赤い地獄の終わる時
六日目のもうすぐ昼になるかと言う頃に、バレックは目を覚ました。
さすがに魔力を使いきって、尚且つ甚大なダメージを負っていたので、回復の為に十分な睡眠が必要だった。
そのお陰で傷は、ほぼ完治していたが、まだ若干焼けた跡は残っていた。
バレックは、ベッドから出ると、軽く全身の伸びをして、顔を洗う。
いつもより早く行くつもりだったので、余りのんびりしてられないと思い、すぐに食堂へと向かう。
食堂には、ルイスとイリアが既に食事を終えて、バレックを待っていた。
「遅いわよ。早く行くんじゃなかったの?」
「すまんすまん。魔力の回復に時間が掛かった。おかげで良い感じに回復出来たわ!」
「それで、今日はどんな作戦で行くんだ?」
「作戦等ないわ! いつも通りに真正面から、堂々と勧誘する!」
やっぱり、避ける気は無いらしい。
本当にそれで仲間へ引き込めるのだろうか。
これじゃあ、後何日掛かるか分からない。
ルイスは、そんなに悠長にやってて良いものなのか、疑問を持ち始めてきた。
バレックは、いつもより、多めの食事を取って万全のコンディションで備えた。
果たして、食べた後にすぐ闘えるのかは、微妙な所ではあるが、闘うというより、一撃を耐えるだけだから、それほど気にする必要もないだろう。
バレックの食事が終わるのを、お茶を飲みながら、ゆっくりと待つルイスとイリア。
もう食事が終わろうとしていたタイミングで、バレックは急に食事を中断した。
「なんじゃ? どういう事じゃ?」
バレックが珍しく、困惑している。
それを見た二人も、訝しげに顔を合わせる。
「どうしたんだ、バレック?」
「まずいぞ……お主ら、外へ出るぞ!」
バレックが食事を残す事も珍しい。
それほどに何かしらの緊急事態なのだろうと、二人は察して、緊張が走る。
バレックに続いて、宿の外へと出る。
バレックは、何やら空をキョロキョロと見渡していた。
「おい、一体どうしたんだよ? ちゃんと説明しろ!」
ルイスもバレックがふざけているとは思っていない。
だからこそ、しっかりと状況を把握して、事態に備えたい。
「分からん。何故か分からんのだ。じゃが、もうじき、大量の魔獣が押し寄せてくるぞ」
「はぁ? なんでよ?」
「だから、それが分からんのじゃ!」
バレックも何が起こったのか、まるで理解出来ていない。
ただ、魔獣の大群がこのロズネスの村へ向かって来ている事だけが分かる。
「大量って、どれくらいだよ?」
「そこまでは分からん! 数が多すぎる! 百や二百では無いぞ!」
バレックはそう言って、跳躍し、宿の屋根まで上がった。
そして、東南……恐らくバースモアからだろうか、暗雲がこちらへと向かってくる。
いや、それは暗雲ではなかった。
それこそが魔獣の群れであった。
「なんじゃ……? あの数の魔獣は……?」
イリアとルイスも同じようにして、屋根へと上がり、バレックと同じものを見て驚愕する。
「ちょっと、あれは多すぎでしょ?! 千匹くらい? もっと居る?」
「何がどうなってるんだよ? おい、バレック! 魔王だったら、どうにか出来ないのか?」
「無理じゃ。魔獣なんぞ、ワシの言うことすら理解出来ん、低能な生物じゃ。ワシ本来の魔力があれば怯えさせて、退散くらいなら出来るじゃろうが、今のワシの魔力程度では、それすらも出来ん!」
「じゃあ、あの魔獣どうすんのよ?」
「始末する他ないじゃろ!」
「良いのかよ? お前はそれで? 同族だろ?」
「お主は、大量に襲ってくる獣を可哀想だからと、殺さんのか? 魔獣は魔獣じゃ。同族ではあるが、獣でしかないわ。」
そう、魔獣は人のみならず、魔獣同士で殺しあったりもする。
ただの獣。
だからこそ、魔王の命令は聞かない。
本能のままに生きるのみである。
「ルイスよ! ロズネスの魔術師達の力を借りて、迎撃するぞ!」
「くそっ! 全員に伝えるまでに時間が……」
「リオメタルがあるじゃない!」
リオメタル……そうか、シャンデルの王が闘技場で使っていた拡音タイプのリオメタルなら、すぐに全員に伝えられる。
村が魔獣に襲われて混乱に陥る前に、事を伝えて迎撃態勢を取る事が出来れば、村の被害も最小限で抑えられるだろう。
「よし、あのリオメタル屋へ行くぞ! ルイス!」
「あぁ!」
