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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
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マーセル自警団

 --自警団本部の建物。

 他の建物とは、明らかに造りの違う程に立派な建物だった。

 豪邸というようなものでは無く、自警団としての使命感を存在を醸し出しているような威厳のあり、少し威圧的にも感じる建物。


 バレックに連れられて、ルイス、イリアもその建物を一瞥(いちべつ)して

、中へと足を踏み入れた。

 建物の中は、外観とは違ってシンプルな作りで、役所のような真面目な感じだった。


 廊下を突き進み、一番奥の部屋、他とは扉の大きさが少し違い、ここだけ両開きの扉が採用されている。

 その扉にバレックは、ノックした。


 「入ってくれ」


 野太く、力のある声が中から聞こえてきた。

 バレックは、両手でその扉を開いた。

 部屋の中は、十五畳程の広さに、骨董品や絵が飾られており、棚には本なのか、資料なのかがびっしりと詰まっている。

 正面には、デカくて立派な机があり、そこには、七十はいっているだろうか、年季の入った顔立ちで、幾つか傷もあるせいか、かなり強面に見えてしまう。

 年を取っているといっても、それでもその肉体は衰えておらず、ルイスより一回りデカイ体躯をしており、未だに現役と言わんばかりの筋肉を所有していた。

 髪はやや薄くなってきているが、白髪をオールバックに(まと)めている。


 「失礼します! ラマダ会長。自警団第六警備隊、隊長バレック。恥ずかしながら、帰還しました」


 「恥ずかしいものか。騎士じゃああるまいし、無事で戻ってきた事を心から、喜んでいる」


 ラマダ会長は、その強面とは対象的な優しい表情でバレックを迎え入れた。

 ラマダ会長も先に報告は受けていたのと、自警団を長く続けていると、死んだと思っていた人間が、帰ってくる事も、希にある事を経験しているので、それほど驚きはしなかった。


