表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
44/63

空は希望という名の赤に染まる

 ━━七日目の朝。

 バレック達三人は、食堂で朝食を取っていた。

 いつもより、荷物が多い。

 どうやら、今日このロズネスの村を発つようだ。


 「本当に良いのか? 今日なら、上手くいくんじゃないのか?」


 いつものように、バレックは喋る時に手を止める。


 「構わん。もうあの娘は一人で無くなったからのぉ。せっかく出来た居場所を奪う事はないじゃろ」


 相変わらず、自分よりも他人の事ばかり考えている。

 損な生き方しか出来ない魔王だ。

 もう少しだけ、我が儘になっても良いと思うのだが。


 「ホント男って、勝手……」


 イリアは、不服そうに朝食のウィンナーをフォークで刺して、食べる。

 いつも、そうやって自分の美学なのか、何なのか分からない事で、最後の一押しをしてくれない。

 たまには強引さも必要だというのに、それが格好悪いとでも思っているのだろうか。


 「かはは! 今回は成功したと思ったが、上手くいかないもんじゃな!」


 その表情からは、言葉とは裏腹に、こうなる事を分かっていたような……こうする為にやっていたような満足そうなものだった。


 「結局、昨日の魔獣はなんだったの?」


 「さぁの? 何故、魔獣がここに集まってきたのか、見当もつかんわ。あんなに群れて動く習性は無いはずじゃがのぉ」


 「それは、つまり、意図的な何かがあった可能性があるかもって事か?」


 「それも分からん。ワシにも魔獣をコントロール出来んのに、それを何者かがやってのけたというなら、それは、それで、信じられん事じゃがな」


 それでも、可能性はある。

 魔王の身体が盗られるなら、それくらい出来るかも知れない。

 だからこそ、三人はここで長々と滞在するのは止めたのだ。

 何かが裏で暗躍しているなら、悠長な旅をしていてはならない。

 ルイス自身も、何かを掴めてきたので、もう少し鍛練をしておきたかったが、旅を続ける毎に不安要素が増えていっているので、焦りを覚えていた。


 「これもお前の身体を乗っ取った魔王の仕業なのか?」


 「そんな訳無いじゃろ? さっきも言ったように、ワシの魔力では、それが出来ん。仮に奪った奴本人が出来るのなら、いきなり一人でワシらを襲ってこんじゃろ」


 理屈としては、そうかも知れないが、なら他に誰がそんな事をするんだろう。

 その事を考えている内に食事を終えた。


 三人は、宿の主人にお礼を言って、不在のカノンにも、お世話になった事を言伝て、宿を出た。

 馬のロットを迎えに行って、そのまま東側の村の出口へと向かう。


 その途中に、シルビアとライドの姿があった。

 見送りに来てくれたのだ。


 「あの! 頑張ってくださいです! 応援してるです!」


 「僕ももっと強い魔術師になってますんで、次来た時、また勝負しましょう!」


 ライドはイリアにそう言って、イリアは軽く頷いた。

 やっぱり、ライドはイリアにやられたんだな、とルイスは一人苦笑した。


 「師匠……」


 シルビアは既に目に涙を溜めていた。


 「シルビアよ。元気でな」


 バレックは口数少なく別れを告げる。


 「私は師匠が大好きです! 大尊敬してるです! だから……だから、また師匠に会えるですよね? また私の事、褒めに来てくれるですよね?」


 にぃっと笑ってバレックは、


 「お主次第じゃ」


 「は、はいです!」


 この二人は、本当にいつの間にそんな師弟の絆を育んだのだろう。

 シルビアとライドともお別れをして、三人はロズネスの村を出た。


 暫く歩いていると、見覚えのある赤い髪の少女が待ち構えていた。


 「不愉快。なんで、私を置いていこうとする訳?」


 本当に怒っている様子だった。

 大丈夫だろうか、ここで全員殺されるんじゃないだろうか。


 「いやなに、せっかくお主に居場所が出来たのを、奪う訳にもいくまい」


 「あれは、居場所じゃない……帰る場所」


 何十年と根なし草だったレイチェルにとって、ロズネスは帰って来れる場所になった。

 もう地獄でも何でもない。

 レイチェルは、世界を終わらせたいとか、人間を滅ぼしたい、なんて心の底から、思っていなかった。

 本当は、誰よりも皆を……世界を愛していた。


 「私はあなたについていくって決めたの」


 「そうか。そうとは知らず置いていく所であったか、すまんな」


 「分かれば良い。それじゃあ、行きましょ」


 レイチェルは先頭を切って歩き始めた。


 「まぁ良いけど、レイチェルは、皆とお別れしなくて良いのか? せっかく友達になれたんだろ?」


 レイチェルは、振り返って首を傾げる。


 「必要なの?」


 「少なくとも、シルビアは急に居なくなったら、心配して泣き出すんじゃないか?」


 ルイスの言う通り、あのシルビアなら、すぐに泣いて慌てながら、村中を探し回るだろう。


 「じゃあ……」


 レイチェルは片手を天へと掲げて、炎の魔法を放つ。

 天高く炎が昇り、空で綺麗に大きな音を立てて弾ける。

 それはまるで、綺麗な花火のようだった。

 空は赤く綺麗に染まる。

 これなら、村の人達も気付く事だろう。


 数十発とその花火を放ち終わると、


 「これで十分でしょ?」


 そう言うレイチェルの顔は、とても幸せそうだった。

 くるりとまた進行方向へ向き直って、楽しそうに歩き始めた。


 この空を赤く染めた炎こそ、彼女の希望への始まりだった。

これにて、二章は終わりです。


ご覧になってくださった方、評価、ブックマークくださった方、感想くださった方、ありがとうございます!


そして、次回より三章突入しますので、これからも応援お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