魔王を名乗る者
ドミアの村を出たルイス達は、そこで入手した情報を元にロズネスという魔術師の村へと進路を決めた。
地図を広げて見ると、ロズネスを一直線に目指せば、四日程掛かりそうで、他に村や町はない。
逆に村や町に寄っていくと、かなりの回り道になって、十日は掛かりそうだ。
別に野宿をするのは吝かに思ってしまうのは、野宿初日の魔王の嫌がらせのような、話を聞かされて、話の途中で先に寝落ちコンボが二人のトラウマになっているのだった。
とはいえ、こんな所で回り道をしながら十日掛けて行くのも時間の無駄なので、仕方なく真っ直ぐにロズネスへと向かう方向で話は纏まった。
「なぁ、バレック。噂にあった魔族との混血って話、どう思う?」
村では、バレックが魔王と知られる訳にはいかないので、さすがに聞く事の出来なかった疑問を、ようやく聞いてみる。
「どうもこうもあるまい。その噂はデマじゃな。魔族との混血はあり得ん」
「なんで、そんな断定出来ちゃうのよ?」
「魔族は人間を食らう。つまり捕食対象と血を分ける事等あり得んじゃろう?闇の精霊の加護を受ける魔族と、それを嫌う四大精霊の加護を受けておる人間の間に命なんぞ芽生えたりせん」
そう聞くと確かにそうかも知れないとも思うが、長く生きていれば、何かの間違いで、今こうして勇者と魔王が共に旅をしているように、魔族と人間が惹かれ合う事は皆無なのだろうか。
「なんてものは、何処かで聞いた精霊説じゃが、本当の所は、魔族は前に言ったと思うが闇の歪みによって生まれるんで、生殖機能そのものが魔族には無いんじゃな」
この野郎、最初からそう言えば済む話なのを、何か最もらしい蘊蓄を聞かせやがって……。
「じゃあ、本当に化け物なんて居ないじゃん」
「それはどうかとも思うぞ? あくまでも、噂が膨れあがって、そう言う情報になっただけじゃろ? それなら、噂の元となった化け物とやらは存在する可能性は十分にある」
バレックが否定するのは、あくまでも魔族との混血だけで、他の情報を否定する要素は無い訳で、大いに期待はしていた。
「まぁ、目的は魔術師の仲間を探す事なんだけどな」
化け物に夢中の二人にぼそりと、本来の目的を思い出させるように告げる。
「ぬ? そうじゃ、そう言えば思い出したのじゃが、セリナの村で会ったワシの本体の中身じゃが、あれは恐らく人間じゃぞ」
本当に思い出したように、なかなか重要そうや情報をさらっと言った。
「はぁ?なにそれ?何で人間がアンタの身体を乗っ取って、魔王とか名乗る訳?」
「さてのぉ。あの時は、他の事もあって言いそびれたが、上級魔族であるなら、斬り落とされた腕をそのままに逃げる事はあるまい」
「上級魔族でなければ?」
「下級魔族ならば、そんな逃げるという判断なんぞせずに、ぶちギレて向かってきおるわ。あそこで逃げる判断をして、なおかつ腕を持ち去らなんような愚行をするのは、腕に魔力が残っているのを理解出来ておらん人間くらいじゃ」
下級魔族ならば、戦況等関係無く向かってくる。
上級魔族ならば、戦況が不利と見れば逃げる知恵を持っており、腕の重要性も知っている。
その片方ずつを選択するのが、人間である証拠…
しかし、人間が魔王になって、どうしようというのだろうか。
魔王になり、世界でも支配しようとでも言うのだろうか。
今後あの魔王はどのように出てくるのか、腕が治る前に攻め込みたい所ではある。
その為にも、先ずはロズネスで腕の良い魔術師を仲間に出来れば良いのだが…
――バースモア、魔王の城にて、斬り落とされた腕の痛みに苦しむ魔王の姿があった。
「こんなはずはない! 何故だ? 何故あんな簡単に敗れてしまった!! 復活したばかりとはいえ、十分な魔力はあったはずだ!!」
本来の魔王の魔力なら、復活したばかりでも、十分に対等に戦える魔力はあったはずではあるが、その魔力も魔王の身体も自身のものではない為に、まるで使いこなす事が出来ていなかったが、それにすらも気付く事はない。
少なくとも本来の人間の身体より、それでも性能が高い為、バレックに宿った魔王のような身体の重さというものを感じていないのだ。
「おや? 魔王様、手酷くやられましたか?」
何者かの声が聞こえ、偽魔王は振り返った。
そこには、百八十センチ程の長身に、それと同じくらいの長さの杖を携え、濃い紫色の長髪に、細目のせいか常に笑顔のように見えてしまいそうな優男が立っていた。
衣装も人間の物とは思えない奇抜な物で、一番近いので言えばローブだろうか、黒色で魔族特有の衣装なのだろう。
「お前は?」
「お忘れですか? ディオスにございます。」
「あぁ、そうか。そうだったな。どうやら、封印されていたせいで記憶が、イマイチ戻らなくてな」
まるっきりの嘘である。
魔王の魂に触れてすらいないので、バレックのような記憶を引き継げていない。
しかし、バレてしまった場合、どうなるかも分からないので、何とか誤魔化して切り抜けるしかない。
「勇者を仕留めようとしたが、思いの外強くてな。腕を持っていかれた」
「そうでしたか。まぁ、腕の一本なら、一ヶ月とあれば元に戻るでしょう」
なるほど、この腕は戻るのか。
なら、まだ大丈夫だ。
しかし、一ヶ月も掛かってしまうのは、少し時間を無駄にし過ぎてしまう気もする。
ディオスは、何やら考え込んでいる素振りで、まじまじと魔王を観察する。
「なんだ、どうかしたか?」
バレてしまったのかも知れない。
いつもと違う所があり、何か違和感を覚えたのかも知れない。
「いえいえ、どうやら、魔力もいつも以上に戻ってない様子なので、二ヶ月くらい掛かるかも知れませんね」
どうやら身体の心配をしてくれていたみたいだ。
いつもより魔力が戻ってない……きっと無理矢理身体を奪った事が原因なんだろう。
だから、予想以上に弱かったのかも知れない。
このディオスという男から、もう少し情報を聞き出せれば、これからの計画も立てやすくなりそうだ。
「ディオスよ。他の魔族はどうしたんだ?」
「どうやら、私が最初に封印が解けたようですね。他の上級魔族はまだいないようです」
「そうか。ならお前は勇者と戦えるか?」
「ご冗談を私は、雑用みたいなものですよ。偵察や監視、お使いなんかも引き受けちゃいますよ」
丁寧ではあるが、おどけた口調で説明する。
どうやら、ディオスは戦闘要員では無いらしい。
そして、まだ上級魔族達は復活していないという事だ。
これから先の戦いに備えて、先ずは休むより他はない。
戦力が整えば、今度こそ一気に攻め込んで行こう。
魔王の身体を奪った事で、気が逸り過ぎたようだ。
次はしっかりと、自分の力を把握して、他の者達も連れて一気に勇者を仕留めるとしよう。
「悪いな。記憶が殆ど戻ってないみたいなんで、また色々と聞かせてもらう事になると思う」
「はい、私なんかで良ければ、いつでもお呼びくださいませ。それでは、お身体を、お大事に」
そう言って去るディオスの笑顔は、何かを隠しているような笑みにも見えた。
それは彼の生まれ持った表情なのか、何かを察したのかは分からないが、掴み所の無い、油断の置けない人物であるようにも思えてしまった。




