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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
26/63

魔王は本当に旅に出る

 「おい! 話が違うじゃないか!? なんで、アイツが生きてんだよ!!」


 マーセルの街より、少し離れた死角の多い茂みで、怒鳴る男の声が響きわたる。


 「おいおい、そんな興奮すんなよ。しかし、俺は確かに殺したぜ?なんかの間違いだろうよ」


 酒焼けをしたような、ざらついた男の声が、怒鳴る男とは対照的におどけた感じで反論する。

 暗く、茂みや木々が多くて、二人の男がどこで話しているのかも分からない。


 「馬鹿言うな! こっちは生きてる奴を見てるんだ!! 生き返ったとでも言うつもりか?!」


 男の興奮は止まない。

 何故、男がこんなにも怒鳴っているのか、その理由も分からない。


 「案外、そうなんじゃないのか? 生き返ったんだろ? それで良いじゃねぇか。」


 酒焼け声の男は、全く取り合おうとせず、おどけたままで馬鹿げた理由すらも興味無さげに肯定した。


 「いい加減にしろよ! そんなんで納得出来るか!?」


 「納得出来なかったら、どうなんだ?」


 酒焼け声の男は、余裕たっぷりに、威圧的に聞いた。


 「うぅ……」


 その威圧感に、怒鳴り声の男は、唸るだけで何も言い返せなくなってしまった。

 蛇に睨まれた蛙の如く、先程まての威勢が消え失せてしまった。


 「てめぇが、納得しようが、しまいが、そいつが生きていようが、いまいが、そんなもん関係無いんだよ。俺は確かに殺した。仕事はキッチリするのがポリシーなんでな。んで、てめぇが、納得しねぇなら、しねぇで、俺は文句ねぇ。文句はねぇが…分かるよな?」


