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25.レベリング作戦

 姉と一緒に食堂へ向かうと、すでに多くの人達が集まっていて驚いた。どうも夏休みというのは起きる時間がルーズになってしまう。

 そして彼らの中心には、昨夜見かけなかった男性がいた。


「やあ、おはよう神桜かんざくらさんたち。よく眠れたかい?」

「あ、五十嵐さん。昨夜は取り調べ大変でした?」


 聞くまでも無かったか。目の下にべったりとクマがあり、彼も困ったような息を吐いた。


「同じ国家公務員だから肩を持ちたいけど、今回ばかりはね……。かなり細かいこと、必要のない情報まで付き合わされたよ」


 仮眠は取ったらしいけど、かなり長時間のお勤めをしたらしい。昨日は爽やかな人だったのに、どこかどんよりとした雰囲気だ。

 その彼は椅子に座り、集まっている皆に説明を始めた。


「昨夜のうちに幾つか分かったことがある。主に他地域の状況についてだ」


 おっと、新しい情報だ。それも国家公務員の言葉なら信憑性も高い。

 とりあえず珈琲と紅茶を手に取り、端っこのほうのテーブルに腰掛ける。近くにはサウナで一緒になった男性がおり、小さく手を振られた。


「まず私たち再構築者アバターと呼ばれる者の死亡について。チュートリアルが終わり、その扱いは変更されている。イベント中に死亡した場合はそのイベントが完了するまで蘇生されない」


 その説明に、多くの者たちが安堵の息を吐く。

 本当に死んでしまうのではという疑念があったため、今まで怯えていたのだ。しかしその説明には不思議な点がある。

 周囲を見渡して質問する者がいなかったので、やむなく手を挙げた。


「どうぞ、由紀君」

「先ほどの『完了するまで』という前提は、既にどこかの地域でクリアしているのでしょうか?」

「うん、東京と大阪は撃退完了した。現地の映像を流したいけど――あ、こっちのモニター使って良いですか? では失礼して」


 ホテル関係者からの了承を受け、食堂にあった液晶モニターとノートパソコンを繋ぐ。そして五十嵐さんは動画ファイルを再生する。


 そこには都会ならではと言うべきか、どこか迫力のある者たちが映されていた。手にしている装備品も豪華で、煙のあがる建物を背景にするのも様になる。イベント開始からわずか2日足らずでクリアしたわけだ。


「おー、なんか強そうだなー。やっぱ都会者は違うか」


 僕らの隣に座り、そう呟いたのは回復役の誠さんだった。ぴっちりしたTシャツと緑ジャージの姿をしている。彼の言葉に周りの者、そして五十嵐さんが頷いた。


「うん、ゲーム人口が密集しているから、自然とトップチームの質も上がるようだ。敵からの攻撃も分散するからね。これを受け、政府も本格的な協力をすると決めた。金一封も含めて」


 どよっ、と食堂はどよめく。お金がもらえるなら話は別だと皆は喜ぶが「高額じゃないから期待しないでくれ」と五十嵐さんは補足する。


「活動しやすくする配慮だから、会社の日給レベルだと思って欲しい。むしろ高額だと無意味に攻略期間を遅らせたり、下手な工作をする者まで出てきてしまう。ただ、もちろん働きは考慮するらしい」


 そりゃそうだ。周囲の人たちは「夢が無い」と溜息を吐いているようだけど、税金なのだから最初から高額にはできない。

 とはいえ、僕らにとっては初めてのお給料なので……きょとり、と姉と視線を交わしてしまう。


 いったいどれくらい貰えるんだろう。5千円くらい?

 それを2人分なので1万円くらい? もしそれくらいだったら凄いぞ。中古の家庭用ゲーム機を買えてしまうかもしれない。


「……あのなぁ、由紀ちゃん。田舎のバイトとは違うぞ。会社の日給なら、たぶん1万から2万だぜ」


 その誠さんの突っ込みに、僕らは「ファッ!?」という顔をした。

 静かにと五十嵐さんから咳払いをされ、ピッと耳と尻尾を立ててながら口を閉ざす。


「さて、昨日の機動隊も私たちに協力をしてくれる。それと同時に魔物を効率的に狩る方法について模索した。今から作戦を伝えるが、懸念点があれば手をあげて欲しい」


 へえ、まさか攻略方法まで考えていたとは!

