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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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「相」手の「心」を「想」う

 ルイスは、魔術師の鍛練所のあの実技の間へと来ていた。

 特訓しようとは思ったが、今一つ、魔力の事に関しての知識が深く無いので、周りの見よう見まねで瞑想(めいそう)を始める。


 瞑想するのは良いのだが、本当にこれで魔力が高まるのか、いや、こんな事くらいで高まらないだろ、普通に剣を振ってる方が良いのでは無いか、誰か他の魔術師にでも聞いてみた方が良いかな、等々雑念が満載で一向に瞑想出来ずに無駄な時間を過ごしていた。


 「あー! 勇者様です!! こんな所で何やってるですか? ひょっとして、万物の理を悟るおつもりですか? 立派です! 立派なのです!!」


 意味が分からない。

 瞑想すら、ろくに出来ないのに、そんな崇高な悟りを拓けるはずがない。

 周りの人間に誤解される前に否定しておこう。

 聞き覚えのある声と特徴的な喋り方なので、目を閉じた状態でも誰か判別は出来る。


 「やぁ、シルビアさん。俺は何も万物の理なんて悟るつもりはないし、何なら、ここに居る人達より、格段にレベルの低い瞑想しかしてないよ」


 目を開けると目をキラキラと輝かせたシルビアが居たが、そんな眼差しを構う事なく、その尊敬の念を打ち砕いた。


 「それは、残念です。勇者様なら、私達の常識の域を越えた事をしてると思ったです」


 めちゃくちゃガッカリしていた。

 冗談ではなく、本気だったのか?

 なにやら、見た目からして、子供の夢を壊してしまったような罪悪感を覚えてしまった。


 「ご、ごめんよ。期待に沿えなくて」


 ルイスも人が良いので、素直に謝ってしまった。


 「いえ、私こそ過度な期待をしてしまったです。ごめんなさいです」


 なんか、そういう風に言われると、今度は見損なわれたような気がする。

 この子、ひょっとしてわざとやっているのではないだろうか?


 「それより、目が腫れてるけど、どうかした?」


 そう、シルビアの目は少し腫れていて、赤く充血していた。


 「はわわ! こ、これは、寝坊して起きて慌てて来たからです!! 他に理由なんて、絶対に皆無なのです!」


 なるほどー、寝起きだからかー。

 きっと何かあったんだろう。

 聞かれたくないみたいだし、触れずにいよう。


 「そ、それよりです! 勇者様は魔力の鍛練をされてるですよね?」


 「ん? そうだけど?」


 「もし、良ければ一緒に鍛練しましょうです!」


 なんとも有り難い申し出だ。

 正直な所、自分一人では、まるでちゃんと鍛練出来ている気がしなかった。


 「それは嬉しい申し出だけど、シルビアさんは、俺なんかのレベルと一緒に鍛練してたら、邪魔にならない?」


 「そんな事ないです、です! 師匠に魔力のコントロールの鍛練が良いと言われたですから、きっと勇者様と一緒です!」


 「そうなのか?」


 「そうなのです! 勇者様がさっき瞑想してたのも、魔法を扱う為と言うより、魔力の扱い方を上達させようとしてたですよね?」


 なかなか、ちゃんと察しているではないか、これは、やっぱりわざとだったのかも知れない。

 確信犯だと疑わざるを得ない。

 まぁ、もうそんな事は良いとして、確かに魔法は性に合わないので、魔力のコントロールと質の向上が目的ではあった。


 「確かにそうだけど、シルビアさんが教えてくれるの?」


 「私だって、教える事が出来るです! 私は師匠の優秀な弟子なのです!」


 一体いつの間にそんなに熱い師弟関係が築けたというのだろう。

 昨日のシルビアの雰囲気と少し違うような気もする。

 気のせいかも知れないけど、何か吹っ切れたというか、前を向いたというか、上手く言えないけど、そんな気がした。


 「じゃあ、お願いします」


 ルイスも、これから先、自分の道を貫く為に力が要る。

 それは、気持ちだけではどうしようもない、決定的な強さが。

 仲間に頼れば良いというものではなく、自分が進む為にも、それは必要なのだ。


 「良いですか? がむしゃらに瞑想しても意味は無いのですよ! 体内には魔力が確かに存在してるです。それを身体の中、隅々に行き渡らせるイメージを持つです。そうすると身体中がポカポカと温かくなるです。それが魔力なのですが、それを更に大気の中に溶け込ませるように、この部屋一杯に自分の魔力を広げるようなイメージで外へと出すのです……」


