『あい』に溢れて、『あい』に溺れる
とある森の中に藍色の髪の青年は、一人涙を流していた。
腕の中には、同じ藍色の髪をした少年が力なく、ぐったりと眠っていた。
息がない。
腹から血を流している。
鼓動もない。
もう開く事のない瞳。
「俺は……なんのために…………何が天才だよ! ……弟一人護れねぇ…………。何が……うぅ…………」
藍色の髪の男は、唸りながら、腕の中で眠る弟を抱き寄せた。
男は弟を愛していた。
いつも厳しく、甘やかす事を一切せずに愛を持って、接していた。
いつか、天才だと期待される自分をも越える才能を持っていた弟が、立派に成長する事を信じて。
誰よりも、周りの人間よりも、父よりも、母よりも、誰よりも弟に愛を注いでいた。
なのに、弟は目の前で生命の活動を停止させてしまっている。
もう、どれ程叫んでも、弟の目は覚まさない。
運命とは残酷なものだ。
明日の為に愛を注いでいた者が、何の脈略もなく、何の予感もなく、何の予告もなく、何の予兆もなく、何の前兆もなく、何の兆候もなく、その生命を奪われてしまった。
あれほど愛していたのに。
藍色の髪の男は、愛情を怠らなかった。
愛に溢れていた。
周りからは、厳し過ぎると揶揄されても、弟もその想いを感じているからこそ、兄から逃げず、兄の期待に応えようと努力した。
その愛が全て奪われた。
全て失ってしまった。
全てが無駄になってしまった。
全てが無くなってしまった。
藍色の髪の男は、弟を抱き締めながら、止まる事のない涙を流し続ける。
誰よりも愛に溢れた藍色の髪の男は、哀の濁流に溺れた。




