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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
17/63

受け継がれた想い

 その後、グスタフ達の身柄をシャンデルの騎士達に引き渡した。

 ルイス達は、彼らがバレックを魔王だとバラして、シャンデルは混乱したりしないか不安にはなったが、バレックはあやつらの言う事を間に受ける馬鹿はおらんだろう、と言っていた通り、報復に取りつかれ、見境の無くなったあの男の口から、魔王が人間の身体になっていると言われた所で、信じる者は居ないだろう。


 バレックは、一通りの治療を受けてから、昨日の酒場でもう一度、恩人であるバレックのお礼という事で、村長が宴を開く事を提案した。

 村人達もそれに反対する者は、もういなかった。


 酒場に着くと、バレックへの謝罪や、感謝の気持ちを次々にバレックのテーブルへと言いにくるので、なかなか食事が出来ない事に愚痴を(こぼ)していた。

 ようやく、バレックへの挨拶を終えたのか、テーブルには昨日のメンバーのルイス、イリア、ハイドがワインを飲みながら、囲っていた。


 「ねぇ? 聞いて良い?」


 「ん? なんじゃ?」


 ずっと村人達が入れ替わり、立ち替わりでバレックと話していたので、それを待ってから、イリアは声を掛けた。


 「アンタ最初より強くなってない?」


 そう、最初出会った時には、まるで話にならない程に弱かった。

 なんなら、一撃目の棍棒で気を失っても良い程に弱かった。


 「忘れたか? ワシは片腕の魔力を取り込んだのだぞ?」


 何も不思議な事は無いとばかりに、説明して、食事を続ける。

 相変わらず、話している時は必ず手を止めている。


 「いやいや、それでも強くなり過ぎでしょ? アンタの身体を乗っ取ったヤツと同じか、それ以上のように見えたけど?」


 イリアの疑問は、(もっと)もである。

 片腕しか取り込んでいないのであれば、それ以上に強くなれるはずがないのだから。


 「それは、ワシがこの人間の身体の力を十分に使いこなせていないのと同じじゃ」


 バレックは、見た目以上に弱かった。

 それは魔王がバレックの身体に慣れていなくて、その力を発揮出来ていないのと同じく、魔王の身体を乗っ取ったヤツも、その力を十分に引き出していなかったと言う事。


 「ワシの魔力が回復しきってないとはいえ、片腕の魔力でもこれくらいはある。ヤツにはその魔力すら三割程しか引き出せておらんが、ワシは十割、自身の魔力は使いこなせる。それだけの話じゃ」


 それ程までに魔王は力があるという事である。

 これでは、確かに導きの一族の力を借りて、封印するのが限度と言うのも頷ける話だ。


 「じゃあ、最初から彼奴(あいつ)らを倒せたって事だよな?」


 「それは無理じゃ、人質がおるじゃろう。」


 「いや、それでも構わず突っ込んで行ったじゃないか」


 最初から、力があるなら、同じようにして助ければ良かった。

 わざわざ彼奴(あいつ)らの攻撃を受けて、ボロボロになる必要はなかった。


 「ルイス君、それをするには危険だったんですよ」


 ハイドが諭すようにルイスへと説明する。


 「あの者達は、初め余裕があった。もし、バレックさんが初めから向かっていけば、ニース君を殺して、別の仲間が村人を人質に取っていたでしょう」


 「さすがは勇者の師匠じゃな! 分かっておる!」


 そう人質は、一人では意味が無い、殺してしまえば、人質が無くなり、不利になるのは自身でしかないのだから。

 人質の基本は複数人を確保する事である。


 「だから、わざとやられて、彼らの標的を自分のみに絞らせた。自分がボロボロにやられれば、やられる程、さっきまで出来たと言う事実があるから、多少追い込まれてもどうにかなる、と思ってしまう」


 無抵抗にやられたのは、自分以外をターゲットにする考えを相手から消す為だったのだ。


 「そして、極めつけがあの大技を受けて立ち上がった事ですね。あれで一気に彼らは余裕を無くした。焦り始めれば、冷静な判断は出来ない。普通なら、一旦引いて、もう一人くらい人質を取れば良かったのに、先程まで出来たと言う実績から安易な考えとなり、バレックさんは口ばかりで抵抗等出来ないと、考えたでしょう」


