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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
40/63

愛が欲しいだけ

 ━━三日目。

 ムカつく。

 イライラする。

 なんで、わざわざやられにくるの?

 どうせ……どうせ、最後には見捨てるくせに。

 手に余って、怯えるだけのくせに、もう期待なんてしてない。

 私は私の探求心を満たすだけ。

 いつか、このくだらない世界なんて、封印されるだけの魔王に代わって滅ぼしてあげる。


 さすがにあれだけやられれば、もう来ないだろう。

 一日目は手加減し過ぎた。

 風で吹き飛ばす程度に済ませたから、調子に乗って、まだいけるとか勘違いしてきたけど、昨日の雷ならもうビビって、また来ようなんて思わないだろう。


 まぁ、また来た所で、もっと威力をあげてやれば良い、もっと立ち向かえなくしてしまえば良いだけの事。

 私には、その力が……魔力がある。


 あぁ、イライラする。

 

 何で私なんだろう。

 なんで他の『人間』は、あんなに才能が無いんだろう。

 才能がある事がそんなに悪いの?

 才能を伸ばす事がそんなに罪なの?

 才能を活かす事がそんなに危険なの?

 私から言わせれば、才能に気付けない、才能を伸ばそうともしない、才能を活かそうともしない人間の方がよっぽど罪深い。

 自分達の無力さ、無能さを棚に上げてるくせに、人の事をとやかく言う資格なんて、そもそも無いでしょ。

 こんな世界、本当にどうでもいい。

 早く終わりにしたい。

 もう……本当に終わりにしたい。


 「おーい! 今度こそ、しっかり話をしようではないか? 出てくるが()い!!!」


 信じられない。

 一体どういう神経をしているのか。

 死なない程度に加減してあげてるのを良いことに、何とかなるとか、勘違いしてるの?

 それでも、昨日の魔法を食らって、また来ようとする神経が分からない。


 セバスチャンがこちらの顔を窺うように見てきた。

 鬱陶(うっとう)しい、アナタが気にしなくても、私がすぐに終わらせるんだから、もう引っ込んでいたら良いのに、わざわざ様子を見に来なくて良い。


 私は、セバスチャンと目を合わせる事はなく扉を開けて外へと出た。


 「おぉ、三度目の正直じゃ、今度こ━━」


 今度は、風の魔法の威力を上げ、吹き飛ばすだけでなく、真空の刃も混ぜて、あの男の全身をズタズタにした。

 見た目だけなら、昨日の雷の魔法の方が威力はありそうだけど、実際はこの風の魔法の方が威力が上だ。


 あの男は、また大木へと吹き飛び、大木にすら亀裂が入った。

 今日はこれでおしまい。


 「き、効いた……のぉ」


 なんで、アイツ立ち上がろうとしてるの?

 本当にどうなってるの?

 威力は確かに上げてるのに、立ち上がれるはずないのに。

 一体アイツは何なのよ。


 「不快。もう終わりなのに、立ち上がらないで」


 立ち上がりきる前に雷の魔法を放った。

 アイツは再び黒焦げになって、動かなくなった。

 今度こそ終わり。

 私は、家へと戻り、扉を閉めた。


 ━━四日目。

 もう今度こそ来ないだろう。

 話す余地も与えずに三日も痛めつけたのだから、さすがの馬鹿でも無理だと悟るだろう。

 何の目的があって、来ているのか知らないけど、どんな理由があった所で、あれだけの魔力を見せ付ければ、万に一つの耐えうる可能性が無い事に気付くだろう。

 今度……来たら、来たとしたら……いや、徹底的に仕留めよう。

 それで良いんだ。

 そうするしかないんだ。

 だから……もう、来ないで。


 「おーい! 今日は、昨日のようにはいかんぞ!! 覚悟せい!」


 なんで来るの?

 なんで来れるの?

 もういい、もういい、もういい、もういい、もういい、もういい、もういい、もういい、もういい、もういい!!!


