空は希望という名の赤に染まる
━━七日目の朝。
バレック達三人は、食堂で朝食を取っていた。
いつもより、荷物が多い。
どうやら、今日このロズネスの村を発つようだ。
「本当に良いのか? 今日なら、上手くいくんじゃないのか?」
いつものように、バレックは喋る時に手を止める。
「構わん。もうあの娘は一人で無くなったからのぉ。せっかく出来た居場所を奪う事はないじゃろ」
相変わらず、自分よりも他人の事ばかり考えている。
損な生き方しか出来ない魔王だ。
もう少しだけ、我が儘になっても良いと思うのだが。
「ホント男って、勝手……」
イリアは、不服そうに朝食のウィンナーをフォークで刺して、食べる。
いつも、そうやって自分の美学なのか、何なのか分からない事で、最後の一押しをしてくれない。
たまには強引さも必要だというのに、それが格好悪いとでも思っているのだろうか。
「かはは! 今回は成功したと思ったが、上手くいかないもんじゃな!」
その表情からは、言葉とは裏腹に、こうなる事を分かっていたような……こうする為にやっていたような満足そうなものだった。
「結局、昨日の魔獣はなんだったの?」
「さぁの? 何故、魔獣がここに集まってきたのか、見当もつかんわ。あんなに群れて動く習性は無いはずじゃがのぉ」
「それは、つまり、意図的な何かがあった可能性があるかもって事か?」
「それも分からん。ワシにも魔獣をコントロール出来んのに、それを何者かがやってのけたというなら、それは、それで、信じられん事じゃがな」
それでも、可能性はある。
魔王の身体が盗られるなら、それくらい出来るかも知れない。
だからこそ、三人はここで長々と滞在するのは止めたのだ。
何かが裏で暗躍しているなら、悠長な旅をしていてはならない。
ルイス自身も、何かを掴めてきたので、もう少し鍛練をしておきたかったが、旅を続ける毎に不安要素が増えていっているので、焦りを覚えていた。
「これもお前の身体を乗っ取った魔王の仕業なのか?」
「そんな訳無いじゃろ? さっきも言ったように、ワシの魔力では、それが出来ん。仮に奪った奴本人が出来るのなら、いきなり一人でワシらを襲ってこんじゃろ」
理屈としては、そうかも知れないが、なら他に誰がそんな事をするんだろう。
その事を考えている内に食事を終えた。
三人は、宿の主人にお礼を言って、不在のカノンにも、お世話になった事を言伝て、宿を出た。
馬のロットを迎えに行って、そのまま東側の村の出口へと向かう。
その途中に、シルビアとライドの姿があった。
見送りに来てくれたのだ。
「あの! 頑張ってくださいです! 応援してるです!」
「僕ももっと強い魔術師になってますんで、次来た時、また勝負しましょう!」
ライドはイリアにそう言って、イリアは軽く頷いた。
やっぱり、ライドはイリアにやられたんだな、とルイスは一人苦笑した。
「師匠……」
シルビアは既に目に涙を溜めていた。
「シルビアよ。元気でな」
バレックは口数少なく別れを告げる。
「私は師匠が大好きです! 大尊敬してるです! だから……だから、また師匠に会えるですよね? また私の事、褒めに来てくれるですよね?」
にぃっと笑ってバレックは、
「お主次第じゃ」
「は、はいです!」
この二人は、本当にいつの間にそんな師弟の絆を育んだのだろう。
シルビアとライドともお別れをして、三人はロズネスの村を出た。
暫く歩いていると、見覚えのある赤い髪の少女が待ち構えていた。
「不愉快。なんで、私を置いていこうとする訳?」
本当に怒っている様子だった。
大丈夫だろうか、ここで全員殺されるんじゃないだろうか。
「いやなに、せっかくお主に居場所が出来たのを、奪う訳にもいくまい」
「あれは、居場所じゃない……帰る場所」
何十年と根なし草だったレイチェルにとって、ロズネスは帰って来れる場所になった。
もう地獄でも何でもない。
レイチェルは、世界を終わらせたいとか、人間を滅ぼしたい、なんて心の底から、思っていなかった。
本当は、誰よりも皆を……世界を愛していた。
「私はあなたについていくって決めたの」
「そうか。そうとは知らず置いていく所であったか、すまんな」
「分かれば良い。それじゃあ、行きましょ」
レイチェルは先頭を切って歩き始めた。
「まぁ良いけど、レイチェルは、皆とお別れしなくて良いのか? せっかく友達になれたんだろ?」
レイチェルは、振り返って首を傾げる。
「必要なの?」
「少なくとも、シルビアは急に居なくなったら、心配して泣き出すんじゃないか?」
ルイスの言う通り、あのシルビアなら、すぐに泣いて慌てながら、村中を探し回るだろう。
「じゃあ……」
レイチェルは片手を天へと掲げて、炎の魔法を放つ。
天高く炎が昇り、空で綺麗に大きな音を立てて弾ける。
それはまるで、綺麗な花火のようだった。
空は赤く綺麗に染まる。
これなら、村の人達も気付く事だろう。
数十発とその花火を放ち終わると、
「これで十分でしょ?」
そう言うレイチェルの顔は、とても幸せそうだった。
くるりとまた進行方向へ向き直って、楽しそうに歩き始めた。
この空を赤く染めた炎こそ、彼女の希望への始まりだった。
これにて、二章は終わりです。
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