22.職業分岐とバトルポイント
「由紀ちゃん、見て! 好きなおかずが選べる! バイキング? バイキングって言うんだっけ?」
「わ、ほんとだ! つまり取り放題ってこと? 採算合うの?」
会話を眺めていた誠はしばし凍りつく。
上にビュッフェと書いてあるし、今どきこんな物で大はしゃぎをする者を見たこと無いからだ。
いったいどれほど田舎者なのだろう、と変な汗を流してしまう。
「んおー……うん、好きなだけ取っていいんだ。思い切り食って、元を取り返す――って宿泊費も無料だったか。まあ、食おうぜ」
おう、と神桜姉弟は揃って右手を突き上げた。
ついさっき、部屋でどんよりしていたとは思えないな、などと思いながらも列に並ぶ。しかし彼らは分かりやすいというか、尻尾をぶんぶん振るから機嫌がよく分かる。
ピーマンを見るとしんなりとし、肉を見ると耳ごと起き上がる。
ずいぶん仲が良いらしく、あれやこれやと互いに皿へ取り合っているのも微笑ましい。
彼にも妹はいるが、間違ってもそんな関係ではない。むしろ「ウザい」とか「ウルセー」とか言い合った記憶しかない。
(というか、それぐらいが当たり前だろ。めずらしいな、こいつら)
ちょっと興味が出てきた。
昼間はオークの群れに特攻をするなど、行動力の高さに驚いた。とてもでは無いが行動を共にするなんて出来なかったが、傷を負いながらも解決に導いたのだから大したものだ、などと感心していた。
周囲にには椅子やテーブルが並んでおり、その連中も姉弟らをチラチラと見ている。同じように注目をしているのだ、活躍を実際に目にしたのだから。
臨時でパーティーを組んでいた連中も、こっちに来いと席を開けてきた。彼らも私服姿であり、昼間に見かけたときと表情も異なる。
同じゲームで遊んでいるのだから会話も多く、すぐに姉弟も溶けこんでいった。
(まあ、大人らしく手助けしようかね。なんだか危なっかしいし)
人知れず誠は溜め息を吐き、それから彼らの隣に腰を下ろす。飯の味は普通だったが、なぜか楽しい席だと彼は思った。
このホテルは大型ショッピングモールからほど近い場所にある。
全国的に避難中であり、かつ危険地帯の近くで宿泊者がいるわけもない。そのようなホテルを貸し切りにしたのは政府からの指示だった。
各地で再構築者と呼ばれた者たちが、この事件に参加しつつある。火気では対抗できない存在に対し、前進してみせたのが理由だ。
通常であれば理屈が分かるまで大人は動かない。
しかし今回の事件に限っては、その判断が早いと多くの者たちが感じていた。それはデボネアなる未知数の存在が事前に見つかっており、己たちの判断だけでは対応できないと分かっていたからだと、ごく一部の者達は知っている。
理由は他にもある。
正体不明の彼らを決まった場所に集めれば、何かあった場合に対処しやすい、というのが大きい。
危険なのかそうでないのか、その判断をする時間を大人たちは求めたのだ。
調べるべきこと、これからの課題は数多い。
しかし常に前進し続けるのが今の日本という姿だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうやら専用画面というのは他の人に見れないらしい。
それに気がついたのは、周囲で他の者たちが空中を指でつついていたからだ。そこには何も見えないけれど、きっと本人には専用画面が見えているのだろう。
うーん、どういう理屈なんだろう。
自分にしか見えないという事は、光でも無いという事だし。幻? それとも実は【デバイス】があるのか?
