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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
3章 魔王と守護者の切なき愛情
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『あい』に溢れて、『あい』に溺れる

 とある森の中に(あい)色の髪の青年は、一人涙を流していた。


 腕の中には、同じ藍色の髪をした少年が力なく、ぐったりと眠っていた。


 息がない。

 腹から血を流している。

 鼓動もない。

 もう開く事のない瞳。


 「俺は……なんのために…………何が天才だよ! ……弟一人護れねぇ…………。何が……うぅ…………」


 藍色の髪の男は、唸りながら、腕の中で眠る弟を抱き寄せた。


 男は弟を愛していた。

 いつも厳しく、甘やかす事を一切せずに愛を持って、接していた。


 いつか、天才だと期待される自分をも越える才能を持っていた弟が、立派に成長する事を信じて。

 誰よりも、周りの人間よりも、父よりも、母よりも、誰よりも弟に愛を注いでいた。


 なのに、弟は目の前で生命の活動を停止させてしまっている。

 もう、どれ程叫んでも、弟の目は覚まさない。

 運命とは残酷なものだ。

 明日(みらい)の為に愛を注いでいた者が、何の脈略もなく、何の予感もなく、何の予告もなく、何の予兆もなく、何の前兆もなく、何の兆候もなく、その生命を奪われてしまった。


 あれほど愛していたのに。

 藍色の髪の男は、愛情を怠らなかった。 

 愛に溢れていた。

 周りからは、厳し過ぎると揶揄されても、弟もその想い(あい)を感じているからこそ、兄から逃げず、兄の期待(あい)に応えようと努力(あい)した。


 その愛が全て奪われた。

 全て失ってしまった。

 全てが無駄になってしまった。

 全てが無くなってしまった。


 藍色の髪の男は、弟を抱き締めながら、止まる事のない涙を流し続ける。


 誰よりも愛に溢れた藍色の髪の男は、(あい)の濁流に溺れた。

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