 シルビアは、そう説明しつつ、目を閉じて瞑想し始めた。

 ルイスもそれを習うように、真似る。

 言われた通りにイメージしてみる。


 「雑念を持ったら駄目です。魔力のエネルギーだけ感じるです。集中しないと感じないです。更に広げるには、もっと集中がいるです。雑念を持つと魔力は一気に弾けるように無くなって最初からです」


 言われた通りに集中する……。

 確かにさっきまで雑念だらけで、やっていた時とは違い、何か身体の内側に小さく燃えるようなものを感じる。

 何だろう、闘ってる時に内側から湧いてくる不思議な力に似ている。

 勇者の鍛練で身体を動かしている時にも感じた、このエネルギーが魔力なのだろうか……?

 しかし、このエネルギー、全身に広げるのが難しい。

 どうしても、お腹から胸辺りまでしか、エネルギーを感じない。

 腕や足には全く感じず、余りにも広がらなくて歯痒くなると、エネルギーそのものが、シルビアの言う通りに弾けるように消えて無くなる。


 「む、難しい……」


 「焦っては駄目です。呼吸するです。その空気を全身に入れるイメージでやってみるです。イメージしやすいのがあれば、何でも良いです。血液の流れと一緒に魔力を身体中に流すイメージでも良いです」


 イメージ……なるほど。

 深く呼吸する……物理的には肺にしか溜まらない空気が、身体中に広がる感じがする。

 そのイメージと呼吸と共に魔力を練る。

 さっきまでより、肩や太股辺りに温かさを感じるようになった気がする。

 だけど、それ以上はいかない。


 「なんか、これ以上いく感じがしない」


 「駄目です。そんなすぐに全身にいかないのは当たり前です。勇者様なら、闘ってる時は無意識にそれが出来てるはずです。出来ないはずないです。ゆっくりやっていくです。無意識に出来るのと、意識的にやるのでは、魔力のコントロールの質そのものが変わってくるです。とりあえず、それが全身に出来るようになるだけでも、勇者様は、もっと凄くなるです」


