表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/34

17.夏休みの領土防衛戦

 ザザ……ざいます。

 良い朝……ザーッ……再構築者アバター様。


 本日……ザザザザザザ……上昇します。

 またイベント発生という素晴らしい日を迎え……ザーー!


 どうぞ果断なる虐殺をお楽しみください。




 起き上がったばかりの僕らは静まり返った。

 身体が灰色ではないのは「死亡復帰」を表しているが、先ほどの音声のせいで喜べない。

 窓の外からはセミが放つ幾重もの声が響いていた。


 いつも通りの朝ではあるけれど、いつもと異なるのはメッセージに大量のノイズが混じっており、最後に「虐殺」という怪しい単語を聞いたせいだ。

 パジャマ姿の姉は、ゆっくりとこちらを向くのを感じた。


「嫌な感じだ。とりあえず聞けなかった天気予報を見に行こうか」

「ええ、そうしましょう。イベント発生ってどういう意味だと思う?」


 起き上がろうとしていたけど、その言葉にピタリと止まる。

 そして妙に胸をドキドキさせながら、何気なく設定画面を開くことにする。


「コンソール・スクリーン」


 ぶうん、と空中に画面が現れ、確認したかった項目へ視線を向ける。

 画面の一番下、そこに表示されているはずの文字「チュートリアル中」は消えていた。


 眠気は完全に消え、ごくりと僕らは唾を飲み込んだ。




 パンを焼いたけれど、なかなか口にできない。

 テレビの映像は、なかなかショックを受けるものだった。


『あっ、あーーっ! 殺されっ……人がいま、魔物と呼ばれる物から……あ、あ! あッ! こっち来るッ、来る来る来るッッ!! やばいヤバイやばい!!』


 ぐらぐらとカメラは揺れ、もう映像を届けるどころでは無い。

 彼らは命を狙われており、懸命に逃げている様子だけがリアルに伝わって来た。


 十秒ほどその映像が流れ続け、その途中でスタジオに切り替わる。

 彼らもまた目を見開いており、イヤホンに手を当てたまま固まっていた。


『え、えーー……新しい情報が届き次第、続報をいたします。繰り返します、本日朝6時、日本政府から大規模な避難勧告が発令されました。近所の避難所へすみやかな移動を行ってください。繰り返します――』


 避難勧告? 朝の6時に?

 どこの地域が危険なのかというと、日本全土という放送に目が点になった。何が理由なのかも伝えていない。

 ちらりと時計を見ると、まだ7時半だ。すると放送から2時間で先ほどの事件が起きたのか。


 何度か姉から話しかけられたが、うまく返事をすることが出来ない。情報が断片的すぎて、自分のなかでも固められないのだ。

 分かることは先ほどの映像でちらりと流れた、大型二足歩行の魔物――恐らくはオークという存在が市民を襲っていたことだ。


 気になるのは今まで見てきた魔物より、ずっと色が暗かった事か。以前はもうすこしファンタジー感が強かった気がする。

 もしかしたらチュートリアル終了によるものだろうか。いや、可能性はかなり高い。


「そうだ、イベントってどういう意味だろう。翠姉さん、以前もそういう物はあったの?」

「え? ええ……。でもきっと由希ちゃんの考えているものと違うわね。近所のひとたちで集まって遊べるイベントという物があったわ。要はオフ会みたいなもので、食事をしたり一緒にゲームを楽しんだりしていたわ」


 その説明を聞きながら、今度はネットやSNSの情報を漁る。すぐに以前よりも書き込みが増えたと気づいた。



 -----

 千葉にも出た

 嘘だろ、浦安のテーマパークって……メシ美味いです

 -----


 -----

 群馬は音楽センターだ

 行ったこと無いけど、狭くねえ?

 -----


 -----

 梅田は駅ビルって何で?

 テンションあがらんぞ

 色々あるじゃん、大阪城とか通天閣とかさ

 -----



 おっと、日本全国で何かが起きている。

 そのせいで、ゆさゆさと肩を押されている事にもすぐに気づけなかった。


「あ、ごめん。どうしたの?」

「見て、画面に見慣れないコマンドがあるわ」


 ずいと示された青白い画面。

 その中央に見慣れぬ選択肢が表示されていた。



『 イベントに参加致しますか?