 最後の言葉に凄みを帯びており、まるで呪文のように怒鳴り声の男は怯えきってしまい、


 「わ、分かってるさ。悪かったよ。俺もどうかしていた。別にあんたのせいじゃない」


 「だろぉ? そうだよな? なんだ、分かってんじゃんか。なら、もう何も言う事はねぇよな?」


 「あ、あぁ」


 もはや、酒焼け声の男の言葉は、呪いのように、怒鳴り声の男の精神を(むしば)んでいく。

 ほぼ、酒焼け声の男の言いなりになっていた。


 「本当に悪かった。後は、自分でなんとかするよ」


 「そいつはつれねぇなぁ! 俺とお前の仲じゃねぇか! 仕事はキッチリするって、言ったろ? まだ片付いてねぇっていうなら、俺も片付けねぇと気分が悪くてな!」


 「え? じゃあ…」


 「片付けてやるよ」


 「本当か?」


 「あぁ、本当だ」


 酒焼け声の男がそう言うと、急に風を切るようや音が聞こえ、その後、茂みにドサリと何かが落ちるような音がも聞こえた。


 「てめえを片付けりゃあ、それで(しま)いだ。しかし、勇者か…面白そうだな」


 酒焼け声の男は、そう呟いた。



 --翌朝、バレックは目を覚ました。

 昨晩の事を思い出す。

 本当の所、魔王の心中は、バレて良かったと思っている。

 このまま騙し続けて別れを告げる方が、魔王にとっては辛いものだった。

 約束通りとはいかなかったが、結果オーライとも言えた。

 そして、ノークの事だ。

 ノークの心配は分かるが、魔王が言い逃れが出来る程度には、何らかの奇跡的な要素で助かる事はある。

 実際に生きて帰ってきている以上は、そうなのだろうと信じるものだ。

 それを信じられないのは…死んでいると確信があったのだろう。

 もしくは、生きていて欲しくなかった。

 バレックの記憶から、バレックがソソノの森へ行く事になったキッカケ自体も、ノークである事から、ノークが何らか今回の一件に絡んでいるのでは、と考えていた。


 「あなた、朝ごはんですよ」


 マリーの声に、そこまで考えていた思考を一旦止めて、食卓へと向かった。

 三人で楽しく朝食を堪能し、旅の支度をする。


 「パパ、お仕事?」


 トウマがあどけない顔で聞いてくる。


 「あぁ、パパは、勇者様と旅に出る事にしたんだ」


 「パパも勇者様になるの?」


 「はは、勇者様にはなれないが、みんなを守る為に戦ってくる。だから、トウマは良い子にして、ママを守ってやるんだぞ!」


 「うん! ボクも頑張ってママを守る!」


 トウマは、言われるままに自分の大変な使命を嬉しそうに誇った。


 「あら、それは頼もしいわ。トウマはママの勇者様ね」


 そう言って、マリーは優しく、トウマを抱き締める。


 「うん! ボクも勇者様だ!!」


 その二人の様子を見て、この二人の未来が、運命が明るいものになるように心から祈った。


 旅の支度が整って、ルイスとイリアのいる宿へ向かおうとしたが、向こうからやって来た。

 恐らく、昨日の事もあるから、少しでも早めに出ようと思ってくれたのだろう。

 それぞれが、朝の挨拶を交わして、外へ出る。


 来た時とは反対方向の門へと全員で向かう。

 マリーもトウマも最後まで見送ってくれるつもりだ。

 朝なので人通りは少ない方ではあるが、自警団の人間は、仕事へ向かうのか、忙しなく移動していた。


 門の前には、ラマダ会長と馬のロットが待っていた。

 勇者と旅立つ事は分かっていたので、旅立つなら朝早いだろうと踏んでいたらしい。


 「お前は、自警団の代表だ。恥を晒すんじゃないぞ。そして、生きて帰ってこい!」


 「はい。肝に銘じます」


 絶対に守れない言葉ではあるが、バレックとして、そう言うしかなかった。

 マリーも複雑な心境で、その言葉を聞いていた。


 「勇者殿もお気をつけて、ご武運を祈っております。イリア殿も活躍期待してますぞ」


 「ラマダ会長、ありがとうございます。必ず魔王を封印してきます」


 「アタシもご期待に応えられるように頑張ります。それにマリーさんも、約束だからね」


 イリアは、昨日の夕食の約束の事は、本気であるようで念を押して言った。

 真実を知っているイリアにとっては、勇者の旅が終わった後、それで少しでもマリーの気晴らしになってあげたい、そんな気持ちもあった。


 「ふふ、そうですね。私もそれまでにもっと腕を磨いてますわ。勇者様もあの人を宜しくお願いします。そして……」


 そう言うなり、バレックへと近付いていき、耳の近くにまで唇を寄せた。


 「私の夫の身体なので、くれぐれも大事にしてくださいね。でないと、私、何するか分かりませんから」


 囁くように言うと、不敵に笑った。

 美しい容姿なだけに、それが逆に恐く感じて、魔王は本当に恐怖した。


 「大丈夫だ。ちゃんと大事にするさ」


 必死に平静を装って、両腕を広げて大丈夫だとアピールする。


 「パパ! お仕事頑張ってね!」


 「あぁ、頑張ってくる」


 「勇者様もイリアお姉ちゃんも、また遊んでね!」


 「必ず遊びに来るよ」


 「今度は朝から晩まで遊んであげるからね」


 皆に別れの挨拶を済ませ、三人は手を振って門へと向かった。

 マーセルの街から外へと出る。

 その前に、後ろから慌てた様子で走ってくるモンドが呼び止めた。


 「待ってくれ! アンタ達!」


 その呼び掛けに、三人も足を止めて振り返った。

 ラマダ会長も訝しげにモンドに問う。


 「どうしたんだ? そんなに慌てて」


 「いや、それが、今朝街の近くにノークが殺されているのが発見されて……」


 全員が驚いて、顔を見合わせた。



 --モンドが呼び止めたのは、ノークが何者かに殺されていたから、道中気を付けるように、そう伝えたかったからだ。

 ラマダ会長は、自警団全体に見回りの強化や、現場を見に行く為にすぐに動き出して、マリーとトウマには念のために家へと帰って貰った。


 三人も警戒するように言われて、門を潜って、マーセルの街を出た。


 「一体、誰が何の為にノークって人を殺したんだろ?」


 「分からん。が、バレックを殺した盗賊と何やら関係があるやも知れんのぉ」


 バレックがそう呟くように言った。

 どういう事なのか、二人には理解が出来ずにいた。


 「なんで、それの件と今回の件が関係あるんだよ?」


 「マリーが言っておったのだが、どうやら、ノークと言う男は、ワシが生きておった事に大層驚いておったらしい。なんなら、生きている事すら喜んでおらんような言い方じゃった」


