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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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小さな怒り

 ――気絶したバレックを担いで、村の人達の視線を浴びながら、宿へと到着したルイスとイリアは、バレックの目が覚めるのを待った。

 夕方頃に、ようやく目を覚ましたバレックは、第一声に「腹が減った」と言うので、宿にある食堂を利用する事にした。


 村に着いてから、何も食べてなかった三人は、夕食を思う存分に食べた後は、酒を飲みながら軽く余り物を摘まんでいた。


 「かはは! 見事にやられてしまったわ! あの娘、予想以上じゃな!」


 バレックは豪快にジョッキに入ったビールをグビッと喉を鳴らしながら飲んで、ツマミに手を伸ばした。


 「見事じゃな! じゃないよ。何なんだよ。あの子の強さは?」


 「強さの原因なんぞ、ワシが知る訳なかろう! 会うのは初めてなのじゃからな」


 「呪文無しで、あんな威力出せるもんなの?」


 「呪文とは、大気に散らばっておる精霊の魔力をある程度、自身の魔力と合わせて凝縮させて放つもんじゃ。自身の魔力さえデカければ、威力なんぞどこまでも上がるわ!」


 それにしても、あの威力は脅威だ。

 別にあれを耐えられない訳ではない。

 あれが本気で無い、手を抜いた一撃の威力と言う事が脅威なのだ。


 バレックが言うだけあって、恐ろしい魔力の持ち主である事は理解出来た。

 しかも、出会い頭の容赦ない一撃だ。

 これは、村の人間が怯えるのも納得である。


 「あの娘、ワシの見立てでは、百年近くは生きておるな」


 「はぁ? それって、どんな魔力よ?! てか、いつから、あんな魔力持ってるのよ?!」


 「恐らく幼き頃から、すぐに才能を開花させたのじゃな。あれはもはや、上級魔族並の魔力量じゃ」


 「それって、単純に上級魔族と同じ強さって事なのか?」


 「いや、そうではない。人間の魔術師の方が魔力を練る技術が達者じゃからの。身体能力は魔族の方が強いじゃろうが、魔力となると人間の方が強いと言える。それに加えて、あの若さじゃ。まだまだ発展途上なんじゃろうな」


 末恐ろしい限りである。

 それじゃあ、確かに化け物と言わざるを得ない。

 そんな恐ろしい人物が村のすぐ近くに存在するのだから、そりゃ話題に挙げられれば顔色も曇ると言うものだ。


 「確かめられて満足しただろ? 明日からどうする? 他の魔術師で強そうな人でも探すか……」


 バレックは、ジョッキのビールを一気に飲み干し、前のめりになってルイスへと顔を、近付ける。


 「お主、何を言っておる? あの娘を仲間にするに決まっておるだろう」


 正気なのか?

 昼間、話す余地もなく一撃で()されたのに、仲間にすると言うのか。

 ルイスは、バレックの顔を手で押し戻して、


 「あのな、バレック。()()は無理だろう。強ければ良いってもんじゃない」


 バレックは、テーブルを(てのひら)で強く叩き、テーブルの物が音を立てながら揺れる。


 「構わんじゃろ。ワシはあの娘を仲間にすると決めた。悪いがそれまでワシはこの村を離れん」


 バレックの表情が、魔術師の鍛練所を出る時に見せた怒りの表情になっていた。


 「なんでそんなに(こだわ)るんだよ? そりゃ、()()が仲間になれば強いだろうさ。けど――」


 「けど、なんじゃ? あの娘では、無理なのか? それなら、ワシはワシの勝手でやる。お主はお主の勝手にすれば()い 悪いが話は終わりじゃ。ワシは部屋へと戻る」


 責め立てるようにルイスに言って、バレックは食堂を後にした。


 「なんなんだよ……急に…………」


 「()()って、何?」


 「え……?」


 「アイツを庇う訳じゃないけど、今のは、ルイスが悪い。アタシも少なからず心の中で思っちゃったから、反省してる」


 そうか……バレックは、ライドのあの言葉に怒っていたのか。

 あの赤い髪の少女は、()()でも、化け物でも無く、人間なんだ。


 「ごめん」


 「アタシに言われても困る」


 先程までキツい表情をしていたイリアだが、優しく笑ってくれた。

 イリアは、頬杖をつきながら、ジョッキの(ふち)を指先でなぞって、


 「あの子の事は、バレックに任せて、アタシ達はアタシ達で、明日からどうするか考えましょ」


 「あぁ、そうだな」


 自分には、彼女を仲間に誘う資格なんてない。

 それはもうバレックに任せよう。

 明日から自分がどうするべきなのか……


 「イリア」


 「ん?」


 「ありがとう」


 「……ん」


 イリアが居てくれて良かった。

 自分一人では、まだまだ力も精神も未熟なんだ。

 もう一度、自分を見つめ直そう。

 自分が他人をとやかく評価出来る程、偉い人間ではないんだ。


 二人は、それ以上話す事もなく、ゆっくりとお酒を飲み続けた。

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