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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
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バレックの素顔

 ルイス達一行は、夕方くらいになると予定していたが、少し早くに目的であるマーセルの街へと到着した。

 まだ明るく夕日も出ていないので、おやつ時の時間を逃したくらいの時間だろう。


 マーセルの街は、シャンデル国内でも、かなりの大きさを誇っている。

 門も立派なもので、セリナの村とは違って、厳重な壁と門でしっかりと守られていた。


 「うわぁー、スッゴいね! シャンデル程じゃあないけど、それでも、一つの街でこんなに大きく出来るもんなんだね!」


 イリアは感動と興奮を隠す事なく、素直にはしゃいでいた。

 バレックもはしゃぎそうなものだが、さすがに本人の故郷と言うこともあり、鮮明に記憶も残っているので、そういう反応はなかった。


 マーセルの街は、勿論交易や商業等もやっているが、マーセルの街を大きくしたのは、自警団の存在である。

 ここの自警団は、少し特殊なもので、大きく三つの役割に分かれている。

 一つが、マーセルの街自体の治安を守る役割、これは単純に揉め事や困り事の解決に力を貸すという事だ。

 二つ目が、近隣の町村の警備や護衛、こちらは騎士等の配属もあるので、必要無いとも思えるが、商売をする人間には運搬等の時に護衛を騎士について貰えば料金が掛かる。

 そんな時に、格安で請け負って貰えるので契約する商業団体も多い。

 警備にしても、実害や証拠が無いとなかなか動けない騎士の代わりに、身辺を警備してくれるので、町村だけで無く、騎士達も助かっているのだ

 三つ目は、王都からの依頼だ。

 これは、戦争等の大きな事案を依頼してくる訳ではなく、近辺の妙な噂や風評等を確かめる際に、騎士を派遣するより、自警団に依頼する方が早かったりする。

 そして、自然災害での民の救助や、復興支援等も、騎士だけでは不足の場合に依頼している。

 それらの活動が、マーセルの街を大きくしたのだ。


 「本当にバレないよな?」


 「お主、これで何度目じゃ?」


 ここにたどり着くまでに、ルイスは事あるごとに、バレックへと同じ質問を繰り返していた。

 さすがのバレックも呆れて、苦笑いになっていた。

 バレックは、軽く溜め息をついて、門の前まで行く。

 大きな門の横に小さな扉があり、そちらをノックした。


 「おーい! 開けてくれ!! 俺だ! バレックだ!」


 扉の中から騒がしく音がしたと思ったら、勢い良く扉が開いた。

 出てきた男は、五十くらいのかなり蓄えられた髭面で、バレックのような自警団の服装をしており、驚いた顔で、バレックを見ていた。


 「バ、バレック!? 生きていたのか?!」


 「あぁ、何とかな。死にかけはしたが、ほら、この通りだよ」


 そう言ってバレックは、両腕を広げて一回転して見せる。


 「そうか……生きててくれたか……あぁ、そうだ、門だな。今、開けてやる! おっと、マリーにもすぐに報せをやらんとな!」


 髭面の男は、目に涙を溜めながら言うと、その涙が流れる前に腕で(ぬぐ)って、慌ただしく動き始めた。

 ルイスとイリアはと言うと、髭面の男と同じくらいに驚いていた。

 あのバレックが…いや、魔王が普通に喋っている事に、普通に喋れている事に驚いていたのだ。


 門の高さは四メートル程だろうか、重量感たっぷりにゆっくりと開いて、中の街の風景が見えてくる。

 地面は煉瓦で敷き詰められていて、家々は、石造りの家が多いように見受けられた。


 「バレック待っててくれ! 今マリーを呼んでるから、すぐにこっちに来ると思う!」


 「何から何まで悪いな」


 「何言ってんだ! お前が生きてたってだけで、本当に俺は嬉しいんだよ!」


 腕で流れる涙を拭いながら、髭面の男はバレックの生還を喜んでいた。


 「今までどうしてたんだ?」


 その言葉にルイスとイリアの緊張は高まった。

 喋るのは、真似られたとして、この魔王は言い訳は、ちゃんと考えているのだろうか…


 「あぁ、それなんだがな。俺は盗賊の奇襲にあって、瀕死の傷を負って命からがら、逃げた。そしてセリナの村にたどり着いたんだよ。そこで暫く療養して、今ここに帰ってきたって訳だ」


 「そうだったのか……いや、お前は昔から悪運が強かったからな!」


 「おいおい、日頃の行いが良いんだよ!」


 「良く言うぜ! マリーを泣かせてばっかりいやがって!」


 「まぁ、今回ばかりは本当に悪いと思ったよ」


 「全くだ! ……で、そういや、そちらさんは?」


 びくりとなるルイスとイリア。

 別に自分達は、勇者なのだから堂々としていても良いはずなのに、何故だか、そわそわと怪しくなってしまう。


 「おっと、忘れる所だった。こちらの方は、勇者とそのお連れ様だ。セリナの村出身でな。俺が療養中に帰って来て、旅に出ると言うから、是非ともマーセルに寄ってくれって、頼んだんだ」


 「おぉ、この間決まった勇者様が、この方だったのか!それを早く言えよ!すみませんな。何の挨拶も無しに。私はモンドと言うものです。この男と同じく自警団を務めております」


