ロズネスの商い魔術師
ドミアの村を出てから四日間、バレックの相変わらずの寝るタイミングの分からない深夜トークに耐えながら、ルイス達はロズネスの村へと到着した。
到着してみると、ロズネスという所は、村と言うよりは、町のようだった。
ドミアが余りにも村過ぎたせいか、基準が分からなくなってしまったのかとも思うが、ロズネスは地面も舗装されており、建物も多く立派で頑丈そうな煉瓦造りの家が点在する。
ここは既にクロックベルン領であり、魔術師の村があるだけでも驚くべき所だが、その村がこれ程栄えているとは、何故それほど有名になっていないのだろうか。
村の人達は、ローブに包まれている者ばかりで、魔術師は黒色のローブの印象だが、赤、白、緑等、色々は様々のローブである。
とりあえずは、村の入り口でロットを預け、村の中の様子を見てみる事にした。
村人の人数もドミアの村と比べるまでもなく多く、村の中は賑わっていた。
魔術師の村だけあって、ここでもリオメタルが種類数多に売られている。
リオメタルは、もはや生活の必需品とまでされており、魔術師達の研究と開発により、無限の可能性が引き出されつつある。
リオメタルは、元々の素材は透明であり、魔術師達の魔力と技術により、その性能と色彩が決まってくる。
黄色のリオメタルは、基本的に灯りの役目で、家庭の照明にも使われており、一般の人間でも扱えるように微弱な魔力に反応して、オンとオフが使い分けられるので、手を翳す程度で、それが可能だ。
前にシャンデル王が持っていた拡音させるリオメタルは、緑色で声を受けたリオメタルが魔力によって、その声の振動を拡大させて、大きくしている。
最新のリオメタルになると、雷と風の魔力を併せて注ぎ込む事によって、大気に電波を伝達させて、同じリオメタルを持ち合わせる遠くの者に、その声を伝える、と言った機能すら備えた物もあるらしい。
赤は炎で、調理や暖房機能、青は水で、冷房機能に大気中の水分を増殖し集めてコンパクトな水分補給の道具として、重宝されている。
「すっごーい! こんないっぱいのリオメタル初めて見た!!」
イリアは店のショーケース越しにまじまじと陳列されているリオメタルを物色する。
「シャンデルでも売っていたけど、魔術師の村だけあって、さすがに種類も数も豊富だな」
「二百年前には、ほんの数種類だけじゃったのに、人間の技術を開発する力とは、恐ろしいもんじゃな」
「いらっしゃい。何かお求めの物でも、ありますか?」
三人が熱心に見ていたせいか、店員の男性も、ここぞとばかりに商売してくる。
「いや、僕達は旅の途中でして、珍しくて……申し訳ありませんが、リオメタルを買う程の余裕はありません」
「はぁ、旅の途中? どちらへでしょうか?」
「魔王を封印する旅じゃ! こっちの男は、勇者様じゃぞ!」
バレックが食い気味に説明に入る。
自分で魔王封印の旅という辺りは、どういう神経で言っているのだろうか、考えてしまうが、当の本人は、何も考えていないのだろう。
そんな中、お構い無しにイリアの物色は続いている。
「へぇあー! 勇者様でしたか? そうとは気付かずに申し訳ありません」
「そんな、畏まらずに。それよりもここの村……で、良いんですよね? 随分と栄えているみたいですけど、結構有名だったりしますか?」
「あぁー、何か噂を聞いて来ました?」
店の主人は、気まずそうに顔をしかめて、様子を窺うように聞いてきた。
「あ、いや、クロックベルンに魔術師の村って聞いて、しかも、それが結構大きい村だったんで、気になっただけです」
ルイスは間髪入れずに答えた。
そうしないと、バレックが馬鹿正直に例の噂の話を言ってしまうような気がしてならなかったからだ。
「そうでしたか。はいはい、そうですねぇ。確かに変わってますよね? ここの村長のカノンさんは、元々オーテムの商人兼魔術師でしてね。クロックベルン領に魔術師の村を造って、魔術師の商品を捌ければ儲かると考えたらしいんです。それが見事にヒットしましてね。二十年ばかりで、ここまで発展したって訳です」
武力国家でありはしても、魔術師の作るリオメタルはクロックベルンも、普及している。
それが今までは、国外からの輸入に頼っていたものが、ここの村が出来たお陰で、手近にそれが手に入るようになり、今までクロックベルンで、しがなく暮らしていた魔術師や、シャンデルの魔術師なんかもこぞって、近場のロズネス魔術師の商売が出来ると喜び、自然と人も集まっていったのである。
カノンという村長の先見の明により、ロズネスは短期間でここまで栄えたと言う事だ。
「どおりで知らなかった訳だ。ここの村長さん凄いですね」
「えぇ、そりゃあもう! あの人の手腕でロズネスは成り立ってますからね。忙しい人だから、会えるか分かりませんが、良かったら顔出してみてください。一番派手な家に住んでますので、分かると思います」
「そうしてみます。ありがとうございます」
