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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
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見極めるべきこと

 セリナの村から送り出された三人は、暫くは道なりに歩いていた。

 勇者の旅は、最終的には導きの一族の村へと赴き、その後はバースモアに足を踏み入れて、魔王の所へと向かう事になる。


 つまり、それまでの道中というのは、全くの自由で、特にどこに寄らなければいけないと言う事はない。

 基本的には、魔術師や腕利きの戦士、最近で言えば『魔族狩り』と呼ばれる、自ら積極的に魔族と戦う為に訓練し、それを生業としている集団もいるというので、その者達を仲間にするのも良いだろう。

 とは思うのだが、隣に魔王がいるとなれば、その者達も仲間どころか、敵対心を抱いてしまわないか、不安は尽きない。


 「さて、ここから何処へ向かおうか」


 ここから先、向かう場所によって、分岐されているので、どちらに行くにしても、そろそろ進行方向は決めておきたかった。


 「おぉ、そうじゃった! それなら、まず寄りたい所があるのだが、()いか?」


 「寄りたい所? 何処へ?」


 魔王に寄りたい所なんてあるのか、二百年前に何かあった場所でもあるというのか、興味はそそられた。


 「いやなに、バレック本人の希望じゃよ」


 バレックは自身を親指でさして、魔王の魂の宿主であるバレックを示した。


 「身体を借りる時の約束でな。バレックの故郷であるマーセルの街へ行ってもらいたいのだ」


 「それは構わないけど、行ってどうするつもりだよ?」


 「こやつの嫁に生きておると告げて、勇者の共として旅をするように伝える」


 「え? バレックって、奥さん居るの?!」


 イリアがあからさまに驚いた。

 人間のバレックは、まだ死んで間もない時に、魂が完全に離れる前に、魔王の魂が入ってきて、そこで自身の身体を宿にする事を許可するのを条件に、妻を心配させないようにと、伝えるというのだ。


 「けど、大丈夫か? バレないのか?」


 「安心せい! こやつの記憶があるので、(いつわ)る事くらい余裕じゃ!」


 本当にそうだろうか。

 (にわか)には信じられないが、自身たっぷりなバレックの口振りをとりあえずは、信じる事にした。


 マーセルの街というなら、ここから西の方向へ進み、歩いて行っても、夕方には到着出来るだろう。

 あそこは、確かに自警団があり、自分たちで街を守っているイメージはある。

 きっとバレックもその自警団の一人で、その仕事の途中で命を落としてしまったに違いない。


 「そういえば、バレック本人は何で死んだの?」


 丁度、ルイスも、そんな事を考えているタイミングでイリアが、その質問をした。


 「盗賊に襲われたようじゃな。しかも、なかなかやり手のようじゃ」


 やり手の盗賊……思い当たるのは、『灰色の鬼(グレイオーガ)』と呼ばれ恐れられている集団だろうか。

 しかし、彼らは主にクロックベルンの領地が拠点で、シャンデルからは程遠い。

 他には『緑風(ジン)の遣い』と呼ばれる義賊集団がシャンデルには、いるらしい。

 悪政で利益を得ている所しか襲わない集団だとは聞いていたが、最近では悪い噂も耳にするようになったので、世代交代による方針変更なんて事も有り得なくない。


 他にも名を知らないだけで、腕の立つ盗賊団は居るだろうから、判断はつかないが、本来の人間のバレックは、その体格を見るだけでも、そこそこの猛者(もさ)である事が分かるので、そのバレックを倒したのだから、油断ならない集団がこの近辺に(うごめ)いているはずだ。

 セリナの村に被害が出ないとも限らない。

 もし、手掛かりがあれば、叩いておく方が、この先の旅も安心出来るのだが。


 「バレック。その盗賊って、心当たりとか無いのか?」


 「さてな、襲われる理由も無ければ、本人も見覚えも無いみたいじゃ」


 「そうか……」


 一応は、各地に騎士達も駐屯し、配属されているので、何かあれば騎士達も動くから、心配し過ぎても仕方ない。

 不安は残るが、全ての悪を取り除く事なんて、出来ないんだ。

 それをしてしまったら、魔王の所へたどり着く頃には、大陸から悪どころか、人々が消えているかも知れない。


 「まぁ、そう気にするな。盗賊何ぞにかまけてても仕方あるまい」


 「分かってるさ」


 考えている内に分岐へと到着する。

 マーセルの街なので、西の方向へと進路を進めた。

 割りと大きい街なので、その道も他と比べて舗装されており、綺麗で歩きやすくなっている。


 「魔王ってのは、結構義理堅いもんなんだな」


 盗賊の事は、考え出したらきりがないので、切り換えてバレックへと話題を振ってみた。


 「まぁ、身体を借りておるからな。それくらいの礼くらいはしてやらんとな」


 「礼をするのは良いけど、本当にバレないでくれよ。毎回俺の村みたいに上手く話がいく訳でも無いし、毎回あのハラハラを味わうのは心臓に悪いからな」


 「まったく。大丈夫じゃというとるじゃろ。お主は心配し過ぎじゃ!」


 「大丈夫じゃなかったから、心配してるんだよ」


 「かはは! それもそうか!」


 陽気に笑ってる場合じゃないぞ。

 場合によっては、勇者の旅が終わる事にもなるのだから、細心の注意を払ってもらいたいものだ。


 「でも、アンタを封印したら、バレックの身体は、また死体に戻るんでしょ? それって意味無いんじゃないの?」


 「勇者との旅で華々しく散った。その方が見栄えが()いじゃろ? それに盗賊に襲われて死んだ時は、別に死別すると思わんかったから、何も言ってなかったようじゃから、別れの言葉、覚悟くらいはさせてやりたいんじゃよ」


