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昼休みが開けた5限目、学生にとってもっとも学業が手につかず、ペンを動かすはずの手を止め
まるで机が最愛の人とでも言わんばかりに眠ってしまう人間が続出する時間帯、教室の1番前の席で向かい合って話をする男女に姿があった。
普通であれば、授業中にそんな行為をすれば教師から叱咤されるのは確実であろうにもかかわらず、彼らに誰も関心を持とうとしなかった。
「ねえ、律、授業飽きちゃった。」
少年の机の前に方杖をいて立て膝の状態で見つめている少女が純白の長い髪をいじりながら
不満を口にした。
(もう少し待ってくれ、あと20分で授業は終わるから。)
少年は、口を動かさずに目の前の少女を諭した。
少年は、その後も少女の不満に対して片手間に返答をしつつ板書を移していった。
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授業が終わり、少年は足早に荷物をまとめ、教室を後にする
通常、授業後の掃除をしなければならないので、ここで帰ることは、教師に止められるはずだが、誰一人として少年の行動に注意を払うものはいなかった。
「律、掃除していかなくていいの?」
少女が少年の前を漂いながら尋ねた
(このままだとお前の不満を聞き続けなきゃなんないから、帰るんだよ)
「何それー」
少女は、口を尖らせて可愛く抗議した
(半分は、それが理由だけどもう半分は、父さんに頼まれた用事を早く済ませたいからだよ)
そう言って少年は、手早く荷物をまとめて、昇降口に向かった
校門を出て彼らは、最寄りの駅へと向かった
彼らの通っている都立第三高等学校は、旧東京の中でも北の端にある。
現代の高校教育は、5年前の崩壊現象により再編集され、魔法に対して素養のある学生が通う学校と魔法に対しての適性が全くない一般の人々が通う学校に分けられた。
律は、旧東京中心へと向かう自走式魔術車両 "Broom" に乗り込んだ。
「律、今日の仕事はどんなのだっけ?」
少女は律のいじる携帯端末を覗き込んでいった。
「今日の仕事は、旧東京中心で最近確認されている変死体の調査だよ」
律の端末には、干物のようにシワシワに干からびた人間の死体が映っていた。
「それって、吸血鬼の仕業で決まりなんじゃないの?」
少女は、律の正面に座りつぶやいた。
「僕もそう思ったんだけど、首への噛み跡がないことと体液だけじゃなく腹部が切り裂かれて臓器綺麗に全て持ってかれてたんだよ。」
吸血鬼は、人間と同じように生きるためにある程度の栄養を必要とする。
しかし、彼らが必要とするのは血液のような体液であり臓器を奪っていくことはほとんどない。
「だから、黒魔術集団かサイコキラーかもっと別の未知の存在かっていう話になったんだよ。」
律はそう言いながら身につけていた学校指定の制服を脱いだ。
その下には、肌にぴっちりとくっついたウェットスーツのようなものに身を包んでいた。
律は手元の端末を操作し、スーツをチェックする。
「律、規定でいつもそのスーツ着てるけどさ、私がいるんだからそのスーツいらないんじゃないの?」
「そうはいかないよ、このスーツがないと僕たちは街の中で自由に戦闘を行えない決まりなんだから」
律はリュックから小銃を取り出しながらいった。
「私は、律の制服姿の方が好きなんだけどなー」
律は少女の言葉を無視して小銃をチェックし立ち上がった。
「さあ、仕事の開始だよフィリア」