 セバスチャンが来るより、早く外への扉を開ける。


 「おぉ! 今日はなかなか早━━」


 両手で魔力を練り、風の魔法を放つ。

 勿論、本気なんて出す必要はない。

 昨日とは比較にならない、まるで風で創られたドリルのように、アイツへと襲い、大木へと向かった。

 そして、いつも受け止めてくれる大木すらも、倒壊する。


 「もういい。いつまでも付き合うなんて思わないで」


 そう言い捨てて家へと戻る。

 あの男は、立ち上がる事なんて有り得ない。


 ━━五日目。

 もう来ないだろう。

 昨日のは、これまでのとは比較にならない威力で放った。

 もう……来ないだろう。

 何の用だったんだろうか。

 話だけでも、聞いておけば良かったかも知れない。

 ……いや、どうせ、大した内容じゃないだろう。

 どうでもいい事だ。

 どうせ、その内この世界なんて無くなるのだから。

 この世界が存在する価値なんて無い。

 人間なんて生きてる価値無い。


 「おーい! 少しくらい話を聞かぬか!? お主、ちと頑固じゃのぉ!」


 なんで………………来るの?

 なんで諦めないの?

 なんで恐がらないの?

 なんで逃げ出さないの?

 なんで怯えないの?

 なんで(おのの)かないの?

 なんで戦慄(わなな)かないの?


 「なんで平気で来れるのよ?!」


 私は部屋で叫びながら、扉へと向かう。

 セバスチャンは、その声に驚いていた。


 「もういい加減にして!!! アナタと話す事なんて何も無いの!!! もう来ないで!!!!」


 「うむうむ、やっと話してくれたか! なぁに、お主に無くとも、ワシの方が話があるのじゃ。お主、ワシの仲間になれ!」


 何なの?

 あれだけやられて、あれだけボロボロにされて、あれだけ拒絶したのに、なんでそんな事を言ってくるの?