見えないけど実は目と同化しているとか……やめよう、考えると怖い。
ズズ、と食後の珈琲をいただきながら、ちょっと嫌そうな顔をした。
早々に考えることを放棄し、それから画面を表示する。
姉だけが反応して覗きこんできたので、たぶん姉弟同士なら見れるのだろう。血か何かは分からないが。
「それで、エレベーターで翆姉さんが驚いた理由は何だったの?」
「ええ、職業分岐があったからよ。いつの間にかレベルが上がっていて、前提条件をクリアしていたから。あと、そろそろ刀が持てるんじゃないかなって期待したの」
おや、本当だ。いつの間にかレベル10になっている。
しかも経験値はかなり溜まっているので、さほど遠くないうちにまたレベルアップしそうだ。
とりあえず能力値は「知性」に、それとHPとMPのバランスをちょっとだけ修正する。だいたい1時間で自然回復する量は、HPが5%、MPが10%だと思う。それでもMPはまだまだ減ったままなので、今夜は休んでいて正解だ。
「あ、私のほうもBPが300溜まってる! あんまり聞きたくないけど、誠は幾つ?」
「なんでタメ口なんだ……。はいはい、俺は30ですよ。さんじゅー。パーティー組んでてラッキーだわ、何もしなくても貰えて」
「あら良かったじゃない、こっちの回復薬と交換できるわ。それ飲んで寝たら?」
「くわーーっ! 飲みたくても飲めねえよ! つか俺は回復役だっつの!」
けーっ、と唾でも吐きそうな顔をした美少女というのは、何かちょっと嫌だなあ。
窓の外は真っ暗で、姉と誠さんが僕を挟んで睨み合っていた。ふむ、と溜め息をひとつ吐き、気にせず画面を操作した。
おっと、装備品欄だ。
んー、BPで交換できるのは武器や防具、それとアイテムか。魔術師用の物は無いだろうか。
-----
◆羽のついた手袋
効果:魔法によるMP減少効果(-20%)
※他アイテムと重複はしない
必要BP:220
-----
うーん、いいなこれ。
さっき発動した火炎は消費32だから、6ほど浮く。いざという時に助けられる可能性もある。
他にも「発動時間減少」という装備もあるので、なかなか悩ましい。行動速度は重要だけど、MPには限りがあるからなあ。
決める前に、例の職業分岐も見ておこう。
ええと、今の僕にはどういうのが選べるんだ?
-----
◆魔術格闘家
解説:独自の魔術により、拳や蹴りに魔力を乗せる。
◆ゼロ魔術師
解説:近距離魔術に特化し、また遠距離を苦手とする。
◆連続魔術師
解説:詠唱速度に特化し、大幅に詠唱時間を減らす。
-----
うっ、これは難しいな!
魔術師は敏捷を伸ばすとこんな選択肢になるわけか。しかしどれも個性が異なるので即断できない。
一番火力があるのは連続魔術師だろう。
バカスカ魔術を撃つのに向いている。しかしMP問題が常についてまわる。
近距離で強いのは、格闘家かゼロか?
どちらも近接特化だけど、タイプが異なる。片方は肉体を使い、もう片方は魔術を使う。
気持ちとしては格闘家と縁が遠いので、ゼロを選びたくなるが……。
とりあえずスマホで検索してみると、過去の使用者の声が見つかった。これがそのまま同じか分からないが、参考にはなるかもしれない。
-----
魔術格闘家と格闘家、どっちが強い?
一撃の威力としては前者だけど、MP次第だぞ。
人前で蹴りなんて出来ないんだけど。欠陥じゃね、これ。
-----
ああー、以前は魔物に実体が無かったもんね。
シャドーボクシング状態で遊んでいたわけか……せつない。このゲームが世間から色々言われていた理由を、ちょっと理解した気がする。
-----
ゼロは使えるわ、恥ずかしくないのがでかい。
どうせ魔物が勝手に近づいてくるしな。
遠距離のほうが楽だろ。歩かなくていいし。
-----
-----
連続魔術、会社勤めだとこういうの嬉しい。
すぐ終わるよな、MPも。
どうせなら早く帰って寝たい。
-----
そっか、本当の本当に使用感しか分からないや、これ。
恥ずかしいか疲れないかが焦点になり、性能の善し悪しはあまり触れられていない。
確かにね、人として一番気になるのはそこだよね。
駄目だもう、過去の情報なんてぜんぜん参考にならない。ぷつっとスマホを閉じて、一人で考えることにした。
「おわっ! サウナあるってよ、サウナ! 行こうぜ由紀ちゃん!」
「なに言ってんのよアナタ! 馬鹿じゃないのネカマのくせに! その身体のこと忘れてるとか本当に馬鹿じゃないの!?」
ああー、駄目だ。もう考えられない!
ぐいぐい肩を引かれて、考えられる人なんていない。
諦めて僕はすっくと立ち上がり、少々目の据わった表情で振り返った。
「サウナに行く。静かだろうし。常識的に考えて誠さんは部屋のお風呂を使ったらどうですか?」
「あ、はい、そうですね」
べえっ、と舌を出す姉と共に、上階の風呂場へ行くことにした。