 確かに言っていた。

 どうせ何も出来ない、死ぬまでやれば良いと、ボロボロの手負いだから、今まで何も出来なかったから、だから、次も同じように上手くいくと考えた。

 もし、冷静になられて、人質を増やされていたら--きっとバレックは何も出来なくなっていただろう。

 そうなっていたら、詰んでいた。

 そうならないように、最初から無抵抗に殴られていたのだ。


 「先生は、それに気付いていたから、あの時止めたんですか?」


 「えぇ」


 改めて、何も気付かずに、己の無力さを呪い、ただ怒っていただけの自分が情けなくなってしまった。


 「まぁ、ワシも、この考えは、ワシと言うより、この人間の身体にある記憶、経験から判断しなのだがな。人質を取るなら、冷静で慎重であらねば、破綻するとな」


 人間のバレックの、自警団としての経験値が魔王の行動へと繋がったと言う。

 バレックは、どんな気持ちでその行動を選び、どんな想いでそれに耐えていたのだろうか。


 「先生は、バレックを信じていたんですか?」


 聞きたかった。

 自分には、何も分からなかったのに、事情も何も聞いてないはずのハイドが、魔王と知ってなお、信じていたのかを。


 「貴方は、立場や地位で相手を信じるか決めますか?」


 「いや、それは……違います」


 それは違う、違うのは分かるのだが、それでも敵対する魔王なら話が違う。


 「私はバレックさんの話を聞いて、彼の行動を見て、信用に足ると判断しました。今後、その行動に矛盾が生じれば疑う事もあるでしょう。それだけです」


 ルイスには、その考え方が難しかった。

 勇者としての立場が、責任がそれをなかなか受け入れてくれない。

 ルイスはワインを少しの間見つめてから、一口飲んだ。


 「歓談中の所、失礼します」


 ルイスが黙ってしまった所へ、村長がやってきた。

 村長は空いてる椅子に座って、バレックを見る。


 「今日は、本当にありがとうございました。村人達の非礼もお許しくだされ」


 村長は、お詫びを言うと、ウェイターを呼んで、お茶を一杯貰う。


 「なぁに、気に病む事はない! ワシから言わせれば、素直に受け入れたお主の方がどうかしておる」


 やんわりと村長を変わり者扱いして、食事を続ける。

 飲むより、食べる方が好きなのか、それとも、人間の食事が気に入ったのか、良く食べた。


 「いえ、なに、実は私、貴方にお会いしたら、伺いたかった事がありましてね」


 ウェイターからお茶を貰い、それを(すす)る。


 「ほぉ、ワシにか? 何だ申してみぃ」


 バレックも、魔王と分かって、聞きたい事がある等、初めての体験で、意外そうな顔をして、すぐに興味を持ち、箸を止めて、前のめりになって聞いた。


 「ビトーと言う名前に心当たりは、ありますか?恐らくは、二百年前の事になるとは思うのですが」


 すぐに思い当たったのか、ほぉ、と唸って、興味深げに答えた。


 「二百年前など、封印されておったから、昨日の事のように覚えておるわ! ビトーは、確か盗賊に襲われておった少年じゃったかの」


 「その少年は、私の高祖父です」


 「なんと!?」


 村長はバレックが知っていた事に安心して、嬉しそうに自分の先祖であると伝えると、バレックは目を見開き、椅子から立ち上がって驚きを表現する。



 「え? 村長のひいひいおじいさんが、魔王と会ってたって事てすか?」


 イリアも同じように驚いてみせた。

 何故、村長の高祖父は、わざわざ現在にまで伝えているのだろうか。


 「私は、父から又聞きしたので、詳しくは知りませんが、高祖父は、魔王は自分を助けた男で、その恩を必ず次世代へと伝えてくれ、と必死で頼んでいたそうです。感謝していると」