三人は走って、最初に訪れたリオメタル屋へと行った。
「どうしたんです? そんな慌てて入ってきて?」
リオメタル屋の店員が、ビックリして聞いてくる。
「理由は後で話します! あの、拡音タイプのリオメタルはどれですか?」
「あ、えー、これですが?」
訳も分からず、勢いに押されつつも、店員としての働きを見せる。
すぐに手に取って、ルイスへと渡す。
「すみません! お代は後で払いますんで、ちょっと、使わせていただきます!」
ルイスは店員からリオメタルを受け取り、すぐに外へと出た。
そして、リオメタルを口元まで近付けて、息を大きく吸った。
「突然、すみません! ロズネスの魔術師の皆さん! 落ち着いて、聞いてください! 僕は勇者のルイスと言います! これからロズネスの村へ魔獣の大群が押し寄せてきます! なので、皆さんの力をお貸しください! 戦える人は、村長の家の前までお越しください!」
「うむ、あそこなら、分かりやすいのぉ!」
「そういや、村長さんは今留守なんだっけ?」
「あぁ、あの人が居れば、かなりの戦力になるんだけどな」
「ふん、アタシで十分よ」
イリアは小さく聞こえない声で呟く。
こんな時でも、対抗意識があるのだろう。
「あの! 今のって、本当なんですか?!」
リオメタル屋の店員は、驚きながら聞いてくる。
「はい、これお代です。それじゃあ、急ぐんで、失礼します」
ルイスはきっちりとリオメタルを購入し、村長の家へと走る。
向かいながらも、何度か同じ内容のアナウンスを入れて、魔術師達へと呼び掛けた。
村長の家には、既に十数名集まってきていた。
魔術師の村とはいえ、商人や見習いでまだ戦えない者も多くいるので、五十人くらい集まれば良いだろうか。
そこへライドとシルビアが、慌ててルイス達の所へと来た。
「はわわ! ま、魔獣が来るですか?! 勇者様! 本当に来ちゃうですか?!」
「シルビアさん、本当だよ。多分、千匹以上だ」
「せ、せ、せ、せ、せ、せんびゅきですか?!」
シルビアは驚き過ぎて、少し噛んだ。
「シルビアよ! 動じるな! さっさと駆逐してしまうぞ!」
「師匠! はい! 頑張るですです!」
バレックは、何故か少し焦っていた。
それは、原因不明の魔獣の襲来のせいだろうか。
言葉もいつになく、荒げている。
「千匹以上か……僕達で大丈夫でしょうか?」
ライドもその数の多さに不安を隠せない。
「アンタは肝心な時に自信を持てないのね。男なら、こういう時にしっかりなさいよ」
「う……は、はい。精一杯やります!」
横目でそのやり取りを見たルイスは、やっぱりイリアに何かされたんだな、とライドに少しだけ同情する。
そして、次々に魔術師は集まって、七十名程になった。
思ったより人数が集まった。
リオメタルをバレックが貰い受け、全員に伝える。
「皆の者よ、よく聞け! これより空から魔獣の大群が襲ってくる! 持久戦になるであろう! なので、いきなり魔力は使い過ぎるでないぞ! ワシら三人は、魔法が得意で無いが、肉弾戦なら負けぬ! お主ら魔術師は、なるべく多く魔獣を落としてくれさえすれば、ワシらでとどめをさす! 炎、雷の魔法が得意な者は上空の敵を落とし、風、水の魔法が得意な者は、地上へと襲ってくる魔獣を撃退してくれ!」
適材適所、得意な魔法以外は魔力が無駄に消費されるので、使用を避けさせる。
上空を狙う魔術師は、それに専念出来るように、攻撃範囲が割と絞れる水と風の魔法は、地上に来た魔獣を撃退してもらう。
これにより、村への被害は抑えられるだろうが、魔獣の数が多すぎるので、ゼロという訳にはいかないだろう。
それぞれが、何人かのチームに分かれて、地上と上空両方に対応出来るようにして、村中に散らばった。
ロズネスの村が暗くなる。
魔獣達が到着した。
奇怪な鳴き声と共に村へと襲い掛かってくる。
魔術師達は、地上に来る前に魔法で魔獣を落とす。
落ちてくる魔獣、撃ち損なった魔獣を別の魔術師と三人が撃退する。
魔獣がロズネスの村まで来ると、その多さを更に実感した。
これは……多すぎる。
多い、多すぎる、バレックが何十匹と一人で倒しても減る気配がしない。
七十名なので、単純計算しても、一人で二十匹ではあるが、七十名全員が強い訳でも無いし、魔獣はやはり魔族でもあるので、生命力もある。
