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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
2章 魔王と魔術師の哀しき孤独
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村の活気

 三人は、道中警戒を怠る事なくドミアの村に到着する。


 さすがにどの王国からも、距離が離れていると田舎感が否めない村だった。

 恐らくは、自給自足と思われるくらい、畑がそこかしこにあり、野生の獣に荒らされないように丈夫な(さく)で囲まれている。

 それでも、二日程頑張って馬を走らせれば、シャンデルに着く位の距離ではあるので、ここまで田舎になったのは、どこかの国から別の国への移動としても、通り道から外れているせいなのだろう。


 強いて言うなら、今ルイス達が旅をしている目的地でもある、バースモアへ向かうなら、立ち寄る可能性は十分にある。

 村の家は木で出来てはいるものの、田舎な雰囲気からは、少し違ったしっかりとした丈夫そうな家が建ち並んでいる。

 畑の柵も、かなり職人の腕を感じる出来なので、ひょっとしたら畑と大工の村なのかも知れないと、三人は思った。


 村の人達も農家特有の長袖、長ズボン、麦わら帽子やタオルなんかを巻いてる人もいる。

 年齢層はバラバラで、若い者から、お年寄りまで、規模は小さいものではあるが、全員が楽しそうに仕事をしながら、和気あいあいとお喋りを交え、それなりに活気に満ちている村だった。



 三人が最初に感じた事は、当初の目的の一つであった、寝泊まり出来る宿は無いだろう。

 早々に諦めてしまった三人ではあるが、それも仕方がない。

 本当にそんな施設は無いのである。

 理由は、旅先で通過する理由が無いので、旅人もそんなに訪れないし、まさか二百年に一度訪れる可能性のある勇者の為に宿を用意している、なんて事は勿論無い。


 「うむ、良いところじゃな!」


 「あぁ、良いところだな」


 「うん、良いところだね」


 別に村人に聞かせる訳でもなく、三人は村を褒めた。

 こんな楽しそうに生き生きと仕事をしてるんだ、悪いところのはずがない。

 ただ、そこ以外に、いまいちなんと言えば良いのかも分からなかった。

 バレックも、ここでの仲間集めは諦めてしまっているので、のどかな村を眺めて満喫していた。


 そうやって、いつまでも村の入り口の前で、村人達を眺めていたルイス達に若い男性の村人が訝しんで、近付いてきた。


 「おい、あんたら、さっきからそこで、ぼーっと突っ立って何してるんだ?」


 怪しんでいる。

 当然と言えば当然だが、見知らぬ者が三人入り口前で何する訳でもなく、ずっと立っているんだから、変に思わない者はいない。


 「あぁ、すまない。余りに皆が楽しそうに仕事をしてるから、邪魔したくなくてね。俺はルイスと言って、勇者として旅をしている。こっちがバレックに、イリア。旅の仲間だ」


 ルイスは自分達が勇者であると伝えると、村人の男も目を白黒させながら驚き、


 「ほ、本当ですか?! え!? なんで、こんな村なんかに……あー、そんな事より、何かおもてなしを--」


 「いや、そんなお気遣いなく。僕達は--」


 「そんな訳にはいきません!! こんな田舎の村に勇者様がお越しになられてのですから! 少々お待ちください! すぐに村長に伝えて来ますんで!!」


 おもてなし等を求めに来たという訳でもなかったので、気遣われないようにやんわりと断りたかったのだが、そうもいかずに(まく)し立てるような勢いで、村人の男は村の奥へと走っていった。


 「()い村人じゃな」


 「んー、そうだな。勇者だからって、そう先々で、もてなして貰ってもなー。なんだか申し訳ない」


 「かっはっは! まぁ、受け取れるものは受け取るべきじゃ! 向こうも何もない毎日にイベントが起こって喜んでおるんじゃろ」


 「アンタは少し遠慮しなさいよ。都会程に裕福でもないでしょうし、好意だからって、むやみに食べ過ぎたりしないように」


 勇者と名乗っただけで、本物かどうか確認する事もなく、おもてなしをしようという、村の温かさを感じながら、向こうの楽しみを奪わないように、ひとまずは村人の男の言葉に従って、戻ってくるのを待った。


