廃れた一族
レイチェルのお陰で、どうにか旅資金はどうにかなった。
四人は、宿を取ってルイスの一室に集まり、次の目的地を決める。
「ロズネスの一件もあるから、なるべく急いだ方が良いよな? だったら、このまま南下して、アダインの村へ行くか」
メンバーとして、勇者ルイス、それより強い拳闘士イリア、最強の魔術師レイチェル、屈強の自警団の身体に宿った魔王……圧巻のパーティーである。
これ以上、仲間も必要ないのと、ロズネスでの魔獣の大群襲来の一件で、旅を急ごうという考えだ。
当初から旅をしてきたレイチェル以外の三人にとって、魔王の身体を乗っ取った者、自警団バレック本人を殺した盗賊、ロズネスの魔獣襲来に絡んだ何者か、はそれぞれ別の人間だろうと推測している。
そして、その三組全てに置いて、何者なのかが分かっていない不安。
何が目的で、何をしようというのか、それが分からないというのは、こちらとしても動きにくい。
なので、当初の目的でもある魔王本体を狙って行く方が早いのだろう。
「アダインの村とは、なかなか面白そうじゃのぉ」
「普通の村じゃないの?」
「お主、『守護者』を知らぬのか?!」
イリアの素朴な疑問に、バレックは身を乗り出して言ってくる。
ガーディアンとは何なんだろうか?
名前的に鉄壁の騎士が住んでる村なのだろうか。
「いや、俺もシャンデルで勉強もしてたけど、守護者何て聞いた事無いぞ」
別にイリアが村から出ていないから知らない訳ではない。
ルイスもそんな者が居る村なんて聞いた事がない。
「無理ないわ。守護者なんて、活躍をしていたのは、千年以上昔で、書物でしか読んだ事ないもの。知ってる方が珍しいわよ」
レイチェルは知っていた。
さすがは年の功である。
見た目は、一番若いが、このメンバーなら二番目に長生きしている。
そう考えると、このパーティーの平均年齢は百くらいはいっているのではないか?
魔王が正確には何年生きているのか知らないから、細かい所は分からない。
「昔、守護者と言えば、魔王の攻撃すら防いだとされる一族がおる所じゃ」
「随分詳しいわね」
レイチェルは、何か怪しむような視線でバレックを見た。
レイチェルはまだ知らない。
バレックの中身が魔王だという事を。
「あ、なに、ワシは守護者が好きでのぉ。個人的に知識を持っておるだけじゃ」
バレックは適当に誤魔化した。
レイチェルも別に追及するつもりもないみたいで、ふーん、と納得したのか、どうかは読み取れない表情のまま視線を地図に戻した。
それにしても、守護者が、そんなに凄い一族であるなら、もう少し有名であっても良いはずなのに、何故これ程知られていないのだろう。
「守護者は、魔力を防御壁へと変換出来る一族。魔王が封印されるようになって、特性上、防御のみに特化してるから、出番が無くなって、平和と戦争の世の中には、攻撃性が求められるから衰退した一族よ」
レイチェルが細かく教えてくれた。
護る事しか出来ない一族。
まさに、守護者という訳だ。
「ねぇ、魔力って、そんなのにも変えられる訳なの?」
「ふむ、魔力は、前にも言った通りに生命エネルギーじゃ。血によってエネルギーの使い方というのも異なったりする訳じゃ。魔族ならば、闇の精霊と直接リンクしておるから、魔力自体が莫大にある代わりに、人間のように魔力を魔法等に練りあげて威力を上げるのが苦手じゃ。導きの一族は光の精霊の加護を受けておるから、闇を浄化する力を授かっておる。守護者は大気の精霊の加護を受けておるから、そんな事が出来る訳じゃ」
「大気の精霊? 風とは違うの?」
「さぁの。」
バレックの知識は、たまに欠陥がある。
どこで仕入れた情報なのか知らないが、肝心な所を分かってなかったりする。
「守護者の魔力は諸説あるわ。地の精霊だったり、大気の精霊だったり言われてるけど、別に大地を操る訳でも、大気を圧迫して作り出す訳でもない。だから、単純な血筋が魔力を防御壁へと具現化する力を持っているって言われてるらしいわ」
つまりは、その能力の詳しい事は分かっていない、という事だ。
そもそも、人間が何故魔法を使える力があるのかも分からないなら、そんな力があっても、逆に不思議に思う事もないのかもしれない。
バレックは、レイチェルの説明に感心して、ほぉ、とか唸っている。
あれだけ自信満々に説明しておいて、知ったかじゃねぇか。
「確かに面白そうな村だな。それじゃあ、次の目的地はアダインで決まりだ!」
「ふむ、ワシも会うのは初めてじゃから、どんな魔力なのか見るのが楽しみじゃ」
「アタシの拳でも防がれるのかな? 試してみたいな」
「余り期待しない方が良いわよ。もうあの村に誇りなんて無いんだから」
それぞれが初めて見る守護者に浮かれている中、さらりとレイチェルは水をさしてくる。
「私も実際に行ったこと無いから、近隣での話だけだけど、必要とされなくなって、技術も魔力も研鑽してないってって噂よ」
必要無いなら、伸ばす必要もない。
ただ、一族の血を絶やさないように生きているだけ。
守護者という一族は、今やそこに居るだけの存在なのだろうか。
「なんか、それ聞くと一気に冷めてきた」
イリアは、もうすでにやる気を無くしてしまった。
非常に分かりやすくて、素直な性格である。
「それでも、守護者は守護者じゃ! 見てみる価値はあるぞ!」
それでもバレックは興味津々である。
好奇心旺盛でテンションが高いから、一緒にいると疲れる事この上ない。
そんな個性豊かなメンバーを見て、もうトラブルは起きないでくれと切に願うルイス。