 分からない。

 意味が分からない。

 意図が分からない。

 意志が分からない。

 意思が分からない。


 「もうやめて! やめて! やめて! やめて!! なんでやめないの?! アナタにそんな事する理由なんて無いじゃない!!!」


 そして、男はその言葉がくると思っていたのか、ニヤリと笑って、


 「いや、ある。ワシはお主に惚れた」


 「……やめろ」


 「ぬ? 何か言ったか?」


 「もう消えろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 赤い炎の魔法がアイツを襲う。

 それはもう、今までのものとは、桁どころか次元の違う魔法だった。

 彼女の本質は炎。

 怒りによる暴発。

 今までの加減をした魔法の威力とは訳が違う。

 全力ではないけど、加減をしてない。

 今までのは、死なない程度に加減をしているが、今回のは、殺せる程度には威力がある。

 灼熱の業火がアイツを……やってしまった。

 私は……また…………やって……。

 アイツへ襲った炎は燃え盛り、天高く火柱が昇る。

 私は…………。

 私は…………。

 私は…………。

 もうやめて…………これ以上は……。


 その時だった。

 炎は黒い禍々(まがまが)しい魔力を帯びて、掻き消された。


 「今のは……さすがに、ヤバかったぞ…………」


 掻き消された炎から男は姿を現す。

 焼けただれた皮膚、ボロボロになった肉体と共に……笑っていた。

 そして、そのまま……意識を失い、倒れてしまった。


 気付けば、一日目に同伴していた女性が駆け寄ってきていた。

 深刻そうに男の容態を確かめ、大丈夫だったのか、安心した風に男を片手で担ぎ上げた。

 こっちをチラッと見てくる。

 何か言おうとしたが、思い止まったのか、そのまま帰っていった。


 「なによ……」


 もう(いや)だ。

 あんなのはごめんだ。

 放って置いて欲しいのに……でも……だけど…………それでも………………。

 私は、家へと戻る。

 セバスチャンは、さっき以上に驚いているみたいだったけど、どうでもいい。

 私は部屋へと帰って(ふさぎ)ぎ込む。

 もうあんなのは……(いや)なんだ。



 ━━ガランドロックのヴァーリという魔術師の村に赤い少女は産まれた。

 最初にその才能を確認したのが、二歳の時である。

 少女は、二歳にして魔法を会得した。


 「レイチェル! 凄いわ! 貴女は天才よ!」


 「あぁ! 早くても六歳、七歳くらいから魔法を放つ事が出来るのに、魔術師界に革命を起こすんじゃないか?」


 お父さんも、お母さんも喜んでくれた。

 嬉しそうに愛しそうに抱いてくれた。

 とっても(あった)かくて、幸せ……。

 赤い少女、レイチェルも嬉しかった。

 レイチェルが成長すれば、喜んでくれる。

 褒めてくれる。

 愛してくれる。

 誇ってくれる。

 堪らなく幸せな気分になった。


 だから、もっともっと魔法を練習した。

 難しい書物も頑張って読んだ。


 どんどん成長する私を両親は、本当に期待し、応援し、愛し、抱き締めてくれる。

 六歳の時には、もう一通りの四大魔法をバランス良く扱う事が出来るようになっていた。

 それは、もう見習い魔術師の域を越えていて、最年少でも十四歳で達成出来るレベルの事だった。

 両親だけじゃなく、村中もレイチェルを期待し、応援し、尊敬すらしてくれた。


 もっと周りの期待に応える為、もっと愛して貰う為にレイチェルは、こっそり呪文を覚えた。

 初めて呪文を唱えて放つ魔法の威力に興奮した。

 そして、その一回で感じてしまった。

 悟ってしまった。

 呪文で、精霊の魔力を凝縮し、扱えるなら、自身の魔力自体に精霊の魔力を混じらせて増幅出来るのでは無いのかと。


 そこから、レイチェルは瞑想(めいそう)の日々に入った。

 自分の魔力を大気に溶け込ませるイメージが基本的なものだが、それだけではなく、大気に充満している、本来感じ取る事の出来ない、精霊の魔力を一生懸命に探り、そして自分自身へと同化させるようにイメージした。


 最初は全く上手くいかなかったが、試行錯誤を繰り返し、八歳の時にその瞑想は完成した。

 弱冠八歳にして王宮魔術師の魔力を所有してしまった。


 そして、村で優秀な魔術師は、そのレイチェルの魔力を感じてしまった。

 その魔術師は、今までの期待や尊敬の眼差しから、恐怖と畏怖の眼差しへと変わってしまった。


 「おい、あの娘は天才なんかじゃない! 化け物だ! これ以上魔法を使わせるのは止めておいた方が良い!」


 「そ、そんな言い方無いわ! 確かに信じられない程の成長ぶりだけど、魔術師として、歴史に名前を残すくらいの天才魔術師になるわよ!」


 レイチェルの両親は、周りが怯えていく中で、それでもレイチェルを信用した。

 余り、村の人を警戒させないように、魔法は控えさせるようにした。


 レイチェルは、魔法の鍛練を止められたので、一層魔力の鍛練の瞑想の時間が増えた。

 三年後、レイチェルは八歳の姿のままだった。

 周りの子供達が成長していく中、レイチェルは八歳のままだった。

 魔力が細胞を活性化し、老化を遅れさせるのを何かの書物で、何となく理解していたレイチェルではあったが、まさか成長すら抑え込まれるとは思ってなかった。

 成人が何十年と掛けて老けていくのに対して、八歳くらいの年齢の成長の速さはあっという間だというのに、見事に身体は成長してなかった。


 レイチェルの両親すら、怯え始めた。


 この子は、一体何なのか?

 本当に自分達の産んだ子供なのか?