 --村人の男が村長に報告に行き、すぐに戻ってくるなり、目を輝かせながら、村長の家へと案内される。

 村長の家だけあって、他よりと随分大きい。

 来客が余り無いとはいえ、その時の為に村長の家があるのだろう。

 まるで別荘のような造りで、三人は入る時にドキドキと気持ちの高揚が抑えられなかった。

 中へ入って見ると、やはり、その造りは旅行に来た感じにも似た特別な空間の木の造りで、装飾品も村長の(こだわ)りなのか、骨董品や熊の毛皮等が飾られてあった。


 リビングへと着くと、そこは二十人程集めて、パーティーが出来そうな程広く、真ん中にはそれに似合ったデカイ無骨な木のテーブルがある。

 その無骨さが、また何とも造られた一般的なテーブルと違った味を出しており、いつもと違った雰囲気を楽しませてくれた。

 さすがにテーブルには、まだ料理等は用意されておらず、村人に言われる通りに着席すると、お茶を持って、村長自らが現れた。


 村長は、八十近い男性で、痩せており年相応のシワシワで優しそうな顔立ちだが、まだ働いているのか、足腰はしっかりしており、お茶もスムーズに運んでくれた。


 「なんか、突然来て、申し訳ありません」


 「いえいえ、何を仰られますか。こんな何もない所へ、わざわざ寄って頂いて、年甲斐もなくウキウキとしとりますわ。あー、今、料理を作っておりますので、暫くお待ちくだされ」


 「お気遣い、感謝します」


 村長の言葉に嘘や社交辞令はなく、本当にウキウキと楽しそうに、客人を迎えてくれた。


 「この村は何にもなくて、つまらないでしょう?」


 「そんな事ありません。村の人達は皆楽しそうに仕事をしていて、ついつい入り口で見とれてしまってました」


 ルイスの言葉にも嘘は無く、この村の温かさが伝わってくるように、村の人達は仲良く、一緒に助け合って働いていたのだ。

 セリナの村でも、ご近所付き合いは良かったが、精々飲みの席や食事の時間を共に過ごす程度で、毎日仕事で協力しあったり、お裾分(すそわ)けをしあったりはなかった。

 シャンデルに到っては、一人一人は良い人も多かったが、揉め事や騒ぎも多くあったり、仕事もお金を稼ぐ為という概念のものでしかなかった。

 欲とは、求めると切りが無く、どこまでも強欲になってしまうが、ここの人達は、この暮らしを十分に満喫している。

 誰にも何も求めないから、自分達が逆に何かしてあげようと思うから、この村はこんなにも生き生きしているのだろう。


 「うむ、村長よ。この村は立派な村ではないか。何もない所か、人間にとって一番大切なものが詰まった村じゃと、ワシは思うぞ!」


 「はぁ、そう言って頂けますと、何やらこちらもこの村で生きてきた甲斐がありますわ」


 バレックの言い方が大袈裟で、お世辞のように聞こえたのか、村長も嬉しそうに応えはするが、何処か冗談に付き合っているような返事だった。


 「ここの建物って、結構立派なのが多いみたいですけど、自分達で建てられたんですか?」


 家の隅々まで、家具の一つ一つも、市販のそれとは違った、自然味があり、手作り感があり、それでいて、仕事の行き届いた丈夫さを誇った物を見渡しながら、イリアは言った。


 「まぁ、そうですな。ここの木で造られた物の大概は、村の人間で造っております」


 「へぇー! 凄いですね! こんな立派なお家が建てられるなんて。これで商売出来そうですけどね」


 「昔は、それも考えた事もありましたが、今の暮らしで何も困らないので、皆もこのままで良いと考えになりましてな。結局は、畑仕事を中心に何かあれば、家具や家を造って、村の人間を助け合って暮らしております」


 村の人の為に惜しむ労力が無い、これ程に強いものはないだろう。

 誰かの為に、という言葉の大体は巡りめぐって自分の為になるからである。

 困った人間が居たのなら、普通は手を差し伸べるか、どうか悩む。

 そして、助けるにしても自分に何とか出来るか、どうかを悩む。

 この悩むというのが、意外とエネルギーを使ってしまう行為で、助ける為のエネルギーが少なくなる。

 それを省いて、困った人が居れば、反射的に助けようとする事が出来るのなら、助けるエネルギーだけで済む。

 この違いは大きいもので、前者の場合、悩んでる内にだんだんと自分じゃなくて良い、誰かが助けるかも、この人の悩みはきっと家庭の事情だから踏み込んではいけない、等と助けない方向へと向いていき、最終的にはもうタイミングを逃した、なんて言い訳に辿り着く。