 「いえいえ、こちらこそ」


 まるで勇者感が無かった。

 場の空気に飲まれてしまって、というより、魔王の手際の良さについていけていないでいる。

 よくもまぁ、次から次へとそんな嘘をつけるものだ。

 まさか、今までの話も全て嘘だったんじゃないのか。

 自分達は、この魔王に上手く騙されて、ここまで来てしまったのではないか。

 そう思ってしまう程に、話が進んでいく。


 「あなたっ!!」


 驚きと喜びの混じった声が聞こえてきた。

 モンドが報せを送って、すぐに駆けつけて来たのだろう。

 息がかなり乱れている。

 広い街なので、報せを聞いて、急いで走って来たに違いない。

 三十代半ばなのだろうか、肌は白く綺麗で、髪も黒髪で手入れが行き届いているのか、光を浴びていると綺麗に煌めく長い髪だった。

 少し垂れ目ではあるが、顔立ちが良く整っている為か、逆にその垂れ目に惹かれてしまうような、魅力を持っていた。

 服装は、青を基調としたチュニックを着ている。


 「マリー、心配かけて悪かった。今、帰ってきた」


 マリーは、そのまま走ってバレックの胸へと飛び込んだ。

 暫くその感触に身を任せた後、少し離れて、バレックの右手を取り、両手で優しく包み込むようにする。


 「あなたが、無事で帰って来られたことを、神に感謝します。お帰りなさい」


 この二人の中で、優しい時間が流れている。

 そんな風に思わせる程に、マリーのその仕草や風貌は、女神のようだった。


 その二人とは、真逆に驚愕し、現実を直視出来ず、情けないくらい唖然とした顔になっている二人がいた。

 理由は簡単だ。

 バレックは、髪の手入れもしてない、無精髭もある、かなり無骨そうな男だけに、肝っ玉母ちゃんのような奥さんを想像していたら、まさかの女神様だ。

 これでは、美女と野獣だ。

 何故、こんな奇跡が起きるのか、信じられないでいた。

 それは、失礼な話だった。


 イリアも、髪を伸ばして、服装も女の子らしくすれば、鍛えている事もあり、スタイルも良いし、顔立ちも明るく目もぱっちりな女性なので、そこそこ綺麗になれるはずなのだが、性格がそれを許さないので、どうしようもない。

 それでも、少なからずは、女性としてイリアの中に嫉妬の気持ちは湧かないこともない。


 「あの、そちらの方は?」


 マリーもバレックとの再開を十分に満喫した後、ようやく二人の存在に気が付いた。

 バレックも、マリーの問い掛けに、先程モンドにしていた内容の事を繰り返し伝える。


 「あぁ、俺が瀕死になって、セリナの村に何とかたどり着いて、療養していた時に、丁度、勇者となって戻ってきたのが、そこのルイス殿だ。そして、お礼も兼ねて、マーセルの街に寄ってもらうように頼んで、連れてきた」


 「まぁ! それは、気付かず、お見苦しいものを…本当に主人をありがとうございます」


 少し赤らめて照れる(さま)も、一々美しく、二人は更に恐縮してしまった。

 バレックの身体に魔王がいる以上の謎が目の前で起こっている。

 何でこの二人は一緒になったんだ。

 端から見てもお似合いの夫婦には、到底見えない。

 何かバレックに弱みでも握られて、無理矢理結婚させられて、もう諦めてしまっているのではないか、等色々と考えてしまう。

 それは、失礼な話だ。


 「いえ、俺達は、その療養してたバレックさんに会って連れてきてもらっただけなんで、本当に何もしてません」


 「何を言ってるんですか。こうやって勇者殿の村に自分が行き着いて、出会ったのもきっと何かの縁です! どうか、ゆっくりしていってください」


 魔王は完全にバレックを演じきっていた。


 「いけない! でしたら、夕飯はご馳走にしなくちゃ。丁度買い物の途中でしたの。腕によりをかけて作りますね!」


 マリーは、夕飯を作る量が倍以上になったにも関わらず、嬉しそうに言う。


 「あぁ、なら、トウマは俺が見ておくから、ご馳走は任せる」


 「え? あぁ、それじゃあ、お願いしますね!」


 マリーは、買い物の事で頭がいっぱいになっていたのか、ちょっと驚いてから、バレックに任せた。

 四人は、女神が嬉しそうに買い物に戻っていく姿を見えなくなるまで眺めていた。

 暫くの癒しの一時が終わり、現実が戻ってきた。


 「トウマって?」


 イリアは聞いた。

 多分、分かってはいるが、一応、何となく、確認しておきたくて聞いた。


 「息子だ。」


 バレックはパパだった。

 美女と野獣の上、その間に子供まで授かっていたのだ。

 一体どっち似なんだろう。

 間違っても父親に似てはいけない。

 母親に似ていて欲しい、そう二人は切実に願っていた。

 それは、失礼な話だ。


 「息子に早く会いたい気持ちは分かるが、先に会長の所に行って、報告と挨拶しておけよ」


 「それくらい分かってるって。あの人にそんな不義理出来るか」


 モンドの言う会長とは、マーセルの自警団を総括している男であり、マリーの父親でもある男だ。

 この会長も、元々は自警団の一人で、その活躍ぶりと周りからの信頼から、のしあがった、叩き上げの会長だ。

 そんな父親を見て育ったせいか、マリーは父親のような立派な人に憧れを抱き、自警団の中でも、指折りの実力者で、周りからの人望もあるバレックに惹かれてしまったのだ。

 そんな会長に、無事であった事と、任務の報告、そして、勇者を連れてきている報告もしなくてはならない。


 バレックは、最後まで呆気に取られていた二人を連れて、会長の居る自警団の本部まで向かうのだった。

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