 全然成長しない……これじゃあ、まるで…………魔族のようだ。

 本物の化け物じゃないのか。

 なるべく、この子に悟られないように、機嫌を取るようにしようと考え出した。


 レイチェルは、周りからの視線が変わっていくのを徐々に感じていた。

 それでも、頑張っていればきっと認めてくれる。

 自分の努力が足りないからだと、もっと鍛練をすれば……また愛してくれる。

 愛して欲しい。

 あの(あった)かくて、心地良い空間に包まれたい。

 だから、ちゃんと頑張ろう。

 きっと皆の期待してる程の事が自分には出来ていないだけなんだ。

 そして……そして十二歳の時。


 レイチェルの魔力は、王宮魔術師の魔力すらも凌駕してしまった。

 誰ももうレイチェルを人として見れなくなった。

 レイチェルの両親は恐怖で気が狂いそうだった。

 だから、村の人達と相談の結果……レイチェルを殺す事にした。


 夜中、寝ているレイチェルの首を締めた。


 「恨まないで! 恨まないで! 恨まないで! 恨まないで! 恨まないで!」


 苦しさに目を覚ますレイチェルが見たものは、我が子を殺さざるを得ない悲しき両親の表情ではなく、得体の知れない化け物に呪われないかと怯えている表情だった。

 愛して抱き締めてくれた腕は、今レイチェルの生命を奪おうとしている。


 「パパ……ママ……」


 それでも、愛して貰おうとレイチェルは呼び掛ける。


 「う、うるさい!!! お前なんか俺は知らない!! 化け物め!!!」


 ば、け、も、の……?

 私が?

 化け物?

 どうして?

 なんで?

 こんなに頑張ってるのに。

 こんなに愛されたいのに。

 こんなに愛してるのに。


 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、愛してくれないの?


