彼は、思う故に走る
宇宙という静寂の空間に一つの人工衛星が漂っている
その人工衛星には、何人ものクルーが乗っており、日夜、人類のさらなる発展のために研究に明け暮れている。
そんな研究室の中でとある男性(ここでは、Aとする)は、その中の誰よりも研究に熱を出していた。
Aの研究は、まだ仮設段階にすぎず周りの科学者は机上の空論だと馬鹿にした、しかし彼の研究への熱は並々ならぬもので、他の研究者の冷ややかな視線を物ともせず研究に明け暮れていた。
彼の研究には、多額の出費が必要になるのだが勿論なんの利益も出る見込みのない研究に対して、国は出費することもないし、大企業や資産家がパトロンとしてつくこともないのは当たり前である。
科学という、探求の分野においても利益になるかどうかが最も重要になってくるというのは、資本主義のあおりを受けた非常な現実だ。
しかし、日の目を浴びることなく終わるものだと思われていたAの研究は、ある日突然「研究に出資したい」という資産家が現れた。
Aは、大喜びし、資産家にAが行なっている研究やそのために必要な機材について熱心に説明した。資本家は、Aのやる気を見てさらに気に入り、君のためならいくらでも出費しようと言ってくれた。
それから、およそ2年の時が経った。パトロンは、Aに対して、およそ3億もの出費をし、研究所を提供し、当時、宇宙研究の最先端だった、国際衛星、通称 "TORON" の一区画を借し与えA専用の人工衛星内研究所まで立ち上げてくれた。
彼のAに対する熱の入れようは、当時の他の科学者や出資者からしたら異様に見えたことだろう。
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しかし、Aの研究は、ある一定の段階に達したところから行き詰まり、研究が進まなくなっていってしまった。
そんな中パトロンだった男は、他界し、その息子が資産運用に踏み込むとAの研究は、投資対象外となりAへの支援が打ち切られることとなった。
そして彼は明日、地球へと強制送還されることが決定された。
Aは、焦っていた。なぜなら、行き詰まっていた研究に一つ大きな打開策が浮かび上がっていたからだ。
彼は、ここ三日不眠不休で研究を続けていた。
(これが、完成すれば、地球の資源不足の問題は一気に解決する)
Aは、まだ見ぬ偉業の達成に心を奮い立たせ、気力を振り絞り研究を続けていた。
そんな矢先だった。
彼は、一つ大きな見落としをしていた。その見落としは、彼が不眠不休で三日間研究を続けたことが原因だろう。
こんな初歩的なミス、正常時のAだったら見落とすはずがなかった。
その失敗は連鎖し、Aの研究室どころか "TORON" を崩壊させた。
Aの研究は、莫大なエネルギー量を秘めた原子を使っていたためその被害は、甚大なものだった。
悲鳴すらもあげる暇もなく、"TORON" の乗組員は、爆発の衝撃で細切れになり、宇宙空間に放り込まれた。
後に残ったのは、黒よりも黒く宇宙という暗黒空間にありながらもその存在感を主張し続ける"漆黒の丸 "だった。
その丸は、地球に接近していく、地球に近づくにつれ、地球の一部は、大きく形を変え丸の中心に吸い込まれていく。
この次元での我々の地球は、終わりを迎えた。