 「あやつがのぉ……」


 バレックは、懐かしむように、少し遠くを見ながら、感傷に浸っていた。


 「そのせいか、貴方が魔王と聞いた時には、不思議と高祖父が必死に伝えたかった気持ちが、少しだけ分かった気がしたんです」


 そういう事情で、村長は魔王を受け入れていたのだ。

 村長にとって魔王は、忌み嫌うべき存在という訳ではなく、高祖父の熱い想いを受け継いだからこそ、信じようとしたのだ。


 「宜しければ、高祖父のお話をお聞かせ願えませんか?」


 村長の頼みに、気恥ずかしそうにしながら、頭を掻いたら。


 「面白い話ではないぞ? ただ、少年を盗賊から助けたと言うだけじゃ」


 前置きをして、魔王は目についたブドウを一粒取って口の中へ放り込み、ちゃんと味わってから、話し始めた。



 --二百年前、魔王が復活して間もない頃。

 セリナの村は、その時から酒作りで活気づいていた。

 まだシャンデルや、近隣の街にしか、得意先が無かったので、当時の村長とその息子、当時九歳のビトーは、得意先を増やすべく、遠くの港の王国オーラムへと赴いていた。

 セリナの酒は、地元では評判の酒の為、飲んで貰えさえすれば、と期待を胸に道中を馬車を使って、向かっており、川辺で休憩中に盗賊に襲われた。


 その時、村長と護衛の者は川の水を飲み、休んでいた所へ突如盗賊が現れて、馬車ごと奪ってしまったのだ。

 必死に追い掛ける村長と護衛だが、その手際の良さに見失ってしまった。


 そして、馬車の中には、一緒について来ていたビトーが一人眠っていたのだ。

 騒がしくて目覚めた時には、もう盗賊達が馬車を占領して、山の中へと入っていた。

 怯えてしまい、隠れながら震えていると、馬車の中を見に来た盗賊の一人がビトーを見付けてしまった。

 馬車は山の中で止まって、ビトーを放り出した。


 「ガキなんて要らねえが、生かして帰してやる義理もねぇ。運がわるかったな!」


 盗賊は、笑いながら、武器であるオノを振りあげた。

 ビトーは泣き叫びながら、目を閉じて、ただただ自分の死を確信していた。

 オノを振り下ろしたとは思えないような音がして、そして、その音が終わっても自分が死んでいない事に気付いて、目を開ける。

 すると、盗賊達は全滅していた。

 この奇跡を、救いの神を見渡して、そして見付けてしまった。

 黒い翼の生えた、禍々(まがまが)しい姿の男を。


 「えっと…………あなたは?」


 盗賊をやっつけてくれたのだ、きっと見た目と違って良い人だ、人を見掛けで判断してはいけないと、父にも教わったので、大丈夫だ。


 「ワシか? ワシは魔王じゃ」


 終わった!!

 盗賊の方が良かった!!!

 食べられる! 絶対食べられる!!

 もっと(むご)い感じで殺されて、最後には食べられる!!!


 ビトーは、さっき以上に泣き叫びながら、這いつくばって逃げ惑う。

 そんなビトーをお構い無しに捕まえた。


 「待て待て、せっかく助けてやったのに、そういう態度はどうかと思うぞ?」


 「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 何でも言う事聞きますので、食べないでください!!!!」


 「あほう、食うつもりなら、わざわざ助けんわ!」


 そう言って、ビトーを離して、ビトーは重力に従って落ちた。


 「でも、魔王って、人間を食べるんだよね?」


 ニタリと笑いながら、


 「まあの」


 再び逃げ出すビトー。


 「待てと言うのに、お主は、ここから一人で帰れるのか?」


 その言葉に動きが止まるビトー、しかし、近付きはしない。


 「ここの酒を譲ってくれたら、お主を家まで送っても良いんだが?」


 後ろにある馬車を親指でさして、魔王は言う。

 ビトーは、怯えながらも承諾した。


 「本当に食べない?」


 「食わんわ! 食うならそっちの盗賊の方が腹が膨れるだろう」


 言われてみれば、そうだった。

 わざわざ盗賊をやっつけておいて、食べる必要も無いだろう。


 「じゃあ、何で助けてくれたの?」


 当然の疑問をぶつける。


 「気紛れじゃ!」


 楽しそうに魔王は笑う。

 その笑顔に、少年は不思議と落ち着いてしまった。

 そして、魔王は酒を飲み始めた。


 「今飲むの?!」


 「ワシは人間を食うのを止めたからな。腹が減ってしまって、酒で代わりに満たしとる」


 人間を食べるのを止めた?

