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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
37/63

お主は弱くない

 宿の一室、ルイスが去った後、バレックは一人、瞑想(めいそう)をしていた。


 恐らく、魔王として生まれて、初めての自己研鑽行為なのかも知れない。

 勿論、そんな事で魔王の魔力は戻らない。

 魔王の魔力は、(ほとん)どが本体の身体にあるのだから、バレックの肉体でそれの魔力を生み出す事は出来ない。

 つまり、今魔王がやっているのは、バレックそのものの魔力の底上げだ。

 元々、それほど魔力について素人に等しい自警団のバレック。

 魔王はそのエキスパートである以上、バレックの魔力をある程度のレベルまで引き上げるのに、そう時間は掛からない事だろう。

 とは言え、一朝一夕のものでは、どうにもならないのも事実。

 だからこその長期戦。

 今日が無理でも、また明日、明日が無理でも、また明後日と、日々魔力を上げて挑む腹積もりだ。


 昨日の一撃……正直、不意の一撃なので、耐えきる事は出来るのだが、それでも、一撃で気絶させられる程の威力であるのは、バレックにとっても脅威であり、話に持ち込むまでにも到れない。


 それでも、バレックは別段深く考えている訳でも、悩んでいる訳でもない。

 回数さえこなせば、何とかなるのなら、相手の根気さえ折ってしまえば、それで済むのなら、何度でも繰り返せば良い。

 バレックにとって、それは特別な事ではない。

 今まで、何度封印されようと、何度失敗しようと、何度挫折しようと、最後には笑って乗り気ってきたのだ。


 魔王自身の魔力にも頼らなければならないだろうが、カノン同様に格の違う魔術師相手に、その魔力を使うと見抜かれる恐れもある。


 「ふむ、思ったよりかは、魔力を秘めておるのぉ」


 三時間程だろうか、バレックは瞑想を解いた。

 もう既にバレックの身体自体は、完全に馴染んでいる。

 瞑想をしてバレックの魔力の底を見極めたのか、満足そうだ。

 それでも、どうにかなるレベルかは怪しいが、勝つのが目的でない以上は、不可能と言う訳でもないだろう。


 「……リデル。ワシは、今度こそ、失敗せんぞ。見ていてくれ」


 宿の天井を見上げながら、真剣な面持ちで呟いた。

 リデルが何者なのか、何を失敗しないのか、見当はつかないが、バレックはその言葉を吐く事により、心を決めたかのように部屋を出た。


 まずは、食堂で空腹を満たす。

 もう昼頃なので、朝食ではなく、昼食になる。

 食事は大事だ。

 腹が減っては何とやら、力も出なければ、魔力も出ない。

 決戦前の腹ごしらえである。


 食事を終えた後、バレックは宿を出て南へと向かう。

 躊躇(ためら)う事なく、昨日呆気なく敗北を喫した、あの丘の上にある家に住む、赤い髪の少女の元へと。


 村の中を歩いていると、見覚えのある背の低いとんがり帽子が見えた。


 「ぬ? おい! お主、シルビアではないか?」


 バレックは、その背中に声を掛ける。

 背の低いとんがり帽子は、可愛らしく上半身をくるっと回して振り返る。


 「はわー! 師匠です! そうです! シルビアです! こんな所で奇遇ですです」


 シルビアは、立ち止まってバレックへと手を振った。

 バレックは、別に歩くスピードを速める事なく、シルビアの所まで近付いた。


 「これから、魔法の鍛練か? 感心じゃのぉ」


 シルビアは、最初こそ明るかったが、何やら思う所があるようで、顔色が暗くなる。


 「あ、あのですね。師匠は……昨日、あの……丘へ行ったですか?」


 「おぉ、行ったぞ! 一撃で気絶させられたわ!」


 バレックは、堂々と誇るように言った。


 「はわわわ! そ、それは大丈夫ですか? 死ななかったですか?!」


 だとするなら、シルビアは、今一体誰と話をしているのだろうか。


 「ワシが、あの程度でやられる訳があるまい!」


 これまた堂々と言ってはいるが、一撃で気絶させられているのに、どうしてここまで威張(えば)れるのか分からない。

 この二人は何なんだ?

