魔王への疑惑、勇者への嫉妬
「なんだよ、コイツは?!」
沈黙。
村人達が集まり、ざわつき始めた。
どう言い逃れをしよう。
どう言えば、この場を丸く収める事が出来るだろうか。
ルイス自身ですら、少しだけ打ち解けようとしてはいるが、信じ切れない。
さっきの事があったから、魔王なのかも知れないと、ようやくそこは認められそうにはなったが、だからとはいえ、魔王を仲間にこれから旅をして、魔王の復活を手伝って、大人しく封印されるとは、到底思えない。
なのに、まともに話しても無い村人に、コイツが魔王で一緒に旅をして、復活させて、封印させるんだ、なんて信用して貰えないだろう。
別にバレックを助けようとは思えない。
だが、そうなるとどうなる?
バレックは拘束され、シャンデルの牢屋にでも、入れられるか?
それとも、導きの一族であるゼルスが魔王だと正体を暴いてくれて、封印又は、消滅してくれるのか?
いや、それだと結局新しい魔王が誕生するか、次の復活が早まるか(バレックの話が本当だった場合)だろう。
もっと言えば、バレックはその前に自害して、別の身体に移る事も可能という事。
それでは、不安要素が増えてしまう。
今はとにかく傍に置いておいた方が安心と考えたから、ルイスは連れてきたのだ。
いや、だから、そうじゃなくて、ここをどうにか乗り切る方法を考えなくては--
「おい! お前は何者なんだよ?!」
考えが纏まらず、黙り込んでいたので、痺れを切らして、バレックへと直接問い質した。
さすがにまずい。
考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ!
頭をフル回転させているが、何か言い逃れが出来ないのか。
バレックは、一体今何を考えて…………る?
バレックは、笑っていた。
いつものように高らかに笑っていた。
「かっはっはっは! 実はな、ワシは魔王じゃ! 今は、人間の身体を借りておるが、先程の奴に身体を奪われてしまったが、今のを見たじゃろ? 魔王の身体の一部の魔力を取り込んだのが証拠じゃ!」
馬鹿正直に言った。
馬鹿だと思った。
勇者ルイスの人生は、魔王との共犯で終わってしまうのか。
村人達は、余りの堂々さに呆然としてしまっている。
「しかしじゃ! お主達よ! よく聞くが良い! ワシは昨日、ここにおる勇者に勝負を挑み、完膚なきまでに負けた。そして、ワシが魔王で、身体を取られていると聞くと、勇者は、己の使命を全うしようと、ワシの身体を戻して、正々堂々と封印すると言いおった! ワシは、それに心打たれてな! ワシはその約束を果たそうと心に誓った!」
何とも大胆不敵。
誰がそんな事を信じるんだ?
再び村の人達のざわめきが膨らんでいった。
バレックは、言い切ったとばかりに満足気だった。
「成る程。そういう事でしたか。さすがはルイス君、いや、勇者様じゃな。立派なお考えじゃ」
ざわつく中で、バレックの言葉を真に受けたのは、村長だった。
本当に信じたのだろうか。
「そ、村長! あんなのの言う事を鵜呑みにするんですか?!」
村人の一人が、ごもっともな事を仰られた。
「ん? そうかな? わざわざそんな嘘をつく必要も無いと思うが?」
何故だか村長は、バレックの言葉を疑おうとしない。
それはルイスを守る為なのだろうか。
「人間の身体で本来の力が出せないから、身体が戻るまで大人しくしてるだけじゃないですか?! 戻れば本性現しますよ!!」
村人の男性は、必死に村長を説得する。
自分達の、世界の運命が懸かっているのだから、当然である。
「それでは、さっきこの男が言っておった事と変わらんではないか?」
「え? あ、いや、それは……」
魔王本人も、身体が戻ったらば、正々堂々と再戦する事を約束すると言っているので、実質それまでは大人しくすると言う事だ。
そこに関しては、バレックの言う事であろうと、村人の言う事であろうと、内容は同じ事。
「しかし、今の状態で倒してしまうなり、拘束してしまうなり、した方が良いんじゃないんですか?」
問題はそれだ。
そうされてしまうと、魔王の魂やら、身体やら、次世代の魔王やら、不安な要素も増えてしまう。
「必ず魔王を封印してくれると信じておる。ですよね? 勇者様?」
突然振られたので、慌てたが、こうなってしまえば、押し切るしかないだろうと意を決した。
「あぁ、どうやら、魔王はちゃんと魂と身体を一緒に封印しないと意味が無いらしい。まずは魔王を身体に戻してから、その後キッチリ封印する。だから、俺を信じて、コイツは見逃して欲しい」
村人同士がまだ何やら話し合ってはいるが、先程までの反論はなかった。
不安ではあるが、勇者にそう言われれば、信じるしかないだろう。
今日は、もうなるべく大人しくしておいて、明日朝すぐにでも発つとしよう--