魔力を温存した一撃では、なかなか必殺は出来ない。
「多すぎじゃ! これは、三千くらいおるのではないか?!」
バレックの拳に宿る魔力が増して、魔獣を殴り、ぶっ飛ばす。
「おい! バレック! 余り力を入れすぎるなよ! 村が壊れるだろう!」
そう、余り威力を上げても、その威力で村へと被害が出てしまうのだ。
その点では、イリアの攻撃は精錬されており、一撃、一撃が内側へと響くものなので、イリアの攻撃を受けた魔獣は、その場で倒れてしまう。
「うるさい! 早く終わらせねばならんのじゃ! さっさと終わらせてねば……」
バレックの表情は追い詰められたような、辛そうな表情になっていた。
ルイスは、シルビアに特訓してもらった魔力の集中で、辺りの魔獣を剣で一掃し、バレックへと向かっていき、バレックを殴った。
「お前らしくねぇな! なに取り乱してんだよ?」
「あの娘は……昨日、怒りでワシを本気で殺そうとしてしまったのじゃ! 早くワシが行ってやらねば、あの娘、また自分を責めてしまうではないか?! ワシは……もう失敗したく無いんじゃ!!」
魔王の見せた初めての強い想い。
この男は、いつも自分の事ではなく、誰かの為に自分を犠牲にしていた。
余裕が無い。
猶予が無い。
あの娘は、今きっと自分を責めている。
やっと、ほんの少しだけ、姿を見せた心が、また殻へと籠ってしまう。
ルイスには、その気持ちが痛い程伝わった。
イリアが殻へと籠ってしまった時、そして、自分が勇者となり、イリアを救う決心をした瞬間、何を置いても早くイリアの所へと行って伝えたかった。
だから、飛び起きた。
そして、隣の家だと言うのに、走って行った。
「し、師匠!! ここは優秀な弟子の私が何とかするです! だから、行ってあげてくださいです!」
「そんな事が出来るか!! ワシはお主達も見捨てたくないんじゃ」
「師匠……」
ルイスとイリアは感じてしまった。
魔王が封印され続けている理由を。
何かを成そうとしているのに、失敗し続けた理由を。
この魔王は、そこ抜けに優しく、不器用なのだ。
自分が大切にしてるモノは、全て守りたい、全て傷つけたくない。
「あぁ、そうだな。全部守りたいよな。じゃあ、尚更焦るな。お前には、俺達がついてる」
ルイスは、バレックの肩をポンと叩き、魔獣達へと再び向かっていった。
「まったく、ライド! アンタ魔法の操作得意何でしょ? 魔力使わなくて良いから、早く撃ち落としなさい! アタシの手が止まらないくらいにね!」
「は、はい!」
イリアも、拳の回転数を上げるべく、ライドへ無茶な注文を飛ばす。
「はわ! 私も死んで頑張ります!」
死なないでください。
「お主ら……すまん。感謝するぞ」
バレックは、小さく呟いた。
━━南の丘の上にある家。
バレックは、いつもの時間になっても姿がなかった。
もう来ない。
私が悪い。
結局、私が悪いの。
私が産まれてきたから。
私に才能があったから。
私が才能を伸ばしたから。
私が愛を欲しがったから。
私が温もりを求めたから。
私が幸せを感じようとしたから。
私が……化け物だから。
悪いんだ。
でも、何でいけないの?
私だって、普通に生きたかったよ。
普通の女の子で居たかったよ。
なんで、神様は私にこんな周りから嫌われるような力を授けたの?
なんで、私じゃなきゃ駄目だったの?
お願いだから……お願いだから……お願い…………だから、もう一度で良いから……来て……私を助けに来て……。
「た、大変じゃ!」
セバスチャンが私の部屋へ勝手に入ってくる。
アンタじゃないの。
私に近づいて来ないで。
アンタじゃ、私を救えない。
「なによ」
「村が大量の魔獣に襲われておる!」
そんな事か。
村なんてどうなっても良い。
どうせ、私を蔑む連中ばかりなのだから。
「邪魔。そんな事くらいで入って来ないで」
「うっ、す、すまん」
セバスチャンが出ていく。
家からも出た。
恐らく村へと行ったのだろう。
しかし、なんで魔獣が急に来たんだろう。
村はきっと、大変なんだろうな。
皆で魔獣を追い払ってるんだろうな。
………………。
そうだ。
きっと、そうだ。
その魔獣が邪魔してるんだ。
あの男が来ないのは……きっとそうなんだ。
それなら、だったら、私は……助けて貰えるかな?