 あなたの参加可能なエリアは、

 神奈川県ショッピングモールです 』



 そして「はい/いいえ」の文字があった。

 いや、もう少し画面の右下にもう一つ見慣れないものが。


「……0 BP? なんだろう、これ」

「え? あら、項目が足されているわね。ふうん、これは以前にもあった項目で、その時はポイントを溜めると装備品と交換できるようになる物だったわ」


 単位の「BP」は「バトルポイント」の略称らしい。

 今までまったく出なかった装備品が、ここに来て実装されたか。

 いや、チュートリアルが終了したという事は、ここからが本番なのかもしれない。


 どくっどくっと心臓は揺れているが、ようやく情報を整理出来てきた。

 今までの物を組み合わせると、魔物が特定エリアを占拠し、それを食い止めるのが僕ら再構築者アバターの仕事らしい。


 何らかの方法で活躍すると、装備品などを手に入れられる可能性もある。

 そして今は続々と同業者達も現地に向かいつつあるようだ。


「参加をするか見送るか……。そもそも、これは何が目的なんだ?」


 一見ゲームのようであって、これは現実に近しい。

 魔物はただの映像ではなく質量があり、斬ったり攻撃を受けたときのリアルさは言うまでも無い。

 ここまでの物を作り上げておきながら、しかい未だにどのような目的なのか分からないのは異常だ。


「翠姉さんはどう思う? 参加をした方が良いと思う?」

「……分からない事だらけで、イベントについても分からないというのが答えね。見送った場合、どんなデメリットがあるか考えていたけど、単純に装備品だけの問題じゃないかもしれないわ」


 いつになく姉は真面目な顔をしており、だから僕も前のめりになって言葉の続きを聞く。


「外に魔物が見えなかったわ。たぶんイベントが開始されたからだと思う。それと一般人まで襲われるというのが今までとの違い。由希ちゃん、それを結び付けられないかしら?」

「……チュートリアルは僕らを成長させる役割があった。魔物は上位の存在に変わった。それも人々を襲う目的の存在に」


 姉のおかげで、少しずつ情報整理できて来た。

 魔物は拠点を構築している。それを人の軍隊に置き換えるなら、足場を整えた上で侵攻をする可能性が浮かんでくる。


 日本各地に足場を置き、占領するのを目的にしている可能性もあるわけだ。広い視点で見るならば、太平洋戦争末期以来の本土防衛戦とも言えるかもしれない。


「……うわー、重い。よくこれで皆は騒げるな」

「変化を喜ぶのは最初だけ。明日から段々と理解してゆくはずよ。震災のときのように」


 参加するか、それともしないか。

 カーソルを合わせて指先で押す。たったそれだけの行為がとても重く感じられる。

 遅まきながら冷めたパンを食しながら、僕らはじっと互いに見つめ合った。


 たぶん僕らは参加をするだろう。そんな予感はあった。

 後は動かなければ得られる情報は無いし、今さら手放すにも拡張世界リビルドというゲームに興味を持ちすぎてしまっている。


 ようやく市内にも警報サイレンが響き渡り、「田舎だからってさすがに遅いよ」と思わず2人で笑ってしまった。

 役所の人も、今ごろ慌てているだろうね。




 ◆神桜かんざくら 由紀ゆきのステータス


 魔術師レベル9


 《能力値》

 筋力 … 7(初期値)

 敏捷 … 14

 知性 … 12


 《技能》

 ・火炎ファイア LV4

 ・秒読みカウトダウン LV1

 ・接触タッチ LV1


 HP:50

 MP:35


 残り技能ポイント:3

 BP:0


 ◆神桜かんざくら すいのステータス


 剣士レベル9


 《能力値》

 筋力 … 18

 敏捷 … 12

 知性 … 6(初期値)


 《技能》

 ・疾風ツイスト … LV2

 ・轟斬撃スラッシュ … LV3


 HP:66

 SP:30


 残り技能ポイント:1

 BP:0

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