 そうすると悩んだだけでエネルギーを使った上に、困っている相手にも何一つ解決の糸口が提示出来ないので、無駄なエネルギー消費にしかなっていないのである。

 これが後者の場合だと、無駄なエネルギーを消費をしなくて済み、それがこの村の活気になっているのだろう。


 「それより、勇者様は何故このような村へ来られたのでしょうか?」


 「いや、それが……道中で一番近い村がここでしたので、何か情報の一つでも無いかと思い、立ち寄ったのです」


 「情報ですか?」


 「えぇ、他に心強い仲間等が居そうな所があればと思いまして……」


 村長は、ほうほう、と髭や頬を手で(こす)り、話を聞きながら、考えているようだ、


 「でしたら、ここからまだまだ距離は遠いですが、『ロズネス』という魔術師の村が東の方にありますな」


 「東ですか?」


 ルイスは少し不思議に思ってしまった。

 というのも、東へ向かえばクロックベルンの領地であり、あそこは武力国家で騎士の錬度に重きを置き、魔術に対しては力を注いでない。

 魔術ならば、オーテムかガランドロックだろう。

 オーテムは商業国家と同時にリオメタルや最新の魔力効果を付加させた武具、防具等が盛んで、魔術師達の研究と成果を活かす場所でもある。

 ガランドロックは、山々に囲まれた難攻不落の王国にして、辺境の地でもあることから、魔術師達が篭って己を磨く事に没頭出来ると、自然に集まった魔法都市がある等、魔術師の聖地とされている。

 それでも、クロックベルンに全く魔術師が居ない訳でも無いので、そんな魔術師の集落があっても、可笑しくはないが、田舎の魔術師なら期待も薄いかも知れない、そう思わざるを得なかった。


 「噂では、ロズネスには、化け物が住み着いている……なんて、話も聞きますがな。何分田舎なもんで、そんな噂は眉唾物(まゆつばもの)ですじゃ」


 「化け物か! それは会ってみたいのぉ! 次はそこに行ってみるか!」


 「おいおい、無駄に騒ぎに巻き込まれるのは、ごめんだよ」


 「え? 行かないの? 化け物だよ? めちゃくちゃ興味湧いたんだけど!!」


 何故か、バレックと意気投合してしまった。

 巨大な動物バムクーには、全く興味を示さなかったのに…

 なんで、化け物は良くてバムクーはいけないんだ。

 納得出来る答えを是非とも聞かせてもらいたいものである。


 「ほっほっ、なかなか血気盛んですな。さすがは勇者様のお連れ様じゃ」


 村長まで乗っかってきてしまった。

 もうこれは、ロズネスに行くしか無いのだろう。


 「失礼致します。お待たせしました」


 そう言って入ってきたのは、村の女性数名で、料理を手に持って並べてくれる。

 恐らくは、この女性達が作ってくれたのであろう、村の野菜がたっぷりと使われた、サラダに炒め物、酢漬け、味噌ベースの汁物等、健康的且美味しそうな料理が振る舞われた。

 野菜の種類も豊富なだけあって、赤、黄色、緑色、紫、白、黒、オレンジと様々な彩りで、無骨なテーブルは一気に華やかに着飾った。

 勿論、野菜だけではなく、狩りもしているのか、野生の猪やら、熊やらの肉や、買い出しもしているのか、サラダにはハムも乗っかっている。


 「凄い美味しそう!!」


 「これは、食べごたえありそうじゃな」


 「あぁ、こんな彩りのある料理は見たことない」


 「ほっほっ、そう言って頂けますと、彼女らも喜びますわ」


 料理を持ってきてくれて女性達も、こちらの様子を嬉しそうに見ている。

 せっかくなので、彼女達も待ってくれているし、早々に戴く事にしよう。


 「いただぎす!」


 皆が手を合わせて、食事を始めた。

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