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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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黄色の悩みは尽きない

 シャンデルの王宮内。


 石造りの格式のありそうな床に、肌触りの良さそうな淡い黄色の混ざった壁が長く続く廊下に、二人の聖騎士が立ち話をしていた。

 一人は白に銀色が混ざった髪で、肩の手前程まで伸びており、後ろで束ねている男、リックと、もう一人は、黄色の髪をツンツンに逆立てた男、バージだった。


 バージは、何か深刻な悩みでもあるのか、溜め息をついていた。

 リックは、それを見て楽しそうに笑っている。


 「おい! 笑いごとじゃねぇって! マジで!」


 「ははは! だって、バージさん。前にも似たような事で、ずっと悩んでたじゃないですか? えと、今度のは何でしたっけ?」


 どうやら、バージの悩み事は、リックにとっては格好のネタ話になるようで、同じ話題でも、両者の抱えるモノは、一方は頭で、一方はお腹だった。


 「だぁかぁらぁー、頭割りのザバンが、村娘に一撃で()されたって、連行されて来たんだよ!」


 「だーはっはっは! なんじゃそりゃ! その村娘はゴリラかなんかですか?」


 リックは、もう立つ事も出来ずに床に倒れ込むようにして笑う。

 まさに抱腹絶倒の様相だ。

 そんな爆笑のリックを冷たい目で見て、再び溜め息をつく。


 「なんで、俺には変な案件ばっかなんだよ……」


 「良いじゃないですか? そのまま報告して、送検しちゃえば!」


 「そんな簡単に言うなよ! 上がその報告を見て、素直に納得してくれれば良いけど、こっちがいい加減な取り調べをしてるなんて思われたら、俺が怒られるんだよ!」


 騎士の世界も、なかなか厳しいようで、罪人を送検するにも、ちゃんとした報告書を(まと)めなければならないらしい。


 「大体、B級犯罪者がなんで、村娘にやられるんだよ? B級だぜ? B! 級!」


 B級犯罪者は、それほど問題視されてはないが、実力で言えば、強さに(むら)はあるが、中堅の聖騎士で捕えられるくらいの実力者だ。

 その実力者を一撃で倒すというのだから、もはやシャンデルの聖騎士の中でも指で数える程しか居ないだろう。

 単純にB級犯罪者を倒せる者は、シャンデルの騎士なら、無論幾らでもいる。

 問題は、一撃という事なのだ。

 そんな一撃で倒す力を、一介の村娘にどうしてあると思えるものだろうか。


 「居るんじゃないですか? 広い世界ですから、村娘でも、そんな強い人だって。それともバージさんは、男女差別ですか?」


 「んな事ねぇよ! そりゃ、聖騎士の中じゃあ、俺なんかより強い女性だって、多くいるけどよ。ドミアの村だぜ? あの田舎村にそんな化け物みたいな女が居るのかよ?」


 バージは、困り果てている。

 村人から聞いたのも、娘が一撃のもとに倒した、と言うし、ザバン本人も、女に一撃で倒されたと言っている。

 正直に自白してくれるのは有り難い限りではあるのだが、この場合、こちらが素直に信じて報告して送検出来ない。

 なんなら、もっと見栄を張って、派手な闘いの末にやられたと言って欲しいくらいだ。


 「あ、そういや……あれ? ひょっとして、あれか?」


 「ん? どうした?」


 リックが何かを思い出したらしく、笑うのを止めて、何かを真剣に考え始めた。

 しかし、なかなか、あれだの、それだの、これだの、と要領を得ない。


 「だぁぁ! なんだよ? さっきから、あれだの、これだの!」


 「いやね。そういや、ルイスが故郷のセリナの村に、自分より強い女の幼馴染みが居るって、言ってたんすよ」


 「はぁ? 勇者になった奴より強い幼馴染み? でも、それは、勇者になる前の話だろ?」


 そう、ルイスがリックに言っていたのは、勇者の訓練を受けている時期の話で、その当の本人のイリアは村に居るのだから、村を出る前までの話でしかないのだ。


 「だから、もうその幼馴染みより、強くなってるだろうから、関係無いだろうなって、思ったんすけど、ルイスは、『多分、今でも自分より強いし、アイツを越える事は出来ないよ』って言ってましたよ?」


 「なんだそれ? セリナの村にそんな恐ろしいのが居るのか?」


 「もし、その話が本当で、その幼馴染みが旅についていってて、ドミアの村に寄ってたら、どうっすか?」


 「ど、どうっすか? って言われてもな……そんな偶然あるか? 大体ルイスがそこに居るなら、ルイスが何とかするだろう?」


 普通に考えれば、村のピンチに勇者が何もしないで、女性に任せるなんて無いだろう。

 勇者が来てるなら、勇者が何とかするもんだ。


 「だから、あれだの、これだの、悩んでたんじゃないっすか! もう、俺だって、そんな事分かってますよ!」


 リックも怒った。

 一応は、真剣に何とかしてあげようと悩んでくれていたみたいだ。


 「それは悪かったな。けど……どうしてくれたもんかな。正直に報告だけしても、絶対怒られるぜ? 俺だって、その報告受けたら、もっとまともな報告は出来ないのかって思うだろうしな」


 「あ! そうっすよ!」


 「ん? 今度はどうした?」


 今度の閃きは、さっきの事もあって、バージも期待を持って聞こうとする。


 「ハイドさんですよ! そのセリナの村に元聖騎士のハイドって人が武術指南をしてくれてたって、ルイスが言ってましたよ!」


 「あぁ! ハイドさんか!? あの人なら確かに何か分かるかも知れないな! 俺も見習いの時に何度か話した事あるから、聞いてこようかな!」


 「俺もついてって良いですか? ルイスの師匠って人見てみたいし!」


 「んー、まぁ、今回は、お前のアイディアのお陰だからな。特別に今回だけだぞ?」


 「よっしゃー! バージさん! あざっす!」


 リックも、ルイスが色々と故郷の話をしてくれていたので、ハイドに限らず、どんな村なのか気になっていた。


 「そんじゃ、すぐ支度しろ! 今すぐ行くぞ!」


 「も、もうっすか?」


 「当たり前だ! もうこんな案件なんて、さったさと終わらせたいんだよ!」


 「分かりましたよ。準備するんで、門前で待っててくださいよ」


 「おう。じゃあ、後でな」


 リックは走って、自分の部屋へと支度に戻って行った。

 バージもようやく希望の光が見えてきたようで、先程までの暗さが消えて、意気揚々とセリナへと向かう支度を急ぐのだった。

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