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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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言っちゃダメ!

 五日目の夜、ロズネスの宿の食堂にルイス、イリア、バレックは居た。


 三人は、食事を始めたばかりのようで、夢中になって料理を(むさぼ)る。

 バレックの肌はまだ焼け跡や傷を残し、痛々しい風貌であった。


 「今日は、えらくやられたもんだな。大丈夫なのか?」


 ルイスは、苦笑気味にバレックへと問い掛ける。

 この五日間ずっと、ボロボロになってるバレックしか見ておらず、日に日にその傷は増えていっている。

 魔力による肉体の傷の回復も早いが、今日のはまるで追い付いていない。


 「いやなに、今日のは、さすがに死ぬかと思ったわ! ワシの魔力を全部使ってしまったせいで、回復が追い付いておらん。傷跡が残るやも知れんな。マリーに何と言えば()いのか……」


 バレックは珍しく怯えている様子だった。

 そんなにマリーが恐ろしいのだろうか。


 「目の前であんなの見せられたから、ちょっと興奮しちゃった!」


 イリアは、バレックがやられた事よりも、赤い少女のあの炎の魔法の凄まじい威力にテンションが上がっていた。

 案外、少女との別れ際に言おうとしてた事は、自分とも闘って欲しいとかなのかも知れない。


 「そんなに凄かったのか? それって、本当にどうにかなるのか?」


 「なんとかなるじゃろ。今日のは手応えあったぞ? 少しばかり話す事も出来たしの」


 「本当なのかぁ?」


 ルイスは、そう言いつつ、バレックの言葉の真意を、イリアへ視線をやって確かめる。

 イリアは、両手を使って、分からない、と言うようなポーズを取る。


 「分からないけど、今日のは、いつもの反応とは違ってたみたいだから、明日どう出てくるかって所じゃない?」


 いつもと違うから、明日はいける、そう言う訳でもない。

 明日になれば、また元に戻っているだけという事も、十分にあり得るのだから、過度な期待は禁物である。


 徐々に魔王ではなく、バレック本体の魔力が上がってきてはいるが、それでもあの少女の魔力を前にすれば、雀の涙、焼け石に水程度の微々たるものだ。

 もう、力で何とか出来るレベルでは無い事も理解しているので、会って話せない限りは、希望が無い。


 「明日無理だとしても、ワシは何度でも挑むぞ! 絶対に諦めんからな!」


 ちょっとムキになって言う。


 「はいはい、頑張ってくれ。誰も止めないよ。気が済むまでやってくれ」


 「毎回担いで帰ってきてる、こっちの事も考えて欲しいんだけど?」


 「あー……お疲れ様です」


 さすがはイリアさん、一人でバレックを担いでいる姿が、ルイスには容易に想像出来た。


 「お主の方はどうなんじゃ? 確か鍛練所で、魔力の鍛練をしておるのじゃろ?」


 「あぁ、シルビアとライドと一緒に頑張ってる」


 「ほぉ。して、ワシの弟子は、少しは成長したか?」


 「シルビアには、教わりっぱなしだよ。教えるの上手いし、助かってる」


 実際、ルイスの魔力の鍛練の進行具合を的確に把握して、その都度、それに合わせたアドバイスをしてくれているので、素直に聞き入れられる。


 「もう一人の男の方は、ちゃんとやってるの?」


 「ライドは、なんかあったのかな? 最初会った時とは別人くらいに大人しく鍛練に打ち込んでるよ」


 「あはは! アイツがねぇ?」


 ルイスには、何が面白いのかは分からなかったが、ライドを大人しくしてしまったのは、イリアなのだろうと察してしまった。

 セリナの村でも、小さい頃に、調子に乗った悪ガキがいればシメて、大人しくさせて、笑っていたのを思い出して、背筋を震わせた。


 「明日は、少しだけ早めに行く事にするぞ。ワシは、もう鍛練した所で、一撃でやられるのは確定しておる。一撃を放たれる前に、話せるかどうかの問題じゃ!」


 「んじゃ、アタシも一緒に行こうかな」


 「……なぁ、バレック」


 何かを考えながら、ルイスはバレックを呼んだ。


 「なんじゃ? お主も来るか?」


 「ん? あぁ、まぁ、行っても良いけどさ……そうじゃなくてさ」


 「だから、なんなんじゃ? さっきから、煮えきらぬのぉ」


 「あの子の魔法って、避けたら駄目なのか?」


 「……………………」


 「……………………」


 バレックは黙った。

 イリアも黙った。

 ルイスは、呆れた。


 「お、お主、勇者のくせに、そんな卑怯な手段を取ると言うのか?」


 「卑怯って、話をするのが目的だろ?」


 「ち、違うわよ! あれは、全て受け止めてこそ、意味があるのよ!」


 「そ、そんなもんなのか?」


 「そうじゃ! こちらが逃げてしまえば、心からの対話が出来んじゃろうが!」


 「でも、まともに会話出来てなかったんだよな?」


 「だから、それはこれからじゃない! 真摯に受け止める事によって、開かれる心の扉ってのがあるのよ!」


 「はぁ、そういう事なら、仕方ないのかな」


 「そうじゃ!」

 「そうなの!」


 いつの間に、この二人は話が合うようになったのだろうか。

 あのバムクーの話題には全く共感してくれなかったイリアなのに……。


 「とにかく、明日は早く行くからのぉ!」


 バレックは、一日目とは、また違った意味で怒って食堂を出ていった。


 「なんなんだよ」


 「ルイスが悪いわ」


 「俺が悪いのか?!」


 今回は納得いかなかった。

 いや、絶対悪くないだろ?

 一体この数日で皆何があって、こうも変わってしまったんだ?

 今日のは、全然納得出来ないまま、五日目が終わる。



 ━━明け方のロズネスの村。

 まだ村人達が寝静まるロズネスの村に一人の人間がいた。


 「いけませんね。こんな所でいつまでも油を売られていては、困ります」


 何者かが呟いた。


 「何故、この村が気に入っているのか知りませんが、そろそろ出ていって貰いましょう」


 何者かの手には、黒く(にぶ)く光るオーブを手にしている。

 そして、何者かの魔力が込められて、そのオーブが弾けて、黒い光は散散(ちりぢり)になって、大気に紛れていった。


 いつの間にか、何者かの姿も黒い光と共に消えていた。

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