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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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魔術師の鍛練

 カノンの言う通りに、まずは魔術師の鍛練所を目指す事にした三人は、村の中を南へと進んでいた。


 「ロズネスの村長って言うから、もっとラマダ会長くらいの人かと思ったら、かなり若い女性でビックリしたな。一体あれだと何歳の時にこの村を造ったんだろうな」


 「魔術師の見た目で、年齢判断するなんぞ、愚かじゃな。あれは、五十くらいはいっておる。恐らく二十代の時にここを造ったのじゃろう」


 「え? そうなのか?」


 とてもそうは見えなかった。

 いっていたとしても三十代後半だと思っていたのだから。


 「魔術師が見た目で年齢を判断出来ないって、どういう事なの?」


 「かはは! お主らは何も分かっとらんな! ()いか? 魔力とは、別称『生命エネルギー』とも呼ばれておる。この魔力が体内に多ければ多い程に細胞が保たれて、老けにくくもなる。じゃから、魔術師の寿命が長いのはそういう事じゃ」


 言われてみれば、普通の一般人の寿命が八十位とするなら、魔術師は百歳を越える者は珍しくないどころか、百五十歳くらい生きた例も聞く。

 そういう意味でも聖騎士も百歳を越える人間は多い、魔術師程の魔力は無くとも、戦闘において魔力は必要なので、十分にそちらも鍛練されている。

 しかし、それが歳を取りにくくしているなんて、思いもしなかった。


 「まぁ、多くの魔術師達は、基本的に歳を取ってから、魔力を増す連中が多いからの。体力と違って魔力は、年齢によって減退なんぞせん。若い頃から魔力を膨大に身に付けておれば、それだけ若さを保ったまま、長生き出来るという事じゃ」


 「それって、魔族が長生きなのも魔力のお陰でだったりするの?」


 「半分はのぉ。魔族は元々寿命が長いんで、上乗せに人間以上の魔力が初めから備わっておるから、長く生きられる」


 驚きの事実だ。

 封印されているから、魔族に年齢の概念を感じた事はなかったが、それでも百年、二百年は平気で生きているんだから、一体どれ程の魔力を所有しているのだろうか。


 「勿論、魔族にも個人差があるんで、細かい事は言えんが、下級魔族なら五百年、上級なら八百年は生きられるかのう」


 「じゃあ、魔王自身は千年くらいなのか?」


 「いや、三千年くらいかの」


 驚愕……。

 まさかとは思ったがこれ程までに、魔族でも寿命の差があるとは。


 「かはは! 元々ワシは、他の魔族とは一線違うでな。魔力無しでも千年は生きるじゃろう。因みに歴代魔王の中で、ワシは一番魔力が乏しいので、三千年程度しか生きられんが、先代魔王なら五千年は生きておったぞ」


 スケールが違い過ぎて、どれ程凄いものなのか、余り現実味が湧かなくなってきた。

 とにかく、あのカノンという村長が、人間……若い魔術師の中でも、かなり高い魔力を秘めているという事だ。

 商人……起業家というべきか、そして、魔術師としての腕も一流という、これだけ聞くとカノンを仲間にしたい所ではあるが、経営者であるカノンが魔王退治で暫く仕事を休むなんて事は出来ないだろう。

 魔術師の鍛練所には、どれ程の力を持った者がいるのか、一層興味深くなった。


 ――魔術師の鍛練所は、騎士の訓練と違って各々が、精神統一をしたり、魔法を出して自在に操れるようにコントロールをしたり、と単体での修行が目立っている。

 鍛練所の実技の間と呼ばれる広い空間に、散り散りになって自分の魔力を研いている。

 他の部屋では、書物等もあり、知識面でのスキルアップも出来るようで、自己を高める為には、うってつけの場所であるが、どうやらこの施設も月額制でキッチリと儲けていらっしゃる。


 「危ないです!!」


 魔術師の鍛練を眺めていると、横から声と共に炎の魔法が飛んできた。

 バレックが一番近かった事もあり、手を(かざ)して、バレない程度に魔力を使って掻き消した。


 「はわはわはわ! 大丈夫ですか?! お怪我とかありませんか?」


 ピンク色のロングヘアーで、少し童顔の可愛らしい見た目で、小さめの黒のマントに黒のとんがり帽子を被った女性が、申し訳なさそうに慌ててこっちへと向かってきた。


 「安心せい、この通りなんともないわ。」


 バレックは、手を広げて無傷であることをアピールする。


 「良かったです。私、あんまり魔力のコントロールが上手く無いので、今みたいに迷惑かけちゃうですよ……本当にごめんなさいです」


 「お主、見た所、雷の魔法の方が向いておるようじゃが、先程の炎の魔法を見るからに、自身の魔力に技術が追い付いておらんのじゃな。魔法をコントロールする事より、まずは魔力を制御する訓練をした方が、上達が早いと思うのじゃが、何故そうせんのだ?」


 バレック以外は、全員きょとんとしてしまい、言いたい事はあったが、それどころではなかった。


 「なんじゃ? 急に黙ってしまいおって」


 「なんじゃ? じゃないわよ! どうして、あれだけの事で、そんな事分かるのよ!」


 「そりゃ、ワシはまお……ごほん、魔法に関しては、こう見えてエキスパートじゃからな。魔力の質やら、量やらは、見て触れれば大体分かるもんじゃ! 大体合っておるじゃろ?」