 ツッコミ要員不在では、どうにも消化不良が起こる。


 「さっすが師匠です! 尊敬です! リスペクトです!」


 「ふむ、()い心掛けじゃ! ワシは今日もあの娘の所へ行くぞ!」


 「はわ……そうなのですか? あの、師匠は何であの子の所へ行くですか?」


 シルビアには分からない。

 あれ程、周りから煙たがられ、(うと)まれる者の所へ自分から行けるのか。


 「シルビアよ。周りが何と言った所で、ワシはお主をへっぽことは思わん」


 「……え?」


 「それと同じじゃよ。あの娘が誰から何と言われておるか知らんが、ワシはワシの感じたまま、あの娘を評価しよう。あの娘は、強くて脆い。ワシはそう思った」


 「そう……ですか」


 何でだろう、何で周りが気にならないんだろう。

 シルビアは、ずっと周りの目が気になっている。

 自分は、ドジで、不器用で、バカで、要領悪くて、飲み込みが悪くて、弱くて、情けなくて、一人じゃ何も出来ない。

 だから、少しでも周りと協調しなければ生きていけない。

 誰か居なけばれ、周りに助けてくれる人が居なければ、守ってくれる人が居なければ、気持ちが、精神が保てない。

 村の皆がそう言うなら、きっとそうでしかなくて、そうじゃなきゃ駄目なんだと思ってしまう。

 でも……………………。

 バレックは違うと言う。

 シルビアを、へっぽこではないと言う。

 でも、そうでなきゃ……。


 「恐いか?」


 「はわ!?」


 バレックは、シルビアの何かに怯える表情を見ていた。

 悟られている。

 自分の弱さを、隠している汚い部分を。

 見抜かれている。

 自分の浅はかさを、醜い内側を。


 「お主が思う程にお主は弱くない。気を強く持て! お主には、師匠であるワシがついておる!」


 「し……しょー…………」


 シルビアから、一筋の涙が零れた。

 ずっと周りに合わせて、仲良くしていた友より、昨日出会ったばかりのこの男の言葉が、シルビアには初めて心にしみた。


 「私は……どうしたら良いですか……?」


 助けを乞うように、答えを求めるように、手を差し伸べて貰うように、シルビアはバレックに問い掛けた。


 「そんなもん、お主自身で考えんか」


 「はわ……」


 「()いか、シルビアよ。自分を甘やかすな。自分を怠るな。自分を偽るな。自分を見切るな。自分を陥れるな。自分を侮るな。自分を見捨てるな。自分をもっと思いやれ! お主の事じゃぞ? お主自身の足で歩け! お主にはその力がある!」


 「私に……ですか?」


 「ワシは嬉しかったぞ? お主に師匠と認められてな。じゃから、ワシはお主の師として、背中を押してやる! 好きにせえ!」


 そう言って、バレックはシルビアの頭を帽子ごと、両手でボールでも掴むかのように鷲掴みし、くるりと反転させた。

 そして……さっきの鷲掴みとは裏腹に、そっと、優しく、本当に優しく背中を押した。


 「はわわ!」


 「行って来い! お主はワシの『優秀な弟子』じゃ! へっぽこ等言う(やから)なんぞ、ワシがこの世から消してくれるわ!」


 「ししょー……」


 シルビアは背中を向けたまま、溢れ出す涙を小さな手で拭うも、止まらない。


 カノンはルイスの背中を押して、バレックはシルビアの背中を押す。

 カノンは、何かを成し遂げようと、恐れながらも進む者の背中を押す。

 バレックは、自分の価値を見出だせず立ち止まる者の背中を押す。


 魔術師として一流の腕を誇り、一人で村を建てた成功者のカノンが自信を与える。

 魔王として封印され続け、圧倒的な魔力を所有しながら何一つ成し遂げる事の出来ていない失敗者のバレックが、勇気を与える。


 成功者の厳しさと優しさ、失敗者の厳しさと優しさ、カノンとバレックは似ているが、ルイスの感じた違いは、そういう所の違いなんだろう。


 「………………」


 バレックは、もう何も声を掛けなかった。

 小さく頼りなく、泣いている背中を、ただ、優しく、慈しむように見守っていた。


 「私は、師匠の誇れる弟子になるです! だから、師匠は信じていてくださいです!!」


 シルビアは、泣きながら、涙を流し続けながら、大声で叫ぶように、誓うように、そう言って振り返る事なく、鍛練所へと走っていった。


 「ふむ、やはり見所のある奴じゃな。さて、ワシも人の事ばかりも言っておれんな」


 バレックは、シルビアを見送った後、南の丘の上にある家へと、再び向かっていく。



 ━━昨日ぶりの再会を求め、バレックは丘の上までやってきた。

 今度は、ノックする事なく、扉から少し距離を取って大声で叫ぶ。


 「おい! お主と話がしたいんじゃ!! 出て来んか!?」


 扉の内側……家の中では、老人、セバスチャンが呆れたように外の様子を覗いていた。


 「あの男、性懲りもなくまた来よったか?! はぁ、仕方ないのぉ━━」


 追い返そうと扉の手を掛けようとした瞬間、


 「良いわ。私が行った方が早く済む」


 「あ、あぁ、まぁそうじゃろうが、()いのか?」


 「別に。貴方が頼りないから仕方ないじゃない」


 「す、すまん」


 キツイ表情を変えず、目を合わせる事もなく、赤い髪の少女は扉を開けて、外へと出た。

 バレックは、昨日の一撃を警戒したのか、五メートル程離れた場所に立っていた。


 「ほぉ、今日は出てくるのが早いのぉ?」


 「黙って。そして、二度と来なくて良いから。」


 そして、昨日と同じように掌をバレックへ向けて、容赦の無い風の魔法を放つ。

 その勢いは、丸きりに昨日と同じで、結果も同じになるはずだったが、バレックは両腕をクロスさせ、腰を落として、しっかり地に足を着けて踏ん張り、耐えきった。


 「ふぅ、さすがじゃのう。しかし、今日はそうは━━」


 バレックが話し掛けようとした瞬間、雷の魔法がバレックを射った。

 本物の雷が直撃したかのような轟音が響き渡り、バレックの身体の表面は焦げて、そのまま倒れてしまった。


 「失笑。あれに耐えたくらい別に何とも思わない。威力を上げれば良いだけの話」


 赤い髪の少女は、そう言い捨てて、倒れて起き上がらないバレックを放って、そのまま家へと入り、扉を閉めた。


 「だ、大丈夫なのか? あのままにして?」


 「心外。死なない程度には手加減してるわ」


 赤い髪の少女は、そして自分の部屋へと戻っていった。


 これで、バレック三度目の敗北である。

 結局、バレックは今日も何一つさせて貰えずに失敗してしまったのだ。

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