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たまには魔王も旅をする  作者: きげん
1章 魔王と勇者の優しき苦悩
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男のロマン

 朝日を浴びた果樹が青々と輝いて、セリナの一日が始まりを告げる。

 ルイスは、朝から父の果樹園の手伝いをしていた。

 父には、勇者はそんな事しなくて良い、なんて言われたが、幼い頃から父の仕事を見て、そして手伝ってきたルイスにとっては、心が落ち着いて、良い気分転換になっていた。


 昨日の夜、帰りにバレックは何処に泊まるのか決まって無い事に気付き、ルイスの部屋も余裕は無いし、イリアは論外として、困っていたら、ハイドが自分の家になら泊められると、提案してくれた。

 しかし、酔っぱらいのバレックをハイドの家に泊めて、もし余計な事をべらべらと喋られても困ってしまうと悩んでいたが、ワシは口が堅いから大丈夫じゃ、とか言って勝手ハイドと話を進めて、去っていった。

 ルイスはバレックが、口が堅い、の定義をそもそも間違って覚えてないか不安でならなかった。

 あれほど余計な事を話す魔王を見た事は無いと思ったが、そもそも魔王なんて、見た事が無いので、あれが普通の魔王なのかも知れないと、思考が脱線してしまっていた。


 「よぉ! 朝から手伝いとは、お主なかなかに親孝行じゃな! 良い心掛けじゃ!」


 噂はしてなかったが、考えていたら、ご本人様がやってこられた。

 今、起きたのか、それとも早起きだったのか、どちらにしても朝からいつもの大声とスマイルは健在だった。

 魔王は低血圧では無いという、どうでもいい情報を収穫した。


 「ワシも何か手伝って()いか?」


 この魔王は、意外にも庶民密着型の魔王なのか、ルイスはどことなくシャンデルの王を思い浮かべてしまった。

 とはいえ、一通りの朝の作業は終わって、考え事を始めた所だったので、


 「ありがたい申し出だけど、丁度終わった所なんだ。昨日は、ゆっくり出来なかったから、村を案内する」


 お礼を言って、別の提案を持ち掛けた。

 正直な所、昨日の事は感謝していた。

 あの時は、強がってしまって、お礼すら言えなかった。

 だからと言って、今言うのも気恥ずかしいので、せめてバレックを少しだけ信用しようかと、思い始めた。


 「なんじゃ、つまらん。この狭っ苦しい村なら、昨日見尽くしたぞ!」


 この男を信用するのは止めようと、思い直した。

 確かに広い村でも、見る場所が多い訳でもないから、言う通りではあるのだが、それでも、旅人達は果樹園やら、酒造の行程を見て、楽しめる所はあるのだ。

 それでは、どうしたものかと思ったが、そこへ丁度出荷のバムクー(見た目がカバのようで、サイズは象より一回り小さいくらいの生き物、重量級の運搬に適している)の荷車が来た。

 これから、シャンデルにセリナの地酒を届ける手筈なのだろう。


 「じゃあ、バレック! あのバムクーの荷車に酒樽を積むのを手伝ったら、どうだ?」


 「ほぉ、それは丁度良い運動になるな。身体を慣らさねばならんしな」


 魔王はバレックの身体にまだ慣れていないので、身体を動かせるのは、割りと助かるようだ。

 さっきの手伝いも恐らく庶民密着ではなく、そういう事だったのだろう。

 酒樽を出荷する主人も、良いんですか? 助かります! ありがとうございます! と大喜びしている。

 この主人にとっては、日常の中でかなり疲れる作業に違いない。

 ざっと見て五十樽以上はあるだろうか、確かにこれを荷車を運転してきた人と二人は、しんどいだろう。

 バレックに言って、自分は手伝わない、というのも冷たい話なので、四人でこの樽を運ぶ事にした。


 勇者と言えど、鍛えていても酒樽は、やはり重い。

 まだ身体が馴染んでいない、バレックも体格の割に重そうに樽を持って運び始める。

 例え重かろうが、笑顔を絶やさないバレックは、仕事をやる人間にしたら、見習いたいものだ、などと感心してしまった。


 「そういえば、あの娘はどうした?」


 ふと、樽を運びながら、バレックがルイスに聞いた。

 娘とはイリアの事だろう。


 「イリアは、朝のランニングをしてるんじゃないか?」


 「かはは! ストイックな娘だな。わざわざ朝っぱらから、汗をかきたいとは、物好きじゃな!」


 「アンタもな」


 イリアは運動、トレーニングだが、バレックの場合は、ただのボランティアの肉体労働である。

 どちらが物好きかと言われれば、満場一致でバレックだろう。

 しかし、樽の運搬作業と言うのも、足、腰、腕、腹筋、更には重心の調整と至るところが鍛えられて、馬鹿にならない。

 実は、この作業を定期的に行っている主人は、勇者であるルイスより強いのではないか、こういう作業をしていると、やたらと無駄な妄想に想いを馳せてしまう。


 樽の運搬も後、二、三往復になろうか、というタイミングで、荷車の陰から急に何かが飛び出してきて、バレックへと襲った。

 バレックは、樽を持っている為、さすがに回避も取れず、その襲ってきた者を足で受けてしまった。

 