私は、あの男に助けて貰いたい。
もう一度だけ、もう一度だけなら、あの男の言葉なら、あの男の愛なら信じてみようかな。
私は立ち上がった。
私は外へと出た。
ロズネスの村には、予想より多くの魔獣がいた。
これなら、あの男がここに来れるはずがない。
あれ? なんでだろう? なんで私、こんなに嬉しいんだろう。
それじゃあ、私を助けて貰う為に、助けに行く事にしよう。
村の連中をついでに助けるのは癪だけど、もうそんな事はどうでもいい。
私はあの男と一緒に……。
━━ロズネスの村では、まだ魔獣達の猛襲が続いていた。
「あぁー! もうっ! キリがないっての!!」
イリアは唸った。
当然である。
いくらイリアが強いと言っても、一つの拳で殴れるのは一匹の魔獣だけだ。
魔法のような攻撃範囲は備えていない。
更には、上空から降りて来ない限りは、イリアの拳は届かないのである。
どれだけ、イリアがスピードを上げようが、倒せる魔獣のスピードは上がらない。
歯痒さだけが、膨れ上がる。
それでも、ライドもシルビアも他の魔術師達も精一杯頑張っている。
少しずつ疲労も見えてきて、精度の落ちてきている魔術師も少なくなかった。
「おい、バレック! もう良いから、行け! 数はかなり減ってきたから、後は俺達で何とか出来る!!」
ルイスもバレックの気持ちを想い、もう千匹は切っているだろうし、バレック一人が抜けても何とか出来るだろうと考えて、バレックに言う。
バレックは……笑っていた。
「バレック……? 大丈夫か?」
諦めてしまったのか?
自分の無力さに呆れて笑っているのか?
ルイスは、バレックの精神面を心配した。
「いや、すまん! もう大丈夫そうじゃ! 後少し耐えるぞ!」
バレックの言ってる意味が理解出来ず、とにかく大丈夫というなら、魔獣の殲滅に専念する事にした。
後どれくらいなのだろう?
イリアはどうだか知らないが、魔獣一匹倒すのも割と労力が要る。
実際、ライドもシルビアも撃ち落とすだけに止めているが、それにしても魔獣を撃ち落とすにも、魔力を相当使っている。
二人はもう息が完全に乱れており、かなりペースは落ちている。
元気なのは、ルイス、バレック、イリアくらいだ。
カノンが居れば、ひょっとしたら、もう終わっていたかも知れない。
「ご、ごめんなさいです……やっぱり、私は……」
「いや、シルビアよ。お主は良くやったぞ! 師として誇りに思う! もう大丈夫じゃ!」
「でも、ししょー……」
シルビアの不安を他所に、バレックは、南の方の家の屋根を見ていた。
そして、次の瞬間。
雷鳴と共に、上空にいる魔獣、推定四百匹程が一瞬で葬られた。
「なっ?!」
村に居るバレック以外の全員が驚いた。
バレックの見ていた方向の屋根の上には、赤い髪の少女が立っていた。
少女もバレックを見付けると、こちらへと向かいながら、下に居る魔獣達を通りすがりに始末していった。
「すまんな。なかなか行かせて貰えなかったもんでな」
「別に……」
少女は、赤くなった頬を隠すように俯いて、端的に答える。
「ば、化け物だ……」
「おい、お前ら、離れろ! 殺されるぞ!!」
「何しに来たんだ?! カノンさんが居ないのをいいことに、この村を消すつもりか?!」
魔術師達は、口々に少女を糾弾する。
それでも、少女はもうどうでも良かった。
もうこの村なんて、どうでも良かった。
この男が居れば、それで良かった。
だから、何を言われようと気にしない。
「貴様ら、黙らんかぁっ!!!!!!」
バレックは、リオメタルを手にして怒鳴り上げた。
ここまで、激怒しているバレックを初めて見たルイスもイリアも息を飲んだ。
「それが魔獣から助けて貰った人間の言葉か!!! この娘が貴様らに一体何をしたと言うんじゃ!? この村で誰かこの娘に命を奪われたのか?! 何故、目の前の現実をしっかりと見れんのじゃ!!!」
「あ、あんたは知らないんだ! その女が何をしたのかを!」
魔術師が怯えながらも反論する。
声の方向をバレックは睨み付ける。
「ならば、貴様は、この娘が何をしたのか見たのか?! 何故その経緯に至ったのか知っておるのか?! それに貴様は巻き込まれたのか?! 被害を受けたのか?! この娘に、貴様らは殺されたのか?!」
