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13.魔法を制御するには

 どうやら魔物というのは、倒しても翌日に復活するらしい。

 あるいは再出現までの時間が決まっているかもしれないけど、目の前の畑を徘徊する奴は、昨日倒したはずのボアヘッドだった。


 この辺りの仕様は、なんとなくゲームっぽい。

 狩り尽くしたらおしまい、というわけではなく後から後から沸いてくるというのは普通の生物と根本的に異なるのだろう。


「そういえば、あいつはレベル5だっけ。経験値も多いし助かるかもしれない」

「ええ、前向きに行きましょう。今日は落ち着いて、昨日設定した魔法の練習ね」


 姉の言葉へ素直に頷く。

 昨日の戦いはひどいものだった。魔法の発動にモタモタし、敵にダメージを与えるどころか姉を怪我させてしまうという体たらく。

 同じ失敗はもうしたくないし、今回は気合を入れて再挑戦するとしよう。


「もう少し離れて、敵の反応しない場所で戦闘モードになろうか。あとパーティー設定をしておかないと」


 昨日は長い時間をかけてゲームに慣れたので、事前の準備もスムーズに行えるようになった。

 少し距離を離してからモード変更をすると、やはり魔物は反応しない様子だ。


 準備を整え、それから「火炎ファイア、LEVELⅠ、詠唱開始」と呟く。視界には詠唱時間を表す表示がされ、カウントダウンを確認しつつ足を進める。


 ぐるんっと猪男がこちらを向いた。ここまで聞こえるほど威嚇的な呼吸音をし、畑の土を踏み荒らす。そして駆け出した瞬間に、僕は呟いた。


「――はしれ、火炎ファイア


 ごうと酸素を吸いながら、サッカーボールくらいの炎塊は魔物へ向けて放たれる。猪としての本能か、火というものに怯えた相手は突進を中断し、慌てて横へと逃げ出した。


「まあ追尾性能が多少はあるから、どこかに当たるんじゃないかな。じゃあ追撃しようか」

「あら頼もしいこと。怯えた由希ちゃんを見れなくて寂しいわぁ」


 できればその記憶は忘れて欲しいなぁ。たぶん無理だろうけど。

 軌跡を描いて飛ぶ様子は、やはりサッカーボールに似ている。ぐぐぐとカーブをし、顔面を守ろうとする腕に当たって燃え上がる。


 グモオオオッ!!


 初期魔法とはいえ獣毛に油があってよく燃える。

 黒色の煙を吐き出す様子に、まず姉の先制攻撃が始まった。炎に気を取られている反対側、わき腹のあたりに細身の剣は突き刺さる。


 泡の混じった唾を吐きながら、ブルヘッドは目の色を変えた。


「翠姉さんに集中しているうちに――火炎ファイア、LEVELⅠ、詠唱開始」


 死角となる背後に回りこみながら、先ほどと同じ魔法を準備する。今のステータスでは連続で3発しか撃てないが、周囲には他に敵も見当たらないので問題ないだろう。


 さて、あとは詠唱を完了したら、秒読みカウントダウン接触タッチという2つの魔法制御を試したい。

 威力は変わらないが、今回は敵の身体へ設置するから姉を巻き込まないはずだ。


 問題は、どう安全に触れるかだね。

 こうして落ち着いて観察してみると、確かにボアヘッドは強い。威力十分と思える突進、硬そうな皮膚、そして鋭い爪による攻撃も備えている。


 スカートをはためかせ、姉は低い姿勢で攻撃をかいくぐって腹部に細かい傷を生む。血の匂いに興奮した魔物は、動きをより機敏にさせて行った。


(詠唱完了……あとは敏捷に全振りしたのを信じるしか無いか)


 なるべく音を立てずに背後から近寄ると、同時にボアヘッドは振り向きかける。しかし気取られたと慌てる前に、ざくりと姉の剣が目玉に突き刺さった。


 オンゴオオオオ゛ッ!!


 やっぱ的確すぎるでしょ、翠姉さんの援護は!

 思わず笑いかけ、いや違うかと思いなおす。今のは僕が干渉したことで隙が生じたのだ。そして姉はリスクの無い状態で会心の一撃クリティカルを与えることが出来た。


 手を増やしたいと思っていたけど、こういう使い方もあるわけか。近距離に身を置くというのは、連携面でも役立てるかもしれない。そう思いながら前傾姿勢で駆け、がら空きの背後から素早く殴りかかる。

 がんっ、と後頭部を殴ると聞き慣れない音声が響いた。



『 接触タッチを完了しました。

 魔法の発動は成功しました。

 発動は即時、あるいは秒読みカウントダウンから選択可能です 』



 これは朝に聞いた音声と同じものだろうか。

 そういえばアップデートがどうと言っていた人もいたが……。


「十秒後に発動でお願い。翠姉、魔法を成功したから途中で合図を――うおっと!」


 流血する目玉を押さえていたボアヘッドは、ぬうっと鋭い爪をこちらに向けてきた。もし掴まれたりなどしたら、傷をつけられるだけでなく己の魔法に巻き込まれる可能性もある。


 どっと汗をかきながら横へ飛び跳ねるのと、姉が残りの目玉を突き刺すのは同時だった。


 ゴエエエエーーッ!


 やっぱ強ええ、姉さん。

 近距離であろうと判断が極めて早いのか、あるいは場数が違うせいか。ゲーマーって凄いなと思いながら、どうにか安全な場所まで僕は遠のく。


「じゃあ、3秒前、2、1……」


 指を立てながら教えたが、姉は剣を払って血を飛ばすと、そのまま鞘にしまっていた。

 ゼロを迎えると同時に、ゴオッ!と猪の頭部は燃え上がる。

 悲鳴はすでに断末魔のものに変わり、成すすべなくボアヘッドは膝から崩れ落ちていった。


 以前の戦いとはまるで異なる結果に、ほうと大きな息を吐くことが出来た。

 まだまだぎこちないが、これなら役に立てそうだ。


 ぐっと親指を立ててくる翠姉に、同じ仕草を返す余裕もあった。

 ちょうどレベルアップを伝える音楽も流れ、これでようやく彼女と同じ4レベルを迎えることが出来た。

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