 何だかんだで、この魔王もお節介が過ぎる。

 魔王なのに、そんなに人の世話を焼く必要があるのか。

 身体を借りたとは言え、死んだ人間の世話を焼くのだから、世話焼きの鑑だろう。

 イリアも気になっているのか、質問する。


 「なんでアンタは、そこまでしたがるの? 別に放っておいても、アンタには問題無いでしょ?」


 「簡単じゃ。ワシは人間が好きじゃからな!」


 少し分かってきたと思ったが、やっぱり魔王という奴が分からない。

 魔王が人間が好きなら、今までの歴史とはなんだったんだ。

 どうしたら、こんな歴史になってしまい、現在に到っているんだ。


 「じゃあ、なんでバレック……魔王は封印されるんだよ」


 「それも簡単じゃ。ワシが人間が好きでも、魔族は人間を食う。そして、ワシはそれを止めるつもりはない。幾ら人間が好きでも、同胞を見捨てるような真似をワシはせんよ」


 それは……どうにかならないのか。

 戦わずに済む方法が無いのか。

 それで毎回封印される事を、この男は選んでいたのか。

 だとしたら、神への反逆……あの言葉の意味が少し理解出来た気がする。

 魔族が人間しか食べられない存在だというなら、それを造り出した神が悪い。

 魔王は、人間と敵対するつもりは無い。

 ただ、生きていく為に食糧が必要なだけだ。

 それが人間であり、人間もそれを了承出来ない以上、争うしか道はない。

 こんな世界を造り出してしまった神がいると言うのなら、一体何の目的なのか、是非とも教えて頂きたいものだ。

 昔は、魔族も人間以外食べるのがあったと言うのに、何でそれが無くなってしまったのか、それも神の気紛れなのだろうか。

 待てよ。


 「なぁ、昔は人間以外食べるのがあったって言ってたよな? だったら、それが何処かに残ってないか、探すってのは、どうだ?」


 バレックは、その言葉に目を丸くして驚いていた。

 また自分は馬鹿な事でも、言ってしまったのだろうか。

 しかし、それ以外に共存出来る道は無いようにも思える。


 「かっはっはっは!! お主は本当に優しいのぉ! そんな事を言う人間は久しぶりに会ったわ! ワシも考えなくはなかったがの。それでも、それだけでは無理なんじゃ」


 「それだけじゃあ無理って何だよ。食う物があれば、魔族は人間を襲わずに済んで、二千年前のような暮らしになるんだろ?なんで無理なんだよ!」


 「それは、言えんのじゃ。気を悪くせんでくれ。お主らを信用しとらん訳では無い。じゃが、それでも話す事は出来ないんじゃ」


 「アンタが人間を食べるのを止めた理由と一緒だったりするの?」


 「かはは! それはまた別件じゃよ! ワシも封印されとるとは言え、長く生きておるからな。色々あるんじゃ」


 せっかく何か希望が見えかけたと思ったのに、一体何をこの男は抱えているんだろうか。

 顔は笑っているままだが、この話になった途端に少し悲しげな表情すら伺える。


 「それでも、魔族の食糧を探すのは悪くない。バースモアも広いからのぉ。普段寄らんルートで行けば、何か発見もあるかも知れん。」


 「さっきの話。それだけじゃあ無理でも、食糧が見付かれば、お互いが争わずに済む可能性は、出てくるんだよな?」


 「そうじゃな」


 今まで余計な事まで、ベラベラと喋っていたバレックだが、その返事は一言だけだった。

 それでも十分だとも思った。

 最終的には、魔王を封印する事になるかも知れない。

 勿論、勇者として、その覚悟はしているつもりだ。

 仲良しこよしと馴れ合って、封印したくないなんて言うつもりはない。

 ただ、可能性があるなら、この男も救ってやりたい。

 それでも、世界が平和になるなら、勇者としての使命は全うしているはずだ。

 魔王が本当に悪くないと言うなら。

 人間が好きと言うなら。

 それは可能のはずだ。

 全てが嘘だったというなら、それはそれで、封印するのに躊躇(ためら)

等無くなって、心置きなく封印出来るというものだ。


 「俺がちゃんと見極めてやるから、アンタはアンタのやりたいようにやれば良い」


 「それは頼もしいのぉ。ならば、お主にワシの命運を託す事にしよう!」


 本気なのか、冗談なのか、その口調からでは分からないが、そこに悲しげな表情は無くなっていた。


 旅は始まったばかりだ。

 これから、見極めていけばいい。

 少なくとも、この数日間一緒に過ごした短い時間では、今までに教わってきた魔王の人物像とは、かけ離れている事は分かった。

 先入観や、誰かに教えられた知識等は取っ払って考えた方がいい。

 次のマーセルの街で、バレックがどうするのか、見守っていけばいい。

 少しずつ、この魔王を知っていけばいい。


 そう思いながら、舗装された道を進み、マーセルへと向かっていく。

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