 「は、はいですっ! 確かに炎より、雷の魔法の方が得意なのです。だから、苦手な魔法を練習していれば、もう少し魔法のコントロールが出来るかな、と思って練習してたです」


 ここにきて、魔王の新しい特技が判明した。

 魔王は、魔力の塊みたいなものだろうが、まさか魔術師に指導出来る程に魔力に詳しいとは……これは、長く生きている分の経験値なのだろうか。


 「お主、自分が思っておる以上の魔力が漏れ出しておるから、魔法のコントロールが出来ておらんのじゃ。じゃから、自分が出す魔力をしっかりと把握し、それに似合った力でコントロールすれば、すぐに上達するぞ」


 まるで先生のように教えるバレック……見た目が、魔法とは無縁の筋肉おじさんなのに、専門家のように魔法の使い方を伝授してる様は滑稽でしかなかった。


 「そうだったですね! はわわ、でも、私なんかにそんな魔力があるのですか? まだまだへっぽこなのですよ?」


 「へっぽこかどうかを決めるのは、お主自身じゃから知らん。ただ己と向き合わずして、己の底を決めるのは、愚かだと言わざるを得んな」


 「おい、バレック! そんな言い方はないだろう!」


 「いえ、良いのです。確かに私は、周りからへっぽこと言われてたですから、そう言って貰えたのは、初めてです。ありがとうです」


 魔術師の女は、褒められた訳でもないが、嬉しそうに笑ってお辞儀した。


 「おい! シルビアじゃないか。その人達は?」


 「はわ! ライドさん! えっと、この方達は……師匠です!」


 シルビアと呼ばれた女は、いきなりバレックを指して師匠にしてしまった。

 ライドと呼ばれた男は、全く意味を理解出来ておらず(まぁ、それはこっちにしても同じではあるが)、訝しげにこちらを見てきた。


 「えと、勇者のルイスです。こっちがイリアで、師匠と呼ばれた男がバレックで、一緒に旅をしてます」


 バレックとイリアも会釈して、軽く挨拶をする。


 「あぁ! 勇者って、あの勇者様ですか!? 生で見れるなんて、思わなかった! 僕はライドです。こっちの小さいのがシルビアです。」


 「ですです! 勇者様とは知らずに失礼致しましたです!」


 ライドは黄色の短髪で、小柄なシルビアのとんがり帽子の先端くらいの身長なので、この者もそれほど大柄でもない。

 好青年そうな見た目で黒と赤を基調しているローブで、なんだか格好良さげな感じだった。


 「勇者様がここへ用事って、まさか……魔術師の仲間とか探してます?」


 ライドは勘が鋭いようで、すぐに事態を把握して、目を輝かせた。


 「あぁ、まぁ、そんな所かな」


 「だったら、僕なんて、どうですか? ここの村では、割りとセンス良い方で、村長のカノンさんにも期待されてるんですよ!」


 「ライドさんは、同年代では一番です! 結構強いんですよ!」


 何故か、シルビアも、ライドを推してきた。


 「んー、なるほど。でも、どれくらい強いのか分からないからな。この旅はかなり危険も伴うし……」


 「大丈夫です! そんな覚悟くらいありますって! 頑張りますんで、どうか仲間にしてくださいよ!」


 まさかこんなに懇願(こんがん)されるとは思わなかった。

 どうしてくれようか、この自信は若干若さによる所もありそうなので、不安もある。


 「何を言っておる。同年代で一番なだけじゃろ? なら、却下じゃ!」


 「お、おい、バレック……」


 「な、なんで貴方にそんな事決められなければいけないんですか?!」


 「そうですよ! 師匠!! ライドさんは、頼りになりますです!」


 この期に及んで、まだシルビアはライドを推している。

 何か弱味でも握られているのか、はたまた早く村から出て行ってもらいたいのか、なんて悪い事を考えてしまう。


 「はんっ! お主ら、ワシを侮るなよ。あっちの方角に恐ろしい程の魔力を感じておるわ! その者を仲間にするのが、妥当じゃろ」


 バレックはそう言って、南の方角を指差した。

 これ以上、南に行くと村を出てしまいかねないが、村の端の方にでも、そんな人物が居ると言うのだろうか。

 しかし、それ以上にバレックの言葉を聞いて、魔術師二人の顔色が明らかに曇ったのが気になる。


 「あれ(・・)は止めておいた方が良い。仲間になんかならないし、仲間にしない方が良い」


 「ライドさん、そんな言い方可哀想です……」


 「じゃあ、勇者様に、あの『化け物』を仲間に勧めるのか?」


 「それは……その……です」


 何やら空気が一気に悪くなってしまった。

 そして、『化け物』……これは、ドミアの村の村長が言っていた噂の事なのだろうか。

 あのお勧め係のシルビアでさえ、口を(つぐ)んでしまった。


 「それって、人間なんでしょ? 化け物は、言い過ぎじゃないの?」


 「あれ(・・)は人間なんかじゃないよ」


 それを最後にライドも口を閉じてしまった。

 一体、何者なんだろうか……。


 「勇者よ。もうここには、用は無いじゃろう。行くとしよう」


 バレックは、そう言って先に部屋を出た。

 その顔はいつものような笑顔は無く、少し怒っているようにも見えた。

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