 少年の知っている魔王とは、随分イメージが違うので、戸惑ってしまった。

 暫くすると魔王は………寝てしまった。

 家へ帰してよ!

 少年は心の中で絶叫した。

 でも、その寝顔を見ていると、いつまでも恐がっているのも馬鹿馬鹿しくなってしまい、ビトーも少し離れて眠ってしまった。


 翌日、魔王がビトーを起こす。


 「おい、何を暢気(のんき)に寝ておるんじゃ! さっさと起きろ行くぞ!」


 先に酔っ払って寝た癖に、と思いはしたが、それを口に出す事はなかった。


 「お主、何処に住んでおるんじゃ?」


 「セリナの村……」


 ほうほう、と言いながら、頭の中の地図を開いて、場所を検索しているようだった。


 「ここからなら、オーラムかと思ったが、ちと距離があるのぉ」


 「元々は、そこのお酒をオーラムに営業に行く所だったから」


 ビトーは、簡単に説明して、魔王は納得したのか、ならば、オーラムに向かおう、と言い出した。


 「恐らく、ワシが親なら、オーラムの騎士に頼んで、捜索してもらうはずじゃ」


 盗賊に奪われたからと、息子を諦めて、すごすごと村に帰るような親ではないだろう。

 ならば、オーラムへと頼みに行く方が早い。

 それが叶うかどうかは別の話だが。


 「では、飛んで行くから、背中に捕まっておれ!」


 そう言って、ビトーが乗りやすいように屈んだ。

 ビトーを乗せると、一気に飛び上がり、凄いスピードで、空を走った。

 最初は恐がっていたビトーだが、少しすると慣れて、風の気持ち良さを感じていた。


 あっという間に、オーラム付近まで到着して、そこでビトーを降ろした。


 「さて、ここまでで良いじゃろう。後は自分の足でオーラムまで行け」


 「え、でも、お礼もしてないし……」


 魔王はその言葉に軽く笑い、


 「酒を貰っただろ? それにワシは魔王じゃ。一緒に行けば騒ぎになるだけじゃ」


 魔王は笑っていたが、ビトーには、少し魔王が寂しそうにも見えた。


 「ボクが説明するから! 悪い人じゃないって! だからさ!!」


 このままお別れをするのが、何か悲しい気がした。

 きっと皆が魔王を誤解している。

 魔王は実は良い人なんだ。

 だから、だから一人にしたくなかった。


 「お主は、本当にあほうだな。良いか、ワシに助けて貰った事は、誰にもいうな。ワシとお主だけの秘密じゃぞ?」


 そう言って頭をわしゃわしゃと無遠慮に撫でてきた。

 それが逆に優しさに感じてしまい、少年は泣いた。


 「助けてくれて……ありがとう」


 魔王は満足気に笑って、達者でな、と最後に声を掛けて、そのまま飛び立っていってしまった。

 少年は、誰にもこの事を伝えなかった。

 そして、魔王は封印され、ビトーは大人になり、親となった時に、息子に必死に言い聞かせた。


 魔王は自分の恩人だと、それを次に復活の時に出会う事があれば伝えて欲しいと。

 自分は貴方に受けた恩は忘れないと。

 貴方は一人じゃないと。



 --「とまぁ、そんな所じゃな」


 バレックは、話終わると喉を潤す為にワインを飲み干した。


 「そうでしたか…私も高祖父の想いを貴方へ届ける事が出来て良かった。私からも高祖父を助けて頂いた事、感謝致します。ありがとうございます」


 「よせよせ、そういうのは、性に合わんわ!」


 バレックは、誤魔化すように、話を打ち切る。

 村長も満足したのか、その姿を見て微笑んだ。


 「それじゃあ、高祖父の長年の想いを確かめる事が出来たので、私はこの辺りで退散させていただきます。皆さんは、ごゆっくりどうぞ」


 そう言って、村長は椅子から立ち上がり、もう一度バレックへと頭を下げて、酒場を後にした。

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