 「そちらが勇者殿と……」


 「イリアと申します。セリナの村で武術を少し(たしな)んでました」


 「ふーむ、なるほど。さすがに勇者殿のお仲間とあって、何とも立派な。相当に、武術を叩き込まれているとお見受けする」


 イリアを見て、素直に思った感想を述べた。

 ラマダ会長も、自警団の下から上り詰めた男だけあって、男女の差別無く、その者の力量を一目で見極め、それを認める度量もあった。


 「いや、アタシなんてそんな……」


 言葉とは裏腹にイリアも素直に喜んでいた。

 案外、イリアは自警団が似合っているのかも知れない。


 「わっはっは! もし、興味があれば、ウチはいつでも歓迎しますぞ! 勇者殿も、魔王を封印した暁には、是非ウチへ来てください」


 しれっと勇者まで勧誘する辺りは、抜け目がない。

 この人当たりの良さも、ラマダが会長になった理由なのだろうと納得する。


 「騎士にはなれないので、確かに良いかも知れませんね」


 ルイスも勇者の後の事は、正直まだ考えていなかった。

 父のブドウ園を継ぐのも良いとも思っているが、せっかく鍛えているのだ。

 それを活かせる仕事を続けるのも悪くないかも知れない。


 「さて、バレックよ。何があったのか、聞かせてもらおうか」


 先程までの顔とは、違って一気に真剣な表情へと変わる。

 ルイスやイリアに見せた顔は、決して客人向けの接待ではなく、あちらの顔も本心ではある。

 しかし、本題はこちらなのだ。

 自分の知る中でも、バレックは最も信用している男で、その男が不覚を取ってしまい、隊は全滅し、バレック本人も死んだと噂される程だったので、その経緯は知っておきたい。


 「例の噂の調査の為に向かっている途中、ソソノの森付近で、盗賊による奇襲を受けました。それがどうも、妙でして……」


 「妙というと?」


 「いえ、こっちが来る事を事前に知っていたような感じでした。噂を流して、罠を張っていた--というより、完全にそこへ行く事を知っていたようでした」


 バレックは、ソソノの森を更に西に行った所に、岩場の多い地帯があり、そこに盗賊が良く出没していると噂を聞き、調査へと赴いていた。

 しかし、それを予見するように、ソソノの森付近で待ち構えられていたのだ。


 「情報が漏れている……という事か?」


 「分かりません。相当の手練れであった事も事実なんで、ひょっとしたら、全てが盗賊団の狙い通りだったという事も考えられます」


 「ふむ。そうか。それなら、今後の調査は、隊を増やして行動した方が良いかも知れんな」


 「はい」


 なるべくなら、身内は疑いたくない。

 そもそもが自警団、自分達を守る事が一番の目的で、その自分達を売るような行動を取る人間等居ないと、信じたい。

 仮に売ったとして、盗賊と繋がるメリットは無いのだ。

 自警団で成り上がると言っても、会長もそれほど街で威張った存在でも無く、自警団の全体の責任を負う立場である以上、好んでなりたいと思う人間も少ない。

 それとも盗賊に見せ掛けた、他国の侵略かというと、規模が小さ過ぎる。

 マーセルの自警団を潰した所で、シャンデルは揺るがない。

 むしろ、マーセルの自警団から狙う理由は、ないのだ。

 消去法で、盗賊の活動に自警団が邪魔なので、奴らが自警団を潰す為に仕掛けてきた、というのが一番しっくりとする。


 「警戒は強めていく。今後、また我が自警団の被害が出てしまっては、自警団の意味がない。生きてこその自警団だ」


 自分達を守るのが仕事。

 それは騎士とは違って、命を懸けて守るのではなく、あくまでも、自分達で束になって、何かしらの脅威から自分達の命を守る事に意味がある。

 だから、今回の一件でラマダ会長も相当に自分を責めている所もあった。


 「それともう一つお話が」


 バレックかラマダ会長に切り出す。

 その用件まで把握していなかったのか、(いぶか)しげな顔になり、


 「なんだ? 他に話とは」


 「私も勇者殿の旅に同行しようかと思っております」


 さすがのラマダ会長も驚いて、目を大きく見開いた。

 しかし、すぐに冷静になり、落ち着いた口調で、


 「お前らしくない。自警団としての誇りはどうした?」


 「勇者殿に同行する事で、自分を襲った盗賊にもう一度出会うかも知れません。あいつらを野放しには出来ません」


 「お前が奇襲とはいえ、勝てなかった連中だ。確かに危険な奴らだろう。だからといって、お前が勇者殿に連いていく事はないだろう?」


 「勇者殿に対する恩もあります。それを返したい」


 バレックは譲らなかった。

 当然譲れなかった。

 今後の旅を続けていけなければ、魔王も目的を果たす事が出来ないのだから。

 何としてもラマダ会長の首を縦に振らせるしかない。


 「俺もバレックさんの力をお借りしたいと思ってます。力もそうですが、俺達は、若い。バレックさんのような経験を積んだ方が居てくれる方が旅も安心出来ます」


 ルイスもさすがにここで足止めされる訳にもいかないので、加勢した。

 ラマダ会長は、大きく息をついて、後ろへと仰け反って、椅子の背もたれに体重を任せる。


 「マリーには言ったのか?」


 「いえ、まだです」


 「あいつは、俺を見て育ったから、そういう所は全部我慢してしまう。だが、それはあくまでも我慢であって、何も思ってない訳じゃない。俺も妻には心配ばかり掛けてきたから、人の事をとやかく言えないが、余りマリーを悲しませないでくれ」


 「今回で終わりにします」


 今度は、大きく息をつくと共に、前へと重心を変えて、テーブルに腕をついて、両手の指を組んで合わせた。


 「お前も一度決めたら、頑固だからな。マリーには自分で話せよ」


 「ありがとうございます」


 バレックは深く頭を下げた。


 「勇者殿も、バレックを宜しく頼みます。」


 ラマダ会長は、立ち上がって、ルイスに一礼をする。

 その後は、またイリアに対して最初の砕けた表情に戻り、


 「イリア殿も自警団への件、良い返事をお待ちしておりますよ」


 「え? あ、はい! 考えておきます!」


 慌てて元気良く返事する。

 最後に念を押して言ってくる辺りが、本当に抜け目のない男だ。


 「自警団として恥ずかしくないように、しっかり勇者殿を支えてやれよ!」


 ラマダ会長は、力強くバレックの背中を叩いた。

 男として、何かを守ってきた身として、バレックの気持ちも分かるのだろう。

 渋っていたのは最初だけで、決めてしまうと全力で後押ししてくれる。

 話の分かる会長だった。


 三人はそんなラマダ会長に見送られて、自警団本部から出て、バレックの住む家へと向かっていった。

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