「ニースっ!!!!!」
ざわめきが残る中に、突如空気を張り裂くような女性の叫び声があがった。
驚いて、声の方向へ目をやると、朝に手伝った時に出会った、ニース君の母親が居て、母親の視線の先には、大人の男がニース君を片腕で拘束し、その首筋にナイフを突き立てていた。
「動くな!! 動くとコイツの命が無いぞ!!」
男は、青いのタートルネックに肩当てと胸当て、茶色の分厚い材質のズボンを履いており、黒のブーツと戦闘向きのスタイルだった。
髪型は、前髪を右に寄せて、片眼が隠れそうなくらいに伸ばしており、横は短めだが、後ろは首筋まで伸ばしている。
細目で鼻が少し大きく、憎しみの籠った顔をしていた。
ニース君はその男の腕に捕まえられ、泣き叫んでいた。
良く見ると、男の両隣には、黒いローブに身を包む男と、正反対に上半身裸で、黒の薄手のズボンを履いて、棍棒を携えた筋肉隆々の大男が控えていた。
「お願いです!! ニースを返してください!!!」
母親は涙を流しながら懇願する
その懇願も虚しく、男は見下すように鼻で笑った。
「無事で返して欲しけりゃ、黙ってろ!」
「お前! どういうつもりだ!? ニース君をさっさと離せ!!」
痺れを切らしたルイスは、詰め寄ろうとするが、男がすぐにそれを止める。
「動くんじゃねぇ!! コイツを殺すぞ?」
そう言って、更にナイフをニース君に近付ける男。
本当にやりかねない、ルイスは戸惑いながらも後ろへと下がるしかなかった。
この男がどういう意図で、ニース君を人質に取っているのかが、全く分からない。
「がはは! それで良い。てめえは、そこで黙って見ていて貰おうか。情けない勇者様」
「お前の目的は一体何なんだ?!」
笑っていた顔を再び憎しみに歪め、男はルイスを見やった。
ルイスの事が天敵であるかのように、その怒りと憎しみをルイスへとぶつける。
「てめえが覚えてねぇのもムカつくぜ!! 俺はな! てめえのせいで勇者になれなかったんだ!!! てめえさえいなけりゃあな!!!!」
この男は、どうやれ勇者の選定でルイスと何らかの試験で競って負けたらしい。
ルイスは、全く心当たりはなかった。
地区選抜で、シャンデルに募ったのは百名程いたのだ。
最後の二年位には、十名程まで絞られていて、その十名なら顔も名前も覚えているが、それより前となると覚えてない人間の方が多い。
もし、地区選抜の段階だと言うなら、もはや覚えている方が凄いと言うものだ。
「勇者の選定は公平なものじゃないか? それで俺を逆恨みするのは、筋違いだろう」
「うるせぇ!! てめえに負けたせいで、俺は地元じゃ、いい笑い者になってんだ!てめえは絶対に許さねぇ!!!」
話の通じる相手では無いらしい。
完全に筋違いの腹いせで、善悪見境無しになってしまっている。
「だが、俺にもツキが回ってきたようだ。まさか勇者が魔王を庇っているなんてな!! これが知れればどうなる?」
男は、厭らしい笑みを浮かべて、ルイスに言った。
「勇者失格だよなぁー!? そして、今から、俺が代わりにその魔王を倒して勇者になってやるって事だ!!」
男は嫌味っぽく高らかに声をあげて叫ぶように言った。
ナイフの先端でバレックを指し示して、更に続ける。
「今の魔王なら、余裕で倒せるみたいだし、軽く殺ってやるぜ! それから、てめえら全員一人でも妙な動きしたら、このガキは殺すからな?!」
バレックは、笑ってなかった。
何を考えているのか、無表情に男の方を見ていた。
「なるほどの。ワシを殺って勇者を気取るか。悪くないんじゃないか?」
まるでつまらなさそうに、興味なさそうに両腕を広げて肩を竦めた。
「がはは! 強がんじゃねぇよ!! よし、ラバン、アドス、すぐには殺すな! 魔王なんだ、今までの悪行を後悔させるくらいに甚振つてやれ!!」
男は、黒いローブの男アドスと、筋肉隆々の大男ラバンに命令して、二人はニヤリと笑いながら、ゆっくりと前へ出てきた。
「おい、良いのか、グスタフの旦那よ? 俺らで魔王をやってよ?」
「と言っても、俺らは遠慮しないけどね」
「構わん。俺が計画を立てて、お前らが実行する。手柄は三人で山分けで文句無いだろ?」
グスタフと呼ばれた男の目的は、勇者になれなかった腹いせと、魔王を倒して報酬を得る事の両方の様だが、バレックを倒して、果たしてそれが成就されるのか、怪しい所ではある。
それでも、勇者ルイスに対しての報復が出来るならば、それだけでも良いのであろう。
アドス、ラバンの二人は、ただ暴れられればそれで良い、正義の為等これっぽっちもなく、手柄も入ればラッキーくらいの感覚だ。
そして、標的とされたバレックは、わざわざ他の誰かが被害に遭わないようにと言わんばかりに、周りに人の居ないスペースへと歩み、やれと言わんばかりに立ち尽くしていた。