 そういうものなのだろうか。

 だけど、肩や太股まで広げられただけで、身体に力が溢れてくる。

 闘っている時には、確かに全身が熱くこのエネルギーが広がっていた気がする。

 イメージが大事なら否定的にならない方が良いのだろう。

 じっくり腰を据えてやっていこう。

 ここに居る間は、この鍛練を続けられるし、旅の合間にも少しの時間でも、この鍛練なら出来るはずだ。

 焦らず、ゆっくり、魔力を感じる……。


 「たはぁー!」


 身体を動かしてないはずなのに、急に疲労感が襲い、気付けばルイスは、肩で息をしていた。


 「少し、インターバルを取るです。ずっとやるのは、とても疲れるですから」


 シルビアは楽しそうにそう言ってくれた。

 シルビア一人なら、もっと続けられるだろうに。


 「俺なんかに合わせなくて、続けてくれて良いんだよ?」


 「良いんです。私も焦らずゆっくりやるです。なんか自分の魔力が心地好く感じるです。こんなの初めてです。きっと師匠のアドバイスのお陰です!」


 「はは!アイツは魔力のエキスパートだからな。きっとシルビアさんには、バレックの言う通りの魔力が宿ってるんだろうな」


 「そうです! 私は師匠の優秀な弟子なのですから、それくらいあります!」


 やっぱり、何かあったんだろうな。

 昨日より、この子は強くなっている。

 自分も負けてられない。


 「勇者様? シルビアも何やってるんだ?」


 そこへライドがやってきた。

 何やらお腹を抑えている。

 昨日のような自信に満ち溢れた顔が、今日は無く、どこか元気が無さそうだ。


 「ライドさん……あの、私、勇者様と一緒に鍛練してるです。その……もう私は、へっぽこなんかじゃないです! 立派な魔術師になるです!」


 「…………」


 「はわわ……調子に乗りましたです。ごめんなさいです」


 「いや……俺の方こそ……ごめん。俺はお前が羨ましかった。俺なんか特別でも、優秀でもない」


 「そ、そんな事ないですよ! ライドさんは、凄く魔法を扱うのが上手です!」


 「それだけだ……なぁ、俺も一緒に鍛練して良いかな?」


 「はわ! おもちのろんです! 勇者様も良いですよね?」


 「あぁ、こちらとしてもその方が有り難い限りだ」


 どうやら、変わったのは、シルビアだけではないらしい。

 一体、一日の間でどうしてこうも変われるのやら。

 何がキッカケで人が変わるのか分からないものだ。

 こうして、三人の鍛練が始まった。



 ━━ロズネスの村の南の丘の上、黒焦げでバレックが倒れていた。


 「これまた、酷くやられちゃって……これちゃんと生きてるの?」


 イリアは、苦笑しながら近付いて安否を確認する。

 息はある、鼓動もある、大丈夫だ。

 確認が終わると、片手でバレックを持ち上げ、肩へと担いだ。


 「まったく、か弱い乙女に何させてるのよ、コイツは……」


 誰の事を言っているのか分からないが、イリアはそのまま担いで、バレックを宿まで連れて帰った━━


 ━━「かはぁ!!!」


 バレックは、宿の自室のベッドの上で目を覚ました。


 「やっとお目覚め?」


 イリアは、椅子に座って、腕と脚両方組んで、目覚めるのを待っていた。


 「ぬぬ? お主が運んでくれたのか?」


 イリアは両手を顔辺りまで挙げてポーズを取る。

 その行動が、肯定を意味しているようだった。


 「かはは! そうか、感謝するぞ!」


 「ねぇ、感謝ついでに聞いて良い?」


 バレックは、何の事だろうか、分からない表情でイリアを見る。


 「なんじゃ? 申してみぃ」


 「なんで、身体をボロボロにしてまで、あの子に(こだわ)るの? 別に何も無いんでしょ? 村から迫害を受けて可哀想だから?」


 理解出来なかった。

 それは、確かに村八分にされれば、何も事情の知らないものからすれば、一方的に迫害を受けてる人間に同情してしまう事だろう。

 だけど、何もしてない相手に、何なら好意的に近付く相手に、無慈悲な一撃を理由もなく与えてくる人間に、そこまで肩入れする意味が分からない。


 「かはは! お主は、素直じゃからな。見たモノを見たままに受け止めおるな」


 「悪い? でも、そうでしょ? 言い方悪いかもだけど、噂云々(うんぬん)無しにしても、あんな一撃を問答無用で、何もしてない人間に食らわせるなんて、やってることは獣みたいなもんじゃない?」


 「その気持ちも分からんではないが……ならば聞くが、何もしてないワシにあんな一撃を与えて、撃退しなければ、自分を守れないと思っておる奴の気持ちお主に分かるか?」


 「え?」


 「誰も自分に近づけたくないんじゃ」


 「だったら、アンタはなんで……?」


 ここまで聞いて、イリアの中に過去が甦る。

 誰とも話したくない、誰ともふれあいたくない、何とも向き合いたくない、何にも……もう傷付けられたくない……そんな気持ちが。

 だから、拒絶した。

 だから、閉じ籠った。

 だから、世界から目を閉じた。

 だから、未来を否定した。

 何も近付いて欲しくなかった。

 優しい言葉も、癒しの言葉も、慰めの言葉も、どうせ全てが綺麗事で、全てが上っ面の体裁(ていさい)の言葉でしかないと思った。

 だけど……。

 だけど、本当は……。

 本当は、誰かに手を差し伸べて欲しかった。

 救いの言葉を、絶望から助け出してくれるような救いの言葉を言って欲しかった。

 そして、ルイスは、自分を救ってくれた。

 あの泣き虫で、弱虫のルイスが、自分が欲しかったものを与えてくれた。

 あれだけ拒んでいたのに、それでも踏み込んで来てくれた。

 それが嬉しかった。

 それが(うれ)しかった。

 それが(うれ)しかった。


 ならば、この男は、この魔王は、今何を想っているのだろうか。


 「あの娘を救ってやりたいんじゃ」


 同じだ。

 まるで、ルイスと同じじゃないか。

 自分が傷付くことになるかも知れないのに、拒絶する人間の心の底の叫びが、きっと聞こえてしまったのだ。

 だったら……もう、理解出来てしまった。

 シンプルだ。

 助けて、そう聞こえてしまったから、この男は助けるんだ。


 「そう、じゃあ、アンタが何度気絶させられても、ちゃんと運んであげるから、頑張って。応援してる」


 イリアは、初めてバレックに、魔王に素直な笑みを向けた。


 「それは助かる。苦労をかけるが任せる」


 「任された!」


 イリアはそう言って、軽く片手を振って部屋を出た。

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