 「うあぁぁぁぁぁあああぁぁあぁぁああぁぁぁぁああああぁ!!!!!!!!」


 魔力を持ちすぎた。

 魔法の鍛練をせずに、魔力を持ちすぎた。

 魔法の制御が出来ない。

 怒りと悲しみで暴発した魔力は、大爆発を起こし、一瞬で村を火の海へと変えてしまった。


 目の前に炎が燃え広がる。

 赤く煌々と思い出も(さげす)みも全てを燃やし尽くす。


 崩れる家屋。

 村全体が燃える。


 赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い、赤い。


 漆黒の闇夜も赤く染まる。

 地面すら赤く染まる。


 それは炎ではない。

 液体、赤い液体、人の液体、人間の…血。


 家屋も燃える。

 草木も燃える。


 花も燃える。

 衣服も燃える。

 本も燃える。

 家具も燃える。

 食糧も燃える。

 紙幣も燃える。

 虫も燃える。

 空も燃える。

 動物も燃える。

 人間も燃える。

 命すら燃える。


 そんな全てを容赦なく燃やす景色が見える。

 全てを燃やしているはずの炎の中で、景色を見ている。

 景色を見ているそれ(・・)は、燃えてなかった。

 たった一人だけ燃えていなかった。

 たった一人、レイチェルだけは燃えていなかった。

 絶対的に絶命的に燃えている炎の中に一人だけ、別の空間に居るのかと思わせるくらいに、燃えていない。

 その少女は赤く染まらない、否、足には血がまとわり、血に染まる。


 「あああぁあぁぁああぁあああぁああぁああああ!!!!!!!!!!」


 レイチェルは叫んだ。

 少女の出すような可愛らしさの欠片も無い、狂気に取りつかれたように、全てを失ったように、叫んだ。

 レイチェルのフードが肩へと落ちる。

 レイチェルの髪は……赤かった。


 そこはレイチェルにとっての地獄の始まりに過ぎなかった。


 それから、レイチェルは一人当ても無く放浪する。

 瞬く間に、レイチェルの噂は広がっていた。

 前から、異常な魔力の持ち主として、噂が広まっていただけに、村が消えた事で更に噂は加速する。


 レイチェルを受け入れるどころか、恐れて殺そうとする輩ばかりだ。


 そんな中、純粋に魔力や魔法を研究している魔術師が、レイチェルに興味を持って声を掛ける。

 それでも、レイチェルは嬉しかった。

 そんな自分に声を掛けてくれるのだ。

 好意を抱いてくれるのだ。

 レイチェルは、喜んで協力した。


 だが……レイチェルのそこ知れない魔力を、まだまだ増していく魔力を察すると、あの顔に……レイチェルを殺そうとした両親と同じ顔に(ゆが)んでいく。


 もう(いや)だ。

 誰も信じられない。

 誰にも愛されない。

 誰も愛さない。

 誰も近付けさせない。


 フードを被り、自分が自分である事をバレないように、大陸中を転々とする。

 何処へ行っても休まる事の無い身体と心。

 何十年経っただろうか。

 自分の目の前に、そこそこ大きな魔力を持った女が現れた。


 「アンタ、ひょっとしたら、赤い髪の魔術師さんやないか? いやぁー、いっぺんお目に掛かりたい思うててん! ウチラッキーやわぁ!」


 もう何も期待しない、コイツもどうせ勝手に怯えて、恐がって、殺そうとしてくるのだから。


 「なぁ? どうせ行く当てないんやったら、ウチにおいでぇや!」


 「断る。アナタなんて信じられない」


 そう言って、雷の魔法を放つ。

 女は、慌てて自分の雷の魔法で、こちらの雷の軌道を変えて回避する。

 うん、そこそこ強い。

 でも、その域は、何十年も前に越えている。


 そして、両手で風の魔法を練り上げて、辺り一帯を巻き込むレベルの竜巻のような強力な風魔法を放った。

 山道で岩肌を真空の刃でガリガリと削りながら、女を襲う。

 女も魔力で防ごうとするが、防ぎきれない。

 風が止む頃には、女は地に伏していた。

 かなり切り刻まれて出血しているみたいだが、息はある。


 「ちょ、ちょい待ちぃや! 敵わんわ! いきなし何してんねん!! ウチはまだまだやりたい事あるから、死にたないねん!」


 「それなら、私に構わないで」


 あれだけ食らってまだまだ元気そうなのには、驚いた。


 「とは言えや。君は行く当てないんやろ? やったら、ウチに来たらええやん」


 「アナタを信じないって、言ったはず」


 「聞いたわ! 別に信じんでええよ。ただ住む場所用意したるだけや」


 「不可解。何のつもりなの?」


 「ウチは村を立ち上げて、今その村を大きくしとるんやけど、もうイッコ夢あってやな。それが最強の魔術師やねん。まぁ、君は別格として、その君が近くにいると良い目標なるやん。その魔力を常に近くで感じれんねんやろ? ゾクゾクするわ」


 なんでこの人は、ボロボロになっても、不敵に笑ってるんだ?

 でも、まぁいい、放浪してるのも疲れたから、静かに住める場所なら、それでいい。

 そうじゃなければ、また出ていけば良い。


 結局、村の人々が反対し、あの村長は不服そうに、申し訳なさそうに丘の上に家を建ててくれて、そこに住む事になった。

 セバスチャンとか、変なおじさんがついたけど、結果として、そちらの方が静かに暮らせるから、私はそれで了承した。



 ━━そして、今、またボロボロになりながら、笑っている男が現れた。

 カノンは、本当に自分の為に私を置いている。

 あの男は……私に、私の事を……惚れたと言ってくれた。

 また…………来て………………くれるかな。

 あんなもの見せちゃったら、もう来ないかな。

 私は、あと一回くらい、信じてみても良いかな。

 苦しいよぉ。

 辛いよぉ。

 もう厭だよぉ。

 もう一人きりは嫌だよぉ。


 誰か、助けて。


 ━━六日目。

 あの男は……来なかった。

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