 「いたっ!!」


 「おぉ、すまんのぉ! 大丈夫か? 子供よ」


 襲ってきたのは、村の子供だった。

 走っていて、荷車の死角から飛び出した為、バレックに気付けなかったのだろう。

 

 「うん! これくらい平気だよ!」


 子供は、とても元気良く返事をした。

 怪我がなくて、何よりだ。


 「すみません! 大丈夫でしたか? こら! 先にごめんなさいでしょ?」


 「ごめんなさぁーい……」


 子供の母親が慌てて近付いてきて、バレックに謝り、子供を叱りつけた。


 「かはは! 構わんよ! なんと逞しい子供ではないか! 将来が楽しみじゃな!」


 その言葉に、褒められたと思って、子供がもじもじと照れていた。

 

 「ニース、良い? この人達は、お仕事中で、重たい物を運んでいて、危ないの。だから、この周りではしゃいじゃ、駄目よ? わかった?」


 「はぁい……」


 母親に言われると、元気を無くすニース君。

 それを見て、バレックは笑う。


 「かはは! わんぱくなだけでなく、お母さんの言うことも聞けるとは、文武両道長けておるな!」


 そういって、樽を抱えていない方の手で、樽を落とさないように気をつけながら、ニース君の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 言葉が難しかったのか、意味が分からない表情をしたが、褒められたと思い、満面の笑顔を返した。


 「本当にすみませんでした。失礼します。さ、ニース、行くわよ」


 「はぁーい!」


 バレックに母親はもう一度頭を下げて、今度は優しい顔をニース君に向けた。

 ニース君も元気に返事をして、母親の手を握りにいった。

 そして、親子は背中を向けて、ニース君はチラチラ振り向いて、繋いでない方の手を思いっきり、こちらに振ってくれた。

 子供の無邪気さに元気を貰って、残りの酒樽も荷車に詰め込んだ。


 酒樽の主人と荷車の業者さんも、お礼を言って、大人四人がかりで積み込んだ酒樽の入った荷車を、まるで重さ等感じさせないようにバムクーは、歩き始めた。


 「バムクーは相変わらず、凄いのぉ! やはり、男はデカイ動物に憧れるもんじゃ!」


 同感だ。

 何故だか、小さい頃から大きい動物を見ると興奮していた。

 昔は、馬ですら興味津々だったが、さすがに今は馬ではならない(シャンデルで世話をして、身近にいたからかも知れないが)。

 バムクーは、やはり男心を(くすぐ)る生き物であった。

 力強く、地面を足で踏み締めて歩く姿。

 あの積み荷をものともしない逞しさを、気付けば姿が見えなくなるまで、見送ってしまっていた。


 「何やってるのよ? アンタ達」


 声を掛けられて後ろを振り返ると、ランニングを終えて帰ってきたのか、汗を軽く流しているイリアがいた。


 「あ、いや、酒樽を荷車に運ぶ手伝いをしていて、その荷車を見送ってただけだよ」


 「違うのぉ! バムクーの偉大さに見とれてしまっておったのだ!」


 「なにそれ?」


 ルイスは、控えめに説明した。

 バレックは、堂々とバムクーを誇った。

 イリアは、冷たくあしらった。

 イリアなら、男心を分かってくれるかも知れないと、少し期待してみたが、まるで興味を示してくれなかった。


 「そんな事よりさ。お母さんが、皆の分、お昼ご飯作ってくれてるから、食べにくる? ちゃんとルイスの両親には断ってるし、バレックの分も用意してあるからさ」


 『そんな事より』ですか。

 あの存在感のあるバムクーを『そんな事』呼ばわりですか。

 興味が無いだけなら、まだしもどうでも良い物扱いは、さすがに聞き捨てならない。

 あのバレックでさえ、理解し難いと言わんばかりの表情になっていた。


 「ねぇ! アンタ達!!聞いてるの?!」


 「はい」

 「はい」


 イリアが、凄く怒っていた。

 二人は同時に返事をした。


 「来るの? 来ないの?」


 「行きます」

 「行きます」


 イリアは、まだ怒っていた。

 二人は同時に返事をした。


 「宜しい! じゃあ、行きましょうか!」


 「…………」

 「…………」


 イリアは、機嫌良くなって、くるりと背中を向けて、自分の家へと歩き始めた。

 二人は顔を見合せて、出会って初めて、男のロマンを、男だけのロマンを目を見つめて確かめあった。

 そこに言葉は要らなかった。


 「アンタ達!! 何してるの?! 早くしなさい!」


 「すぐに行きます!」

 「すぐに行きます!」


 またイリアが怒鳴った。

 二人は同時に返事をして、歩き始めた。

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