小さな怒り
――気絶したバレックを担いで、村の人達の視線を浴びながら、宿へと到着したルイスとイリアは、バレックの目が覚めるのを待った。
夕方頃に、ようやく目を覚ましたバレックは、第一声に「腹が減った」と言うので、宿にある食堂を利用する事にした。
村に着いてから、何も食べてなかった三人は、夕食を思う存分に食べた後は、酒を飲みながら軽く余り物を摘まんでいた。
「かはは! 見事にやられてしまったわ! あの娘、予想以上じゃな!」
バレックは豪快にジョッキに入ったビールをグビッと喉を鳴らしながら飲んで、ツマミに手を伸ばした。
「見事じゃな! じゃないよ。何なんだよ。あの子の強さは?」
「強さの原因なんぞ、ワシが知る訳なかろう! 会うのは初めてなのじゃからな」
「呪文無しで、あんな威力出せるもんなの?」
「呪文とは、大気に散らばっておる精霊の魔力をある程度、自身の魔力と合わせて凝縮させて放つもんじゃ。自身の魔力さえデカければ、威力なんぞどこまでも上がるわ!」
それにしても、あの威力は脅威だ。
別にあれを耐えられない訳ではない。
あれが本気で無い、手を抜いた一撃の威力と言う事が脅威なのだ。
バレックが言うだけあって、恐ろしい魔力の持ち主である事は理解出来た。
しかも、出会い頭の容赦ない一撃だ。
これは、村の人間が怯えるのも納得である。
「あの娘、ワシの見立てでは、百年近くは生きておるな」
「はぁ? それって、どんな魔力よ?! てか、いつから、あんな魔力持ってるのよ?!」
「恐らく幼き頃から、すぐに才能を開花させたのじゃな。あれはもはや、上級魔族並の魔力量じゃ」
「それって、単純に上級魔族と同じ強さって事なのか?」
「いや、そうではない。人間の魔術師の方が魔力を練る技術が達者じゃからの。身体能力は魔族の方が強いじゃろうが、魔力となると人間の方が強いと言える。それに加えて、あの若さじゃ。まだまだ発展途上なんじゃろうな」
末恐ろしい限りである。
それじゃあ、確かに化け物と言わざるを得ない。
そんな恐ろしい人物が村のすぐ近くに存在するのだから、そりゃ話題に挙げられれば顔色も曇ると言うものだ。
「確かめられて満足しただろ? 明日からどうする? 他の魔術師で強そうな人でも探すか……」
バレックは、ジョッキのビールを一気に飲み干し、前のめりになってルイスへと顔を、近付ける。
「お主、何を言っておる? あの娘を仲間にするに決まっておるだろう」
正気なのか?
昼間、話す余地もなく一撃で伸されたのに、仲間にすると言うのか。
ルイスは、バレックの顔を手で押し戻して、
「あのな、バレック。あれは無理だろう。強ければ良いってもんじゃない」
バレックは、テーブルを掌で強く叩き、テーブルの物が音を立てながら揺れる。
「構わんじゃろ。ワシはあの娘を仲間にすると決めた。悪いがそれまでワシはこの村を離れん」
バレックの表情が、魔術師の鍛練所を出る時に見せた怒りの表情になっていた。
「なんでそんなに拘るんだよ? そりゃ、あれが仲間になれば強いだろうさ。けど――」
「けど、なんじゃ? あの娘では、無理なのか? それなら、ワシはワシの勝手でやる。お主はお主の勝手にすれば良い 悪いが話は終わりじゃ。ワシは部屋へと戻る」
責め立てるようにルイスに言って、バレックは食堂を後にした。
「なんなんだよ……急に…………」
「あれって、何?」
「え……?」
「アイツを庇う訳じゃないけど、今のは、ルイスが悪い。アタシも少なからず心の中で思っちゃったから、反省してる」
そうか……バレックは、ライドのあの言葉に怒っていたのか。
あの赤い髪の少女は、あれでも、化け物でも無く、人間なんだ。
「ごめん」
「アタシに言われても困る」
先程までキツい表情をしていたイリアだが、優しく笑ってくれた。
イリアは、頬杖をつきながら、ジョッキの縁を指先でなぞって、
「あの子の事は、バレックに任せて、アタシ達はアタシ達で、明日からどうするか考えましょ」
「あぁ、そうだな」
自分には、彼女を仲間に誘う資格なんてない。
それはもうバレックに任せよう。
明日から自分がどうするべきなのか……
「イリア」
「ん?」
「ありがとう」
「……ん」
イリアが居てくれて良かった。
自分一人では、まだまだ力も精神も未熟なんだ。
もう一度、自分を見つめ直そう。
自分が他人をとやかく評価出来る程、偉い人間ではないんだ。
二人は、それ以上話す事もなく、ゆっくりとお酒を飲み続けた。