 それにしても昨日は「邪魔だ」と追い払われていたのに、えらい待遇の変わりようだ。それはたぶん、先ほど言っていたクリアチームが出たおかげだろう。


「さて、その作戦だが銃器をうまく活用して危険性を排除し、かつ君たちのレベルアップを行うものだ」


 安全と旨味、その2つを提示されて皆の目の色が変わった。

 最初にその情報を伝えるとは、五十嵐さんも口が立つ人なんだな。あの暴力的な現場を見たら、誰でも普通は尻込みするだろうに。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 きっかり10時に本作戦は開始された。

 数珠繋ぎの機動車両の屋根の上に、計12名の再構築者アバターらが身構える。


「狙撃、開始ッ!」


 無線を通じ、遠方のビルからライフルらしき銃声がこだました。望遠鏡を覗いていた隊長は「よし!」と声をあげたので、恐らく魔物に命中したのだろう。


 すぐさま奴らは反応し、近くの窓から5体、遅れて3体の魔物達がはしってくる。どすんどすんと足音を響かせ、駐車場を越えてやってくるが銃撃命令はまだ下らない。


 横一列に銃を構える彼らの前へ、奴らが迫ってきた。

 身の丈2メートルを越え、ふくれあがった筋肉は緑色をしている。ごうごうと吠え立てて迫り来るが、機動隊らは微動だにしない。もちろん再構築者アバターらもだ。


 すぐそこ、残り30メートルを切っても動かない。

 隊員のうち数名は、やや怯えた瞳を見せた。


「構えーー……」


 残り20メートル。奴らの速度は鈍重とはいえ重量がすさまじい。地面は震え、さらに後方からは援軍としてオークらが窓から降ってくる。

 昨日の惨事を思い出し、バイザーの内側に汗が流れてゆく。


ーーッ!!」


 残り10メートルを越えたとき、耳をふさぐ僕らの前で一斉にドイツ社の短機関銃が火を吹いた。明滅するマズルからは光と煙があがり、火薬の匂いが立ち込める。

 腹の底から震えるような連射により、魔物は穴だらけにされてゆく。


 倒れてゆくオークだが、銃器などでは滅ぼせない。およそ1分足らずで立ち上がってしまう。

 しかし昨日とは異なる点が1つある。それは端から時間差をつけて倒している点であり、辿り着く寸前に全ての個体を地面に転がしていた。


 隊長は一歩前に進み、それから機動車両を見上げる。


「A班ッ、前ッ! 蘇生まで残り33秒ッ!」


 威勢の良い命令に、わたわたと飛び降りてゆく彼ら。それを由紀らは反対側の車両からのんびりと眺めていた。

 やがて悪夢のように、のそりとオークは目覚めたが――すっかりと再構築者アバターらに囲まれている。


 すぐに集中攻撃、もといリンチが繰り広げられる。

 立ち上がる前に斬り殺され、そして次の個体へ、また次の……という具合に慌ただしいリンチは続く。

 結局、僕らの出番は無く、A班が戻ると同時に次の集団へと銃撃が火を吹いた。


 これが今回の作戦らしい。

 数が少ない場合は傷だらけにしてから再構築者アバターが止めを刺す。

 そうで無い場合は順番に一体ずつ倒し、それから再構築者アバターがリンチをする。

 もしも敵の数に対応できない場合は高レベルのB班を投入。それでも無理なら車両ごと後退して引き離す。


 数が少なくなれば狙撃をして挑発するという、由紀らにとっては退屈な、魔物にとっては嫌な戦いが延々と続く。もし魔物に十分な知性があれば、物陰に隠れていれば済むのだが。


