで、身体能力の向上も魔力で出来るけど、肉体そのものを余り鍛えていない魔術師なんかは、魔力の消費が多いから、回避行動や移動手段以外では、魔力は使わない」


 なるほど。

 確かに、シャンデルで何度か魔術師の闘いを見た事があるが、魔術師は鍛えているようには見えなかったのに、危機的状況の時や、攻めの時の移動の時は、騎士並に速く動いていて、不思議に思えたのは、そういう事だったのか。


 バレックとレイチェルが揃うと、魔力の大抵の知識を教えて貰える。

 つまり、偽物の魔王がセリナの村に飛んできたのも魔力を消費してきたから、その分の魔力も減っていた状態だったという事だ。

 殆ど魔力を出せない状態だというのに、恐ろしい魔力量である。


 「ふーん、魔力って便利なのね。アタシも頑張ったら飛べるかな?」


 「止めておいた方が良いわ。見た所魔法は全然でしょ? そんな人が空を飛ぶ為に魔力使ったら、十秒も持たないわ。魔法の練り方を理解してないと、燃費が悪いの」


 「ちぇ、飛びたかったな」


 イリアは子供のように拗ねる。

 空を飛ぶなんて、人間にとってなかなか憧れではあるから、気持ちは良く分かる。

 レイチェルなら、どれくらいの時間を飛ぶ事が出来るのだろうか。

 恐ろしい魔力の持ち主だという先入観からか、一日飛んでも大丈夫そうに思えるけど、先程の口振りからすると、そんなに長い時間は飛べないのであろう。


 「そうね、貴女なら……」


 レイチェルは、何かを思い付いたようで、イリアに耳打ちする。

 イリアは、それを聞いていく内に悪戯でも考えてついたかのような笑みを浮かべていく。


 「なーるほどねぇ。そんな事も出来るって訳? 今度やってみるわ! ありがと! レイチェル!」


 「……別に、大した事ではないわ」


 そういうレイチェルの顔は少し赤くなっていて、照れ臭そうだった。

 レイチェルは(さげす)まれてきた分、こうやって誉められる事に慣れてない。

 彼女がしっかりと笑っていけるように、今までの分も、これからの分も精一杯笑っていけるように……彼女のその照れた顔に、そんな事を思ってしまった。



 そのルイス達が食事をしている遠くの陰では━━


 何者かが、ルイス達を見ていた。


 「へぇ、アイツらは……丁度良いぜ。」


 何者かは、そう言って下卑た笑みを浮かべる。

 そして、そのままルイス達に悟られる事なく、何処かへと失せた。

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