 「バレックって、ノークって人と仲が悪かったの?」


 「それが、逆じゃ。昔馴染みで、よく酒を酌み交わしておったようじゃ」


 「それじゃあ、なんで……」


 「ワシの推測では、嫉妬じゃ。バレックの記憶のノークは、マリーへの視線がかなり執拗に見える」


 そこまで説明するとルイスが、ハッとなり、バレックへと向いた。


 「盗賊と何らかの取引をして、バレックを襲わせたのか?」


 「ワシは、そう考えておる。そして、バレックが生きておった事を、文句の一つでも言って、それを面倒に思ったのか、殺された」


 嫉妬による怨恨で、盗賊と裏で繋がって、バレックを殺害…

 仮にも自警団である男がそんな事をする訳がない。


 「さすがにそれは飛躍し過ぎてないか? バレックも気付くだろ?」


 「バレックという男、思ったより鈍感らしい。そのせいでマリーにバレてしまったわ」


 「はぁ?!」 

 「はぁ?!」


 二人が同時に反応した。


 「バレたって大丈夫なのかよ?!」


 「大丈夫じゃから、こうしておるではないか。まぁ、殺されかけたがな」


 「マリーさん、大丈夫かな」


 イリアは、マリーに対して、女性として少し嫉妬はしていたが、それ以上に憧れもあり、女友達が余りいないイリアは、珍しく仲良くなりたいと思っていた。


 「大丈夫じゃ、マリーという娘。なかなかに気丈で心の強い女じゃったぞ」


 「それなら、良いけど、あれで気付かれるとはな」


 「それがバレックの鈍感さのせいなんじゃ! っと、そんな事よりも、話の続きじゃが、セリナでのグスタフの事を覚えておるじゃろ?」


 当然、最近の事なので覚えている。


 「あぁ、アイツがどうした?」


 「あやつと一緒じゃよ。もし、昔馴染みのノークがバレックに対して、昔から嫉妬していて、更に自分も心寄せておったマリーを取られたとなれば、どうじゃ?」


 バレックは、自警団の中でも指折りの実力者で、ラマダ会長からの信頼もある。

 そんな男とずっと一緒に、側に居たのだ。

 ノークの心境で言えば、グスタフ以上の劣等感であっただろう。

 そして、才色兼備のマリーすらもバレックへと想いを寄せるのだ。

 ノークにとっての人生は、バレックによって全て奪われたのも同然であった。


 それなら、そこまでのものをずっと抱えていたのなら、何を仕出かすのか分からない。

 何を企んでも可笑しくない。

 それに気付かないバレックの鈍感さは致命的でもあった。


 「それで盗賊と……」


 あり得なくない。

 後は、盗賊が首を縦に振る条件さえ用意すれば良いのだ。

 だとすれば、ノークが殺された以上は、これ以上マーセルの人が狙われる事は無いと思うが、安心は出来ないだろう。


 「何はともあれじゃ。バレックとの約束も果たした事じゃし、ここから本当の旅の始まりと言う訳じゃ!」


 足を止めて、ルイスに向かい合う。


 「お主達、これから宜しく頼むぞ!」


 「あぁ、こちらこそ、宜しく」


 「まっ、まだ信用してないけどね」


 バレックは両腕を伸ばし拳を突き出し、二人も片腕で拳を突き出して、拳同士を合わせた。


 人間の身体になってしまった魔王、魔王の身体を乗っ取った男、バレックとノークを殺した盗賊。

 まだよく分からない要素含んで、この先に波乱が待ち受けている事であろう。

 それでも、三人の旅立ちは晴れた空のように、明るいものだった。

第一章を無事に終える事が出来ました。

TwitterやSNSをやってませんので、周りへのPRを行ってないにも関わらず、誤字報告、評価をくださった方々ありがとうございます。

勿論、いつも読んでくださってる方々ありがとうございます。


次回から、二章へ突入しますので、そちらもお楽しみください。

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