「暑い……真夏の炎天下に放置されるなんて……」


 なんだろう、すごく嫌な役回りだ。

 五十嵐さんは頭にタオルをかぶせて寝ているし、誠さんは「なんで俺だけレベル上がらないの?」と不思議そうな顔で尋ねてくる。


 姉だってうずくまってしまい……帰りたいの一言だ。

 そんな状況ではあるものの、トラブルというのは往々にして起こる。一体を倒すのに手間取ったせいで、射撃できない状況で敵集団が迫ってきたのだ。


「おっと由紀君、出番だ」


 タオルをどかし、五十嵐さんは矢をつがえる。パイプ椅子に座ったままなのは、終わったらまたすぐ眠る気なのだろう。

 ちょうど僕としても魔術格闘家とやらの性能を確かめたかった。はい、と返事をしながら姉と共に機動隊車両から飛び降りる。


業炎の罰パニッシュメント、LEVELⅠ、詠唱開始……」


 まずは新しい魔術、業炎の罰パニッシュメントを見てみよう。詠唱時間10秒を知らせるアイコンを確認していた時、ばずん!と正面のオークは胴体を輪切りにされた。


 おおっ、と周囲はドヨめく。

 新たな獲得武器【刀】による威力を見せつけ、姉はわずかに微笑む。彼らにではなく、手に馴染む武器を見ての笑みだ。


「すごいね、今のは技能で斬ったの?」

「いいえ、側面からの不意打ちよ。クリティカルが出ちゃったの」


 頬に血をつけたまま、にんまりと微笑まれた。

 どうやら姉はかなり強化されたらしい。いまもズバズバと切り刻んでいるが、素人目でも分かるほど敏捷、そして筋力の補正は高い。それに彼女の才能と武器が加わり、もはやレベル5前後のオークなど恐れるに足らず、といった所か。


 ぴん、と詠唱完了を告げる音が鳴った。

 ちょうど良い獲物はいないかなと見回すと、姉から見逃されたオークがやってくる。正面からドスドスやってくる巨体は、どうしても恐怖を感じる。人間なのだから仕方ない。


 しかし、当面の目標は姉と肩を並べて戦うことだ。

 連携をし、そして危険性を排除できるようにならないといけない。

 すうと息を吸い、そして僕は駆け出した。


 正面から当たれば質量に負ける。

 奴の間合いに入る寸前、ぎゅんと横へ方向を変えた。蹴った場所に煙が出るほどの速さで、やはり尻尾があるおかげで体重移動は楽だと再認識した。


 オークは目標を見失って体勢を崩し、そのがら空きな側面から攻撃を仕掛ける。

 まずは見よう見真似の正拳突きをわき腹へ。それから「衝撃魔術インパクト」を実行してから、背中側をハイキック。


 おっと、蹴りも尻尾があると楽だぞ。普通の蹴りより、もう一段階ほど踏み込めるような感じだ。

 どしん!とオークの肌は円状に波を広げ、それから脳裏へ女性の声が響いた。


 『 業炎の罰パニッシュメントを起動。

 発動条件のインパクトを107%達成しました。

 ボーナスとして威力は7%増になります 』


 うわ、今のでもギリギリのダメージか!

 条件失敗したら魔術は消滅するらしいので、気をつけないといけないぞ。まあ、接触タッチでも済むから平気だけど。

 などと悠長に考えている暇は無かった。うずくまろうとするオークが、ぼこんと膨れ上がったのだ。


 その直後、どぼお!と後続のオークを巻き込んで、業炎の罰パニッシュメントは衝撃波を放った。見えない壁に押され、地面を転がりながら女性の声が脳裏に響く。


『 悪属性の敵に対し、30%の威力補正が加わります。

 対象のHPを超えたダメージは、全て【衝撃】に還元されます。 』


 その案内を聞きながら、どうにか地面を掴んで立ち上がる。

 先ほどから流れている案内は、僕の欲しい情報を伝えてくれているようだ。それに戸惑いつつも、背後に姉が立っていたことへ驚く。


 彼女は景色を見て瞳を丸くし、それからにこりと唇を笑みに変える。


「使いこなせそうかしら、由紀ちゃん?」

「うーん、たぶん大丈夫じゃないかな。もうちょっと頭の良さそうな職業になりたかったけどね」


 真珠のような歯を覗かせて、姉は楽しそうに笑った。

 それからようやく、周囲から歓声が響いている事に気がついた。見る間に数を減らしてゆくオークに、皆はスカッとしたらしい。


 ひと段落したので、僕らはそのまま機動隊車両へ戻った。



 さて、そのように本日のレべリング作戦は順調に進む。

 救いなのは、先ほどのようにBチームの能力が高いため危険性が減った事だろう。


 皆のレベルも上がるし、慣れによる効率アップもある。だんだんオークらの数は減ってゆき、明日には突入をしても良いかもしれないという声が出始めた。


 忘れてはいけないが、内部から救援要請の連絡を受けている。市民らを救うべく迅速な行動が求められていた。


 大規模なショッピングモール、それも魔物らの巣窟だ。

 ダンジョンに近しい攻略であり、難易度としては未知数、彼ら魔物の目的もまだ分からない。しかし、この退屈な作戦よりはマシかもしれない、などと考える僕はちょっと疲れていたのだろう。



 誰の目からも好調な状況に見える。

 しかし翌朝、思わぬ形で波乱は起きた。


 それは続々と現れる、低レベルな再構築者アバターたちが巻き起こす騒動だ。

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