(……やめて)
「力を持っておるから何じゃ?! 普通でなければ何じゃ?! 異常の何が悪いんじゃ?! 貴様らは、この娘の心をどれほど知っていると言うのだ?!」
「……やめて」
「確かにこの娘は異常なくらい強かろう!! 過去に何か過ちの一つでもあったのだろう!!! しかし、それが何じゃ?! 誰にだって、消せない過ちの一つ抱えているであろう!!! それを寄って集って、娘を傷付けて楽しいのか?! 貴様らにこの娘を責める資格があるのか?! それ程貴様らは偉いのか?!」
「……やめて!」
「この娘のどこが化け物じゃ?! 貴様らに責め立てられて、傷付いて、塞ぎ込んで、抱え込んで、こんなに脆いではないか?! 娘の心の悲鳴が貴様らには聞こえんのか?! 村全体で、言葉の刃で、無防備で無抵抗な一人の少女を切り刻み、悦に浸っておる貴様らの方が、よっぽど化け物ではないのか?! ちゃんと貴様ら自身の眼で、娘を見ろ!! この娘は、誰よりも愛を欲しておるではないか!!!!!! それに何故貴様らは━━」
「もうやめて!!! それ以上言ったら、泣いてしまう」
少女の言葉に我に返ったように、バレックは少女を見る。
少女は……
「なんじゃ、もう泣いておるではないか」
先程までの怒りの表情とは一転して、慈しむように少女を見て言った。
「バカ……」
少女の眼から、大粒の涙が、ずっと心の中で流し続けていた涙が、溢れだしていた。
もう少女は涙を我慢しない。
ただ、ただ、感情のままに涙を流す。
バレックに怒鳴られた魔術師達は、そわそわとしているが、何も言い返す事も出来なかった。
「あ、あの、あの、あの、あのです!」
少女の前にシルビアは走ってきた。
「わ、私、前からずっと……あなたとお友達になりたかったです……。でも、周りの人達に嫌われるのが怖く……こわ、こわく、て……」
シルビアは、精一杯の勇気を振り絞ろうとするも、泣き出してしまった。
自分の卑怯さ、醜さ、汚さが嫌で嫌で堪らなくて、涙が止まらない。
「ずっと、無視しちゃったです…………最低なんです……でも、でも……もうそんなの嫌です! 私はあなたを尊敬してるです! 凄い人なんです! 悪い人には見えないです! 可愛いです! 私もあなたのようになりたいです! だから……こんな酷い私でも……お友達になって欲しいです……」
シルビアは、泣きながら、自分の想いを周りの人間が見ている中、少女へと伝えた。
少女も止まる事のない涙を流したまま、シルビアの手を取る。
「えぇ、私で良ければ」
「ほ、本当ですか?」
少女は頷く。
少女は嬉しかった。
全てを知って、全てをさらけ出して、それでも友達になって欲しいと言ってくれた事が。
「皆! もう止めにしないか? 俺はシルビアとバレックさんに賛成だ! 彼女は、村を救ってくれたんだ! それを過去の噂なんかで、事実を歪めて見てどうすんだよ? 彼女が凄いのは、彼女の努力だろ? 俺らは彼女の努力を知らないのに、勝手に産まれながらの化け物みたいに言うのは、違うと思う!」
ライドも知ってしまった。
本当に強くなる為には、まずは心を強くしなければならないと言う事を。
いつまでも他人を気にしてるから、強くなれないんだと。
自分の弱さを他人のせいにしてるから、強くなれないんだと。
気付かされてしまった。
そして、強くなろうと決めた。
魔術師達の表情が徐々に変化していった。
シルビアの言葉を受けて、ライドの言葉を受けて、そして、バレックの言葉を心へ刻んで、自分達は噂と風潮に躍らされ、ただその力に嫉妬していただけなのだと言う事を自覚する。
「……私は、レイチェル」
「はわ! 私はシルビアです!」
まだ二人の顔は涙に濡れていたが、もう二人とも仲良く笑っていた。
レイチェルの地獄は終わった。
本当は地獄のままでも、バレックの傍にさえ居れば幸せになれると思っていた。
それで救われると思っていた。
だけど、バレックは、そんな半端な救い方をしなかった。
全てから救ってくれた。
地獄すら消してしまった。
呪縛から解放された。
もう……一人じゃない。
バレックは満足そうに笑っていた。