そう思って行こうかと思ったが、イリアはまるでかぶりつくようにリオメタルを見ている。
宝石のように綺麗ではあるが、果たしてイリアは宝石として見ているのだろうか……。
リオメタルの横についている札に、そのリオメタルの効果が書いてあり、それを楽しそうに見ているようにもみえる。
確かに商品等の説明書きや、謳い文句、効能なんかを見ていると夢中になることがあるが、そういう事なんだろうか。
「イリア。そろそろ行こう」
「え? あぁ、うん。分かった」
ちょっと名残惜しそうにショーケースから目線を外した。
別に急いでもいなかったし、なんか悪い事をしたかな。
店を出て、店員の言っていた村長の家を目指す事にした。
村を歩いていると、魔力の宿った防具やら、武具やらも多く売られている。
きっと本場のオーテムとなると、これより凄い品揃えの店が所狭しと並んでいるのだろう。
村の中心に来ると、店員の言っていた一番派手な家が見えた。
派手なんてもんじゃなかった。
豪邸過ぎる……。
もうロズネスの雰囲気もそうだったが、もはやこの家の佇まいは、街と言っても良い。
これ程の豪奢な家、マーセルにも一軒も存在しなかった。
デカさだけなら、マーセルの自警団本部と同じくらいか、少しだけ小さいくらいだ。
だが、派手さは圧倒的にこっちだろう。
なんか、場違いな気がしてしまい、訪ねて行って良いものか悩んでしまって、扉を叩く事が出来ない。
「なんやなんや、さっきっから、ウチの家になんか用でもあるんか? お宅らは?」
後ろから、バレックにも負けず劣らずの張りのある声が聞こえて、三人は振り返った。
そこには、ローブ……と言うよりかは、ドレスに近い、胸元が強調される程にしっかりと谷間を見せつけるように露出されたものを着て、出るところが出たスレンダーな女性が居た。
緑色の髪は短めでボブカットされており、狐目で色白の美しい女性だ。
「ひょっとして、あなたが村長のカノンさんですか?」
「んー? そやけど、お客人の予定は入ってへんけどなぁ。どちらさんや?」
「紹介が遅れました。僕は勇者のルイスです。こっちが一緒旅をしているイリアとバレックです」
それを聞いた途端に、目を見開いて、ルイスに近付き、その手を握ってきた。
近くで見ると肌の張りも艶もあり、ロズネスの村を統治する年齢には見えない。
一体、何歳の時にこの村を造ったのだろうか。
「なぁんや! それを早ぉ言うてや! そやそや! 君や!! 見てたで! シャンデルでの試合!!」
「あ、ありがとうございます」
凄い勢いでぐいぐいと来るのは、商売人としての気質のせいなのだろうか。
最後のリックとの試合は、多くの人が観ていたので、ロズネスの村長なら、観に来ていても不思議ではないが、こうやって出会ってみると、何か恥ずかしさと嬉しさを感じてしまう。
「そいで、ウチに用でもあるんか? それとも律儀に、ここに寄ったからって、挨拶しに来たんか?」
「ここへ来る前にリオメタル屋の店員さんに、ここを短期間で繁栄させた凄腕の村長さんがいると聞いたもので、是非挨拶にと思いまして」
「なるなる! 若いのに、ええ心掛けや! ちょっと今からお仕事やから、家でゆっくりともいかんし、また別の機会にって……ひょっとして、急いではる?」
「いえ、ここで魔術師の仲間でも、見付けようかと来たので、他に当てもないので、急いでは無いです」
「魔術師の仲間ねぇ……まぁええわ。この村の中を南の方に行ったとこに、魔術師の鍛練施設みたいなん、設けとるから、そこへ行ってみ! 後、宿は用意させとくさかい、料金とかは気にせんでええよ」
一瞬目を細めて、何かを考えていたようだが、すぐにそれを止めて宿の手配をしてくれた。
これは助かる。
勿論、お金を払っても泊まるつもりだったが、本当にようやくあの魔王の地獄から逃れる事が出来るのだ。
いつも分かってはいるのだが、興味深い戦いの話をしてくるので、どうしても気になって聞いてしまい、そしてやっぱり寝落ちされる。
今日は、久しぶりにゆっくり眠れそうだ。
「ありがとうございます」
「ええよ、ええよ。そんなん気にせんで! こっちも勇者が泊まった宿となれば、また観光客も呼べるさかいに」
ラマダ会長以上に抜け目がない。
さすがは商売人である。
タダで泊めても、ただでは済ませないのが、オーテムの商人の心意気というやつだ。
これ程、裏表なく堂々と商売として、利用されると、こちらも逆に感心してしまう。
「ほな、また寄ってきてや! 楽しみにしてるわ!」
カノンは、終始捲し立てるように喋って、そしてあの派手な家へと帰っていった。
「なんとも豪胆なおなごじゃ」
バレックも珍しく、真剣に感心していた。
イリアは、何やら少し機嫌が悪そうだった。
やはり、リオメタル屋を無理矢理出てしまったのが、いけなかったのだろうか。
三人は、カノンと別れて、もう少し村の中を回る事にした。




